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第三十話 感染、変異

 

 七業が魔導、その本質を感染。

 ありとあらゆる毒性因子を統合、加えて()()()という未知の分類さえも組み込んだそれは空気中に散布されれば口や鼻を塞ごうが、密閉された部屋に閉じ籠ろうが関係なく侵食、感染を可能とする。


 微細な、目に見えない毒が散布されし領域に立ち入った時点で感染は確定、と考えていい。


「ふふ」


 七業が魔導の性質は以下の通り。


 一つ、魔導は術者の肉体より分泌される。つまり翼を動かして空気中に散布したり、指を対象に突っ込み感染させることが可能というわけだ。


 一つ、魔導の効果は()()()を加えた既存の全てを網羅している。神経毒や腐敗毒など、多様な性質を統合しているのだから当然だろう。


 一つ、魔導の効果は術者によって左右される。魔導の効果を無効とする、一部毒性のみを有効とする、など好きに切り替え可能なのだ。


 一つ、魔導は目に見えない。が、それもまた切り替え可能であり、目に見える形にすることもできる。


 一つ、()()()の効果は読んで字のごとく。対象が魔導に感染してから一定時間後効果を発揮し、一定時間後対象を殺す(その時間は生きた感染対象が増加するごとに短くなる)。また、対象の肉体的要素を感染、変異したモノへと残すこともできる。とはいえ全性質を含んだ魔導だと一分もすれば対象を殺すので、()()()を発揮するには一部毒性を無効化しておく必要がある。


 一つ、()()()が生み出したモノの見聞きした情報は他のモノや術者と共有される。


 一つ、魔導への特効薬は存在しない。既存の毒性のみを発揮していようとも、その本質は魔導であり既存の毒とは別物であるからだ。逆に言えば魔導とは術者が使役する力であるので、術者が死亡すれば毒性もまた霧散する。


「ふふっ、ふふふっ!」


「ふ、ふふっ」


「ふふふふふふふふっ!!」


 ぐじゅ、バガバギッ! べぎゅ、ぢゅぐり、と。

 肉をかき回し、骨を砕く異音と共に変化があった。


 とりあえず逃がさないといけないということで、待ち合わせ場所としてよく利用されている噴水がある広場に転移させられた聖騎たちの肉体に、だ。


 側頭部から二本の牛のようなツノが飛び出し、首元に羊の毛皮で作られたマフラーが巻かれ、鬼のごとき鋭利な牙が生え、お尻から蛇のような尻尾が伸び、足はガチョウのように変化して──顔や身体が女らしいラインを描く。


 聖騎士のほとんどは男であったはずだ。だというのに、ぐじゅべぢゅと肉をこねくり回すような異音が響いたかと思えば、その肉体がどんどん変化していったのだ。


 ゆらり、と。

 その身体が起き上がった時には褐色の異形の少女、そう『魔導七罪』が七業、サラと瓜二つ……いいや、同質の身体へと変化していた。


 総勢二百五十八人。

 その全てが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。すなわち『魔導七罪』が七業、サラと同等の力を持っていた。


 出産毒。

 文字通り己が肉体と同質の存在を産む毒性。

 その栄養として命ある者が必要だというわけだ。


 ……とはいえ無理を通しているからか、長時間保たないというデメリットは払拭できていないが。


「単体であれば私はあの巨人と良い勝負かもねえ。だけど、ふふっ、私には数があるわっ!! 手駒は二百超、ふふっ、単純計算で『魔導七罪』クラスを二百倍した戦力がここにある!! ふふ、ふふふっ、ふふふふふっ!! いかなる敵性因子だろうとも、『魔導七罪』クラスの二百倍もの力は持ち合わせていないものよっ。つまり! 誰も私には敵わない!! それこそ()()()()()()()()()!!」


