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犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第二章 ロードスター
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第二十話 パラサイティック クイーン ワスプ


 GyeeeGyeeeeehhhh……

「ぐはっ」

 男の顎が大きく開き、ギルド長の首筋に喰らいついた。

 既に命は尽きていると思っていた男の襲撃、その状況の異常さに俺は背筋を凍らせる。


 小さな苦痛の声をあげ、小刻みに震えながら力なく倒れるギルド長。


 喰らいついた男の顎がズルリと崩れる……


 人のモノとは違う黒く鋭い顎が左右に開き威嚇する、

 広げられた透明な翅が空気を震わせ、不快な翅音が低く響く。


 裂けた男の首からは黄色と黒の警戒色に彩られた躰が姿を現し、

 最後にその先端の毒々しい針が露わになった。


 女王蜂……そんな言葉思い浮かぶ、パラサイティックワスプの生き残りだ。


 今まで倒したハチが小鳩ならコイツは猛禽類と言っていいだろう。それは単に大きさだけのことでなく、纏っている雰囲気がそう感じさせた。

 巣の中でのんびりしていたのはそれだけ育った躰を羽化させるのに時間が掛かっていたからなのだろうか。そのまま巣に籠ってくれてたら良かったのに。



 女王蜂は不快な翅音を響かせてホバリングしながら、カチカチと顎を鳴らし、その警戒を俺へと向けた。



「もう、お前で最後だ」

 嫌な感じがするがコイツを放置して逃がす訳にはいかない。

 俺はナイフを抜き、すぐさま斬りかかった。

 が、女王蜂はふわりと攻撃を躱し、近づいた俺に顎、毒針での攻撃を繰り出す。


「あぶなっ」

 素早い攻撃だが、どうにか躰を捻って攻撃を避けて、後ろへ跳ぶ。

 だが女王蜂は距離を詰め、俺にしつこく纏わりつく。耳元で響く翅音と顎をカチカチと鳴らす音、それは不快なだけでなくこちらの動きのリズムを乱される。


 やりづらいな……


 こちらの攻撃はふわりと躱され、相手からの鋭い攻撃を避けるのに必死な状況だ。

 四つ足の獣とその動きが違うのはわかるのだが、空中を自在に動くそれは鳥類ともまた異なり次の動きがまったく予測できない。攻撃の後は間合とって避けたいのに、いやらしく近くに纏わりついて離れない。



 俺の戦い方……ナイフを用いた近距離戦闘とコイツの相性は全くもって最悪だ。

 一旦、全力で逃げて誰かに助けを求めたほうが良いだろうか?


 いや、倒れたギルド長をこの場に残すなんてダメだ。コイツは今までみたハチとは明らかに違う、この場にギルド長だけ残したらどんな目にあわされるかわからない。


 こうして思考を巡らせている間も女王蜂の顎が首筋を掠め、毒針が脇腹を狙う。

 スピードが速く、手数も多い、おまけに毒持ち……厄介な相手だ。


 それならば……俺も手数を増やそう。

 右手に握ったナイフで攻撃をしながら左手を腰に伸ばし、その手にふれいむたんを握って鞘から抜く勢いのまま、先の攻撃の軌跡と交差させる動きで斬り付けた。


 細い爪先が宙を舞い、地面に落ちる。女王蜂の脚の一本が短くなり、その傷口から僅かな煙をあげている。


 ダメージ自体はそれほどでもない。だが、その攻撃で女王蜂は俺から離れて距離をとった。俺を脅威ある敵と認識したのだろう。


 Boooom……GyeeeGyeeeeehhhh……BoooomGyeBoomGyeeehhhh……BGyoogyeeehh……



「ゎうっ なんだこの音っ」

 女王蜂の翅音と顎をならす警戒音、その速度と音量が増し、一層不快な不協和音を奏でる。


 しかし思わず耳を塞ぎたくなるその不快な音は女王蜂だけが奏でたモノではなかった。音の根源を探るとそれは巣となった倒れた男からだ。その皮膚がモゾモゾと動き、傷口から翅を震わせながら這い出してくるハチ達の姿……ゎう、まだいたのかよ。


 這い出した数匹の小鳩サイズのハチが女王蜂を護衛するように囲って周囲を飛ぶ。


「でも、今更お前らが出てきても、もう全然脅威じゃないよ」

 俺は護衛蜂を斬り付ける。一撃目では衝撃を与えるだけで斬れない……が、二撃目は一撃目と異なる方向から斬りかかり、衝撃同士を衝突させ力の逃げ場をなくしてダメージを与える。

 イメージ的にはまな板に押さえつけて斬る感じ?いや止まってるボールではなく、投球されたボールを打ち返すという感じだろうか?



 BooGyeeeeehhhh……


 護衛蜂の数を一匹、また一匹と減らすが、女王蜂が奏でる不快音はその音量を上げる。倒れた男からモゾモゾと這い出す護衛蜂達……一体どれだけいるんだよ……


 護衛蜂にも限りはあるだろうが、俺の体力とどちらが先に尽きるか……

 しかしハチ側もいつまでもこの戦いを長引かせたくはないのだろう、護衛蜂に任せていた女王蜂も攻撃に転じた。


 女王の鋭い顎が俺の首筋に狙いを定め飛び込む。


 迎え撃つ俺の太刀筋はあと少し……女王蜂まで届かない……ほんの少し……届け……


『届ぇええっ!』

 振りぬいた刃先は女王蜂には届かなかった……



 Gyeeeeeeehhhhhh!!


