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察しの悪い俺はチート仕様に気づけないorz②

挿絵(By みてみん)

「俺は……生きているのか?」


テレビの電源を入れた様に意識が復元された。

最後に覚えていたのは俺を眺める老人の顔だ。


あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。

いや、まずは記憶はどうだろう。あれだけ派手に出血していたのだし、脳に損傷はないだろうか。


「俺の名は鈴木竜二、1番ありふれた苗字に簡単な方の竜二、男性、身長体重平均ドンピシャ……」

「生年月日6月15日の三十路……嫌いな仕事仲間は冷蔵庫に入るタイプの同僚と寝不足で出勤するタイプの同僚!!」


そこそこ細部まで確認するが、特に問題は無い。

なら、五感はどうか。


「視力は……オールクリア。しかし、どこだここ?」


深い森の中だろうか、見渡す限り木々に囲まれた広い泉の中心部、橋のかかった小島の上に俺はいる。

なんだったか、西洋の物語で聖剣が投げこまれた泉のイメージというか、聖域……という表現が自然と浮かぶような空間だ。そして、我に帰った。


「えっ、なに?どういう事!?」

「俺は怪我人だぞ!?病院じゃないのかよ……主治医どこだ?っていうかなんだこの放置感……やだ、人工物が恋しい……」


俺の声は誰の耳にも届かない……というか人の気配がない。

遭難……とは違う気がするが、こんな時は勝手に動くのは得策じゃないのは同じだろう。確かテレビで遭難した時に助けを待たないのは死亡フラグだ。まずは落ち着いて五感の確認を続けよう。大丈夫だ。俺は冷静だ。敵を知り己を知れば百戦危うからずという。


先ずは聴覚、限りなく澄んだ空間だが微かに音がする。

小鳥の声、水面の揺れ動く音、それに風に揺れる木々……嗅覚も健在だ。嗅いだこともない香りではあるが、これは多分濃厚な酸素の香りなのだろう。吸い込んだ肺が安らぐ感じがする。


味覚……は、まぁ後でもいいだろう。

あとは、身体が満足に動けば取り急ぎ問題は無いのだが……


「手足の自由は……」

「手足の……」


「……手足?」


……すまない。俺は1つ大切な事を忘れていた。あれだけ普通の人間、普通に人生と連呼したが、そういえば1つだけ俺には普通じゃないところがあった。友人が言うに、俺は死ぬほど察しが悪いという事だが……


そうか、俺はこんなに察しが悪かったのか。

俺は、涙ぐみながら叫んだ。


「手足が……ない!!?」


どうやら俺は異世界に転生してしまったらしい。

それも、人ではないナニモノかにだ。


……思えばすぐ気付く事だ。

この絶景、これが地球ならインスタ映えで確実に観光名所……だいたい視界がおかしい。


今にして思えば、人の身長なら見渡せる訳がない周囲の森が一望出来る時点で違和感はあったんだ。

今の俺は明らかに人外の高身長だ。俺から見ればこの琵琶湖くらい大きそうな泉もちょうどいい風呂くらいに思えるといえばどれぐらいの巨体か分かってもらえるだろうか。マヌケすぎる。周囲の森が目線より低かった時点で気付くべきだった。


「あー、アレなー。俺、本当に察し悪かったのなー」


実は、結構落ち込んでいる。

あれは学生時代に友人と、幼馴染と交わした会話だった。


「竜二くん本当に付き合ってる人いないの?私が、その、付き合おうか?」

「はは、いいよ。お情けとかそういうので付き合うもんじゃないじゃん?」

「竜二……お前マジで鈍いな。これあいつの照れ隠……」

「やめて!竜二くんなんでもないから、今のは忘れて!!」

「あ、ああ」


異世界に来てまさか最初の発見が、散々友人にいじられた俺の察しの悪さの自覚だなんて。

まさか、あの思い出……あいつは照れ隠しって言おうとしていたのだろうか。だとしたら彼女の告白は本物……いや、いくらなんでもそれはないだろう。なんといっても俺は彼女いない歴=年齢のクソ普通人生だったんだから。


