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犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第一章 犬も歩けば異世界召喚
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第七話 肉に囲まれた仔 妙に頑張る


「フレア、右の小さな木……枝に2、根本に3」


「確認した……ではレイチェルは枝のを、私とアンジェで下のを狙う」

「は、はいっ」

「うん、わかった」



 静かな森に響く小さな風切り音と弦音。

 レイチェルが構えた弓から連続して2本の矢が放たれ、枝葉が揺れて射抜かれた2羽の鳥がドサリと地面に落ちる。


 続いて同時に響く2つの風切り音と弦音。

 飛び立とうとした地面の2羽をフレアとアンジェの矢が仕留めた。


 俺は射抜かれた獲物を確保するために飛び出すと……

 残った一羽が混乱してまっすぐ俺に突っ込んで来た!?


「わうっ」

 慌てた俺の手には思わず鷲掴みにした獲物。


「やったっ!初めて自分で獲物を獲った!!」

 まさに自分の手で掴み取った成果に喜びがあふれる、まぁ偶然だけれど。

 フレアはなんか引いた感じでレイチェルはきょとんとしている。


「やった、ヌィすごいっ!」

 アンジェはぴょこぴょこ飛び跳ね自分のことより喜んでくれている……天使だ。



 今日で講習は3日目となり、朝から森での狩りを行っている、付き添いは無しだ。

 午前中はパーティ毎に森で過ごす時間となっており、俺たちは獣を狩って報酬を講習費用の支払いに充てることと決めた。

 薬草等は狩りの帰りにのみ採取、その分は各自のお小遣いになる。




「ん……鹿の足跡、でも少し時間がたっているかな」

 狩りを終えた帰り道、果実のなる木々の近くに痕跡を見つけた。


「……ならば試しに明日は鹿を追ってみないか?」

「ヌィどう?探せそう?」

「……この辺りから跡を追って……やってみないとわからないけど」

「だ、だったらやってみましょう、鹿だったら買取額も桁違いですよ」

 1頭狩れれば今の収入の五倍だという、試してみない手はないか。



 ▶▶|



「見つけたっ、新しい足跡と匂いだよ」

 翌日は予定通りに鹿狙い、運良く新しい痕跡を見つけることが出来た。


「……2頭、この先、小川の方に向かっている」


「よし、ではアンジェはこのまま鹿の後を追い、ヌィは川下に……

 私とレイチェルで仕留めるから、二人で獲物を川上に追い立ててくれ」


 フレアの作戦指示、川上での位置取りを待ち……狩りの開始だ。



『Slabyy veter/微風/ブリーズ』

 アンジェの魔法でザワザワと草木が揺れた。

 鹿達は揺れる草木を避けて川沿いへ向かい、一頭は川上へもう一頭が川下に顔を向けた。


 俺は川下への逃走を防ぐため静かに鹿の視界へと姿を現す……

 よし、一頭は川上へと駆けだした。




 kyeeeeuu……


 鹿の鳴き声とドサリと地面に倒れる音が耳に届く、川上へ移動した一頭をフレアたちが仕留めたようだ。




 だがその時、残りの一頭が突然俺へと突進して来た。


 それに対して俺は……自ら勢いをつけて突っ込んだ。

 突進を掻い潜り、腕を鹿の首へと回し全体重を載せて地面へと押し倒す。


 今だっ! いや違う、違う、待てっ!!


