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4.土と草と塩

「あのさ、さっきから何ブツブツ言ってモゾモゾ動いてんの。気持ち悪いんだけど。ていうか鏡返して」



 いつの間にか頭の中で考えていることが口から漏れてしまったのだろう。昔からの癖だ。

 というか、なんだこの失礼な小娘は。お前で童卒させてくれんのかよ。



「で、君は、なんなんだっけ?」


 

 さすがにこの状況、誰かに解説してもらわないと困る。イライラしながら俺は訊いた。



「だからぁ、ボクはアカネ! 今キミの横に落ちてる御朱印帳の神。キミがその持ち主になるようだから、ボクはキミについていくしかないわけ」



 ポカーン


 またわけのわからないことが増えてしまった。

 周囲をぐるっと見回すと、地面についた手のすぐ側に紙を束ねたようなものが落ちている。



「ゴシュインチョウ? って、このノートみたいなやつのこと?」



 俺はそれを手に取って、パラパラとめくった。



「あ、あれかな? このノートに名前を書くと人が死んで、みたいな。ってことは君は死神?」



 これ、漫画で読んだことあるやつだ!



「はぁ、話聞いてた? なんで死神なんだよ。その『御朱印帳の』神なんだってば」

「キミが神様って。なんか凄いこと出来るの?」



 こんなノートの神様だなんて、悪いけどしょぼいなぁ。可愛い子だけど役に立つことは教えてくれなさそうだし、雑魚キャラかな。使えないな。



「その御朱印帳には、他の神との契約の印を捺していくんだ。契約したら、その神を呼び出すことができる」



 ふむふむ。なんかチュートリアルっぽくなったぞ。



「他にも沢山神様がいるってこと? 呼び出してどうするの、戦いでもするの?」


「ボクがその御朱印帳の神なように、神はあらゆる物に宿ってる。契約できるかどうかはキミ次第だけどね。呼び出してどうするかは、状況によるんじゃない」



 なんでこの子は偉そうなんだろう。

 顔が可愛くなかったらシカトしてるところだ。



「で、その神様の印を集めてどうするの? 全部溜まったら願い事でも叶えてくれるの」

「さあ? 知らない」

「知らないって、このノートの神様なんだろ君」

「ボクだってまだ見習いなんだ、やりながら覚えて行かなきゃいけないんだよ」



 神様にも、見習いとかあるのか。

 うーーーん。


 

「君がこれからどこに何をしに行くところだったか知らないけど、自分に有利になるように使うって風に頭を使ったらどう?」



 ......くっ。いちいち癇に障る言い方をするやつだ。

 ん? どこに何を?


 そうだ。そうだった。



「フフ、フフフ。俺は君の御主人様になるって言ってたよね?」

「あぁ、言った」

「ならば、命令だ! 僕と結婚しろ!」



 こいつを嫁として連れて帰れば、実家にまた戻ることができる。めんどくさい旅なんかにも行かなくて済むし、それに......修一で達成するはずだった童卒もいっぺんに済ませられる!!!


 さすが俺! さすがエリート!



「無理」

「えっ」

「馬鹿なの? あと俺なのか僕なのか、一人称統一してくんない?」

 


 一人称は......仕方ないだろ。

 その時の言いやすい方を言ってるだけなんだから。



「な、なんで! 御主人様の命令には従うもんだろ!」



 アカネは両手を上に向けて肩をすくめる、いわゆるヤレヤレのポーズをして、ため息をついた。



「べっつにさぁ......君がこの御朱印帳の持ち主になるってだけの話で、奴隷になるわけじゃないから。命令聞く義務なんかないよ」



 ガーーーーーン

 うそ、うそだろ。そんな......。

 御主人様なのに、御主人様なのに!


 俺はやり場のない怒りをどうにかするため、地面に拳を叩きつけた。



「キミさぁ、短絡的だし、なんか思い込み激しいね」



 こ、こいつ!

 なんで傷つくようなことばっかり言うんだよ! 

 エリートの俺を侮辱するなんて、許せない!



 俺はアカネの肩を思いっきり掴んで、地面に叩きつけた。



「じゃあ、無理やりしてやるよ! せめて童卒させろ!」



 しかし服の胸元に手をかけようとした瞬間、アカネの身体がフッと消えた。

 体重をかけていたため、俺の上半身は地面にベチャッと落ちた。

 土と草の味がする。



「はぁ、物騒な人だね」



 俺のすぐ背後から、声が聞こえた。



「ボク神だからさ。姿を表したり消したりは自在にできるんだ。ほら、神出鬼没って言うでしょ」



 俺は、潰れた体勢から動けなかった。



「うぅっ......うぅっ......ぐす」



 なんなんだよ、なんなんだよ一体。

 なんで突然こんな目に合うんだよ。

 ママなら、こういう時必ず手を差し伸べて助けてくれるのに。



「うっ、ままぁ......」



 土と草に加えて涙の味を感じながら、俺はそのまましばらく泣いた。

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