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第三十一話 もう二度と失わないために

 

 気づいた時には、手遅れであった。



 だだんっ!! と無数の影が降り立つ。

 大通りにて異変に気付いたグリムゲルデたちが何らかの行動に移る前に異形の少女たちが降り立ってきたのだ。



 前後左右、いいや上空にも少女たちが飛来しているのだから、まさしく全方位を塞がれたに等しい。


 異形の少女のうち、正面に立つ誰かが舌なめずりをこぼす。


「『番外聖女』リアラーナ発見、と。魔王が求めし能力が何かは不明だけど、あの魔王が回収を命じてくるぐらいだもの。その肉体には、絶対的な価値がある。魔王や『元』魔王を敵に回した状況ではあるけど、回収に手勢を割くだけの価値はあるはずわよねえ!!」


「え、え? あたし!?」


 全周囲を囲む少女たちの視線が自分に向かっていることにリアラーナは驚いたように自らを指差していたが……その視線の中に白猫も混じっていることには気付いていないようだった。


(ぴょん。魔王が回収を命じるほどの何か、ぴょんね。そこも気になるけど、魔王や『元』魔王を敵に回した、ってのを掘り下げたほうが良さそうぴょん。異形の少女たちが魔王を裏切ったってのに利用価値がある、よりも、『元』魔王なんていう()()()()()()()()イレギュラーが盤面に登場する可能性がある、のほうが厄介そうだぴょんしね)


 というわけで、だ。

 ロスヴァイセは異形の少女たちを観察する。どことなく酔ったような雰囲気……そう、これだけの数を揃えた時点で勝利は確定だという『思い込み』に酔ってしまっているのは明白であった。


 今ならば。

 質問一つでイレギュラーに関する情報が手に入るかもしれない。


「一つ聞きたいことが──」


「全員! 逃げるでしょうよお!!」



 ゴッバァ!! と猛火が迸る。

 グリムゲルデが後方へと焼却の奇跡を放ち、立ち塞がる少女の壁を一部吹き飛ばしたのだ。



 その瞬間には白猫に意識を移したグリムゲルデの首根っこを口でくわえて、左右の手で銀髪の少女と若き聖騎士の手を掴み、猛火に爆風を放ち急加速。一度目の奇跡でこじ開けた包囲網の隙間から飛び出していた。


 ゴォッ!! と空気が引き裂かれる音と、竜巻に巻き込まれたかのような衝撃とが同時に襲いかかる。人間よりも遥かに小さな猫の肉体には負荷が大きかったが、それでもロスヴァイセは無理にでも口を開く。


「ねえ、さまっ! 待つぴょん!!」


「ロスヴァイセっ、今は小難しいアレソレは置いておくでしょうよ! 巨人と同格の敵がダース単位でボコスカ出てきたでしょうよっ。欲張れば、即全滅でしょうよ!!」


「それは、でもグリムゲルデ姉様っ。今現在進行しているイレギュラーは絶対に見過ごしていいものじゃないぴょんっ!! それこそラグナロク・オメガの結末を左右する可能性だって……ッ!!」


「それでも!!」


 じわり、と。

 包囲網を抜ける際に異形の少女が苦し紛れに手を伸ばしたりしたのだろうか、()()()()()()()グリムゲルデはこう続けたのだ。



「敵は、一手で私を追い詰めるくらいでしょうよ! 余計なことに割く余裕なんてどこにもないでしょうよ!!」



 直後であった。

 ごぶっ!! とグリムゲルデが血の塊を吐き出したのだ。


 赤い液体が。

 首根っこをくわえられているロスヴァイセの全身を濡らす。その生暖かい感覚に、ロスヴァイセは背筋に嫌な震えが走るのを感じていた。


「姉、様……?」


「一人二人が相手なら、勝ち目はあったかもでしょうよ。だけど、ああも数が揃っていたんじゃ捨て身の特攻仕掛けたって全滅にまでは持ち込めないでしょうよ」


「待って、姉様、待って!!」


「だから、ロスヴァイセたちだけでも逃がすでしょうよ。私の命を消費して、ロスヴァイセたちを生かせば……後は他の姉たちが帳尻合わせてくれるでしょうよ」


「ちょっと黙って! なに、なにを、どうしてそんなに弱気なわけ!? だって、そんな、理屈は不明だけどダメージはリアラーナが治したぴょんっ。今何が姉様を蝕んでいるかはともかく、それだってリアラーナの力でどうにかなるかもじゃん!!」