 思わず本能で首筋に牙を立てそうになったのを慌てて止め、腰のナイフを抜いて牙の代わりに鹿の首筋へと突き刺した。



 先ほどまで感じていた鹿の呼吸は止まり、流れる血が俺の服を染める。

 人の意識がこの状況を残酷に感じるが、これは生きる為に必要な狩りだ。


「ヌィ!?だ、大丈夫っ?け、怪我、怪我がっ」

 俺を見たアンジェが大きな声をあげ、血相を変えて駆け寄って来た。


「大丈夫、返り血だよ怪我はしてない」


「もうっ、もう無茶しないで………」

 アンジェの瞳から一筋の涙が零れる。


 あの日……白い狼に襲われてよりずっと堪えていた感情。

 俺の血まみれの姿でそれを決壊させてしまった……

 アンジェに涙を流させない為に、俺はもっと強くならなくちゃ……



 背中をぽんぽん叩いて泣き止むのを待ち、本日の狩りはここまでにした。

 赤く腫らした目をしてごめんねと呟き、やっと笑顔を取り戻したアンジェ。

 俺はその姿を見てほっと胸をなでおろす。


「気持ちはわかるが……ハンターになるならばもっと強くなれ」

「うんっ」

「は、はい……ぐすっ」

 フレアの言葉に小さな拳を握るアンジェ、そして貰い泣きをするレイチェル。



 ▶▶|



「おぉ、鹿が2頭か、いやぁ今日の成果はすごいな」

 獲物の肉に囲まれた買取所の担当者が顔を出す。


「状態も良いし、これなら2頭で1000マナだ」

 この額には皆が笑顔になった。まぁそれも講習の支払いに消えるのだけれど。






 香ばしい匂いが漂い、テーブルには肉料理が並ぶ。

 実際に仕留めたそのモノではないが、今日のメインは鹿肉だ。


 一番存在感のあるのはやはりステーキ、大きさに比べてかなりの厚みがあり贅沢だ。今も湯気をあげ、まだ食べてもいないのにナイフを入れたら肉汁が滴り落ちる光景が頭に浮かぶ。


 そして綺麗に皿を飾る薄切りのロースト肉、やや赤味を残した肉の質感が食欲をそそる。残念ながらこれを上品に食べられる自信はない。


 更に少し趣が違うが、細切り肉やモツを集めた大盛の皿、緑の野菜と共に炒められている。この料理ならば多少がっついてもいいだろうか。


 肉以外のスープやパンもこれまで宿で食べたモノとは見た目からして違う、こんなメニューあったのか……



 なんか稼いだ分より高いんじゃないだろうか……


「御祝儀みたいなものだ、遠慮せずに食べてくれ」

 そんな料理をフレアが自腹でごちそうしてくれるという。普通なら遠慮してしまうが、もうテーブルに並んでしまってる、これは食べない方が失礼だろう、うん。



 さぁ食べようとナイフとフォークに手を伸ばそうとしたその時、俺の肩に柔らかいお肉が乗った……これはテーブルの肉料理にも勝るボリューム!?


「うわぁ……おいしそう」

 それは背後からテーブルの料理を覗き込むオフィーリアだった。


 あぁ、お肉に囲まれたなんてすばらしいランチのひととき……



 などと考えている間に皆はもう料理を口に運んでいる。

 俺も我慢できないと料理に伸ばそうとした手が動かせない、あれ?


「何かの記念日か?随分豪勢だな」

「すっげぇいい匂い、たまんねぇな」

 左右から覗くガレットとイーサンの筋肉に挟まれた俺。

 この硬い肉は遠慮したい、勘弁してください……



 ▶▶|



「動きが良くなって来たな」

 近接戦訓練の最中、フレアからそんな言葉を貰った。

 俺の攻撃もどうにか届くようになってきたらしい。まぁ届いた攻撃もまだ受け流されてしまうのでまだまだこれからだけど。



「ほらぁ、今のは避けた方が良い攻撃でしたよ?」

 だが、相手からの攻撃に対しては相変わらずわざわざ突っ込んでしまう。

 ユーリカからそのことを指摘されるが、どうしても躰が反応してしまう。


 !!?


