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犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第二章 ロードスター
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第五話 ロードクローズド


「うーん、地図だと真っすぐ森を抜けるはずなんだけどなぁ」

「そうだよね、どうして路が無いのかな」

 竜車を停め、地図を見つめる御者台の俺とアンジェ。

 地図では路が南東のリオーネ山岳地帯まで真っすぐ伸びているのだが、実際には森の木々が塞ぎ行き止まりとなっている。



「まぁ無いモノはしょうがないわ、折角森に来たのだからちょっと狩りをしない?」

「おぉいいっすね」

「そうですね、今から狩れば昼食に丁度良いでしょう」

「うんうん、賛成!」

 そんな客車の四人の声。

 まぁそれもいいだろう、最悪、今日は王都まで引き返して明日出直すという手もある。



「じゃぁ私とヌィは残るから、狩りは四人にお願いするね」

「大荷物は運べないからティノは狩りすぎないように、それと3人と一緒にいてよ」

 リトルスクエア&ティノに狩りを任せ、アンジェと俺は休憩場所の準備を進める。


「ん~んん~ん~~♪」

”きゅぅぅぅうう”

 魔法で周囲の雑草を刈ったり地形を整えるアンジェ、何かご機嫌で鼻歌交じりだ。

 つられてパレットも歌うように鳴く。

「ふふ、なんか嬉しそうだね?アンジェ」


「ん?そうかなぁ、んーー森の樹々に囲まれてるからかも?」

 小首を傾げたあと、その理由に辿り着いたアンジェ。

 アンジェは元々大樹の森で暮らしていたから、この環境が過ごしやすいのかな。

 長くダンジョンに閉じ込められていたし、戻ってからも体力が回復するまで森に入るのは控えめにしていたしなぁ。

 ここで行き止まりに当たったことは案外良かったのかもしれない。



 ▶▶|



「やっぱり、少し場所が違えば獲物も違うわね……」

「そ、それでこそ旅に出た甲斐があるというモノっす」

「まぁ私はお昼は少し控えめにしようと思っていただけです」

「……はぁぁぁ」


「おかえりなさい、あれ?」

 出迎えたアンジェが首を傾げる、森から戻った四人は何か疲れた顔だ。


「元気がないね、どうしたの?何かあった?」

「ヌ、ヌィィィ……おさるが、おさるがぁあ」

 俺に抱き着き涙目のティノ、よしよし……本当に何があったんだろう。


「ティノさんが袋いっぱい集めた桃色の実をおさるに盗られたっす」

 狩りは意気込む3人に任せ、続くティノは木の実や果物を採取していたらしい。

 そして少し高い場所の実を取ろうと木に登ったところ、地面に置いていた袋をおさるに持って逃げられたそうだ。

 3人を残しておさるを追いかけることも出来ず、こうして戻って落ち込んでいる。


「そっか残念だったね、でも誰かが怪我したとかじゃなくてよかったよ」

「うん、今は用意した食事を食べて元気だして」

 アンジェが鍋の蓋を開けると美味しそうなスープの香が漂った。


「う、うん!」

 その香でティノは元気を取り戻した、ちょろい。




「これみんな、アンジェが作ったの!?おいしいわね」

「いやぁ、アタシの肉料理も一緒に出したかったっす」

「カプリスの作るモノより繊細ですね」

 切株のテーブルに並ぶのは野菜スープとパスタにサラダ。


「そうでしょ?アンジェの料理は美味しいんだ」

 そう言って胸を張るティノ、材料のほとんどは王都で仕入れたモノだがアンジェに掛かればこの通り、たぶん火加減とか塩加減とか繊細な調整が上手なのだろう。

「ヌィも料理上手なんだよ、あの焼き芋はおいしかったなぁ……」

 続けてティノがそう語る、ユーリカといいあのお芋は大人気だな。


「まぁ、男の子の料理なんてそんなものよね?ふふ」

「お芋でしたら私も焼けます」

「いやいや、たかが焼くだけなんて思ってちゃダメっすよ二人とも、難しいんっすよぉ」

 うんうん、2人と違いカプリスがそう言ってくれるのは嬉しい。


「じゃぁ、おさるに果物を盗られちゃったティノとうれしいことを言ってくれたカプリスにはデザートをお先にどうぞ」

 俺はカップで冷やしていたデザートを2人の前に。


「わぁウーズみたいだけどいい香りだね」

「おぉゼリーじゃないっすかぁ、へぇぇすごい綺麗、それに柑橘の香がたまらないっす」

 お皿に移すとゼリーはかわいらしく揺れた。


「え?これをヌィが作ったの?」