「そ、そうだよっ。よくわからないけど、あたしなら治せるからっ。ええと、グリムゲルデさん? とにかくみんなで生き残れるように頑張ろうよ!!」


「第八位相聖女様っ。貴女様が矢面に立つ必要はありません!! 聖騎士たる私がこの身を捧げますから!!」


「それじゃ駄目でしょうよ」


 ロスヴァイセ、リアラーナ、ルナエルナの訴えに、しかしグリムゲルデは即答する。この場の誰よりも純粋な戦闘能力が上だからこそ、即答することができた。


「この状況を私一人の命で済ませるという時点で無茶な話でしょうよ。他の誰かを代わりにしたり、全員で生き残ったり、なんてものは不可能でしょうよ」


 その言葉を裏付けるように、ぶわさ!! と羽音が響く。ざわざわと蠢くように異形の群れという一塊が移動する。まるで悪趣味な怪物のように口を広げてグリムゲルデたちを丸呑みにせんがばかりに。


 二人と一匹を連れて逃げ切れるとは思えなかった。そして、捕捉されれば数の暴力を前に皆殺されるのは目に見えていた。


 ならば、誰かが群れの移動を阻止しなければならない。転移の奇跡を使えない聖女、治癒能力しか優れた力を持っていない少女、将来有能とはいえ今は平均的な実力しかない聖騎士……では、すぐに突破されることだろう。


 ゆえに、これは必然であった。

 誰が犠牲になれば残る者たちの生存確率が上がるかなんて本当は誰もが気づいていた。


「姉様、待って、待ってよ!!」


「ロスヴァイセ、今度こそ絶対に守るでしょうよ」


 ボッバァ!! と後方からの爆風がリアラーナとルナエルナ、そして白猫の肉体に入ったロスヴァイセを吹き飛ばした。


 ただ一人。

 グリムゲルデだけを残して。


「待ってって言ってるじゃん、姉様のばかあ!!」


 妹の悲痛な叫びだけが、結末のわかりきった戦場に響き渡った。



 ーーー☆ーーー



 そして。

 アリアは上空を舞う異形の少女たちと、今まさに急降下してくる異形の少女たちを見据えて口元をつり上げていた。


「ふふっ、ふふふっ! まず一人っ!!」


「ですね」


 ザンッッッ!!!! と。

 急降下、そして交差。その一瞬にて漆黒の剣を叩きつけられた異形の少女の頭と胴体とか分かれ、地面を転がる。


 直後に跳躍。仲間が瞬殺されることなど予想すらしていなかったのか、目を見開く同じ顔をした後続へと返す刃を叩きつけ、崩れる身体を踏み台にさらに跳躍。


 三人目が爪を振りかぶり、放ってきたので漆黒の剣を合わせて両断、それも踏み台にして跳躍。


 なんでその剣溶けないのよ!? なんて言い出している四人目の胴体を輪切りにして、その断面を踏み台に跳躍、五人目を交差と共に斬り裂き、さらに踏み台とする。


 そうやって階段でものぼるような気軽さで高く跳んでいくアリアは、異形の少女を斬り殺すのとは別に何もない空間で剣を振るっていた。まるで見えない何かを斬るように……いいや、空気を斬り裂くことが目的であるかのように。


「こい、つ、空気を舞う色香()を剣風で吹き飛ばして……ッ!!」


「毒? ああそうだったんですね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだけど、無駄ではなかったようですね」


「ッ!?」


 驚愕を貼りつけた異形を斬り裂き、踏み台に。

 そうして空高く舞い上がることで上から街の状況を確認したアリアはというと、猫のような瞳を細めて、


「……はぁ。ド三下に成り下がるわけにもいかないですし、『全部』ちゃちゃっと片付けるですよ」


 ゴォッ!! と。

『足場』を消費しながら、目的地へと急降下していく。

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