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犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第二章 ロードスター
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第三十九話 トラップ


 亀裂が走り崩れる足場……崖下へと落下する飛竜、巻き込まれた俺達。


 眼下数千mに待つ谷底、俺達の足元を支えてくれるような岩場は近くには無……


「横穴だっ」

 俺は落下途中の岸壁に大きく口を開けた横穴を見つけ声をあげた。


「ヌィッ」

 ティノが落下する岩を足場に蹴り跳んで俺を掴み……

「アンジェッ」

 続いて別の落下する岩を蹴り跳び、アンジェを掴んだ!



『Plavuchiy /浮遊/フロート』

『Voskhodyashchiy vozdushnyy potok/上昇気流/アップドラフト』

 アンジェの何重にも重なった言葉が響き白い翼を広げ、三度ティノが蹴り跳ぶ。



「「「ぅわぁあ」」」

 岸壁の横穴へと転がり込んだ。

 積み重なっての着地、2人を庇って一番下で衝撃を受ける俺、お、女の子2人くらい……

「ゖほっ」

 へいき……へいき。




「思いっきり叩き潰したのにぃ……」

「わたしもだよ……」

 え……?2人の声を聞き間違いかと疑うが、その言葉と見開かれた瞳が向けられていたのは俺ではなかった。


 Grrrrrrr……aaahhhhh!!

 横穴の入口に現れた黒い影が咢を開き、牙を剝く……飛竜だ、まだ息があったのか。

 張り詰める空気、俺でもわかる程急激に膨張するマナ。



 膨れ上がったマナが爆風となり、折れた牙が機関銃の様に降り注ぎ惨状と化す洞窟。

 凄惨な幻視が俺の頭を過る……そんな風にさせるかぁっ!!



 全身に電撃が走り、俺は駆け出し……躰を伏せ低く……飛竜の顎下に潜り込み……

 腕へと伝わった電撃が渾身の一撃の拳を横殴りに首筋へと叩き込んだ。

 その電撃はまだ消えず、拳から飛竜へと伝わり……長い首の筋肉を無理やりに動かす。


 曲げられた砲身から放たれた牙は洞窟の横壁を撃ち、その砲撃も俺が打った二撃目、突き刺したナイフによって直ぐに停止した。今度こそ本当の勝利だ。



 ▶▶|



「やったっ、手に入れたよ!」

 ティノの掌で輝く黒い結晶に瞬く煌めき、夜空の様に輝く星の結晶の中心では籠められた風の力が渦を巻く。飛竜の魔結晶は甲品質はある風の力の籠った星の結晶となっていた。

「ぅふふ、じゃぁティノが持ってて」

 手に入れた星の結晶をアンジェがホルダーに固定してティノの首へと掛ける。これで残る星の結晶は水のみだ。






「さて、目的のモノを手に入れたのはいいけど……」

「どうしよっか」

 横穴の淵に立ち崖下を見下ろし、空を見上げる俺とアンジェ。

 谷底までは数千m、険しい垂直の崖、たとえ十分な装備があったとしてもここを降りるなんて無謀すぎる。それならば崖上はどうかというとその距離数百m、アンジェの籠手と魔法でどうにかなるかと見つめるがアンジェは無言で首を横に振る。


「それじゃぁこの洞窟を進んでみるしかないか」

「「うん」」

 先ほど落下中に少し目にした限りだけど、断崖に開く横穴はここ以外にもあったようだ。それらのどれかがこの洞窟と繋がっていて、ここの横穴の淵よりも登り降りしやすければいいんだけど。

 俺達はこの大峡谷からの出口を探す為、洞窟の奥へと足を踏み出した。






「ヌィッ、待ってっ」

 先頭を行く俺はアンジェの切羽詰まった声でその場に停止する。魔獣の気配なんかは感じないけど、一帯どうしたんだろ……

「うっ!」

 宙に舞う数本の白い髪、俺の耳を掠めて斬られたモノだ。アンジェの言葉を聞き、聴き澄ます為に耳を立てていなければ斬られたのは耳だったろう……危なかった。


 その凶行を行ったのは……地面に突き刺さった白い刃の小さなナイフ、美しい1枚の羽根の様なその白い刃には小粒の夜空の輝き……星の結晶が光る。攻撃された軌跡を辿ると辿り着く元は岩天井の隙間、そこから投擲されたらしい。


「マナの流れを感じたから、洞窟に仕掛けられたトラップだよ」

「危ないところだった、ありがと うっ!?」

 俺の背負うリュックに突き刺さった白羽のナイフ、先ほどとは別の2本目だ。


「むっ、後ろから来るよっ」

 続く警告はティノから、今度のは俺にもわかる。かなりの速さでこちらに向かって飛んで来る気配は魔獣だ。



 Weeeeehhha

 響く警告の高音、その鳴き声の主は二対四枚の翼を持った鷹の魔獣だった。


「ぅう、戦い辛い」

 ティノがそんな声を漏らす。狭い洞窟ではティノの派手な立ち回りが出来ない。

「そうだね」

 それはアンジェの籠手の拳と魔法での攻撃も同様だ。


 Weeeha

 だが、その四翼の鷹は過分な翼で予想外の軌跡を描き、飛空には不利なはずの狭い洞窟で優位に振舞い攻撃を仕掛けて来る。それなら……



「アンジェ、ティノ、ここはおれにまかせて先にっ」

 はっ……


「わかった、任せたよヌィ」

「うん、気を付けてねヌィ」

 2人を洞窟の奥へと送り、俺は1人でこの場を引き受けた。口走った不吉な台詞に後から気づき後悔するが……い、今はそんなこと気にするな、戦いに集中しろ俺。



 Weeeeeeehhha

 首筋を目掛けて飛び込んでくる四翼の鷹。躰を反らせその軌道にナイフを構えるが、鷹は垂直に降下し、くっ……俺の太腿に爪痕を刻んだ。でも大丈夫、その一撃は致命傷になるような大きな傷では無い。


