第五話 ハンター講習 近接と遠隔とパーティ編成
「はぁぃ、それでわぁ、今から参加者同士で戦って貰います」
いきなりのユーリカの言葉に皆が驚く。なにそれこわい、いきなりバトルロイヤルもの?
貸し出された革製の防具を身に着け、武器を握る……が、ただの木の棒だった。
どうやらこれから行われるのは近接戦闘、剣や槍で戦う戦闘の訓練だそうだ。
ここでは構えや型を教えてくれる訳ではなく、対戦形式で稽古をするらしい。
武器が木の棒なのは初訓練で皆の実力も不明だから安全を考えてのことだろう。
「よしっヌィ、相手をしてやるから掛かってこい」
貴族っぽい赤髪少年、フレアが俺に呼び掛ける。持っているのは棒きれだが、その構えは妙に様になっている。恐らく剣術の心得があるのだろう。
武器が木の棒で訓練だとは言っても異世界での初めての対人戦。
いよいよ……おれの実力を魅せる時が来たか……
俺は上段に構え、摺り足で静かにフレアへとにじり寄る。
「たぁっ!」
その掛け声とともに真っすぐ振り下ろし勢い良く叩きつけた……っ……地面を。
「何をやってるんだ……」
フレアに呆れられながらも気を取り直して攻める。
だが結果は散々……俺からの攻撃はかすりもしなかった……
「……では一応こちらからも打たせてもらうぞ」
フレアが真っすぐに構える……くっ、なんだこの気迫……これただの棒だぞ。
フレアの攻撃が俺の右肩に向けて振り下ろされる。
だがその時、棒の動きに合わせて俺の躰が自然に動いた……
棒のある方に……
カンッと響く乾いた衝突音、フレアの初撃を俺はどうにか受け止める。危なかったぁ……
一旦距離をとるフレア……
だが素早い洗練された動きで次撃が左から繰り出される。
こっちかっ、その動きにすぐさま反応した俺!
だがなぜか振り下ろされる棒の真下に動いてしまった。
構えた木の棒で受け止め、乾いた音が鳴る。
あれ……なんだろうこの感覚……
フレアの攻撃が続く……
素早い連撃、カカンと衝突音が連続して響く。だんだん攻撃の速度に慣れて来た。
だが次の攻撃は遠い、俺から半身は離れた位置だ、間に合えっ……
よしっ!
「……なんで避ける必要のない離れた攻撃までわざわざ受けに行くんだ?」
フレアが最後に放った攻撃……
それは全く反応する必要のない的外れな場所に振り下ろされたモノ。
全ての攻撃を止められて疑問に思ったフレアが試した無意味な攻撃。
俺はまんまと釣られてそれをまっすぐ正面で受け止めてしまった。
「う……だって棒を追いかけるのが楽しくて……」
尻尾がうれしそうにぶんぶん左右に揺れている。
自然に出た台詞で俺自身やっとその理由に気が付いた。
「まぁ……それでも反応速度と判断は良いですねぇ、防御に関してわぁ合格です」
「やったっ」
ユーリカの言葉に思わず喜びの声が洩れる。
魔法もだめ、剣もだめで不安だったが、なんとかしぶとさはありそうだ。
まぁ受けなくてもいい攻撃まで受けに行く癖は直さないとだめなのだろうけれど。
最初は呆れていたフレアだが、攻撃訓練には丁度いいと乗り気になってきた。
フレアが攻めて俺が受ける、近接戦闘訓練ではこの形が定番となっていった。
だが決して×表記ではないのでそこだけは十分注意してほしい。
途中、対戦相手の交代も試されたがレイチェルと俺との対戦は酷かった。二人とも攻撃が苦手、レイチェルは躱すのが割とうまい、まともな訓練にはならなかった。
全体を見ると一番剣の腕が良かったのは自分で言うだけあってフレアだった。次点でガレット、本人が言うには槍の方が得意だそうだ。
イーサンは左手を前に突き出して右手で剣を真っすぐ振り下ろす。その動きはとても速いのだが、それは剣術ではない、ハンマーを振り下ろす鍛冶屋の動きだ。
素早さで言えばクラリッサだろう、威力はないのだがその速さで何度も突いてくる。
オフィーリアは威力も素早さもそれほどないのだが、何故か男子との対戦成績が良い、皆何かに誘導されるように動かされていた気がする。それでもフレアだけは惑わされず相変わらずの剣裁きだった、まさか本当にフレアのターゲットは俺ではないだろうな……
アンジェは剣に関しては平均といったところだろう、跳びぬけて良いところも悪いところもない感じ、基本魔法攻撃だが必要ならば前に出ても戦えるタイプだろうか。
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「魔法、近接戦闘につづいてわぁ遠隔攻撃の訓練を行います」
用意された武器は弓と矢、そして投石器などシンプルなモノ。
離れた場所に立てられた的を狙って遠隔攻撃訓練を行うらしい。
「地味に感じるかもしれませんが、ハンターとしては重要な技術ですよ」
各自武器を握り的へと向かい、ユーリカとソフィアが順に周って指導を行う。
この訓練でわかったことがある……それは予想通りと言えば予想通り……
俺には弓の才能もなかった。
