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犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第二章 ロードスター
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第四十四話 トライアル


「なっ、まだ終わってない!?」

 またたびを盗られまいとするティノの拳によって沈んだ黒豹。だが、その躰が横たわる石床に刻まれた溝が発光し始めた。

 まさか最後の足掻きと自爆系攻撃でもされたらたまらない。俺達は警戒し、急ぎその場から離れて浮遊岩の瓦礫の陰へと身を隠した。



「……黒豹のマナが消えたよ」

 マナを探り警戒していたアンジェが口を開いた。少なくとも魔法攻撃の脅威は無いということだろうか。

「あれ?黒豹も消えちゃった」

 アンジェの言葉を聞き、状況を確かめる為に瓦礫から顔を出したティノが首を傾げる。もしかして逃げたのか?いや、あんな状態で満足に動けるはずはない、いったい何が起こったというのだろう。




「確かにきれいさっぱり消えてるね…………しかも床ごと」

 用心しながら戻り確かめるとそこに黒豹の姿は無く、そればかりか横たわっていた場所の床さえも無くなっていた。石床跡を覗き込むと思いのほか凹んでる、広さ深さとも丁度浮遊岩1個分くらいかな。


「んー……」

 アンジェは穴の手前でしゃがみ込み、小さく唸りながら床岩の溝に指を這わせる。


「この床も浮遊岩と同じみたい、マナを籠めると反応するんじゃないかな?」

 なるほど。だとすると黒豹が消えたのもその辺りが絡んだダンジョンの仕掛けなのかもしれないな。もしかして自動埋葬機能?それともお掃除機能?どんな仕組みで何故そうなったのかは不明だが、素材を剥ぐ前に獲物が片付けられてしまったのは残念な結果だ。



「へぇ、じゃぁやってみよーよ、えいっ」

「きゃっ」

「ぅわぁあっ」

 ティノがいきなりバンッと両手の平で床を叩きつけた。マナが籠められた床石は発光し、俺達を乗せたまま床が動き出した。

「ぁぁあっ……と、停まった」

 移動距離はわずか浮遊岩一個分。黒豹と共に消えた部分にスライドしただけ。なんだこれ。



「見て、隣の床にも光が灯って線が繋がった」

 俺達の乗る床の溝から光が流れて伝わり、右側の石床まで続く光の模様が描かれた。


「何の模様かはわからないけどきれいだね、こっちの床も光るかな?えいっ」

 ティノが左側の床に手を着きマナを籠める。だが、これにはまったく反応がない。


「じゃぁこっちはどうかなぁぁぁああ」

 続いて俺が右斜め後ろの床に移動してマナを籠めると、それは床のない左側に横移動した。


「動いた……けど光は消えたね」

 床板が停まるとすぐにマナの光が消えてしまった。でも先の2つの石床の光は灯されたまま、いったい何が違うんだろう。



「うーん、溝がぴったりあうとマナが流れて、ズレてると流れないから光らない?でもどんな意味があるのかな」

「隠し通路の仕掛けとかかも?」

「「おぉぉ!!」」

 首を傾げるアンジェに答えたのはティノ。俺とアンジェはその意見に期待の声をあげた。


 隠された通路があるならば、それはもしや出口へのルートかもしれない。違うにしても明らかにする価値はあるだろうと、俺達は仕掛けの解除を試みることにした。


 今のところわかっているのはたった2つ。床が動くのは隣に空きがある時。床石が光ったままになるのは溝が繋がった状態の時。



「えっと、左の床を動かしたら、次も更に左の床を動かして」

 アンジェは浮かぶ浮遊岩から下を覗きこんで指示を出す。

「わかったぁ」

 俺とティノはそれに従って床石にマナを籠め動かす。行ったり来たり幾度も繰り返すと、次第に繋がり光る石床の数が増してくる。

 これはあれだ、15パズルとかスライディングパズルって呼ばれる奴。石を動かして溝の光りで絵を完成させればいいんだろう。そうとわかれば後は簡単……



 ▶▶|



「け、結構……しんどかったね……」

「うん、でもきっとその石床で最後だよ」

 動かす石床は15どころではなく、これを解く為にかなりの時間とマナと体力を消費した。

 だけど、どうにかここまで……あと一枚動かせばというところまでこぎつけた。


「これがっ最後のコマ!」

 石床が静かに動き、全ての模様が繋がり描かれた。



「「「おぉぉ!!」」」

 光が描き出したこれは魔法陣だろうか。そして陣の中央、一際強い輝きを放つ光の柱が起立し、その中に何かが姿を現した。しかし扉ではなさそうだ。



「「盾?」」

 アンジェとティノが同時に声をあげる。現れたのは台座に飾られたデカイ板状の金属?

