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第三話 舐めさせてよっ!!

 

「さて、残りは一人ですか。どうするです?」


 トントン、と縦に両断した大男の血で濡れた剣で肩を叩きながら、赤髪の女が最後の一人へと視線を向けた……時にはアフロの男は一目散に逃げ出していた。


「無理無理絶対無理だってこんなのお!! ボスは元騎士団長だぜ、ランクAの賞金首だぜっ。それを、こんな、ぐえっばぶう!?」


 それはもう盛大に転んでいたが、そんなこと気にせず這うように逃げていった。


 そんなアフロを見て、女は軽く息を吐きながら『何か』を投げる。アフロ男の背中に小さな『何か』がくっついたことを確認してから漆黒の剣をビュッ! と一振りしてこびりついている血を飛ばし、腰の鞘に戻す。


 向かってくるのならば殺すが、逃げる者を追いかけて殺すような『もったいない』真似はしない、ということだ。


 くるりとその身が回る。

 真っ直ぐにリアラーナを見つめ、歩を進める。


 ──正直に言えば怖かった。リアラーナを助けるためだとわかっていても、ああも簡単に人を殺してのけた女なのだ。本能的に怯えてしまうのも無理はない。


 それでも、リアラーナは歯を食いしばり、その場にとどまった。足は震えて、視界が歪むほどに涙が浮かび、全身が震えてはいたが……それでも、と繋げた。リアラーナのことを助けてくれた人を拒絶するようなことだけはしたくなかったから。


「お嬢さん」


「ひっ、ぁ……」


 気がつけば、鼻と鼻とが触れ合うほど近くに足を曲げて身を屈めた女が立っていた。猫のような黄金の瞳がじぃっと真っ直ぐにリアラーナを見つめる。赤く、蠱惑的な、鮮血に染まった唇が動く。


 言葉を、紡ぐ。



「ちっこいですね」



 …………。

 …………。

 …………。


「ひあ?」


「くすくす☆ しっかりご飯食べているですか? 私、どちらかと言わずともグラマラスボディのほうが好きなんですよね。さっきのも今のも最高にそそる対応ですから中身は抜群なんですけど、それ以外はてんでダメダメですね」


「ひあああ!? なんっなに、誰がちっこいよっ。そりゃあ平均よりはちょっと、ほんのちょーっと小さいかもだけど、こんなの誤差よ誤差っ!!」


「はっはっ! 事実突きつけられたからってそうムキになることないですよ。どこからどう見ても誤差じゃないです。貴女は、平均よりも、遥かにちっこいですよ。特におっぱいがちっこい極まっているのが最悪です。それ、本当におっぱいです? 胸部アーマーとかじゃなくて???」


