東京刑事とダイナミズム
お台場ークロスフォークの上。
3人の男女が視線を交錯していた。
いや、1人の女と1組の男女だった。
1人と1組は現在敵対関係にあり、今最終局面を迎えようとしていた。
「おしまいだ、水ノ江 瑞樹」
1人の女の名前は水野江 瑞樹、とある事件の被害者の妹だった。そのとある事件とは3つの連続した猟奇連続殺人事件で、彼女の兄、水野江 檜木はその最初の被害者だった。
「何がおわりなんですか」
「テメェの企みだよ」
男の名は桜 陽一、その相方である女の名は冬馬 光希。一連の事件を担当していた刑事だった。
「あんたが犯人だ、水野江 瑞樹ちゃん」
「何言ってるんですか、冬馬さん。私のアリバイは証明されてるんですよ」
水野江は彼女話の兄が殺された日の夜、友人の家でのパーティーに参加してそのまま泊まっていたためにアリバイがあったのだ。
「それじゃあ、その謎も含めて今回の一連の事件を振り返るから」
某日の早朝、水野江家周辺をよく通るサラリーマンが、水野江家の玄関前で異常なオブジェを見つけたことが発端だった。発見当初、それは全裸の男の首と両腕を切断したような死体だった。まるでーー
「サモトラケのニケみたいな死体。通行人のサラリーマンが博識じゃなかったら、連想するのに時間がかかったでしょうね」
「だから、私は兄を殺す度胸もなければ、ましてや運ぶ力もバラバラにする力もないですから」
「あんたのお兄さんの死亡推定時刻は午前2時前後、0時から犯行を進めておけば容易に間に合うんじゃない?」
「あのですね!私はそのとき友達の家にいたってーー
「それから第2の事件」
水野江兄の死体が発見されてから3日後、また異常なオブジェは創作されてしまった。被害者は水野江妹の小学生時代からの幼馴染、猫坂 宇美。水野江家から約400mのところにある公園に放置されていたのだ。そして今度は全裸で両腕を切断された状態だった。
「ミロのビィーナス、どっちもダイナミズム文化の躍動的な彫刻がモデルだったわけね。ちなみに私は次は円盤投の男でくると期待してたけど、次は違ったわけだ」
「蛇 右衛門警部が殺された事件、あれも同一犯であることがわかった」
もう1人、この事件を追っていた刑事がいたのだが、犯人が犯行を行うところを押さえ、そのまま現行犯逮捕すらために単独行動をしてしまい、返り討ちにあい帰らぬ人となってしまった。
その時、血文字のダイイングメッセージが彼の死体の下に隠されていた。
王。その一文字だった。
「ダイイングメッセージの王という字。私はわからんかったよ、ネットのオカルト話から電子辞書まで使ったおかげでやっとわかったのさ。」
「これは王じゃなくて十干の壬」
「そしてその訓読みは壬だったってわけよ。今残ってる水野江はあんた、水野江 瑞樹だけってわけ!」
「それだけだったらまだ私を逮捕する理由になりませんよね?だって私は最初の事件、アリバイがありますから」
「あんたは最初からお兄さんの両腕を切断した状態で、2階の窓辺にカーテンを閉めた状態で拘束する。首にピアノ線をかけておいて、線はさらに屋根裏に這わせて、先を屋根裏にある採光窓につけてあった遠隔収納棚に重りをつけて置く。スマホのリモートコントロールで収納棚を畳ませれば、どんなタイミングでも一気に重りは落下して首が飛ぶという寸法、要は死刑と似た仕組みってわけだ。よく作ったもんだねこんな面倒くさい装置、すごいよその執念だけは褒めてあげてもいい」
「今言ったことが正しかったとして、死体も勝手に窓から落ちてくれたとして、じゃあ兄の頭はどこに消えたんですか?部屋に落ちてなきゃおかしいでしょ!」
「あんたはお兄さんが生きてる間に両腕を切り落として抵抗する精神力をそぎ落として、その挙句頭にネジも埋め込んだのよ。そのネジにもとよりピアノ線を絡ませておいてね、重りが落ちれば首は回収されて消える。首と腕が解体されていたことから、今回の事件は力がある人間が候補に上がってたってわけよね、だから見落とした」