まぁ、それはいいとしてだ。

察しの悪い俺でも確信した。これは異世界転生だ。


異世界転生については少々詳しい。

異世界転生の起源は夢小説だ。100万円当たったら何がしたいかなんて世間話の延長、ドラ○モンのもしもボック○と言えば分かりやすいだろうか。そういう思考の一端がゲームの世界に生まれたかわりたいという願望に行き着いたもので、少なからず現世に不満があった俺もこの分野の漫画をいくつか愛読していた。


だから、異世界転生は基本サクセスストーリーで幸せになれる……とは言い切れない。


今のはあくまで創作側が夢小説として書き上げた頃の話である。

この異世界転生という分野は爆発的人気を生んだ結果、多くの創作者が密集するジャンルになった。


そうなると、今度は飽和した異世界転生のジャンルの中から読者の手に届く作中の工夫が必要になる。


ここで、夢小説と真逆の展開が生まれる。

転生したら弱いモンスターだったとか、問題をあげるシリーズだ。この場合の展開は古き良き汗と努力のサクセスストーリーだったり、最悪の場合は絶望的状況からの機転を描いた鬼畜仕様のストーリーだってある。


さて、俺にとってこの世界はどちらのものなのだろうか。慎重に情報を集めよう。


「異世界転生なら、まず何を確認しなくちゃいけない?」


そう、だいたいの異世界転生ものに共通する項目がある。


「まずは、そうだ。メニューウィンドオープン!」

「うわ、マジだよ」


良かったと思う気持ちが半分、残り半分は異世界転生への実感が補填されて出た複雑な心境。

とにかく、それは出た。俺の掛け声に合わせて半透明の下敷きを敷き詰めたみたいな文字板、ゲームでよく見るメニューウィンドが眼前に浮かんだのだ。


【名前:リュウジ 種族:****** スキル及び魔法:異世界言語、魔物言語 、しっぽをふる】


メニューウィンドの文字は前世の言葉なのか、抵抗なく読解できた。

書かれていたのは名前やスキル、その他にHPやら攻撃力といういわゆる身体能力の記載で、魔力やMPがあるという事はと言うことは魔法もあるらしいが、なぜか種族部分には妙なモザイクがかかっている。


「マジでゲームみたいな世界だな……」


名前はどうやら苗字がなく、カタカナ表記になったらしい。

まぁ、この姿でご先祖様の苗字を引き続き名乗るのもたしかに違うとは思うが……


で、一番ホッとしたのが異世界言語と言うスキル、能力を保持していた事だ。

なんたってこれがないとなんの支援もなく海外に放り出されるようなものだ。会話が通じないのはヤバイ。物語にもならない。まぁ、今の俺は多分モンスターの分類なんだけど、魔物言語もあるみたいだし気のいい魔物がいれば交友を持つのも良いかも知れない。


しかし、異世界言語があるなら人が存在しているってことになる。

もし人の姿になれるなら人の街に行って見るのもありかも知れない。それなら……あれだ。


「異世界といえばハーレム!ハーレムと言えば異世界!!」


異論もあるだろうが、異世界転生と言えばハーレム展開は捨てがたい。

夢小説の起源から言っても三大欲求の一つ、性欲を刺激する展開を取り入れる場合は多い。それも一夫多妻制の場合が多く、倫理的には発言しにくいが、ぶっちゃけ実際に転生するなら一夫多妻でハーレム展開の方が嬉しいと俺は思う。


俺の人生終わってからキタ。

と、思いたいが、そういう場合の転生先は大体人型だ。それも若い頃の自分かそれ以上のイケメンに転生するのに対して、この姿はなんだろう。そもそも何故かメニューウィンドの種族もうまく読み取れない。