「も、もおっ! さっきっから失礼すぎないっ!? 胸か、そんなにおっきなお胸は偉大かあ!?」


「もちろんです」


「むう、むううっ!!」


 くすくすと透き通るような笑い声があった。

 頬を膨らませて、あたし怒っていると全身で訴えているリアラーナを見ての女の反応であった。ついでにわざとらしくリアラーナよりも立派なお胸を揺らしているほどだ。


 猫のような黄金の瞳がからかうように緩む。

 楽しげに、ゆらゆらと。


「まあ、少なくともさっきまでよりは断然マシですよね」


 伸びる。

 いつの間にか女の手がリアラーナの目元に伸びて、微かに残っていた涙を拭う。


「女の子に涙は似合わないですしね」


「……っ、な、なんっ!?」


「くすくす☆ 怒るくらいの元気が戻って良かったです。これからは変なのに絡まれないようにするですよ」


 くるり、と。

 話は終わりとばかりに身を翻し、歩を進める赤髪の女。ぼたぼたとその左腕からは鮮血が流れていたし、両腕は広範囲に及んで青く染まっていた。


 決して無傷なんかではなかった。

 リアラーナを、見ず知らずの女を助けるために無茶をして、その結果それだけの怪我をしたのだ。


 それでも。

 女は大したことないと言うように立ち去っていく。


「待ってっ」


「ん? なんですか??? 立ち塞がる敵は根こそぎ排除したし、ここらから近くの町まではそう遠くはないですよ。だから──」


「舐めさせてよっ!!」


「…………、」


 くるりと再度の回転。

 蠱惑に光る唇が、楽しげに歪む。


「随分とまあ直接的なお誘いですね。助けてくれたお礼に舌でご奉仕してくれるって話ですか。くすくす☆ 一体全体どこを舐めてくれるのやら」


「ご奉仕……?」


 キョトンと。

 首を傾げるリアラーナを見つめて、女は肩をすくめる。


「無知とは時に最大の防御となるって感じですね。あれです、ちょっとからかっただけですので気にしないように。どうせ怪我なんて舐めれば治るとかって話ですよね。そんなのロクな効果ないですよ」


「……あたしだったら、治せるんだよ」


 その言葉に込められた『想い』は伝わらなかっただろうが、ふざけているわけではないことだけは伝わったのだろう。


 くすくすと、せせらぎのような聴き心地のよい笑い声をあげながら、女が左腕を突き出す。


「だったら頼んでみるですよ」


「うんっ」


 そっと女の手を両手で包むように握るリアラーナ。自身の血や返り血で赤く染まったむき出しの腕。赤の中から微かに覗く純白の肌はまさしくキラキラと輝いているようであった。


 綺麗だからこそ、無残に抉られ、青く染まったサマが痛々しかった。その中でも一番深い切り傷へと唇を寄せていく。


『仕事』でも直接患部に接触することはない。というか、思わず口にしてしまったが、いつものように体液を一度排出してから塗ったりすればいいだけ──


「やるなら早くやるですよ」


 ぐいっ! と。

 女の左腕が跳ね上がったかと思うと、未だ鮮血を噴き出す傷口がリアラーナの唇に押しつけられた。


 口いっぱいに鉄錆くさい、血の味が広がる。

 それどころか唇に押しつけられたせいで鼻にまで血が入るほどだった。


「んっぐぅ!?」


「舐めれば治る、ですか。くすくす☆ 真実にしろ嘘にしろ、どっちに転んでも面白い展開になりそうですよね」


 女の唇が歪む。

 猛火のように凄まじい熱量と共に襲いかかってくる強烈な美貌の持ち主だというのに、その中身はイタズラ好きな幼子のようであった。


 とはいえ、だ。

 リアラーナを助けてくれた人の怪我を治したいと思ったことは事実。ゆえに鉄錆くさい液体で埋め尽くされた口を開き、舌を出す。傷口へとえぐりこむように這わせる。


「ん……っ」


 傷口を刺激したからか、女が微かに声を上げる。甘く吹き抜けるようなその一音が鼓膜を震わせる。たったそれだけでリアラーナは何かイケナイことをしている気がした。


 それ以上に恩人のために全力を尽くすといった気持ちが強かったがために舌を動かすことをやめはしなかったが。


「……、へえ」


 次の一音は興味深そうな色が乗っていた。

 ()に移るために左腕に舌を這わせて、横に移動していくリアラーナへと赤髪の女が言う。


「本当に治っているですね。くすくす☆ 貴女、やっぱり中身だけは最高ですね」


「中身『だけ』ってところに、んっ、……悪意を感じるんだけど……」


「悪意だなんてそんな。私はただそんな力を持っているんですから、大きなおっぱいさえあれば押しつけながら舐めることもできたのにもったいないです、と言いたかっただけですよ」


「やっぱり悪意しかないじゃんっ!!」


 もお!! と怒りのままに叫びながらもリアラーナは舌を這わせていく。一言も二言も多い失礼な人ではあるが、命をかけてリアラーナを助けてくれたことに変わりはないのだから。

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