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2.邪教のシンボル

「行ってきます」

「行ってらっしゃい、気を付けて」



 まるでただ出かけるだけという風に、大した見送りも何も無く出発した。


 25歳にもなって、嫁も取れない働きもしない穀潰しなんて、なんて粗末に扱われてしまうことだろう。


 この町では、男も女も20歳前後で結婚するのが普通で、シュウは随分遅れている方だった。

 シュウには2つ違いの弟がいるが、そっちは既に結婚して子供もいる。だからこそ両親もあっさりとシュウを切り捨てたのだろう、とシュウは考えていた。


 一週間程度暮らせるお金だけを渡されて、シュウは町を後にした。



 隣町までは、2日程度歩けば着く。

 ただ、一応道はあるものの、道中はただ草や山があるだけで、面白みがなかった。


 シュウがボケっと歩いていると、目の前を蝶が横切った。



「......うわぁ」


(あんなの、見たことないっ)



 ひらひらっと、そしてすぅっと舞い踊る蝶を追いかける。

 だが、シュウの運動不足の身体は既に息が上がりつつあった。



「あいたーーーーっ!?」



 突然何か固い物にぶつかった、ごぅんという大きな響きと共に、シュウは後ろへ倒れた。




◇◇◇




「ねぇねぇ、ここ何かな? 行ってみようよ」

「ちょ、やめなさい! こんな邪教の......!」

「そうよ、呪われるわよ!」



 俺は今......家族旅行の真っ最中だ。



「............もう、いいじゃん」



 ガイドブックにも地図にも載っていない鳥居を見つけた妹が提案するも、いつものように却下されてぶすくれる。



「アジャラバ様アジャラバ様ってさ、お父さんもお母さんもうるさいけど、そいつが何だっていうの?」

「! そいつだと!? 今の言葉を訂正しなさい!」

「しない!」



 アジャラバ様というのは、うちの家族が信仰している宗教の神様のことだ。



「どうせ、『今のお前があるのは、大学卒業できて就職も決まったのはアジャラバ様のお陰』とでも言うんでしょ? いい加減にしてよ」

「当然でしょ? 毎日お祈りしたから、願いを叶えてくださったのよ」



 俺も妹も、生まれた時からアジャラバ教のある環境で育ってきた。自分の家が他の家とちょっと違うということに気付いたのは、小学校高学年くらいだっただろうか。


 アジャラバ教は他の宗教に関わる施設やイベントは穢れとして禁止されていたから、学校の行事や友達との遊びで参加できないものがあったりして、まぁちょっと不便ではあった。


 俺は『そういうもの』だと思って特に気にはしていなかったーー友達がいなかったから関係ないということもあるーーが、妹は色々と思うことはあったらしい。親の前や集会などでは何も言わなかったが、俺の前では時々愚痴をこぼすことがあった。



「いい加減にしてよ! 大学だって就職だって......『私が』努力した結果だよ!! 勝手にアジャラバ様の功績にしないで!」



 今日は、いつになく荒ぶっている。何か嫌なことでもあったのかもしれない。



「......自分だけの力で成功したと思うことは、おこがましいことだぞ」

「だったら......別に違う道だって良かった。アジャラバ様を信仰しないで、違う道ーー何にも縛られない自由な道に行けるんだったら、そっちの方がずっと良かった」

「自由なんて、自堕落で破滅へ続く道でしかない」



 あぁ、やばい。そろそろあいつ泣くな。



「ふぅん、だからってお父さんお母さんみたいな、戒律に縛られて何の楽しみもない人生なんて私は送りたくない」

「............」

「私は、好きなことをして好きなように生きたいだけなの! 私が今までどれだけのものを犠牲にしてきたと思ってるの!?」



 そう言うと妹は、踵を返して鳥居に向かって走りだした。



「あっ待ちなさい!!」



 引き止めようと、母が追いかける。

 父がその後を追い、俺もそれに続く。



 するとその時、俺たちが立っている地面がーーいや、世界が? グラッと傾いた。


 まるで乗っている船が転覆するかのように全体が斜めになり、例の鳥居に向かって吸い込まれるように、俺たち4人は落ちていった。



 ほら、やっぱり。

 鳥居なんて邪悪なものに近付いたから......



 ジェットコースターで落ちているような感覚を味わいながら、俺はそんなことを考えた。

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