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犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第二章 ロードスター
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第二十八話 宝珠


「ヌィ、石化が来るっ!」

「上からガーゴイルも!」

「ゎうっ」

 地を這うバジリスクが石化魔法を放ち、宙を舞うガーゴイルは石像に紛れて爪を振るう。

 俺達は予想だにしていなかった魔獣のコンビネーションに翻弄されていた。



「少し時間を稼ぐ、作戦をたてなきゃ」

『Ogon' stena /火壁/ファイアウォール』

 炎の壁がバジリスクの前に立ちはだかる。だが広範囲に広がるそれを長時間維持することは困難だろう。アンジェが稼いでくれているこの貴重な時間に状況を覆す策を練らなくちゃ。


 さぁ、どうする……こういった場合、バジリスクとガーゴイルをぶつけあわせて一網打尽に出来れば恰好いいけど……あいにくと、そんな上手い方法なんてすぐには思い浮かばない。

 ならば、ボスのバジリスクより先に雑魚のガーゴイルを倒すのがセオリーかな。

 いや、ガーゴイルだって初めて戦う敵だし、飛ぶし、雑魚って訳じゃないけど……


 やってみるか。


「えっと、とりあえず陣形はさっき同様でいいと思う、おれがバジリスクの正面で戦う」

 アンジェとルーシーが頷く。


「アンジェは牽制をお願い、んー水魔法がいいかな。それと石化魔法が来そうなら教えて」

「うんっ」


「ルーシーもさっきまでと同様、バジリスクの隙をついて脚を攻撃してほしいんだけど、声をかけたらおれの攻撃に加わってもらえる?」

「いいよ」


 2人に作戦を伝え、俺は急いで戦闘の準備を整える。



「よし、じゃぁ戦闘再開だっ」

「「おぉっ!!」」



 炎の壁の勢いが鎮まり、再びバジリスク敵意が直接俺へと向けられる。

 俺はナイフの束をしっかりと握り直し、それに正面から立ち向かった。


 石化魔法を2度避け、バジリスクの脚の3/8に傷を負わせている。

 順調に戦いが進んでいたその時、ナイフを握っている俺の右腕が後ろに引かれた。


 その衝撃に耐え、握る拳にマナを注ぎ……


『Elektricheskiy shok/電撃/エレクトリックショック』

 電撃の魔法を放った。


 俺の握るナイフはふれいむたんでは無く、アンジェから譲られた彼女の父の形見のナイフ。

 そしてそのナイフと共に港町で貰った金属ワイヤーの端を握っていた。そして、そのワイヤーは俺の背後へと伸び、1本の石柱に結ばれている。


 つまり俺を背後から襲おうとしたガーゴイルがワイヤーに触れて電撃の餌食となった訳だ。


「ルーシーッ!」

「はぁぁっ!!」

 落下したガーゴイルの首にルーシーのマチェットが振り下ろされる。

 これで残るはバジリスクのみだ。




「ルーシーッ、次の攻撃では少しバジリスクの気を引いて、遠慮せずに斬りまくってくれればいいから」

「いいよ、楽しそうだしっ」

 ルーシーは俺の言葉に応え、楽しそうに口角をあげる。


「アンジェの水魔法の後、俺が突っ込むからっ」

「うんっ」



「はぁっ、はっ、はっ、はぁあああ!!」

 ルーシーが派手にマチェットを振るい。


「いっくよぉ」

『Vody Strelyat'/水撃/ウォーターショット』

 それに合わせてアンジェが水魔法を放つ。



「よぉぉぉしっ!」

 俺はバジリスクへ向かって駆け、テーブルクロスを放り投げてバジリスクの視界を遮る。

 今だっ!一気に接近し、その背に掌底を叩き込んだ。

『Zamorozit'/凍結/フリーズ』

 ピキピキとガラスの割れるような音をたて、アンジェの浴びせた水が凍り付く。


「これもおまけだっ!!」

 その凍り付く背に向けて、俺は調味料の小瓶の中身をぶちまけた。


 凝固点降下……


 通常0度で水は氷になるが、塩を加えるとより低い温度でなくては凍らなくなる。

 つまり魔法のみでの攻撃より、更にバジリスクの体温を奪えるという訳だ。

 蜥蜴ってのは体温が低くなると動きが鈍くなるんだよな。




 ……と思っていたんだけど。

「くっ、全然動きを鈍らせること出来なかったんだけど!?」

 この巨大な生物に対し、背中をちょっと冷やしただけじゃほとんど効果はなかったみたい。

 それどころか傷を負ったバジリスクは凶暴性が増して派手に暴れまくっている。



「ヌィ、動きを鈍らせたいんだよね?わたしも試してみたいことがあるのっ!」

「わかった、攻撃は出来るだけ俺の方に惹きつけるっ」


「お願いっ、ルーシーの斬った脚を狙うからっ」

「任せた」


 てっきり、遠距離からの魔法攻撃だと思っていたのだが、アンジェはバジリスクに向かって駆け出した。そして……



「たぁあっ!!」

 えぇっ、握った拳でバジリスクの脚を殴りつけた!?