「証拠はあるんですか!?」
水野江の言葉に応じて冬馬はポケットから一枚の写真を、叩きつけた。
「これ、屋根裏の写真」
冬馬の見せた写真に水野江は目を大きく開き、余裕そうな表情は瓦解した。
「な、なーー
「「なんで!?証拠は残ってなかったはず!!」」
冬馬と声がハモり、ペースを乗っ取られていく水野江。
「どう?これでもまだやる?」
「……そうよ。私が、やりました」
「動機は数年前からお兄さんに浴びせられ続けてきた性的暴力?でもだったら、どうして猫坂さんもやる必要があったの?」
「冬馬さんの言う通り、兄を殺したことについてはそれだけのことでした。宇美を殺したのは、単に……自分の中でのバランス調整?」
「バランス調整だと?」
「悪い人を殺したから、いい人も殺して自分の精神世界の安定を図る的な?それにもとより、腐れ縁ってだけで宇美にはなんの思い入れもなかったからね」
「あんた、正真正銘のクズだね。きっちり法の裁きを受けてもらうよ」
冬馬が腰につけていた手錠をジャラリと取り出すのを見た水野江は絶望に近かった敗北顔をニヤリと自暴自棄の犯人によく見る顔に歪ませた。
「冬馬さん、桜さん、ごめんなさいね。芸術は爆発で、私は芸術家。セオリー通りに進行させていただくね」
水野江は羽織っていた真っ白のコートを脱ぎ捨てるとベルトのように腰に巻いた爆弾帯のスイッチをなんの迷いもなく、押した。
「馬鹿っ!」
ドォォォン!!クロスフォークを揺らすほどの轟音が辺りを包み、爆風と爆炎が冬馬と桜の肌を焦がした。小さな石片が頬を切り、血が出るも爆風に乗って飛んでいった。
後に残ったのは塵と、吹っ飛ばされた焦げた上半身と下半身のペアだった。顔は判別できないほどぐちゃぐちゃになっていて人ならざるものでしかなかった。
「あんたは最後の最後まで逃げるのね……でも、どこまで逃げても絶対に行き止まりはある。ちゃんと地獄で罰を受けな」
「ふぁぁ〜、いやぁ、いい天気っすね桜さん」
「そうだな、花見にはちょうどいい。今度係長たちと一緒に花見でも行こうかな」
「私はパスで、花見とひな祭りは嫌いなんすよ」
「どうしてだ?」
「花見は花の何がいいのかわからないからで、ひな祭りは祝日じゃないからっすね」
「そんな理由で……少しは外に出るんだぞ、春は短し恋せよ乙女だ」
「私の恋人はこの国なんで〜」
「アムロか?」
「違います安室です〜」
「俺は奈美恵の方が好きだな」
「引退したんすから、乗り換えたらどうっすか?」
「おいおい、人の愛はそんな簡単には冷めねえんだぜ?」
「わぁお、桜田さんから恋愛のイロハを教えてもらう日がくるとは思わなかったすね」
「今のはイロハのイか?ロか?」
「作者名すら出てねぇっす、あー早くGWこないかな〜」
「ほんとお前は休みのことしか頭にないな。そういえば、水野江を追い詰めた時の写真、屋根裏には本当にあの棚くらいしかなかったわけだが、どうやって?」
「ん?念写」
「お前はFBIにでも捜査協力してるのか?」
「単に合成写真すよ、いかに合成とはいえあの状況で2メートル以上も離れてたら本人すら気づかんかったでしょうな」
「もし、地獄があったら、水野江は今どんな罰を受けてるだろうかな」
「ケーサツがそんなこと言って良いんすか?……私的にはダンテの神曲、地獄の見取り図で言えば最下層っすかね、ルシファーに噛み砕かれ続けてるっすよきっと」
「確か、裏切り者のユダもそこにいるって聞いたな。いささか言い過ぎじゃないか?」
「人を殺しておいて、いささかも何もあったもんじゃないっすよ。それに逃げたんだし、あっちでそのくらい裁かれなきゃ割に合わないっすよ」
「………そうかもな」
んー、推理もの苦手☆