 シャーロットの目が大きく見開いてこちらを向く。

「うん、昨日案内してもらったお店で材料を買っておいたんだ」



「ん!おいしぃ、おさるのことはもういいや」

「これは王都で食べたモノより柔らかいっす、それに甘くて……ひんやり冷たくて」

 スプーンで掬い一口目を口にした2人の感想が零れる、気に入ってくれてよかった。


「透明度が違いますね、水量?でも増やせば固まりにくいはず……カプリス一口ください」

「いや、クロエはお昼は控えめにするって言ってたっす、既に食べすぎてるっすよ?」


「ヌ、ヌィ、私たちの分はないの……?」

「えっと、カップは3つしかないんだけど……」

 え?俺の言葉に涙目のシャーロット、そんなに!?


「私は食べたことあるから2人で分けて、いいよねヌィ?」

「う、うん、はいどうぞ」

「ぅぅ……ありがとう」

「申し訳ございません、ありがとうございます」

 そんなにありがたがらなくても、夕食用に大きい容器で作ったのがあるんだけど……


「んんっ~おいしいわ」

「えぇこれは良いモノです、しかしシャーロット食べ過ぎですよ、残りは私の分です」




 なんだか騒がしい食事を終え、俺たちはこれからの行動について相談を始める。


「うーん、どうして行き止まりなんだろう」

「まっすぐでいいはずなのにね」

 手にした地図を見てもわからず、俺とアンジェは一緒に首を捻る。



「え?それってどこの地図なの?」

「「え?ブレイクの地図だよ?」」


「これは……かなり古い地図で今のモノとは大分違いますねぇ」

「「え?そうなの?」」


「うん、目指すリオーネの街の場所も違うっすよ?」

「「え?そんなに?」」

 リトルスクエアから次々と入る指摘。



「あったわ、見て、これが今のブレイク王国の地図よ」

「「おおっ!」」


 シャーロットが自分の鞄から地図を取り出した。

 見比べると俺たちの地図では南東の端だったリオーネの街が大分中央寄りにある。

 そこへ至る路も記されており、どうやら森をまっすぐに抜けるのではなく、曲がりくねった山道を進むようだ。


「遥か昔、リオーネはずっと東にあったと聞きます、それがこの地図の場所なのでしょう」

 むむ、月の神殿で手に入れたこの地図はそんなに古いモノだったのか……


「しょうがないわね、じゃぁ私が地図を見ながらナビゲートするわ」

「助かるよシャーロット」

「うん、よろしくね」

 俺とアンジェは礼を言い、荷物を退かして御者台にシャーロットの席を用意した。


「ふふ、まぁ任せてちょうだい」

 お陰で地図を買いに王都まで戻らなくちゃという事態は避けられそうだ。




「今の位置はこの辺りね、王都へ戻る途中で左、山の方へ進むみたい」

 すぐにシャーロットの示す道は見つかった。

 南へ向かってその細い道を進むと、やがて森を抜けて山の麓へ辿り着く。


「パレットここからはゆっくり走ってね」

”きゅ”

 アンジェがパレットに速度を落とすよう伝える。

 道は凹凸が増し道幅が狭まり曲がりくねっている、安全運転を心掛けた方が良いだろう。



「ここから先は山道かな?、そろそろ暗くなって来たけどヌィどうする?」

「夜の山道は避けたほうがいいよね、今日はこの辺りで野営地を探そうか」

 アンジェとそんな相談をしていると、シャーロットが地図を見せて来た。


「この先に湖があってロッジがあるみたい、そこに泊まるのはどうかしら?」

「いいっすね、旅っぽいっす!」

「ええ、気分が高揚しますね」

 どうやら、今日の宿は決まったようだ。




「あったっ!あそこよ」

 嬉しそうに声をあげるシャーロット。

 辺りが夕闇に呑まれ始めたころ、湖畔に佇む小さな建物に辿り着いた。


「こんばんは、今晩泊めてほしいんですけど」

 俺は木製の扉を開けて声をかける。


 …………


 返事はなく、建物の中に灯りは無く、室内は暗闇に包まれている。

 管理人がいると聞いたのだが、人の動く気配もない、一体どうしたのだろう。

 神経を研ぎ澄まし、建物の中を探る。


 ……ぅ゛……ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛……


 微かに聞こえる小さな唸り声……警戒しながら慎重にその出元を探す。


 暗闇の中、床を這いずるように僅かに震えるその影を見つけた。




「た、大変、おばあちゃんしっかりして」

 それは床にうつ伏せに倒れこんだ老婆の姿だった。




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