 ドロドロとした笑みが広がる。

 舌なめずりさえこぼし、聖騎士だった者たちがその翼を羽ばたかせる。聖女や魔王や『元』魔王を殺し、番外聖女を手に入れて、その手で世界を掴むために。



 ーーー☆ーーー



 ばっさぁ!! と。

 夜空が踊り子が着るような鮮やかな真紅のドレス姿の少女によって埋め尽くされる。褐色、そしてツノ。魔人だと示す異形へと変異した、二百人以上の怪物によって。



 ーーー☆ーーー



『それ』は『第八位相聖堂』入り口前からでも見ることができた。小手調べ、あるいは『布石』を散らし終えたがゆえの本番、真なる殺し合いが勃発する前であったからか。


 両者共に足を止めていた。

『一手』にて勝敗を決するつもりだったので、できるだけ不確定要素を除いておきたかったのだ。


「あれ、お仲間ですか?」


「仲間っつーより消耗品ってところだなァ。しかし、あれだァ、増殖できるだなんて知らなかったなァ」


「そうですか。それは、ちょっとまずいかもですね」


「ハッハァ! なんだなんだァ、物量程度にビビってんのかァ!?」


「まさか、です。ですけど、()()()()()()()()()()()()()()。この不確定要素がどう影響するかは計算に少し時間が必要です。それだけの猶予があればいいんですがね」


「それなら心配いらねえよ。テメェは、我の手で! ぶち殺されるんだからなァ!!」


「……、一つ気になったんですが、さっき増殖できるだなんて知らなかった、と言っていたですよね? 魔王サイドの人員について興味がなかった、という話かもしれませんが──もう一つ、可能性があるですよ」


「あァ? 何言ってんだァ???」


「つまり、です。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まあこれは単なる予想ですが……くすくす☆ 少なくとも魔王の敵ではあるみたいですね」



 ぐるん!! と。

 魔王の頭が、回転する。



 何度も何度も回転し、ねじれた首が負荷に耐えきれずにぶぢっ! と千切れる。どん、どん、と魔王の頭が地面を転がった。


 そして。

 その先、あれだけ巨大な巨人が倒れていたその場所から死体が消えて──代わりとでも言うように褐色の異形の少女が立っていた。


「ふふっ、ふふふふっ、ふふふふふふふふっ!! 今ここに、私の悲願は達せられるわ!!」


 バサァ!! と飛ぶでもないのに翼を羽ばたかせる少女を見据えて、ブンブンと何を斬るでもないのに魔剣を振り回すアリアは──『はぁ』、と心底くだらないと言いたげにため息を吐いた。


「これだけ教えろです。狙いは魔王、それともリアラーナですか?」


「ふふっ、ふふふ! まだ生きてたのねえ、『番外聖女』リアラーナの付録品」


 ぴくり、と。

 くだらないと言いたげだったアリアの表情が、歪む。


 そのことに気づかず、異形の少女は酔ったように言葉を垂れ流していく。


「私、今、最高に気分いいからねえ! 人間ごときの問いに答えてあげるわ。どちらか、と選ぶ必要なんてどこにもない。私が選んだのはどちらも、よ!!」


「そうですか。では足止めよろしくです。まあ数に頼る程度の女に期待はしてないですがね」


「は? 足止め???」



 直後、不可視の斬撃が走り抜けた。

 ザバッン!! と異形の少女の右翼を切り裂く。



「がっ!? な、にが……っ!?」


「ったく、雑用係ごときが図に乗りやがって。殺処分確定だァ、カスがァ!!」


 だんっ!! と勢いよく立ち上がった魔王がその腕を振り切っていた。先の不可視の斬撃はその腕から迸ったのだろう。


 気がついた時には魔王の頭部が胴体にくっついていた。治癒の魔導。首をねじ切る程度では死なないと、その程度ならば癒せると、巨人が変じた少女は知らなかったのだろう。


 ()()()()()()アリアはいちいち驚くことなく行動していた。魔王の怒りが、矛先が異形の少女に向かっている間にリアラーナと合流するために。

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