表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第二章 ロードスター
89/108

第四十六話 同調


「この辺に居て貰えれば安全だから……ぁあ、ちょっと緊張してきた」

 振り返って俺たちに視線を向けるクラリッサ。

 場所は屋敷から庭園へと移動したけれど、他に服装を変えたり特別な道具を用意したりとかはしていなさそうだ。



「じゃぁ……始めるね」

 ぉお、いよいよドラゴン化が見られるのか。俺は期待に尻尾を揺らしながらクラリッサを見つめる。


 クラリッサは祈るようなポーズで自分の手の内を見つめた後、その手中に握っていた黒っぽい何かを……くんくん……あれ?この匂い……僅かに開いた唇の隙間から指で咥内に押し込み、目を瞑った。


 ごくん……

 その瞬間、クラリッサの周囲がきらきらと輝き……しばらくの間、場を静寂が包み込んだ。




「わっ、飛竜だっ!」

 ティノが大声をあげる。


 突然現れた若草色の綺麗な鱗を煌めかせる飛竜が、翼を広げ優雅に上空へと舞い上がる。


「わぁ、すごいっ!」

 躰を90度傾けた状態で広い庭園をぐるりと旋回。突然垂直に急上昇したと思ったら、向きを変えずに尻尾を向けた先へとジェットコースターの様な縦回転。戦闘機でも観たことないような数々のアクロバティックな動きだ。普通の野生のドラゴンだったらこんな飛び方しないんじゃないかな。




 華麗な空中ショーが繰り広げられた後、若草色の飛竜が地上へと降り立つ……

 クラリッサのすぐそばに。

 うん、若草色の飛竜はクラリッサが変身したモノではなかった。だってクラリッサはずっと俺たちの前にいたし。ではどういうことなのかと言うと……



『エット…… ドウダッタ……カナ?』

 照れた様子で若草色の飛竜が口を開く


「すごいよっ!ビューンってしてグイーーンってっ!」

「うん、とても格好良かったよ!」

 ティノとアンジェが興奮して飛竜を誉めたてる。


『マダマダ 兄様 ニハ 全然 及バナイケドレド……』

「普通の飛竜には出来ない飛び方だよね、とても綺麗だったよクラリッサ」


『ゥエェ!? ア、』「あり……がとう……」

 飛竜の言葉が途中で途切れ、目を見開いたクラリッサに継がれた。



 うん、変身はしていなかったけれど飛竜はクラリッサの意志で飛んでいた。どうやら飛竜に憑依してアバター的に操っていたみたい。それと初めに口にしてたのは、シルヴェストル大峡谷の横穴で見つけたのと同じ、あの黒い房の発酵果実だと思う。きっと精神を高揚させるとかトランス状態にする為とかに必要なんじゃないかな、なんかちょっと顔が赤いし。



「ねぇねぇ、どうやったらあんな風に飛べるの?わたしも出来る?」

「大変な訓練が必要なんだと思うよ、それに誰にでも出来るって訳じゃないんでしょ?」


「うん、訓練はもちろんだけど、パートナーのドラゴンと波長が合わないと駄目なの」


 クラリッサによると、飛竜を操るには精神とか思念とかそういったモノを飛竜と同調させる必要があるそうだ。

 訓練を行うのは同調深度を深め、意志の伝達速度を上げる為だという。ゲームで例えるなら、操作のラグを少なくする為って感じかな。


 それと、そもそも訓練する以前に同調できるパートナーが見つけられないと無理だそうだ。クラリッサの一族は血筋なのか、才能なのか、竜と同調できる者が出やすいそうだが、普通は滅多にいないらしい。

 ちなみに現在、正式に竜騎士と名乗れる者は僅か7名だそうで、クラリッサは8人目になる為に訓練漬けの日々を送ってるとのことだ。



「なので、素質とやる気がある者なら竜騎士隊は入隊大歓迎よ。私もこうして見習いになれたんだから」

 微笑むクラリッサに手を引かれ、俺たちは庭の中央に口を開けた地下への入口を降りた。




「わぁ、みんな寄って来たよ」

「うん、かわいいねぇ」

 再び足を踏み入れた竜の巣。前回と同様あっという間に俺達は飛竜たちに取り囲まれた。

 でも、ここの飛竜たちがいきなり襲って来たりはしないってことはもうわかってるし、明かりが灯されて辺りの様子が見えてるので前回とは違って心には余裕がある。それでも、じゃれる飛竜に巻き込まれたりしたら無事じゃ済まないので注意は必要だけど。



