第四話 ロードトリップ
「あれ?、そういえばギルドでパーティの登録まだしてないよね?」
「「あー」」
朝食を終え、ティノにそのことを言われるまで俺もアンジェもすっかり忘れていた。
王都でのパーティ登録、それはハンターの義務という訳ではない。
だがユーリカにしなさいと言われたのでしないという選択肢はない。
パーティ登録をする理由としてはパーティというくくりを作ることで、ギルドや人々から認識されやすくするためだそうだ。
実力や名声が認識されればパーティを指名して高額報酬の依頼をされることもある。
また、パーティの依頼達成実績は各地から王都に集められるらしく、それによりおおよそのパーティの所在場所を確認できるとのこと。
俺たちがしなさいと言われた理由は後者、待っている皆を安心させるために必要なことだ。
▶▶|
「戦力のあるパーティがいいわね、その方が少しは家族も安心できるし……」
ギルドに着くと、受付カウンター近くで周りの様子を伺うシャーロットが居た。
「でもお荷物になるのは嫌だし、男性ばかりのパーティも避けた方がいいわよね」
なにやらブツブツと呟いている。
「出来れば強い女性がいるパーティ、でもそんな都合のいい条件は難しいかな」
なにか悩んでいるのだろうか。
「あっ、アンジェ、ヌィ来てたの!」
そっとしておこうと思ったらシャーロットがこちらに気付いた。
「うん、昨日は登録するの忘れてたから」
「あーなんかいきなりギルド長室に通されたりしてびっくりしたものね」
アンジェの言葉にシャーロットが頷く。
「だったら右端の受付がいいわ、ヴィヴィアナの説明はわかりやすいの」
そう言って示した先ではショートカットで笑顔の女性が元気に受付をしていた。
「ありがとシャーロット、ティノのこともあとで紹介するね」
ありがたく彼女のおすすめに従い、俺たちは右端の窓口の最後尾へと並んだ。
「はい、お待たせしました、どのようなご用件でしょう」
俺たちの番となり、受付のヴィヴィアナが笑顔で迎えてくれた。
「んーっとまずはパーティから出るんだよね?」
ティノが俺たちに尋ねる。
ワイルドガーデンは解散すると言ったが今ではない、神殿でガードを続ける間は存続だ。
なのでティノだけ先に抜け俺たちと新しいパーティを結成することになっている。
「ワイルドガーデンからティノ・ビストートが抜けて俺たちと新しいパーティを組みます」
「では、ハンターホルダーをご提示ください」
俺が伝えるとヴィヴィアナからの言葉を受けて、ティノがホルダーを手渡す。
「はい、シルバーランク、ティノ・ビストート様本人ですね、確認しました」
「シルバーランク!?」
少し離れた場所からシャーロットの声が聞えた。
「失礼ですが、お二方のハンター登録はお済なのですよね?」
「はい、星降りの街で登録してます」
アンジェが少し緊張気味に返事をする。
「では、ハンターホルダーのご提示と登録するパーティ名をお教えください」
「ワイルドフラワーズ!」
元気に宣言をするティノ、ワイルドの名を分けて貰ったパーティ名がお気に入りみたい。
「はい、登録いたしました、他にご用件は大丈夫でしょうか?」
「えーっと火の山へ行くんだよね」
「うん、リオーネ山岳地帯へ向かいます」
続いてティノとアンジェがこれからの行き先を告げる。
「リオーネ山岳地帯へ向かうって言った?」
その大声に振り返ると、シャーロットが目を真ん丸にしてこちらを見つめていた。
「は、初めましてリトルスクエアのシャーロットです」
「聞いてるよ、昨日二人と一緒だったんでしょ、わたしはティノ、ティノ・ビストート」
緊張気味のシャーロットがティノと挨拶を交わし、俺たちはギルド内のテーブルに着く。
「それでえっと、3人はリオーネ山岳地帯へ向かうって言ってたわよね、合ってる?」
「そうだよ火の山へ行くんだ」
「まずはリオーネの街まで行くの」
シャーロットの質問にティノとアンジェが答える。
「わ、私たちも一緒に同行させてもらえないかしら!?」