 だが、その刀身が纏った炎が女王蜂を焼く。


 翅を失い地面に堕ち、断末魔の鳴き声をあげ燃える女王蜂。

 付き従う護衛蜂が次々に自ら炎の中へと飛び込んで行く。


 こうして、東コルノ村でのパラサイティックワスプとの戦いは幕を降ろした。






 俺はギルド長を引き摺り、みんなと合流。村の人々は少しずつ意識を取り戻していた。

 そのことは港町へと避難していた子供達とお年寄りにも伝えられ、翌朝には村でお互いの無事と再会を祝い、涙し、抱き合う姿を見る事が出来た。




「私は今回の事件は誰かの手によって仕掛けれたのモノではないかと考えている……」

「……わざとハチに村を襲わせたってこと?」

「あぁ……」

 ギルド長が厳しい表情で語った。巣となった男の身なりにや巣食っていたハチが異常なほど多かったこと、それらを考えると今回の事件が人為的なモノである可能性が高いという。


「この事をタウロスの街へも急ぎ伝えたい、詳細はこの書状の書き記したので頼めないか?」

「ヌィ、引き受けよ」

「うん、おれたちがハンターギルドまで届けます」

 ギルド長からの頼みを受け、港町へは戻らずにタウロスの街へと向かうことを決めた。

 タウロスの街は王都から見て南西の端、今いる東コルノ村より北西に位置する。元々星の結晶があるという噂の地、俺たちも元々向かう予定だった場所だ。



「書状には海獣退治の功績も併せて記載した、今回を含めギルドからの報酬と評価はタウロスで受け取ってくれ、評価は銀星1つだ」

「んふふ……」

「まじっすか……」

「ふふ、これでシルバーランクへと一気に近づきましたね」

 ギルド長のその言葉でシャーロット達の頬が一気に緩んだ。

 シャーロット達にとってこの旅はハンターとしての力をつける為のモノ、それが目に見える評価で現れるというのはやはりうれしいことだろう。




「……ウルスラ……ここのことは頼んだよ……」


 kuuuhh……


 仔熊との別れを惜しむティノ。

 ハチの生き残りがいた時の事を考え、ウルスラには番犬ならぬ番熊として村に残ってもらうこととなった。仔熊はたらふくハチを食べることが出来たこの村が気に入り、村の子供達ともすぐに仲良くなった。ティノも寂しいそうだけれど、その様子をみて納得してくれた。



 竜車はタウロスの街を目指し駆ける。



「あぁぁ!!」

「ど、どうしたのティノ?」

 突然大きな声をだしたティノにアンジェは驚きながらも心配して尋ねた。


「ケートスのお肉、港町に置いてきちゃった……」

 ティノの表情がウルスラとの別れの時よりも悲しそうに感じたのは気のせいだと思うことにしよう……

「んー残念だけど我慢してティノ、また今度狩ろう」

「うん……」

 アンジェはそんな風にティノを慰めるが、またケートスのような海獣と戦うのは勘弁してほしい。



 ▶▶|



「もうちょっとでタウロスの街だよ」

 ティノが竜車から身を乗り出して声を張った。

「パレットもう少しだって」

”きゅぃっ”

 周囲は見渡す限りの平野。長い時間続いたこの広大な景色に少し不安だったが、どうにか日が落ちる前に辿り着けそうでほっとする。これも休まず駆けてくれたパレットのお陰だ。



「ティノさんはタウロスの街にいらしたことがあるんですよね」

「どんなところっすか?」

「えっとね、ごはんがいっぱい食べれるところ?」

「んふふ、ティノってば、でもタウロスで獲れる穀物でブレイクは支えられてるんだって」

 相変わらずのティノだが、王都より南西のこの地域一帯はタウロス穀倉地帯と呼ばれ、特に小麦の生産が盛んらしい。


「あっ、それと街には私の師匠がいるんだよ」

「師匠?」

「うん、私に戦い方を教えてくれたの」

 そう言ってティノは拳を構える。ティノの戦闘は拳や蹴りが主体の格闘スタイル……それを教えてくれた師匠とはどんな人なんだろう……俺はダイアベアのような大男を思い浮かべた。



 ほどなくタウロスの街が見えて来た。


 街を囲う石壁はそれほど高くなく大人の身長ほどだろう。だが絡みつく蔦や木々が高く伸び、覆い、それが街を守っているように感じた。

 建築物は木造が目立ち、そのほとんどが平屋建て。高くとも3階建てがちらほらとある程度だろうか。規模は大きな街だが、緑が多く、どこかのんびりとした田舎の風景を感じさせる佇まいだ。


 遠目に見る限りでは街中を襲うような騒動が起こっているという雰囲気はない。ギルド長の心配は杞憂だったのだろう、そのことに俺たちはほっと息をついた。




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