この姿はなんだろう。

手足はなくて超巨体。妙に長いこの身体は、前世でも見覚えがある。蛇とか……いや、違う。これは、アレだ。


「ウナギだ……」


だれも聞いていないと知りながら、つい呟いた。

あぁ、俺を轢いた爺さんウナギがどうのって言ってたもんな。


ウナギの性交渉ってどんな感じなのか分からないけど、どう頑張っても魅力的には思えない。


「異世界ハーレム……ないな……流石俺だわ」


転生したからって、物語みたいなハッピーは無いと思っていたよ。

だって俺だ。まして転生時に美女との出会いがあるなんてそんな美味しい展開があるはずがないんだ。せめて、強いステータスでもあれば良かったのだが……


「なんだよ……攻撃スキルこれだけか?」


メニューウィンドにはこう書かれていた。


『しっぽをふる』


「俺は犬か?ウナギで犬なのか!?それともなんだ?防御力でも下られるのか!?いや、そろそろ泣くぞ?」


頭によぎったのはバカで天才なある漫画のキャラクターと黄色いネズミが印象的なあるゲームの防御力を下げる、俗にデバフと言われる類のしょぼい技だった。俺は思わず盛大に一人ツッコミをして、同時にある決意をした。


「よし、ウナギらしくこの泉の底で大人しく生きよう」


強くもなければ美女もない異世界なら静かにに生きたほうがいい。

デカイだけのウナギなんて出歩いても特盛りうな重になる以外の進路がまるで見えない。


こうして、俺の物語は静かに幕を下ろす……はずだった。


そう、彼女と出会わなければそうなっていただろう。


「ねぇ君!ちょっと助けてくれない!?」

「え?」

「違う!君の横だよ!!」


ハキハキとした口調、ボーイッシュな女の子を思わせるような活発な声色だった。

スキルの魔物言語のお陰だろうか、その声は流暢な日本語に聞こえたから思わず人の高さを探したが、彼女は俺の耳元を飛んでいた。


「妖精!?」


人の手に収まるくらいの人形の様な姿。

その背中にアゲハ蝶のような華やかな羽を生やした妖精の少女がそこにいた。


「そう、私は妖精族のフェル」

「うわぁ、マジでファンタジーだよ」

「ファン?よくわかんないけど、ちょっと助けてくれないかな……いきなり悪いけど、アイツに追われてるの」

「アイツって……えぇ〜……」


随分図々しい妖精だとも思ったが、なるほど、どうやら緊急事態らしい。

彼女の指の先には一人の大男、と言うか……大鬼がいた。巨人、ギガンテス、サイクロプス……ざっとそんな名前だろうか、巨大な棍棒を手にした赤い表皮に単眼の鬼……正直、普通に怖い。


「こんなところまで逃げやがって……もう逃がさんぞ!!」


大鬼は随分と腹を立てた様子だ。

まぁ、大鬼と言っても俺の半分程度の大きさなのだが、当然にょろにょろのウナギと違って相手は筋骨隆々のガチムチ鬼……普通に戦いたくないし、声も野太くて恐ろしげだ。


「取り込み中失礼。彼女が何かしたんです?」

「な……なんだお前!?龍族!?……はもういないはずだ」

「えっと、その、多分、ウナギですが……」


意を決して声をかけ俺だったが、自己紹介でトーンダウンした。

ウナギかぁ。なんか、すごく悲しいが、これから自己紹介の度にこんな気分になるのだろうか。


「は?うな……なんだ?聞いたことない種族だが……まぁいい。俺の目的はそこの妖精族だ。ちょっとそいつに泣いてほしいだけだ」

「うっわ……絵に描いたような悪役……」

「そうなのよ!こいつ最低なの」


困った事に戦いたくはないが、流石にここまではっきりとした悪役の味方をする気はしない。


というか、俺は運が悪すぎじゃないだろうか。

高齢ドライバーに轢かれた転生先はウナギで、出会ったのはロリ系の妖精とDVの大鬼。ちょっといくらなんでも可哀想だ。


「フン、魔物の掟は弱肉強食……それが唯一無二の掟だ」

「なるほど。異世界なのだから常識とかそういうのも前世とは違うわけか……ならこれも正当っちゃ正当?」


鬼の言葉に思わず納得仕掛ける。

そうか、ここは異世界なのだから俺の日本産の善悪の基準はそもそも通用しないと思うべきだ。そう考えればこの恐ろしげな鬼との戦いも避けられるかもしれない。そんな淡い期待もあったのだが、ダメだった。


