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第二話 欲しいなら力づくで奪えばいい

 

「チッ! 図に乗るなよ、女がっ!!」


「ハッハァ! そいつは俺らの中でも最弱だぞっ。雑魚一人殺したくらいでドヤ顔してんじゃねえ!!」


「よく見りゃあイイ身体してるし、銀髪のチビよりは楽しめそうだな。適当にボコって、イイ感じに育ったその身体使ってやるよ!!」


 リアラーナでは目で追いかけることすら困難であった。彼女を庇うように前に飛び込んだ赤髪の女が叩き出した結果だけが飛び込んでくる。


「フッ──」


 男の放った袈裟斬りが女を引き裂いたかと思うと、女の姿がブレる。あまりにも高速で移動することで発生した残像であるとリアラーナが理解した時には男の真横から漆黒の軌跡が飛び、その首を刎ねていた。


「ハッ──」


 そこに二人の男が左右から斬撃を放つ。が、ギギンッ!! と金属音が響いたかと思うと男の手から剣が弾かれ、赤い液体を噴き出しながら倒れていくところだった。


「シッ──」


 女の身体がブレる。直後に一人の男に肉薄し、その心臓を剣で貫く。


 その隙を見逃さず三人の男が前から迫る。と、そこで女は死体から剣を抜かずに三人のうち真ん中の男に死体を蹴り飛ばし、足止め。右から迫る上段からの振り下ろしに対して右手を添えて受け流す。同時に左からの横薙ぎが女の胴体を輪切りにしようと剣を振る前に踏み込み、左の男の剣を握るその手に左手を添えて──次の瞬間には男の剣がブレ、舞い、持ち主であるはずの男を斬り裂いていた。


「がっ!?」


「嘘、だろっ。こいつ予想以上に強……っ!?」


 信じられないと驚愕の声を上げる右の男の声が途切れる。ザズンッ!! と女が剣を投げ放つ。そう、剣がブレて舞ったのは女が男から剣を奪った過程であり、奪われた剣は右の男の心臓へと投げ放たれたのだ。


 同時に女からぶつけられた仲間の死体を横に捨てようとしていた真ん中の男へと肉薄、死体に突き刺さったままの剣を掴み、身体を回転、己が漆黒の剣を引き抜いた勢いのまま真ん中の男へと斬撃を叩きつける。的確に、首を刈り取る。


 最初の男を入れて、瞬く間に八人。

 あまりにも鮮やかに処理するものだから、リアラーナは恐怖する暇もなく見送っていた。


「残り二人ですね」


「な、なん……っ!? なんだよお前はあっ!!」


 生き残りのうちアフロの男がそう叫ぶと、女はといえばくすくすと鈴のように澄みきった笑い声をあげて、


「略奪者ですよ。見てわからないですか?」


「な、あ……っ!? ふざけてんのかっ」


「まさかです。大真面目に決まっているじゃないですか」


 平然と、顔色を変えることなく、であった。

 とんとんと漆黒の剣で肩を軽く叩きながら、


「で、どうするです? おとなしく女の子を奪われるか、貴方たちの命を奪われた上で女の子も奪われるか、好きなほうを選んでいいですよ」


「ハッははっ!! 随分と強気なことだなっ。女にしておくには惜しいもんだっ」


 アフロの男ではない。

 もう一人、二メートルはあろうかという大男が背中に背負ったこれまた大きな剣の柄に手をかけての言葉だった。


「ボスっ。何を呑気なこと言ってんだ!? こっちは仲間をしこたまやられたってのにっ」


「仲間? ハッ、女に斬り捨てられる程度の雑魚、どうなろうが知ったことかよ。それよりだ、なあ女。俺はお前が気に入った。どうだ? 俺のもんにならねえか?」


「……、へえ」


 どこか興味深そうな声音だった。

 くすくすと肩を揺らしながら笑い声をあげて、女は続ける。


「私を奪いたいと、そう言うですか」


「できれば穏便に済ませてえんだ。抵抗するもしないも自由にしな。どちらにしろ何も変わらねえしな。従順に屈服するか、力づくで屈服するかの違いでしかねえよ」


「なるほど、なるほど、なるほどです」


 くすくすと。

 あくまで透き通るような笑い声と共に、赤髪の女は静かに言葉を紡ぐ。



「だったら奪ってみればいいですよ。貴方に私を奪うだけの力があれば、自然と私は貴方の所有物となるですよ」



「残ね──」


 ダァッン!! と女が地面を蹴り、土煙があがったかと思えば、すでに大男の懐深くにまで到達していた。地面スレスレまで身体を倒し、両足だけでなく左手までも地面を叩きつけての加速と共に剣を持つ右手ごと身体が跳ね上がる。


