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第二十八話 人類一掃、その最たる元凶

 

『第八位相聖堂』入り口前に倒れていた聖騎士たちが()()()()()からこそ、ロスヴァイセは転移の奇跡でもって近くの広場まで移動させていた。助けられるかどうかは不明だが、戦闘に巻き込んでトドメを刺すようなことだけは防ぐために。


 だから。

 だから。

 だから。



 ぶしゅう!! と。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 ーーー☆ーーー



「ねーえーさーまー。ぴょんっ、姉様ーっ! そんなにわんわん泣いちゃって、ロスヴァイセちゃんが生きていたのが相当嬉しかったみたいだぴょんっ。普段あれだけ素っ気ない姉様が、ぴょんぴょんっ、仕方がないから愛しのロスヴァイセちゃんを撫で撫でするのを許してあげるぴょーんっ。ほらほら今のロスヴァイセちゃんってばもふもふ白猫ちゃんだから撫で心地抜群ぴょんだよっ!!」


「…………、」


 なんか調子に乗っている、というわけでお言葉に甘えて抱きしめることにするグリムゲルデ。左腕だけとはいえ、あのアリアと殴り合えるほどの腕力でもって思い切り、だ。


「そういえば聞いてなかったでしょうよ。どうして猫の身体に意識を移しているでしょうか?」


「ぴょっ、潰れ、ぴょんぴょおーん!?」


「ん? 意識を、移す……もしかして転移の奇跡で意識だけ猫の身体に飛ばしたとかでしょうか? そんなことできるとは聞いていないけど、それくらいしか考えられないでしょうね」


「ろ、ロスヴァイセちゃんも無意識下だったというか、なんでできたのか未だにわかってないというか、まあ意識が浮かび上がってきてすぐに駆けつけたから精査する時間はなかったからこれから色々確かめるというか、それはそうとしてちょっと力を緩め、本当に潰れちゃうぴょーんっ!!」


 何やら猫のくせにぴょんぴょん鳴いている妹を無視して、姉は小さく息を吐く。呼吸を整える。


 肉体的ダメージは元より、『魔力』の消費もまた深刻であった。『魔導七罪』の一角が相手だったとはいえ、聖女が二人もいてこの様だとは情けない限りだと奥歯を噛みしめる。


(黙示録の通りだとするなら、あの巨人は()()でしょうよ。だというのに、直接戦闘担当たる聖女の中でもナンバーツーである私がここまで苦戦するだなんて……。ラグナロク=オメガまでそんなに時間がないこのタイミングで力不足を実感させられるだなんて最悪でしょうよ)


 何はともあれ、だ。

 ロスヴァイセは己の肉体を失い、グリムゲルデも右腕の消失や全身の火傷など重傷ではあるが、敵の襲撃を凌ぐことができた。


 あの異形の少女が気にはなるが、探知能力だけなら聖女の中でも一番なロスヴァイセが何も言わないならば『元』傭兵ランキング第一位と噂のある例の衛兵が始末したのだろう。


 ……聖女以外の者が一人で『魔導七罪』を始末した、ということは、それはそれで黙示録の信ぴょう性が気になってくる事態ではあるが。


(その辺は落ち着いてからロスヴァイセや他の姉たちと一緒に考えればいいでしょうよ。正直、私頭使うの苦手でしょうし)


 腕の中では妹がぴょんぴょん鳴いていた。

 この大好きを守ることができただけでも上出来である。


 だから。

 だから、だ。


「っ!? グリムゲルデ姉様っ、まずいぴょんっ」



 トン、と。

 真正面に()()した男を見た瞬間、グリムゲルデは思考が止まった。



「転移装置にそのようなバックアップ機能があったとはなァ。これも運命の悪戯かァ? ハッハァ! 上から目線のカミサマは今日もまたくそったれってわけだァ!!」


 男がいた。

 実際に会ったのは今日が初めてだったが、黙示録の記載にあった通りの容姿であったがために確信した。して、しまった。


 見た目は三十代前半の偉丈夫、しかし二つの要素が破滅を示していた。


 側頭部より伸びるツノ、そして褐色の肌。深き紫のマントを羽織った黒髪黒目の彼は魔人、それも、


「最悪だぴょんっ。魔王本人が転移してきたぴょんっ」


「……ッ!?」


 魔王。

 人類一掃の最たる元凶にして、魔人を束ねし王。


 九の破滅を操る魔王を殺すには、同じく九の奇跡を内包した聖女が揃う必要がある──と黙示録には記されている。


 だが、この場に存在する奇跡は二つのみ。

 ()()()()()()()()()()()()()()『魔力』を消費してしまっている以上、転移の奇跡で遠く離れた姉たちを呼び寄せることはできない。


 つまり。

 つまり、だ。


「転移装置を殺すとバックアップかまされるみたいだし、氷漬けにでもするかァ。焼却装置のほうはァ、まァ普通に殺しても問題ねえよなァ」


「クソ、野郎が……ッ!!」


 九の奇跡が揃わない以上、九の破滅を操る魔王には勝てず、せっかく助かった妹を失ってしま──



「問題しかないです。なんですか、そのつまんねえ略奪は。失笑でもしてほしいんですか?」



 だんっ!! と。

 それはグリムゲルデやロスヴァイセを守るように現れた。


 残像が流れる、収束する。

 漆黒のマントをなびかせ、その下のビキニアーマーを晒すは二人の女を肩に担いだ赤髪の女。その背中を見て、グリムゲルデはなぜか安堵していた。


 敵は魔王、人類一掃の最たる元凶。

 九つの奇跡をぶつけるくらいしか勝ち筋の見えない、絶対的な破滅だというのに。


 それでも。

 彼女が来てくれただけでもう大丈夫だと、もう二度と妹を失うことはないと、確信していた。


 希望、というにはサイケデリックな、しかし不思議と温かな安堵を与えてくれるその名を叫ぶ。


「アリアさんっ!!」


「はい、アリアさんです。くすくす☆ 私以外に奪われていないようで何よりですよ、お嬢ちゃん」


 振り返ることなく、それでいて柔らかな声音であった。安心してくれるくらいには想ってもらえていたことに、グリムゲルデは自分でも気づかないうちに頬を緩めていた。


 アリアはというと、誰かを探すように周囲を見回し、


「それにしてもあのおっさん強そうだからと任せてはいたけど、念のため来て良かったです。強くはあるけど、防衛とかは苦手みたいですね。まあ私も人のことは言えないですが」


 くすくすと。

 いつも通り笑いながら、二人の女を地面に下ろしたアリアは腰に差した剣を引き抜く。


 真っ直ぐに、臆することなく。

 人類一掃の最たる元凶である王を見据える。


「久しぶりですね、腰抜け。前みたいに尻尾巻いて、クソ情けない戯言吠えながら逃げたりしないんですか?」


「ハッ、ほざくなよ。あの時と今とは状況が違う。九つの奇跡が揃う可能性が消失した以上、我が死ぬ可能性はない。ゆえに、ハッハァ! 遠慮なくぶち殺してやるよ、女ァ!!」


「くすくす☆ 上等ですよ、腰抜けが」


 瞬間。

 激突があった。

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