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犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第一章 犬も歩けば異世界召喚
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第九話 ボーパルバニー


 風切り音と風圧が再び襲う。

 その瞬間、俺の目の前にその魔獣……ボーパルバニーの姿があった。


 夏色の体毛、なびく長い耳、小柄な体躯……その特徴は兎そのモノ。

 赤黒く濁った瞳、裂けた口、並ぶ鋭い牙……それは兎と異なるモノ。



 キィンと響く高い金属音、構えたナイフと魔獣の切歯の衝突……

 その衝撃に押されながらも辛うじて魔獣の切歯を受け流した。


 魔獣の二撃目……その狙いは俺の首筋……ヤツはいきなり命を狩りにきた。



 初めて正常な思考状態で出くわした魔獣。

 その素早さ、跳躍力、威力そして殺意……それは獣という枠から外れたモノだった。



「くっ、速過ぎるっ……ヌィ、アレに反応できるのはお前だけだっ!」

 フレアが叫ぶ。

「皆ヌィの後ろ迄さがれっ! ヌィ頼むっ、攻撃を止めてくれ」

 フレアの指示にアンジェが素早く動く。


 魔獣の矛先が……戸惑い行動が遅れたレイチェルに向いた。

 響く風切り音と押し寄せる風圧、その元凶に……俺は自ら飛び込んだ。



「間に合ぇえええ!」



 キィィンと高い金属音が再び響く。

 俺はレイチェルを狙う魔獣の三撃目をナイフで受け止め……衝撃に抗い、踏みとどまる。


「ぐあっ!」

 だが、攻撃を喰らった……それは切歯を防がれた魔獣が繰り出した蹴りの一撃。

 ナイフを握る右腕を鈍い痛みが襲い……麻痺して感覚が……消え……腕を動かせない。

 零れ落ちそうになるナイフを必死で掴む。



「よくもヌィをっ」

『Ogon' stena /火壁/ファイアウォール』


 蹴りの勢いで離れた魔獣と俺の間、そこに背丈ほどもある炎が一気に噴き出し広がった。

 それは言葉の示す防火壁ではなく火の壁、アンジェの魔法だ。



「うまいぞアンジェ、レイチェルは投石で牽制を頼む」

 震えと炎の壁で矢の狙いが逸れる恐れがあるとみての判断だろう。

 レイチェルもフレアのその指示で一呼吸置き、少し落ち着きを取り戻したようだ。


 俺は痺れた右手から左手にナイフを待ち換えて構える。



 時間の経過と共に炎の壁が薄まり……その瞬間を狙う魔獣の後ろ脚に力がこもる……

 それは先ほどから何度も見せた突進攻撃の予備動作。



 来る……



「レイチェルッ」

「やぁっ!」

 魔獣の踏み込みに合わせたフレアの指示で放たれたレイチェルの投石。

 それは飛び出す直前の魔獣の足元に着弾し、攻撃の勢いを僅かに削いだ。



 響く風切り音と衝撃……俺の首筋を狙った魔獣の突進。



 今まで受け止める為に水平に構えていたナイフを……魔獣に向けて垂直に突き上げる。

 待ち構えるのでなく……自ら魔獣へと向かう。


 ナイフが魔獣の切歯を掻い潜り……首筋を切り裂き……血が噴き出す。

 攻撃を食らいながらも魔獣の反撃の蹴りが左腕に衝撃を与える……だが……


「負けるかぁぁぁっ!!」

 鈍い痛みに襲われ痺れる左腕に力を籠め、全身でその衝撃を押し戻した!


 反動で魔獣の躰が俺から離れた。


「はぁあああっ……!」

 その隙を逃がさず振り抜かれたフレアの剣が魔獣を高く打ち上げる。



 切り裂かれた胴から血を吹き出して宙を舞う魔獣……

 その躰が地面に落ち、小さくバウンドして力なく転がった。




「……ぎりぎり、合格ですかねぇ……次はもっと期待してますよ」

「は、はい……」

 俺はその言葉に安心して……倒れるように座り込んだ。




「ヌィ、大丈夫?」

 アンジェが俺に駆け寄り、心配そうに顔を覗き込む。

「うん、ちょっと安心して気が抜けただけ」

「よかったぁ……」

 アンジェから零れた微笑に俺もつられて笑顔になった。



 レイチェルは地面に膝をつき、フレアは剣の血を祓い仕留めた兎を掴んでいる。

 ふぅ……どうにか試験は無事に終わったようだ。




「……ちょっと危険じゃないですか!?」

「ええ危険でした、戦場で気を抜いたら命なんていくらあっても足りないですからね」

「ぅぅ、そうじゃなくてぇ……」


 オフィーリアとユーリカの言い合いの声が聞こえる。

 オフィーリアは俺達のことを心配していきなり魔獣と戦わせるなんて危険だと言ってくれているようだが、ユーリカは気を抜いていた俺たちが招いた危険だと言っている。

 オフィーリア、心配してくれる気持ちはうれしいけれどそれは以上は君が危険だ、ユーリカに逆らっちゃいけない。



「ちなみに夜の目はすべて魔獣でした、あなた達の向かう森はそうゆう所なんです、あれよりも強い魔獣たちが潜んでいて、いつ襲ってくるかなんてわからないですから」

「は、はい」

「それに歯を削り危険度は下げてましたからね、森のボーパルバニーはもっと鋭いです」



 その後、ユーリカから俺たちへ指摘とアドバイスがされた。

 戦いの場に踏み込んでいるのに油断していたこと、もしあれよりも少し強い個体だったら腕に受けた攻撃で崩されて大きな被害が出ていたこと等……

 だが初撃の後すぐに立ち直ったところとアンジェがファイアウォールという効果的な魔法を選んだことは褒められた。




「それにしてもガレット達の連携は見事だったな」

「あぁ、でも俺たちはまだ本格的な狩りはしていないんだ」

 フレアが称賛するとガレットは少し照れながら話してくれた、彼らは森での時間を連携の訓練に当てていたそうだ。早く狩りたいという意見をガレットが抑えていたらしい。


 彼は慎重派みたいだが今回はそれが功を奏したのだろう。

 俺は獲物の匂いがすると狩りたくてうずうずしてしまう、少し見習わないといけないな。



 また、合格をもらったことで許可される森の狩りエリアが拡張された。とは言ってもまだ魔獣の出没はまずないという範囲に限ってのようだけど。


 地図でその境界線の確認を行い、現れる草木の変化や目印となる地形等の説明を受けた。

 テストはあまり良い成績ではなかったかもしれないが、明日からは狩りの成果も上がるだろう、ガレット達も明日からいよいよ狩りに力を入れるそうだ。




 ちなみにボーパルバニーの買い取り価格は25マナ、普通の兎との差僅か+5マナ……

 本来依頼として出されていれば成功報酬がプラスされ、そうでなくとも魔獣討伐としての褒章が少しは上乗せされるらしいのだが、今回はギルドが用意した獲物を刈っただけなので純粋な素材としての価値しかなかった所為だ、歯も削られていたし。


 ご褒美としては残念な目だったが、猪の魔獣なんかを引いてもっと酷い目に合わなかっただけ良かったと考えることにしておこう……



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