「ねぇ、ブツブツ言ってるとこ悪いんだけど……来るよ!!」

「げぇっ!」


妖精のフェルの言葉に我に帰ると大鬼は既に戦闘態勢に入っている。どうやら戦闘は避けられないらしい。


「くらえっ!!」

「!!やばっ〜〜……」


やはり、武器は手にした棍棒らしい。

攻撃は大振りのぶん回しだが気づくのが遅すぎた。棍棒は俺の身体にめり込み、停止した。


「クッソ痛い……マジかよこれ……」


もう語彙とか選ぶ余裕もない。

痛いもんは痛い。メニューウィンドによると25ある俺の体力(HP)の内3のダメージでしかないが、痛みは別だ。


どれくらい痛いかと言えば足のつま先に広辞苑を落とすより痛い。

だいたい、元デスクワーク系のサラリーマンに戦いとかさせちゃ駄目なんだって。


「ほう、俺の攻撃に耐えるか?やるじゃないか!!」

「えっとウナギさん?そのまま頑張って!大魔法で援護するわ!」

「お!おお!!助かる!!そういうことなら頑張れそうな気がしてきたぞ」


これは吉報だ。

多分仲間ができる展開だ。それによく考えたら魔物の中で妖精は美少女枠かもしれない。魔物で美女と言われるとすぐに思いつくのは鳥女のハーピィとか悪魔系のサキュバスみたいな悪女系以外の魔物で美女枠が思いつかない。良かった。俺の異世界転生にも美女との出会いがあったよ。まぁ、身長差は人間と蚊よりもかけ離れているんだけどね。


それに、彼女は貴重な戦力でもある。

今彼女は魔法、大魔法と言った。明らかに脳筋系の大鬼と大魔法。もう展開は見えた。つまり俺が耐えれば彼女の一撃で全てが片付くのだ。


「でも耐えるって……これすごく痛いんだけど、どれくらい!?」

「だいたい30分くらいよ!」


「……え?」


絶対嫌だ。

えっと……フェルさん。今の棍棒の音聞いたよね。『ゴッ』とかいうあの鈍い鈍器の音。あれを30分殴られ続けろと言うのはあんまりだ。そんな仕打ちは深夜のバラエティでも規制がかかるレベルだ。


「残念だな。体力なら単眼族の俺にも自信がある……それに手下が音を聞きつけて集まって来るはずだ……」

「ダメ押しかよ……」


詰んだ気しかしない。

俺はもうなにか選択肢を間違ったのだろうか。転生初日でバッドエンドとか酷すぎるのだが……


「!!いや、まだだ……」


その思いが俺に1つの閃きを生んだ。


「いや、まだ手はある……」


そうだ……相手がタフネスに自信があるというならば防御力を下げるのが先決だ。ゲーム用語で言うデバフ、敵の能力を下げる効果は高威力技よりも有効……というのは案外とよくある。あぁ、異世界転生らしい御都合主義じゃないか。間違いない。“しっぽをふるのスキルで大鬼の防御力を下げる”これが最善手に違いない。


俺は確信をもってその技を放った。


「くらえよ!!」


スキル発動『しっぽをふる』


「お……おお!?」


スキル発動を頭で念じると、体が自然にそのスキルを体現すべく動き始めた。

しかし俺はここでまだ一つ、勘違いをしていたらしい。


スキルに導かれた俺の身体はまず勢いよく首を捻る。それは、あきらかに俺の予想したデバフ攻撃の初動作ではない。


捻りは身体を下りながら巨大な渦へと育ち、速度を速める。

その動きはまるでムチがしなる姿にも似ていた。


「お……おおおおおお!!」


そんな鞭の動作が俺の巨体で行われている。

この回転と加速の運動が呆れるほど長い全長の限り続くならその先端に行き着いた時、その尾に加算される速度は、威力はどれほどか、鈍く、察しの悪い俺でも流石に分かる。


俺の回転で発生した風圧が辺りの木々を薙ぎ倒す様な勢いで揺らし、泉が大きく荒れる様子は前世で見た大型台風に酷似している……間違いない。


この攻撃は、多分凄くつよい。


「な……なんっだとっっぐううううぅ!!?」


車の衝突音に劣らない轟音。命中した大鬼は巨体を浮かせ後ろに数メートル吹き飛んだ。

言うまでもなく、先の棍棒の何倍もの威力だ。技の名前は情けないが、これは今の俺の巨体なら十分な威力を持った技だった。もっとも、魔法もあるらしいこの世界でこの力がどれほど強いものかは分からないが、少なくても今、活路は見えた。


