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1.ニート、強制退場

「あのぅ、ご趣味は……?」



 ここは、とある田舎町のちょっと良い料理屋。

 ごく普通の気立ての良さそうな女性と、平凡であまり取り柄のなさそうな青年が向かいあって座っていた。


 この青年、名前をシュウといった。


 お見合いをするのは、これで10回目。

 親から「いい加減嫁を見つけてまともになれ」と強制的にさせられているが、毎回向こうから断られている。


 シュウは今年25歳になるが、今まで女性とお付き合いしたことはない。

 むしろ、目を合わせることすらまともに出来たことがあるかどうか、といった有様だ。


 仕事が続かず転々としていたシュウは、疲れてしまって現在は働かずにプラプラしていた。


 シュウの実家はそれなりに裕福で、嫁を迎えてくるなら援助してもいい、と親には言われている。そして反対に、ダメなら家を出ていけ、とも。


 何もやる気が起きないシュウであったが、追い出されては困るとなんとか持ち込まれる見合いだけはこなしていた。



 シュウは、流れてくる汗が目に入りそうになるのをハンカチで擦りながら、なんとか声を絞り出した。



「は、はひっ! そ、そうですね、昆虫採集を少々…」

「こ、昆虫採集、ですか」

「あ、あああの、貴方は、す、好きな虫は、なんですかっ!?」

「……え?」



 10回目とはいえ、この女性とは初対面だ。

 女性を前にすると緊張してパニックになってしまうシュウは、いつまで経ってもこの調子だった。


 一体自分が何を話したのか微塵も思い出せないような状況のまま、この見合いの時間は終わりを迎えた。



「今日はありがとうございました。仲人さんを通じて、お返事いたしますね」

「ここっこちらこほ! ありありがとうございましゅたっ!」



(......また、これだ。いつまで経ってもまともに喋れる気もしないし、やっぱり僕には結婚なんて無謀だよ)



 まだ夕方にもならない、高い位置にあるお天道様が恨めしい。

 シュウは下を向いたまま、家路についた。




 それから三日後、両親から呼ばれたシュウは、家の中だというのに始終下を向いて両親と対面して座っていた。



「こないだの見合いの返事だが、今回はご縁がなかったということにしたい、とのことだ」

「......はい」



 シュウは、下を向いたまま返事をした。


 もうこれだけのことでは傷つきはしない。......というのは見栄だが。


 それよりも、問題はーーー



「で、見合いの前に話していた条件だが、分かっているな?」

「私たちはあなたを少し甘やかしすぎたようね。もうこの町に、あなたが結婚できるような子はいないの。これから旅に出て、自力でお嫁さんを見つけて来なさい。見つかるまでは、家の敷居は跨がせません」



 そう、家を追い出されるということだ。


 この町には、もはやシュウを雇ってくれるところなんてない。付き合ってくれる女の子もいない。外に求めるしかない。

 そして、結局のところ何も為さなくても暮らしていけてしまうから成長しないのだーーというのが両親の言い分だった。



(不細工で、根暗で、取り柄もなくて、親にも見放されて......もう逆らう気力だって、ない)



「分かりました。父さん母さん、今までお世話になりました」



 こうして地味~な田舎の青年シュウは、25歳にして初めて町の外へ出ることになった。

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