 Weeeha

 次の攻撃が負傷した脚を目掛けて迫る。

「やぁあっ」

 俺は自らその距離を詰め、擦れ違い様にナイフを振るう。


 だが四翼の鷹は俺の太刀筋から逸れて浮かび飛翔し、纏う風が俺の頬を撫で……いや斬った。ぐっ……でもこれくらいは平気だ、傷は浅い。



 三度、四度、四翼の鷹とナイフを交えるが、俺の刃は届かない。それはマナを籠めたふれいむたんの炎の刃さえもだ、切っ先の伸びる軌道までも避ける四翼の鷹。

 どうも間合に違和感がある。僅かに四翼の鷹の姿がぼやけ……耳鳴りもする。小さいながらも傷を負った所為だろうか。


 このまま長期戦となるのはマズイ気がする……何か打つ手はないか考えろ。



「ええいっ、攻撃は最大の防御だっ」

 四翼の鷹が次の攻撃を出す前に仕留めてやる。俺は擦れ違ったヤツの背に照準を定め、踏み出す脚に力を籠めた。


「喰らぇぇぇ……えっ!?」

 振り出した足がその一歩を踏み出す前に、目の前の標的、四翼の鷹の姿が消えた。



 Wehhhaaaaaaa!

 姿なく響く鳴き声。


「なぁっ!?」

 それは背後からだった。俺の振り向き様に襲い来る四翼の鷹、風の刃が腕に傷を刻む。


 俺に傷を負わせた四翼の鷹の後ろ姿を追うとそれは再び消え、既に違う位置から猛禽の眼光で俺を捕らえた四翼の鷹が突っ込んで来ていた。ぐ……俺の脚に新たな傷が刻まれる。


 おかしい……ヤツは折り返す姿を見せず、いや折り返す時間なんてないはずの間に速攻での連撃を放って来た。まるで瞬間移動でもしたかのように。



 Weeeehhhhh!! Wehhh! Weehhhaaaaaa!! Wehhhhhhhha!!

「ぐっ……くはっ…………っつ……ぁあ゛あ゛」

 次々に襲い来る連撃、一撃一撃は致命傷では無いが……負傷は俺の動きを鈍らせる。

 素早い連撃による……ゆっくりと蝕む負傷と疲労……躰から力が抜け……る…………


 視界がぼやけ……四翼の鷹は八翼に……その像がブレる……


 Weeeehhhhh!! Wehhh! Weehhhaaaa!!      Weeeehhhhha!!

     Weehhh!! Weeehhhhhaa! Weehhhhhaa!! Weeeehhhhha!!

「っ……くっ…………ぅう゛あ゛」

 鳴り続ける耳鳴り。間を置かず別の地点から響く鳴声……が…………共鳴する…………




「そういう……事か……」

 地面に膝を着き……俺は地に倒れた。


「ここまで…………」

 止めを刺さんと俺の首筋を狙う四翼の鷹が迫る。



「だっ」

 飛ばされた風の刃が飛翔し…………首を落とした。

 地に落ちた2羽の四翼の鷹。


 辛勝だが、俺はどうにか勝利を勝ち取った。



 瞬間移動の種は単純だった、四翼の鷹は2羽いたんだ。

 仕掛けは風の魔法だろう、目に届く像を歪ませ分散させ姿を消し、耳に届く鳴声の波を反射させその位置を偽り困惑させ。鼻に届く匂いを遮断していた。


 朦朧としていた意識も次第にはっきりとしてくる。そして改めて自分の躰を診ると、先程まで感じていた程のダメージはなく軽傷だ。感じていた不調は魔法で視覚、聴覚、嗅覚の3つの感覚が狂わされていた所為だと思う。



「コイツに助けられたな」

 四翼の鷹に止めを刺した刃。夜空の粒が輝く2本の白羽のナイフを拾い手に取る。

 それは最初に俺を襲った洞窟のトラップと同じ仕組みだ。束にマナを籠めることで、見えない標的に向かって白刃のナイフが飛び出してくれた。風の属性を持たない俺でも使うことが出来たのは星の結晶に籠められた風の力のお陰だろう。ふれいむたんと一緒だ。


「せっかくだから貰っておこう」

 戦利品を回収し、アンジェとティノを追い洞窟の奥へと足を進める。何か脱出の手がかりは見つけられただろうか。



「これは大量だな……」

 洞窟を奥へ進むとそこにもトラップの白羽のナイフが地面に突き刺さっていた。幾十本とありそうなそれは点々と奥へ続いている。2人は恐らく次々に発動したこのトラップに追われるように奥へ奥へと逃げたのだろう。




「深そうだけど……アンジェがいるから大丈夫なはず」

 白羽のナイフを辿った先で目にしたのは地面に空いた大穴。これぞトラップというような落とし穴で、まだ僅かに土埃が舞っている。暗くて底まで見えないが、アンジェの白い籠手と魔法があれば怪我すること無く着地は出来ているだろう。


 俺は2人の後を追う為に荷からロープを取り出し、深く開いた大穴へと静かに降りた。



 ▶▶|


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