 ユーリカから3度同じ指摘を受けた後、背後からの凄まじい殺気に襲われた。


 俺はなりふりかまわず、地面を転がりながら左に避けた。

 今まで俺が居た場所、その地面には深々と突き刺さった木剣が……が……が……

 ガクガク躰が震える。


「なぁんだ……やれば出来るじゃないですかぁ、今までふざけていたんですかぁ?」

「いっ、いいえっ!ユーリカさんの指導のお陰ですっ!」


 それ以来、わざわざ自分から攻撃に突っ込む変な癖はでなくなったのだが、訓練中に時折ユーリカの不意打ちが仕掛けられるようになった……



 ▶▶|



 休憩を挟んだ後の遠距離攻撃の訓練で、俺はユーリカよりお言葉をいただいた。



「諦めなさい」

「はい……」

 どうやら俺に遠隔攻撃の才能は無く、被害が出る前にやめた方がいいと言われ……

 俺は見学に専念することに。


 訓練では皆が弓や投石機で投げられた皿の様な的を狙っている。俺はそれを見て跳び付きたくなるのを必死に抑えてうずうずしている。



「ヌィ君にわぁ」

 ユーリカに肩を叩かれた。


「この時間に特別訓練をしてあげますねぇ」

 さわやかな笑顔が俺を見つめる。


 ⇒「はい」

  「Yes 」

  「お願いします」

  「ありがとうございます」

   ・

   ・

   ・

 返答は肯定と感謝の表現以外は許されていない。




「遅いですよぉ」

「は、はいっ」

 ユーリカとの模擬戦闘訓練……

 決して重症を負うようなとんでもない打撃が放たれる訳ではないのだが……


 この訓練は命がけだ。



 下手な動きを見せようモノならその笑顔に殺気がこもり。

 そこで怖気づくようなら更なる追い打ちがかかる。



「うーん……なんかしっくりこないですねぇ……武器を変えてみましょうかぁ」

 ユーリカの言葉で俺の武器は短剣、いやもっと短いナイフサイズの木剣へと変更された。



「攻撃はもっと距離を詰めてぇ、即座に離れるぅ」

 セリフはのんびりとしているのに何故攻撃はこんなにも素早いのか……


 ユーリカの指導で距離の詰め方、離れるタイミング、躰の動かし方を覚える。


 最初は至近距離での闘い、相手との距離を詰めることに恐怖があったが、だんだん躰がスムーズに動くようになって来た。どうやら俺にはこの戦闘スタイルがあっているようだ。




「はぁい、今日わぁここまでにしましょうかぁ」

「はぁっはぁっはぁっ……あ、ありがとう……ございました」

 舌を出し息を切らせながら返事をする、頑張った……頑張ったよ……俺……


「いいですねぇ……

 私も久しぶりに躰を動かしたくなってきちゃいましたぁ、明日からも楽しみですねぇ……

 ふふふ……」


 タノシミデスネ……



 特別訓練が終わると。時刻は夕食間近になっていた。あれ?魔術の訓練は?


『Ogon' Strelyat' /火撃/ファイアショット』

 空気を震わせ低い音を立てながら炎の固まりが前方へと放たれる。

 皆は既に次の段階の魔法訓練、各属性に合わせた攻撃魔法の最中だった。


 ガレットの放った魔法が的に当たり大きな炎となって包み込む。

 アンジェの魔法は炎は大きくないが的の中心を捉え、その跡が深く刻まれる。

 イーサンは最初はでかい炎があがるのだが距離が延びるとその威力が弱まる。

 同じ魔法でも個人個人の資質や技術によって大きく変わるようだ。



「ヌィくんはマナの練り方、流し方といった基礎訓練をしよう、

 資質が現れた時に出来ないと困るからね、なんだったら私が毎晩指導するよ」


「大丈夫です、わたしがみますっ」

 腕を広げたアンジェが飛び出してソフィアを留めてくれた。

 おかげでソフィアとの個人レッスンは回避することが出来た。

 本当に良かった……ありがとうアンジェ。


 フレアからは食事後や就寝前に少しでも自主訓練をするようにとだけ念を押された。

 それで本当に魔法が使えるようになるといいんだけれど……




 何はともあれ、この日より本格的な訓練が開始されたのだった。



 ▶▶|


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