 天高く舞い上がる龍がごとき勢いで漆黒の斬撃が走──


「本当、残念だ」



 ゴッドォン!!!! と。

 轟音と衝撃波と土煙が同時に炸裂した。



 そばで見ていたリアラーナには過程を正確に視認することはできなかった。ただ結果のみが視界に広がる。


 大男が右腕を振り下ろしていた。その手には背中に担いでいた大男の背丈を越える大剣が握られており──その刃が地面に深々と突き刺さり、地面を抉り取っていたのだ。


 そして、


「くすくす☆ やるじゃないですか」


 ぶしゅう!! と血の赤が散る。

 大男の間合いの外、四つん這いの赤髪の女の左腕が斬れており、そこから鮮血が噴き出していた。


 避けきれなかったのか、押し負けたのか、とにかく大男の一撃に対処しきれなかったということだ。


「二度目だ。三度目はねえぞ。女、俺のモノになれ」


「二度目です。三度目はないですよ。奪いたいなら、力づくでやってみろですよ」


「そうか。俺、手加減は苦手でな。ほほ確実に殺してしまうだろうが、まあなんだ。運良く生きていられたのならば、部下としても女としても有効活用してやるよ」


「発想が貧弱ですね。どうせなら私を使って世界中の女を奪って、史上最大のハーレムを作ってやるくらい言ってみろですよ」


 暴力沙汰になど一切無縁なリアラーナでもなんとなくわかった。次だ。次の攻防で決着がつく可能性が高い。


 ……リアラーナを助けてくれた人は一度目の攻防で左腕を負傷している。力の差は歴然だ。今度は胴体を輪切りにされるかもしれない。


 そこまで考えたら、自然と口が動いていた。

 リアラーナを背に庇い戦ってくれている女へと言葉を投げかけていた。


「だめ、だよ。そんなのだめっ。いいから、あたしのことはもういいから! お願いだから逃げてよお!!」


 嫌だった。死なせたくなかった。


 大男に『奪われた』らどうなるか、想像するだけで身の毛がよだつ。誰もいないはずだと思っていても助けを求めるくらいには、だ。


 それでもリアラーナのために戦ってくれるような人が死んじゃうのは想像すらしたくなかった。そんなの、絶対に嫌だった。


 だから。

 だからこそ。


 赤髪の女が振り向く。大男から視線を外す。敵から視線を外すような余裕なんてないはずなのに、それでもリアラーナへと視線を移すだけの理由があった。


 女の、猫のような黄金の瞳が、緩む。

 どこか眩しそうに。


「これはとんだ掘り出し物ですね。奪い甲斐があるですよ」


「え? なにを、言って……???」


「お嬢さんのためなら頑張れるということですよ」


 言って、前に視線を戻す。

 大男が間合いを詰めて、右手だけでなく左手まで使って握りしめた大剣を大上段より振り下ろすところだった。


「よそ見とは余裕だな、女あっ!!」


 ガッゴォンッッッ!!!! と先のそれとは比べものにならないほどの轟音と衝撃波と土煙が炸裂する。ビキバリベギッ!! と十メートルは離れたリアラーナの足元にまで地面の亀裂が届いたほどであった。


 そして、そしてだ。


「づっ……あぁ!!」


 まるで押しのけるようであった。

 大剣の剣服へと大きく開かれた赤髪の女の『両手』が叩きつけられていた。そう、真っ向からではなく側面へと干渉することで斬撃を受け流したのだ。


 とはいえ女の両腕にも多大な負荷がかかったのだろう。内出血でも起こしているのか、覗く肌は青く染まっていた。


「待て。お前、剣はどこに──ちぃっ!!」


 言葉の途中で大男が横に飛ぶ。ブォン! と先ほどまで大男の頭があった場所を()()()()が縦に回転しながら舞う。そう、斬撃を受け流す前に女が上空に投げた漆黒の剣が落ちてきたのだ。


「シュッ──!!」


 すっぱぁん!! と鋭い音が響く。横に飛んだ大男が地面に着地する前にその両足を女が蹴りで刈り取ったのだ。


「し、まっ……!?」


 しっかりと二の足で地面を踏んでいればそううまくいかなかっただろうが、空中であれば話は別。ろくに踏ん張ることもできず、足を刈られた大男が背中から地面に叩きつけられ、


 ぱしっ、と。

 女が未だ宙を舞っていた漆黒の剣を掴んで、


「残念ですが、私を奪うのは無理みたいですね」


 ザンッ!! と。

 振り下ろし、両断した。

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