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犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第二章 ロードスター
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第三十五話 壁画


「月の神殿の封印に星の結晶が必要なのもポータルを作動させる為じゃないかな」

「えっと、魔獣を出られなくするんじゃなく、出ようとしたらどこかに飛ばしちゃうのか」

 アンジェの推測を聞いて俺は合点がいった。魔獣というモノは多かれ少なかれ魔結晶にマナを蓄えている。


「それなら、火の力が籠った星の結晶があれば火属性の魔獣は出てこられないのかもね」

 全ての属性の魔獣を抑える為に四属性が必要だけど、手に入れた分だけでも効果があるかもしれない。


「じゃぁじゃぁ、今持ってる火と地の結晶だけでも先に届けに戻る?」

「ふふ、そうしよっか」

 期待の籠ったティノの問い掛けにアンジェが笑顔を返し、ティノは満面の笑みを零す。

 リード、ローザ、グレアム、ワイルドガーデンの3人に逢えるのが嬉しいのだろう、ティノにとっては物心つく前から一緒にいた家族の様な、いやそれ以上の存在なんだろうな。






「という訳で、おれたちは一度、月の神殿と星降りの街へ戻ることにするよ」


「あぁ、こちらも鞘を作る為にレイチェルを連れて一旦リオーネに戻る」

「ぉ、王都より南は初めてだけど、行って来ます」

 俺達が出発の計画を伝えると、同じようにフレアもレイチェルとブリジットを連れて一旦リオーネに戻ると言う。ブリジットをリオーネへと送り返さなくてはならないし、レイチェルには馬の革で炎の剣の鞘を作って貰う必要があるから。ちなみにレイチェルの家にはそのことを手紙で伝えたそうだけれど、リオの家の紋章で封のしてある手紙を受け取った店長さんは驚いたんじゃないかな。



「私達はその護衛としてついていくわ」

「ついでに火の結晶を取りに行くっす!」

「帰りは是非ポータルを使って王都迄戻ってみたいですね」

 それにはシャーロット、カプリス、クロエのリトルスクエアも同行するようだ。王都に帰ってきたばかりだろうに、またすぐリオーネに向かうとは3人とも中々タフだ。



「……そう、わかった」

 庭の手入れの為、王都に残る必要のあるルーシーは顔を背けて少し寂しな表情。


「皆様、道中お気をつけくださいね」

「フレア、帰ってきたらリオに遅れた分は詰め込みますから」

 リオは皆の無事を祈る言葉をかけ、リオとフレアの先生となるヴァレンティーナは冗談めいた微笑でフレアに告げる。


 ちなみにエディッタはしばらく一人での外出を禁止されたのでこの場にはいない。その理由はもちろん焔の地下迷宮での出来事の所為、爪跡の男達は今も王都のどこかに居るに違ない。


 しかしギルドで聞いた話によると、爪跡の男たちだけでなく昨今の王都は他にもガラの悪い輩が増えているそうだ。エディッタに限らずなるべく一人での行動は避けるべきだろう。


 爪跡の男や質の悪い装備、残して行くルーシー達のことは気に掛かるが、まずは出来ること~手に入れた星の結晶を届けることからやっておこう。



 ▶▶|



 王都から街道を北へ~星降りの街方面へ向かう。まだひと月も経っていないのにどこか懐かしく感じる。


「パレット、キャスのところまで行くから、そこを東ね」

”きゅぃい”

 竜車は大樹の森南端、湿地帯近くまで差し掛かり、アンジェの指示で進路を東へと変えた。

 星の結晶は月の神殿で調査をしているエヴァンさんに届けるつもりで、もう日が暮れそうだが今日はキャスの居る村までは行こうと思っている。




”きぃゅぅぅっ”


「あれ、パレット?ってことは、わぁぁアンッ、ヌィ、ティノ!!」

「ひさしぶりキャス」

 パレットの鳴き声を聞いたであろうキャスが玄関から姿を見せて歓声をあげた。


「ローザ!グレアム!」

「あら、おかえりなさいティノ」

「……無事戻ったな、良かった」

 ティノも元パーティメンバーのローザとグレアムの2人の姿を見つけて頬を緩ませる。


「リードは……ブレンダと一緒にダンジョン?」

 姿の見えないリードと、神殿の事件以来まったく顔を合わせていないブレンダが気に掛かり尋ねた。

「そうなのよ、最近は深くまで潜るようになったから」

「……今朝潜ったばかりだから、また10日程は戻らなかもな」


「うーん、大丈夫なの?ブレンダ無茶してない?」

「あぁ、それは平気よ、2人とも活き活きとしてるわ」

 話を聞いたアンジェも心配するが、ローザが言うにはブレンダは日増しに逞しくなっているので気をもむ必要はないらしい。リードもすっかりそのペースに巻き込まれ、以前よりもタフになったんじゃないかと思えるくらだそうだ。




「エヴァンさんはどうなの?」

「んー今日もお部屋に籠ってるの」

 キャスは少し呆れてそう言った。朝早くから夜遅くまで、エヴァンさんは遺跡もしくは部屋に籠って研究に明け暮れているそうだ。キャスは食事毎に毎回何度も呼びに行かなくてはならないらしく、時間通りに食事を摂らせることはもう諦めたと言っていた。


「んーまだ火と地だけだけど星の結晶を持ってき……」

「是非見せてください!すぐ渡してください!早急に調べさせてください!どこですか!!」

「なぁ!?」

 突然、扉をあけ放ち部屋から出て来たエヴァンさんに俺は詰め寄られる。ちょっと詰め寄る勢いが怖いんだけど!?こんな人だったっけ!?

