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犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第二章 ロードスター
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第十三話 ロードマップ


 フレア達からは遠慮するなと言われたが、あまり長居するのも気が引けたのでシャーロット達と同じ宿に部屋を取ることにし、数日後には次の目的地タウロスへ向かうことを伝えた。


 シャーロット達にもそのことを伝え、一緒にタウロスを目指すこととなっている。

 リオーネでしばらく鍛えても良かったのだけれど、行ったことのない場所への旅の魅力が勝ったらしい。それと初っ端からここのギルドに心配をかけたのでちょっと恥ずかしかったというのもあるのかもしれない。



 鍾乳洞から戻ってからは、たっぷりリオーネの食事を楽しみ、温泉に浸かって躰を癒した。

 数日はそんな風にゆったり過ごそうと考えていたのだけれど、その翌朝には無駄に過ごすのは勿体ないと森や山へ狩りに出ていた、どうやら皆想像以上にタフなようだ。






「ヌィ、これも報酬の一部だと思って貰ってくれ」

「自分でも思った以上の出来栄えでした」

 出発の日、早朝にもかかわらずフレア達が見送りに来てくれており、更に餞別まで用意されていた。


「これは……」

 新品の一振りのナイフ、鞘から引き抜くと……その緋緋色の刀身が輝いた。

 頑強そうな肉厚のブレード、それを縁取るエッジも浅く、シャープな斬れ味というよりは骨ごと砕くような威力を秘めてそうだ。

 だがそのナイフの一番の特徴は、切っ先近くに貫通した数か所の孔だろう。

 そして孔の中心には、赤い輝きを灯した小さな黒い鉱物が浮かぶ……星の結晶の欠片だ。


「うわぁ」

 アンジェをはじめ皆が感嘆の声をあげる。


「えっ、こんなすごそーなモノ貰えないよ」

 俺は思わず貰うのを躊躇するが、それに対してフレアは首を横に振る。


「えっと、それは練習台というか試作品というかなんですよ、えへへ」

 ブリジットが言うには、そのナイフはフレアから求められた剣を打つための練習として作成したモノだそうだ。試作品にしては上出来で使わず眠らせておくのは勿体ない、モニター的な意味で使って欲しいらしい。うーん、それなら貰っちゃってもいいかなぁ。


「ブリジットとしては初めての試みだそうだ、構えてマナを流してみてくれ」

「マナを? えっ!?」


 ナイフを握るとその刀身が赤く染まり熱を帯びる。熱気は周囲の空気にまで伝わった。

 ぎゅっと握った拳から更にマナを流すと、ぼっと刀身が赤い炎に包まれる。


「こ、こんなすごいモノ……」

 フレア、リオ、ブリジットからまだ言うつもりかと睨まれた……これ以上は遠慮しない方がよさそうだ。


「な、名前を付けた方がいいんじゃないかな、えーとヒートナイフ?ファイアソード……フレイムタン……」


「ふれいむたん?」

「あら、かわいい名前ねっ」

 アンジェが首を傾げながら発した発音をリオが気に入り、ナイフは【ふれいむたん】と名付けられた。うーんちょっと俺が持つにはかわいらしすぎるけど……名前を叫びながら攻撃する訳でもないからまぁいっか。




「タウロスでの用事が済んだら、一度星降りの街へ戻る予定なのだろう?」

「うん、どれくらいかかるかはわからないけど、そのつもりだよ」

「うむ、私とリオはしばらくしたら王都へと向かう予定なんだ」


「わぁ、そうなんだ、それならきっとまたすぐ逢えるね」

「あぁ、王都で一緒に潜る機会もあればいいな」

 アンジェの言葉にフレアが微笑み応える。フレアとリオは無事に試練を成し遂げたので、これから王都で師についてより多くの文武を身に着けるらしい。

 でも潜るというのは何だろ?王都にはプールがあるのかな、これから暑い季節になるし。



「では道中お気をつけて」

「王都で待っているぞ」




”きいぃ”