「お、お前……力を隠してやがったな!?」

「いや……隠していたと言うか……知らなかったというか……」


脅威を前にした様子の大鬼に思わず、本音で答える。

あまりにもしまらない回答だったので答えてから、ちょっと後悔したが、仕方ないのでここからかっこうをつけることにしよう。


「形勢逆転……でいいな?なら、お前の言った通り引いてもらおうか。魔物は弱肉強食が唯一無二の掟なんだろう?」

「ぐぅ……いいだろう。今日は俺の敗けだ。だが、次はない……俺の名はボス。単眼族、そしてこの森の魔物を纏めるボスだ!!」

「覚悟しろ……ウナギィいいい」


「……あぁ、いつでも受けて立つさ!」


俺は大鬼のボスの名乗りに軽快に応え……心で泣いていた。


(え?何あいつボスなの?いろんな意味でボス!?)


憎しげな表情のボスが去るのを確認し安堵する。

どうも彼は森の魔物の親玉、不良グループのリーダー的な感じだろう。少なくない仲間がいるらしく、もしここで時間稼ぎの口論でもされ、部下が現れていたらヤバかったかもしれない。如何に高威力だったとはいえ、単体攻撃のしっぽを振るでは多勢に無勢で敗色濃厚だ。


ボスはそれがわからないほどの馬鹿……には見えない。

現に配下を待つ言動は見られているからだ。なら、これは彼の矜持なのかもしれない……自分が勝てない敵に部下を押し付けない的な……うん、考え過ぎかもしれないが、もしそうなら意外に仲良くなれるかもしれないなとも思うところだ。


いや、希望的観測が過ぎるか。だとすればこの戦いはしばらく続くのだろう。

俺は彼とのいがみ合いを終えるまでにあと何回、広辞苑をつま先に落とすようなあの痛みを受けるのだろうか。


あぁそれはさておき、本名を名乗り忘れたのは大失敗だった。

彼の中で俺の名前はウナギで定着しつつある。争い事は憂鬱だが、これは早急に解決したいとも思った。


「あぁ、問題は山積みだなぁ……」

「……ゴメン」


ボソりと嘆いた俺に妖精のフェルが申し訳なさそうに頭を下げた。

正直、彼女のことを少し忘れていた。目を凝らしていないと見失うほどに彼女は小さく、俺は途方もなくデカいからだ。


まぁ、正しいことに大きいとか小さいとかそんなことは関係ないんだけど。

この世界ではどうあれ、見て見ぬ振りをするのは俺自身恐らく目覚めが悪くて耐えられなかったと思うけど、そういう正義感を口にするのは小恥ずかしいから口にしない事にした。


「……いや、仕方ないさ。君が助かる方法って他になかったんだろ?」


これも、嘘ではない。

彼女はなんとか出来る魔法を持っている様だったが、魔法には時間がかかるみたいだしヒーローの変身よろしく敵が待ってくれるはずがない。そんな危機なら、俺が逆の立場でも同じことをしただろうとも思うのだ。


「でも、迷惑かけちゃったから……私に何かできることはないかしら?貴方に恩返しがしたいの」


依然申し訳なさ気な彼女に俺はニッと微笑んだ。

彼女の罪悪感を払拭出来るし俺にとっても良い、そんな妙案が浮かんだのだ。


「じゃあさ、俺と友達になってくれないか?そして、この世界のことを教えてくれ。俺は訳あってかなりの世間知らずなんだ」

「そんな……事でいいの!?」


キョトンとした表情の彼女だったが俺の顔を見て、戸惑った様子はすぐに消えた。


「そんな事なら、喜んで……あ、まだ聞いてなかったね」

「え?」

「ほら、君の名前!!」

「あぁ、リュウジだよ」

「そう、よろしくねリュウジ!」

「あぁ、こちらこそよろしく。フェル……」


これがウナギに転生して泉に引きこもる決意をした俺を冒険の世界に導いた異世界初日の出会いだった。


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