またもや大きな声をあげたシャーロットに驚かされる。
「調子はどうっすか?ってそう都合よく見つかる訳ないっすよねぇ」
「えぇシャーロットですよ?いろいろ文句をつけて選り好みしているに決まってます」
そんな中、丁度良く姿を現したリトルスクエアの2人。
「えぇっと、まずはお互いの事情をもうちょっと詳しく聞いてから決めない?」
「えぇ、お願い」
シャーロットが力強くうなずき、首を傾げながら2人も席へと着いた。
「おれたちの旅の目的は星の結晶を探すことなんだけど……」
旅の目的とまずはリオーネの街へ行き、火の山の探索をするつもりであることを伝える。
「見つかるまでどれくらい掛かるかわからないし、その後も王都へ帰らないでタウロス穀倉地帯へ向かうんだよ」
「リオーネへ行けて、更に南側を広く旅出来るってことよね」
「マジっすか……」
「願ったりですね」
アンジェがすぐに王都へと戻れないことを伝えたのだけれど、3人の反応は予想と反して益々乗り気だった。
「シャーロットたちの目的と都合はどうなの?」
「今の私達では王都で潜って稼ぐには力が足りない、だからもっと強くなりたいの」
「王都近郊はハンターが多くて、駆け出しハンターが腕を磨くには厳しいっす」
「王都で成功しているハンターはリオーネで鍛えた者が多いという噂です」
「だから、リオーネまでの同行させてもらえれば、それで第一目標に大きく近づくの!」
王都から離れる往路の同行者が欲しいのか、それならば問題はなさそうかな。
「でも出来ればタウロス穀倉地帯へも行ってみたいわ」
「いろんな獲物を狩れるようになりたいっすからね」
「なのでまずはリオーネまで、その後はお互いの事情しだいということでしょうか」
その意見を聞き、俺はアンジェとティノに視線を向ける。
「ねぇヌィ、わたし一緒に行くのがいいと思う」
「「「おぉ」」」
予想していなかったティノからの要望、3人とは逢ったばかりなのにどうしてだろう。
「わたし、この旅にはカプリスが必要だと思う!」
「マジっすか、アタシの力がいつの間にか世間に知れ渡って!?」
「それなら私の方がカプリスよりも強いわよ」
「えぇ、カプリスは私たちの中でも最弱」
「ちょっと何いってるんすか2人ともっ」
3人はじゃれあい始めたけど、カプリスの名が出たことで俺はティノの真意を理解した。
「えっとカプリス、もしかしたらこの旅は大変かもしれないよ?」
「ちょっとヌィまでカプリスを一番評価しているの!?」
シャーロットが言葉を挟むが俺は続ける。
「昨日は忙しかったんじゃない?」
「え?確かにお昼過ぎからはそりゃ串焼き機械のよう焼きまくってたっすから……あっ」
「そういうことですか」
「どういうことよ?」
カプリスとクロエも理解したようだ、ティノが肉串の為に同行を希望したことを。
「…………や、やるっす」
「やったぁ!」
しばし熟考の後にカプリスは決心し、ティノは歓喜の声をあげた。
「でも、ティノ遠慮しなくちゃダメだよ?」
「うん、昨日は久しぶりだったし、しばらく食べられないと思ってたからだよ」
ティノに釘を指すアンジェ、俺はアンジェはどう思っているのか問い視線を向ける。
「うん、私もみんなと仲良くなれたし、一緒に旅が出来るのは嬉しいよ」
「「「おぉぉ」」」
「やったっじゃぁいいのね?どうしよう?出発はいつ?竜車の手配は?まず何から……」
「落ち着いてよシャーロット、まだ了承を得る必要がある仲間がいるんだ」
▶▶|
「わっ、自分たちの竜車を持ってるの?」
ギルドを離れて宿に停めている竜車まで皆と一緒に戻った。
「うん、旅の為に作ってもらったんだ、だけど大きくないから荷物は少なめにね?」
「いや、いい竜車っす、乗合竜車も考えてたんで比べたら全然快適っすよ」
「えぇわかっています」
「いい竜車でしょ、ロブスターっていうんだ」
「ロードスターでしょティノってば」
自慢げなティノの間違いをアンジェが正す。
でもこの竜車のことは俺もちょっと自慢したい。
|◀◀ × ??