 竜車はリオーネの街を後にする。パレットには久しぶりの運動で嬉しそうだ。


「リオーネの領主様のご子息と友達だなんて驚いたわ」

「うん、わたし達も驚いたよ」

 シャーロット達はフレアと友達だったことに驚いていたが、アンジェも俺もフレアが領主の子だったなんて初めて知った。

 フレアは領主を目指すのだろうから、今後は一緒に狩りをしたりは出来なくなるだろう……王都で逢えるという機会を大切にしよう。




「そういえばシャーロットの魔法剣もこの【ふれいむたん】みたいなモノなの?」

 俺は自分の腰に差したナイフとシャーロットの腰の細剣を比べながら尋ねた。

「似てるけど少し違うわ、あくまで私は自分の持つ属性の魔法を剣を通じて放っているの」

 シャーロットが使う魔法剣、それは自分の持つ属性、風と水の魔法と剣技を合わせたモノだという。

 発動する為の重ねる魔法の言葉は少ないが、代わりに剣捌きで魔法の動きや効果を補っているそうだ。


「だったらアンジェなら四属性の魔法剣が使えるようになるってこと?」

 アンジェは魔法だけでなく剣の腕もいい、魔法剣を使えるのなら習得すべきだろう。

 頑張れば俺も氷と雷の魔法剣を使えるようになるかな……いいかも。


「そうね、アンジェには魔法剣の素質があるかもしれないわね」

「えへへ、そうかなぁ」

 魔法剣を使用するシャーロットからのお墨付きを得て照れるアンジェ。

 ただ使えるようになるには剣技を覚える必要があり、更に専用の剣も必要となるらしい。

 シャーロットは風と水の属性魔法が使えるので、その属性を持つ宝珠で魔法を増強するように作られた剣を使っているそうだ。

 アンジェの場合は四属性の宝珠を備えた剣が必要になる……技術も装備となると能力を獲得するまでの道筋は容易ではなさそうだ。


「守られているだけじゃなくて前に出て戦える力が手に入るのか……」

 アンジェは真剣な目で前を見つめ、小さな拳をぎゅっと握った。




 魔法剣を使う為には属性毎の資質を持つ必要があるのに対し、【ふれいむたん】は火の魔法属性を持っていなくとも使うことが出来る。星の結晶と非緋色の金属のおかげで流したマナを火の魔法に変換出来るとブリジットは言っていた。ただ良いところばかりではなく、魔法が使えるとはいっても刀身に熱を持たせたり、炎を纏わせる程度で多彩な火魔法を再現するのは難しいだろうとのシャーロットの見解だ。


 でも火属性を手に入れたフレアの新しい剣はまた違うモノになるのかもしれない。王都で逢う時には手にしているだろうからどんな技を使うのかが今から楽しみだ。





「もうすぐ別の路と合流するけど、このまま真っすぐ進めばいいみたいだよ」

 御者台で俺の隣に座り地図を広げるアンジェ。リオーネで購入した新しい地図だ。

 竜車は次の目的地、タウロスの街を目指して西へ進む。


「合流地点に竜車を停められる場所がありそうだね、少し休む?」

「やったぁ、ごはんだぁ!」

 喜ぶティノの声で、路の合流地点での休憩が決まった。

 路脇の木陰に竜車を停め、少し凝った躰を伸ばす。




「よし……早速出番だ」

 俺は腰から【ふれいむたん】を抜き、マナをゆっくりと流し込む。

 ボォッと空気が弾け、刀身が炎に包まれる。


 集め小さな枯れ枝にその炎が移り、鍋のスープを温め始めた。


「いいね、これは便利」

「うんうん」

 これなら火魔法が使えない俺でも料理が出来る。ちょっとはアンジェも楽になるだろう。

 頷くティノもこれで食事の準備が捗ることを喜んでいるようだ。




「こういう使い方はどうかなぁ……」

 火喰鳥の肉にフレイムタンをゆっくりと滑らせる。肉を薄く削ぎながら、同時にその熱で調理をおこなう。肉を削いで皿に盛る間に、焼き色が着き、肉汁が零れ泡立つ。

「うわぁ……おいしそう」

 アンジェもその出来に期待の眼差しを向ける。


 初めはなかなかよさそうだと思ったけれど、難点はちょっと時間が掛かりそうなことかな。お肉は薄く切らないと焼くのに時間が掛かり、薄くするとその分切る回数が増えて大変だ。

 まとめて切って鉄板で焼いた方が早く仕上がるとは思う。それでもあまり荷物を持ちこめないようなダンジョン探索などでは重宝するだろう。


 いいモノを貰ったとフレア達に改めて感謝した。




 食事を終えた後、温かい日差しに少しのんびりと休憩しつつ、地図を広げた。


「この広い方の路をずっと東へ行くとお隣の国、オリーブに通じているらしいっすよ」

 カプリスは合流した道の進行方向とは反対側を指し示した。しかし描かれた道はリオーネ山脈にぶつかり途切れている。


「まぁ両国の許可がないと通行することは出来ないですけどね」

 山脈を貫通する大トンネル、そして両端には検問所があって沢山の兵士でもいるのだろう。

 俺がそんな想像を働かせていたが、どうやら違うらしい、魔法的なナニかで通行を制限されているそうだ。

 行く機会があればいいなとは思ったが、まだまだ先の話かな。

 先の話……俺はこの先、この異世界でどうやって生きて行けばいいのだろう。将来のことも考えなくてはいけないが、それにはまだ知らないことが多すぎる。



「どうかしたのヌィ?」

 ぼんやりしてる俺を心配してアンジェが顔を覗き込む。

「うん平気、ちょっとこれからのことを考えてただけ」

 考え込むよりも、やらなくちゃいけないことがある、まずは星の結晶を集めだ。


 ひとまずはタウロスに星の結晶があるらしいということで目指しているが、その詳しい場所までは不明だ。それにタウロスで手に入る結晶だけでなく、他の属性の情報も集めながら旅をしなくちゃ、すぐそばにあったのに気付かず通り過ぎたりしたらちょっとまぬけだ。


「うんうん、私も今日のおやつは何かなぁ、晩御飯は何がいいかなぁって考えた」

「ふふ、ティノってば」



 この時は俺も一緒にティノのことを笑っていたのだが……



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