弓の腕ではオフィーリアがトップ、続いてはレイチェルだった。
しかもレイチェルは弓だけでなく、投げナイフ、投石と様々な武器を器用に使いこなす。
アンジェは近接戦闘に続いて遠隔攻撃でも平均以上の腕前を見せた。
魔法については言うまでもなく非常に優秀だ。
俺はこんなことで何か彼女の役に立てるのだろうか……非常に不安だ。
そして遠隔攻撃の訓練中に事件は起きた。
レイチェルがブーメランを投げた姿が目に入った瞬間。
気が付くと俺は駆け出し……追いつき……跳び付いて空中でブーメランを咥えていた。
本能って怖い。
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「皆さん実力もなんとなくわかったと思うのでぇ、これからパーティを組んでください」
「明日からはそのパーティで行動してもらう、魔法属性も考慮したほうがいい」
一通り訓練が終わった後、ユーリカとソフィアの2人からそう言い渡された。
なんだその修学旅行のグループを作れみたいなのは……
異世界に来たばかりで知り合いもなく、剣の腕も魔法の力もない俺には厳しい……
あぶれたヌィ君は先生と組みましょうねとなる可能性も……身の危険を感じる。
皆がガヤガヤ騒ぎだした、これなかなか纏まらないやつかなぁ……
「みんな聞いてくれ、ここはバランスを考えて2組みに分けないか?」
背の高い金髪少年の発言、それに皆が注目する。
「まずは順に各自の魔法属性を教えてくれ、そこから考えよう」
たしか名前はガ……ガ……ガレット、うん覚えてるよ。一番年上、親戚の兄さん。
いい仕切りだ、これで話が先に進む。属性の自己申告は俺に少しダメージがあるけど。
「じゃぁ、まずキミは……アンジェ、四属性持ちだな」
「はい、私はヌィと一緒がいいです、講習が終わっても一緒なので」
アンジェが俺の腕を引き寄せて組みながらそう答えた……天使がいた。
救いの手が差し伸べられ、これでソフィアと二人きりという事態は回避された。
「おっ、おお……そうかキミがヌィだな」
「はい、えっと魔法は全滅だったので……組み合わせ的にはいいと思うんだけど」
と、これに皆も同意してくれたので2人は同じパーティになれそうな感じだ。
「では次に魔法属性が多かったのは……イーサンだよな」
「あぁ火と地だ」
イーサンと呼ばれた筋肉質の少年、見た目は魔法が得意そうには見えない。
そうだ、火と地の属性持ちと解かった時に大声をあげていた、鍛冶見習いをしていて嬉しい属性だったとか。
「じゃぁイーサンは別パーティで……そのメンバーには風と水属性持ちが必要かな」
「アンジェ以外の風属性持ちは私だけだったはずよ」
名乗り出たのはクラリッサ。緑の瞳が印象的な金髪セミロングの少女。
何か他の人とは違う雰囲気を感じる……お嬢様ってやつなのだろうか。
「水属性持ちは二人……フレアとオフィーリアだったかな」
「あぁ」
赤髪のフレアが返事をする。
「フレア君がそっちなら……私は順番を譲ってもらったしヌィ君と一緒がいいかな」
「……ぁ、あの……私も譲って貰ったんで一緒に……属性は地だけど……」
おっ……オフィーリアが俺の後ろから近づいたので柔らかい感触が背中にあたる。
更におとなしいレイチェルまで自ら一緒のパーティを希望してくれた。
なんだこれ……モテ期か、モテ期なのか……ハーレムパーティというやつか……
「ん……それだと属性バランスはいいが、そちらは前衛が少なそうだな」
フレアの指摘に俺たちは顔を見合わせる。
「私、剣はあまり得意じゃないかな……武器は弓を考えているんだけど……
そうだね、私がそっちに入った方がバランスいいみたいね」
くっ……貴重なおっpオフィーリアが別パーティに……
だがフレアの指摘も最もだ、今の俺の力で3人を守れるかというと厳しい。
「じゃぁアンジェ、ヌィ、レイチェル、フレアのパーティと……
イーサン、クラリッサ、オフィーリア、そして俺ガレット、これで決まりだな」
魔法属性に不足はなく男女比もちょうど2:2
オフィーリアが俺の背中にくっつていた時はアンジェが少し頬を膨らませていた気がしたけれど……今は機嫌が良さそう。ここはハーレムよりバランスをと言うところだろう。
「リーダーはヌィでいい?」
「いや……おれは知らないことが多いからアンジェの方が向いていると思うよ」
「……ぇっと私は自分以外の人にお願い出来れば……」
パーティーリーダーもこの場で決める必要があるのだが、アンジェは俺が良いと言い、俺はこの世界の知識が無いからリーダーに向いていないと思いアンジェを勧め、レイチェルは自分以外でお願いしますと決まらない。
「……では私がやろう」
そんなところでやれやれとフレア、どうぞどうぞとリーダーが決まった。
講習は15日間、ここにいる8人がこれから苦楽を共にする仲間となった。
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