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犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第一章 犬も歩けば異世界召喚
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第八話 ボア


「それでわぁ、これから試験を始めます」


 前日の夕方、本日の午前中はギルド裏の訓練場に皆集まるように言われていた。

 そこで当日、この時、ユーリカから出た言葉がこれだ。


 試験……普段訓練が行われているこの場所に集めたということは実技の試験なのだろうけど何か……何かいつもと違う雰囲気を感じる。


 皆が緊張しながら続くユーリカの言葉に耳を傾ける。



「今日のテストわぁ、個人ではなくパーティでの強さを見せてもらいます」

 それを聞いたパーティメンバーがお互いの顔を見渡す。

 面白そうだと微笑むフレア、びくびくするレイチェル、真剣な顔で頷くアンジェ。

 俺はポカンと口を開け間抜けな顔をしていたかもしれない。



「武器わぁ、自分の得意なモノを選んでくださいね」

 更に驚愕は続いた。

 それは用意されていたのが訓練用の木剣ではなく、金属製の本物の武器だったからだ。

 皆が武器と相手パーティとユーリカに交互に視線を送り、ごくりと生唾を飲む。



「安心なさい、相手はお互いのパーティでもユーリカでも私でもない」

 よかったぁ……ソフィアのその言葉に幾人もが安堵の息を洩らす。


「えぇ、皆さんのぉ狩りの様子を見せて貰うだけですよ」

「獲物はこれで決める」

 ソフィアがピンポン玉サイズの多面体を摘み上げた。

 赤と黒で塗分けられており、各面に何か記号が刻まれている……一体なんだろう。

 でも俺以外はみんなそれが何かを知っているようだ。



「さぁ、どちらが最初ですかぁ?」



「よし……俺たちから先にやらせて貰う」

 ガレットがユーリカの前に進み出た。同期とはいえ年上なのと俺たちが少し怖気づいていることから申し出てくれたのだろう。



「でわぁ、ガレットさんのパーティわぁ、戦う準備が出来たら訓練場に入ってください」


 武器や防具を装備したガレットのパーティが訓練場の柵の中へと移動する。

 視線は奥に見える買取所裏の壁に向けられており、各々剣や弓を構えた。




「準備が出来たら振りなさい」

 ソフィアからガレットに多面体が手渡される。


「ねぇ、あれは何?」

 俺が誰とはなく尋ねると、レイチェルがそれに答えてくれた。

「ダイスですよ、遊びや賭け事に使われていて転がして出た目で勝負を決めるんです」

 なるほどサイコロか、ただそれは俺が知っている四角い六面のサイコロとは違い、三角形が組み合わされたような八面体をしていた。


「昼と夜、それぞれの面に火地風水の印が刻まれているんですけれど、あれは効果付きの上等な品みたいですね」



『Rulet /回転/ロール』

 ガレットの手のひらでダイスが赤と黒の残像を残してくるくると回る。

 数秒後、ダイスの回転が止まった。

 赤い面を見せ、ぽわっと淡く光る水飛沫が飛び散る。


「はぁい、昼の水……まぁまぁの相手ですかね」

 壁の扉に刻まれた溝が光り……ゆっくりと開かれる。



 Guuuuhhhhhh……


 低い唸り声がギルド裏の訓練場に響く。

 突き出た鼻と天に向けられた牙、粗く茶褐色の体毛で覆われた巨体、

 荒々しくその蹄で地面を抉りながら敵意を剝ける獣……ボア……猪だ。


「ちなみにぃ、火だったら蛇、地の場合は羊、風が兎で、水が猪でした、刈った獲物はご褒美ですので皆さん頑張ってくださいねぇ」


「500マナってとこね」

「いいね当たりだ……さっさと狩るぞ!」

「「「ぉおおっ!」」」

 パーティの実力を測る為にギルドが用意した獣と戦う試験……

 絶好の獲物に喜びと気合の混ざった声があがり、ガレット班の戦闘が始まった。



 Gueeeeeeehhhh!


