転生異譚 察しの悪い俺はチート仕様に気づけないEND
しばらくして、ボスは再び俺とフェルに頭を下げた。
彼の陰には一回り小柄で気弱そうな鬼が控えていた。それは俺とフェル、ボスとその弟の交流の始まりだった。
「便利ね……考えたこともなかったわ!」
「単眼族は基本的に魔法は使えないが、妖精族より力は何倍も強い……もしその協力ってのが出来るならやれる事は色々増えそうだ」
前にも感じたが、ボスは意外と話が分かる。
見た目で贔屓するものじゃないという事だろう。仮にも手下を率いていたんだ。バカに勤まる事じゃない。
「必要なら対価に相場を設ける。ボスには部下もいるんだし、やろうと思えば村くらい作れる」
正直、ちょっと面白くなってきた。
俺が好きだった異世界転生の漫画みたいだ。あの漫画でもモンスターに転生した主人公が村をおこしていた。
「なんなら魔力を定期的に徴収してそれを村の活性化に使って活性化させる税金みたいな制度を設けて……あー……」
調子にのりかけていたが、そこで俺は言葉を止めた。
「……どうしたんだ?」
「出た。リュウのトーンダウンだ」
「トーンダウン?」
「たまにあるのよ。多分、何か考えてるの」
「そんなもんか?」
「そういうものよ」
フェルは、俺が口走った前世の用語を解説する時になんとも言えない自慢げな顔をする。対してボスはそれにあまり関心がないみたいだった。
そんなやり取りを横目に俺は考えていた。
この世界の魔物は協力する事を知らない。
どこまでか入れ知恵する事はきっと役に立つ。戦力は勿論、生活基盤は安定するし、社会性も生まれそうだが、果たしてそれでいいのだろうか。
俺は、転生してまだ一月にも満たないけど、この世界が好きだ。
対して前世の社会は、便利はいっぱいあったけど、どこか好きになれなかった。
「……ごめん」
「え!?」
だから、思ったんだ。
俺が、前世の技術でこの世界を変える事はきっと楽しいけど、それは本当にこの世界のためになるのかって……ここに俺の前世のような社会のルールや便利な道具を再現する事はこの世界を確実に俺の好きになれなかった前世に近づける事なのだ。
「うん、村作りはやめよう」
「はぁ!?お前、さっきまでやる気だったのにどうしたんだよ!?」
「ボス、トーンダウンしたんだよ。多分、リュウなりに考えて、私たちにとってそれが良いって思ったんだと思う」
「……それなら、俺は構わないけどよ……」
俺の決断は多分説明しても彼女たちには分からないけど、フェルはそれを丸ごと飲み込んでくれた。
ボスは腑に落ちない様子もあったけど、最後は俺への信頼というもので納得したみたいだ。
「結局、振り出しに戻るだ……」
俺はこうして目が覚めたはじめの泉に戻り、ひっそりと暮らす事を選んだ。
時々フェルやボスとバカな話で盛り上がりながら、楽しく、ずっと、ここで生きるのだ。
……数年後……
1人の女性が泉にやってきた。
凛とした立ち姿、腰元まで伸びた美しい黒髪と手にした剣の装飾を見れば鈍い俺でも直ぐにピンときた。
彼女は、女勇者だ。
そして、勇者は泉から顔を出した俺に向かって言った。
「私に魔王を討つ力を授けてください……神龍様!!」
「えっ!?」
なんという事だ。
俺はウナギでもデンキウナギでもなかった。
「えー。まじかよぉ。。。」
俺は神龍だったのだ。