 俺はそれが何か確かめる為、まだ光の残る魔法陣の中へ踏み込んだ。


「剣だ……両手持ちの大剣だよ」

 それは盾と見間違えてもおかしくないほど幅広で、長さは俺の身長よりもある分厚い大剣。グレートソードと言うヤツだろうか。なかなか迫力のある武器だけど、この大きさだと重量もかなり重いだろう。



 俺は筋力強化のマナを籠め、大剣の束へと両手を伸ばす。


「よいしょぉおぉおおおお!?」

 俺を驚かせたのは見た目に反する大剣の軽さ。勢いよく頭上まで振り上げた勢いに曳かれ、俺は躰ごと跳びあがった。


「ぉおぉぉおお!??ぐぅうっっ」

 だが、不要だと筋力強化を解いた途端に大剣の重量が激増した。危うく押しつぶされそうになりながらも、慌ててマナを籠めると再び大剣の重量が軽減される。



「ヌィッ!?」

「大丈夫!?」


「へ……い……き、うまく調節すれば……うん」

 大剣を持つ腕、いや握った束へと流すマナの量を調節しながら、大剣を振る感触を確かめる。うん、少しは慣れて来た。


「この大剣、籠めたマナの量によって重さが変わるみたい」

 たぶん大剣には浮遊岩に含まれてるのと同じ物質が使われているんじゃないかな。



「サイズ的にティノなら丁度いいかな、使ってみる?」

「うん、試してみぃいいぅぅわぁぁ「「あぁぁああああ!!」」」

 握った大剣に翻弄されるティノ。そして振り回される大剣から逃げ回る俺とアンジェ。


 大騒動の混乱状態。


 予想不可能な大剣の軌跡は幾度も肌を掠め、ひいてはスローモーション映像まで見るはめとなった。


「はぁはぁ…………ゴメンナサイ、これ無理、もういい……」

「ヌィが使って……みんなの安全のために……」

 ティノは細かいマナ量の調整はまだ苦手みたい。そういうのが一番得意なのはアンジェだけれど、既に大きな白い籠手を装備しているので、更に大剣もとなるとかなりの大荷物に。 大剣の重量は軽減出来ても、かさばりすぎて本体が行方不明になりそう……


 ということで、この大剣は俺の装備となった。

 持ち歩きについては斜め掛けで背負えばなんとか引き摺らずに済みそう。でもよほどの大物と戦うのでなければ使うことは無いかな?

 やはり通常は身軽さ優先でナイフがメインウェポン。戦闘開始時には大剣はその場に置いてから戦うというスタイルになりそう。



 さて、新たな武器を手に入れたのはうれしいけれど、残念ながら隠し扉は無く、出口へのルートはまだ見つかっていないが……


「疲れたぁ……」

 ティノがぺたんと石床に座り込む。うん、大剣に振り回されて体力とマナを持っていかれたからしょうがないよね。もちろん、逃げ回っていた俺とアンジェも同様だ。


「じゃぁ少しここで休も……う?」

「ティノッ、マナを抑えてっ」

「え?」

 地面についたティノの手の平から石床の溝に光りが溢れ、そこに新たな模様を描いた。

 ティノが座った場所は丁度魔法陣の中央、大剣と共に新たに現れた石床の上だ。


「え?ぇぇえ?」

 中央の石床がズズズとせり上がる、いや石床では無く浮遊岩が上昇し始めたと言ったほうがあっているだろう。



「「ティノォ!!」」

 ティノを乗せ浮上する浮遊岩にアンジェが跳び乗り、俺も跳び付いて、どうにかギリギリしがみつく。

「あ、あぶなく離れ離れになるとこだった……」

「うぅ、ゴメンネ」

 謝るティノの手を借り浮遊岩によじ登る。


「……動き出したら停められないみたい」

 アンジェは浮遊岩を停めようと試みていたようだけど、成果は無く浮遊岩は上昇を続ける。


「もし、このまま停まらなかったら天井に圧し潰……飛び降りるしかないか」

 アンジェの魔法頼りになるけれど、落下の勢いを抑えれば離脱し着地出来るだろうか……だが、こうして頭を悩ませている間にも、どんどん高度はあがって行く。



「あっ、上見てっ」

「ヌィ、飛び降りなくても良さそうだよ」

 2人の声で下を覗いていた頭をあげる。もう天井が近付いていたことに少し焦るが、しっかり見直すと浮遊岩の直上箇所はぽっかりと穴が開いていた。ふぅ、よかった。この浮遊岩はエレベーターみたいなものだったのかな。


 天井の穴に突入し、四方を岩に囲まれたまま浮遊岩は上昇を続ける。しばし閉塞感に襲われるが、やがて頭上の魔法の明かりは岩壁の淵を照らした。


「っと、停まったぁ……」

 浮遊岩は上階の床とひとつづきとなりピタリと停止した。浮遊岩が上昇し始めた時は落下天井の逆のような罠に掛かったのかと心配したが、これは上手いこと脱出への近道が出来たのかもしれない。



「!?!?!?」

 そう考えたのも束の間、明かりの届かない暗闇に存在する幾つもの巨大な気配に気付かされた。

「か、完全に囲まれてるっ!!」

 右に、左に……前方、後方、狭い縦穴を抜けた途端にいきなりの八方塞がり、どうも窮地に追いやられたようだ。




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