 開始早々に獣の悲鳴が響く。

 猪の左目と首筋に刺さった2本の矢……クラリッサとオフィーリアの先制攻撃だ。


「いいぞ、2人ともっ」

 ガレットが槍を構え、矢を放った2人を庇うように立つ。



「ぅおぉぉぉおおっ!」

 雄たけびをあげ、イーサンが猪の目の前で剣を振るった。

 だが、その気合と筋肉の割に与えているダメージはそれほどなさそうだ。


「あれわぁ獲物の気を引いて、ヘイト……敵対心を自分に向けさせているんです」

 なるほど、攻撃の矛先が他メンバーへ向くことを防いでいる訳か。




「バラ……」

 クラリッサの剣が無防備な猪の左脇を突き、即座に飛び退いて距離をとる。

 その動きは優雅で可憐、正に言葉の通り、鋭い棘を持った薔薇のよう……


「ロース……」

 剣撃の合間を縫いオフィーリアの放った矢が猪の背に刺さる……見事な連携だ。

 クラリッサとのコンビネーションが薔薇=ローズという技なのだろうか。



「カシラ!」

「ヒレッ!」

 続くイーサンとガレットの攻撃と声……皆、相手が肉にしか見えていないようだ。

 先日俺たちが食べていた肉が余程羨ましかったのだろう。



「ハッ!」

 鋭いクラリッサの突きが猪の胸を抉り、その動きが止まった。



「うぉぉぉおおっ!!」

 一際大きい雄たけびで振り下ろされたイーサンの剣が猪の首に深く喰い込み、鈍い音を立てて項が垂れ……巨体が地面に倒れて土埃が舞った。




「「「やったぁっ」」」

「「「わぁぁ」」」 

 ガレット班からは喜びと安堵、俺たちからは称賛と感嘆の声があがる。



「初めてにしてわぁ中々でしたぁ、合格点をあげますねっ」

 何点か指摘とアドバイスはあったがガレット達は見事合格を勝ち取った。



「よし、次はお前らの番だぞ、ハハハ」

「楽しみね、期待してるわ」

 俺たちの緊張を解してくれようと掛かるイーサンとクラリッサの声。






「次わぁ、フレアさんのパーティですね、準備をしてください」

 訓練場に入ると俺はナイフを抜き、アンジェとレイチェルは弓を構える。


「……いいか?」

 フレアの問いかけに俺たちは頷く……



『Rulet /回転/ロール』

 刻印が光りダイスが回り始める……

 赤と黒の残像に四色の光が混ざり、ガレットの時よりもその時間が長く感じる。

 だがやがてその動きを止めたダイスは……

 うっすらとした影に包まれ、風がフレアの前髪を揺らした。


「風はうさぎだよ」

「……よかった、それなら狩りなれてる」

 アンジェの呟きに俺も安心して言葉が零れる。



「なんだ兎じゃ大した稼ぎにはならないし外れかぁ、残念だったな」

「そうね、でも試験は楽でいいじゃない」

 耳に届くイーサンとクラリッサの声。




「よし、いつも通りにいく……」


 扉の溝が光り……静かに開き始める……

 訓練場に入ったフレアが弓を構えようと腕を持ちあげる……


「!? フレアッ、避けろっ!!」

 妙な威圧感を感じ、俺は思わず叫んだ。

 突然耳に届いた風切り音、肌に感じる風圧。


 咄嗟に身を反らせるフレア……

 持っていた弓が真っ二つに切断され、張った弦の勢いで跳ねて地面を転がった。

 フレアの袖は切り裂かれ、そこから白い肌を覗かせている。



 尋常ではないその初撃に……俺は反応出来なかった……



「ダ、ダイスは……夜の目だった」

 レイチェルの声が震える……


「……ボーパルバニー」

 アンジェがその獣の名を口にする……


 腰の剣に手を添えたフレアが呟く……

「魔獣……か……」




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