『石化 ペトリフィケーション』

 ルーシーが斬った傷口に振るわれたアンジェの拳。その拳が触れるとバジリスクの脚は灰色へと変わった。



「うん、普通なら周りを石で覆うだけだけど、傷口を狙えば効果が大きいみたい」

 狙い通りに攻撃が決まり、アンジェは微笑みながら、拳をぎゅっと握る。


「どんどんいくよぉっ!」

『石化 ペトリフィケーション』

 アンジェの拳で4/8脚が石化、動かない脚を引きずりバジリスクの動きが鈍る。




「今のも魔法なの?」

 一旦距離を置いたアンジェにルーシーが目を見開いて尋ねる、俺も同じ疑問を感じた。

 重ねる言葉が少ないソレは普通の魔法じゃなくてシャーロットの使うアレみたいだ。


「これを使ったのっ」

 アンジェが握った拳を開くと、その手のひらで小さな何かがキラリと光った。

 わかった、宝箱の錠から剥がした地属性の宝珠だ。


「魔法剣……じゃなくて魔法拳かな、ぇへへ」

 おぉぅ……まさかアンジェが格闘攻撃?を覚えるとは。そういえばティノとじゃれあってるのは何度も見ていたんだけど、まさかあれが本気だったとは……

 えーっと、このままではうちのパーティは全員での超近接戦闘が主体になるのかなぁ。魔法は使っているから脳筋ではない?うーん、どうなんだろう。



 パーティの今後の方針はとりあえず置いておこう。まずは目の前の戦闘だ。


 俺がバジリスクを惹きつけ、ルーシーが斬り、アンジェが殴って石化させる。

 この連携が上手くはまり、終にバジリスクはその動きを止めた。

 石化攻撃してくる敵に石化が効くとは意外だったが、なにはともあれ俺達の勝利だ。



 戦闘が終われば倒れたバジリスクはもうおいしい食料に変わる。

 と思ったんだけどちょっと毒々しいお肉を口にする勇気はなかった。


 とりあえず牙と石化してない皮を回収する。それと、もしかしたら地属性の星の結晶を持っているんじゃないかと期待したんだけれど、残念ながら手に入ったのは普通の魔結晶だった。品質は甲なのでかなり良いものだけどね。


 加えて残念なことがもう1つあった、俺がバジリスクに向けてぶちまけた調味料瓶の中身。アレ、塩じゃなくて砂糖だった。料理に塩と砂糖を間違えて入れちゃうとかは絶対ありえないだろうと思ってたけど……でも戦闘中はしょうがないよね?あぁ……貴重な砂糖がぁあ。




「石像だと思ってたんだけど、これってそういうことでしょ?」

 ルーシーが見つめるのは宝箱を模した石のオブジェ。その正体は石化した宝箱だろう。

 アンジェが魔法、殴るんじゃなくて普通に言葉を重ねた呪文を使って石化を解除する。

 鍵は掛かってると思っていたんだけど、何故かすんなりその錠は外れて宝箱は開いた。


「これって……籠手?」

 宝箱に収められていたのは、白く分厚く頑強な金属で造られた籠手。前腕を覆う部分は重ねられているが、伸ばせば肘まで覆うモノだろう。でもそのサイズは大人用としても大きめで、俺達が装備するにはかなりデカイかな。

 これって殴る為の装備で魔法拳を覚えたアンジェの為に用意されたって訳じゃないよね?



「これはいらないから2人で好きにどうぞ、次、次こっち」

 ルーシーは興味を惹かれなかったようであと2つあるらしい次の宝箱をと急かす。



「ん、開いたよ」

「おぉっ金貨?これこれ、こういうのでしょ」

 今度の中身は古い硬貨。特別な価値があるのかはわからない。

「1、2、3……12枚、ちょっと少ないけどまぁいいか。はい2人の分」

 割り切れたので4枚づつ、硬貨はきっちり3等分となった。



「あー……」

「…………」

 最後の宝箱は空だった。既に開けられた後なのだろう。



「ぇっと、残念だったね……そうだアンジェ、この宝箱からも宝珠を回収しておく?」

「うんっ、あっじゃぁその分ルーシーは魔結晶を貰ってよ」

 ルーシーは遠慮していたが、結局最初の宝箱の分を含めて4つの宝珠をアンジェに、バジリスクの甲魔結晶とガーゴイルの丙魔結晶をルーシーにということで納得してくれた。

 誰が使うかは決めてないけど籠手は俺達が貰ったし。



「さぁ、出口まではどれくらいあるかわからないけど、そろそろ先へ進もうっ」

 厄介な敵ではあったけど、それに見合う収獲はあったと思う。経験的にも報酬的にも。

 先の見えないダンジョンだけど、俺たちは気合を入れて歩みを進めた。



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