「ん……お待たせ」
「すごいねハンナ、完成したんだ」
「うん……これは我ながらいい出来」
「ぇへへ自分たちの竜車かぁ」
ハンナの後ろには幌がついた出来立ての竜車がある、旅の為に作ってもらった特別製だ。
「わぁ、本当にボードが竜車に変わったんだ」
アンジェが見つめる竜車の本体部分、それは元々アンジェが持っていた魔道具の大型ボードを改造したモノ。
「骨組とかに守護者の脚を使ったの?」
「ん……脚から分解できた部品をイーサンが加工した」
そう、この竜車には月の神殿の守護者、あのロブスターの残骸が使われている。
ひとつは竜車を支える骨組部分、強度を高める為に使用した。
そして関節部品を使った走行時の衝撃や振動を緩和する為のサスペンション。
それ以外にも他の竜車には無い機能をいくつか組み込み、御者台部分には俺とハンナで苦労して作ったとっておきの仕組みがある。
「幌も丁度いいね、丈夫そうだし」
幌布は月の神殿の隠し部屋からの戦利品、ダークグレーの布を利用した。
そして座席は伸ばすとに平らなベッドに変わり、竜車をテントとしても使用できる。
最後部の追加部分には簡易トイレもついて至れり尽くせりだ。
御者台を除く乗車人数は6人程度と竜車にしては小さいが、3人旅には十分だろう。
▶▶| × ??
「パレット、これからは3人も一緒に旅をすることになるんだ、仲良くしてね」
「か、かわいいわね、よろしくねパレット」
「いい脚をしていますね速そうです、これからお世話になります」
”きゅぅぃ”
パレットを撫でるシャーロットとクロエ、どうやら上手くやっていけそうだ。
「おぉ、このちっこいのが竜車曳くんすかぁ?」
”きぃっ”
だが、カプリスの一言にパレットは顔を背けた。
「あーカプリスはもうダメね」
「ぇぇ、残念ですけどパーティ追放も待ったなしです」
「そ、そんな待ってほしいっす、普通のラプトルよりずいぶん小さいから心配して」
だが、慌てるカプリスの言葉はますます空回りをする。
「ど、ど、どうしたらいいすか?アタシも一緒に旅したいっす」
カプリスはパレットに泣きつき、最終的にティノの助言で肉串を献上して事なきを得た。
▶▶|
「よ、よし、いよいよ出発ねっ」
翌朝、待ち合わせのギルド前に立つ緊張した面持ちのシャーロット。
「へぇシャーロットのこんな顔初めて見たっす」
飄々とした態度のカプリス。
「でも、私も少し緊張してます」
そう言いながら涼しい表情のクロエ。
「じゃぁ、出発の合図はシャーロットが出して」
俺は御者台にアンジェと一緒に座り促す。
「そ、それじゃぁ、しゅぱーつ」
”きゅぃぃぃっ”
「「「「「おーー」」」」」
王都の南東門を抜け、そのまま朝日が照らす路をまっすぐに進む。
未知の世界への不安もあるが、それ以上に期待に満ち溢れている皆の顔。
新たにリトルスクエアの3人が加わり、ここから本格的な旅が始まった。
「わぁ、あっという間に南の狩場が過ぎちゃったっすよ」
「王都といえども、今までの私たちの居た場所は小さかったのですね」
「そうね、これからもっと広い世界へ向かうの、この路はどこまでも続いているわ!」
路は草原を走り、やがて木々の生い茂る森へと続く。
大樹の森と比べると木々の高さは普通だが、それでも地図で見るとかなりの大きさの森であることがわかる。
街中と比べるとやはり森の空気は違う。緑の草木の香に動物たちの気配。
照らす日の光も高くなりはじめた頃だった。
「続いてなかったっすね……」
まっすぐ伸びていた路は、森の途中で途切れていた。