 俺はキャス達に助けを求め視線を向けるが、諦めた表情で首を横に振られる。


「は、はぃこれが……」

「あぁああ、この夜闇に宿る力……素晴らしいっ」

 アンジェが手渡すと、星の結晶に魅入ってしまったエヴァンさん……


「ぇっと、じゃぁよろしくお願いします……」

 今はどんな言葉を掛けても無駄みたい。



 エヴァンさんのことはそっとしておいて……俺達はキャス達と夕食を共にした。

 旅での出来事を話したり、俺達がいない間の様子を聞いたり、ゆったりとした心の休まるひとときだ。

 一番心配していたダンジョンからの魔獣の氾濫はというと、これまでは起こっていないとのことを聞きほっとする。何もせずに放っておいたら危険なのは間違いはないけれど、今はブレンダとリードが狩りまくっているお陰で浅い層にはほとんど魔獣の姿がないらしい。

 根を詰めているブレンダには休んで欲しいが、今は何を言っても聞いてくれないだろう……彼女をゆっくり休ませるには早く残りの星の結晶を集めなくちゃだな。



 ▶▶|



「では、この壁に注目してください」

 村を訪れた翌日、俺達はエヴァンさんに言われ一緒に月の神殿を訪れた。目の下にすごい隈を作ったエヴァンさんが指し示すのは、月の神殿南西の入口のエントランスの壁だ。

 指示されたローザとグレアムが、二か所に月の石を置く。


 エントランスに明かりが灯り、壁の刻まれた模様と照らす光が混ざりあう。


「フフフ、どうですか……」

「ぉおおっ……ってナニコレ?」

 線と光が混ざりあい、壁に何かを描き出したのだけど……今ひとつ意味がわからない。


「あれは牛じゃない?」

「そうですっ!!」

 ティノの言葉に食い気味で反応するエヴァンさん。確かに言われて見ればそこに描かれているのは2本の角を持った牛の頭に見える。


「ヌィ、もしかして、その下のは海」

「ええ、そうです!これは地図です!!」

 続くアンジェの言葉にも被せエヴァンさんが大声をあげる。お、おう……

 勢いに驚かされたが、言われてみれば下の方に掛かれている絵は魚や海獣?その上の線は海岸線か、なるほど。


「私も星の結晶を見つけた場所を伺ったからこそ、気付いたのですがね……この壁画が描いているのは地図、この牛の絵が示すのはタウロスの街、そして地の力の源です」


「「「おぉぉ!!」」」

 俺達があげた感嘆の声を聞いて満足げな顔のエヴァンさん。そしてさらに言葉を続ける。


「南東のエントランスには獅子の壁画が浮かび上がります……そこは旧リオーネ、火の力の源です」


「それじゃぁもしかしてっ!」

「ええ、北西のエントランスには精霊が描かれ……おそらく風の力の源の地を指し示す」

 アンジェの言葉に答えが続く……ぉぉっ、これで次の星結晶を探せる!それに、それならば……


「北東のエントランスには水の力の場所がっ」

「いいえ、残念ですがありません」

「えぇぇ……」

 俺の言葉は即座に否定された。


「ほら、北東は石柱も倒れてるし損傷がひどいでしょ?」

「……神殿内、エントランスの壁も崩れていた」

 そう言われて俺も思い出した。北東側は階段とかも瓦礫で酷かったっけ。



「まずは風の方を探そうよ」

「そうだよヌィ、北西のエントランスの壁画を見よ」

 ティノとアンジェに慰められながら?北西のエントランスへと移動した。



 のだけれど……

「あぁ、最近部屋に籠ってることの方が多かったからね」

「……昨日リードとブレンダが潜る時にも使ったからな」

 北西の扉を開くことが出来なかった……光を貯めた月の石が足りなかったから。

 まぁ、日の光を当てておけば夕方には開けられるだろう。



 ▶▶|



「ポータルですか?確かに月の石と星の結晶の違いはあれど柱に似た構造と仕組みですね」

 アンジェが封印の仕組みについて尋ねると、エヴァンさんは感心して頷き、言葉を続けた。

「柱は灯りを灯すために室内に設置した月の石と2つの月と太陽の位置が影響して稼働する様なのですよ。実際に検証する訳にもいきませんから、映し出された壁の絵と古文書からの推測段階ですけどね」

 エヴァンさんはあれから神殿の調査を進めていたようだ。俺達をダンジョン深くへと飛ばしたあの柱、ポータルの仕組みについても研究を進めてるようだ。

 その仕組みがはっきり解かれば俺達みたいに意図せず飛ばされる事故は防げるだろう。




「ねぇ、そろそろいいんじゃない?」

 日の光を集めた輝く月の石を手にしたローザに促され、俺達は神殿の北東側扉~エントランスへ。月の石の明かりが灯り、壁を照らして地図を描く。



「ここが月の神殿で、あれは星降りの街じゃない?」

「それならば風の力の源は月の神殿から西の方向ですね」

「……壁の亀裂は損傷ではなくて刻まれたモノか」

「示す場所はシルヴェストル大峡谷」

 この光の壁画が指し示すのが本当に四属性の力の源と呼ばれる場所を示すのであれば、そこはちょうど神殿から真西にあるシルヴェストル大峡谷という場所。



「でも、あの大峡谷へ降りなくちゃいけないんだとしたら……」

「……あの断崖を降りた話など聞いたことが無いな……」

 ローザとグレアムはその場所について知っているようで厳しい表情で顔を歪める。



 それほど危険な場所なのだろうか……目的地シルヴェストル大峡谷がどんな場所なのか気に掛かるが、俺には壁画を見てもう1つ気になることがある。



「ねぇヌィ、あの絵の人……」

 それはアンジェも同じだったようだ。



 ▶▶|


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