「もし、気の合うパートナーが見つけられたとしても、最初っから思い通りに動いてもらうなんて無茶しちゃだめよ」

 クラリッサは自分のパートナー=若草色の飛竜を撫でながら語った。

「最初はなんとなく、その仔の気持ちがわかったり、少しずつ匂いや、聞こえる音、見える光景が伝わってくるようになるの。私とミセリコルデもそうだったわ」




「それじゃぁ早速、竜騎士になれる可能性があるか試してみましょうか」

 しばし飛竜語りを聞いた後なので早速ではない気はするが、クラリッサからその手に握った黒い発酵果実が差し出された。大峡谷のモノと比べるとやや小振りではあるが、やはり同じモノではあるようだ。だとすると……


「うーん、アンジェはやめておいた方がいいんじゃないかな」

「ん?どうして?」

 発酵果実を口にしたらまた精霊さんを追いかけだすんじゃないかと心配するが、本人は身に覚えがないようだ。


「じゃぁ、アンジェの分もちょーだいっ」


 ぱくり。


「ん~~おいしぃ」

 頬張り、頬を緩ませるティノ。クラリッサの手には俺の分ももう残っていないんだけど。


「どう?」

「うん、とってもおいしいっ」

 ティノの感想を聞くに、どうやら適正はないっぽい。周りの飛竜の様子を伺っていたクラリッサも首を横に振った。



「ごめんなさい、余分な果実はもうないの。私の分を渡して訓練をサボる訳にもいかないし、2人はまたそうのうちね」


「あ、そう言えば」

 今回はこれまでと締めくくりに始めたところで、俺は大峡谷でいくつかの果実を採取していたことを思い出し、バッグから4つほど取り出した。


「え!?その果実どうしたの!?」

 漂うその濃厚な香にクラリッサが反応する。同じ種類の果実ではあるが、大きさの分か幾分違いはあるのだろう。あ、香りを嗅いだだけなのにアンジェの頬がほんのりと染まってる……やっぱり与えたらダメなヤツだ、これ。



「大峡谷で採取したモノなんだけど、これティノが食べちゃった分の代わりにどーぞ」

「わぁ、ありがとう!この大きさの果実はきっと貴重だわ。それにこれをそのまま食べても平気かどうかは兄様に相談してみな……」


 ぱくり。


 俺はクラリッサに3つ渡して残った果実1つを口にした。ちょっとぼんやり聞いていたのでうろ覚えなところもあるが、クラリッサの話してくれた飛竜語りを思い出しながら、竜との同調を試みる……




 突然、ブツンと光を失い視界が暗闇に覆われた。


 耳に届いていた周囲の音が消え静寂が耳に痛い。

 口の中に広がっていた濃厚で甘い発酵果実の味と鼻腔を満たしていた香りが消失し……

 代わりに襲う強烈な金気臭さに苦痛を感じた。



 だが、苦痛はそれだけでは無かった。


 両手、両足の甲……更に尾にまで突き刺さる鈍い痛み……

 まるで杭で串刺しにでもされたようで身動きすら出来ない。


 心が痛みと不安と不快な渦に苛まされ……

 そして沸々と湧く怒りの感情に呑み込まれそうになる。


 その怒りの矛先は暗闇に浮かぶ金色の目、特徴的な横長の四角い瞳孔へと向け。


「……まだ抗う意志があったか…………ん、何ぞ……紛れさせたな!?」

 声の主を睨みつける。



 ヤツにその掌を向けられると、禍々しい赤黒い靄に躰を覆われ、更に激しい痛みが全身に突き刺さった。


『「がぁあぁぁああっ…………がはっ……おのれぇえぇええ!!」黒山羊ィィィイ!!!』




「がはっ……」


「「「ヌ、ヌィッ!!?」」」

「ハァ……ハァ………」

 光が戻り、そこにはアンジェ達3人の姿があった。


 俺は血を吐き、崩れそうになところをティノに支えられている。

 全身に残る痛みの所為で立ってさえいられない……手の甲などからは流血しているようだ。



「そんなっ、果実の中毒症状!?」

「ゖほっ……ぃや、同調したんだ…………」

 戸惑うクラリッサに俺は応える。


「ヌィ、なにがあったの!?」

「苦しめられていた……くっ、こんな痛みをずっと…………」

 心配して俺の手を握るアンジェ。

 あの光景はきっと現実だ。こんな状況に陥いりながら、それが夢や幻だったってなんてないありえない。



「アイザックだ……アイツが……月の神殿の深層に居た」



 ▶▶|


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