第三話 一見旧の如し
「「うわぁすごい」」
俺とアンジェはギルドの扉をくぐると思わず声を洩らした。
そこでは何十人ものハンターたちが騒めいていた。
食事をし、地図を広げ話し合う者、楽し気に笑う者、言い争う者や酔っぱらいも多い。
……変な人には絡まれないように気を付けよう。
「貴方たち、もしかしたら初めてここに来たの?」
俺たちに掛けられたその声、少し緊張気味に振り向くと、そこに居たのは俺たちと同じ10歳くらいの少女だった。
緩やかなウェーブの長い金色の髪、大きな灰色の瞳、背は俺たちよりも小さい。
高級そうな刺繍入りのシャツにはブローチに花飾り、上品な青く染められたスカート、腰には繊細な細工の施された細身の剣を携えている。
「は、はい、王都のギルドに来たのは初めてで」
「掲示板を見たいんですけど、どこにありますか?」
「いいわ、案内してあげるからついて来なさい」
俺が答え、アンジェが尋ねると、少女は周りを気にせず奥へ進む、慣れている感じだ。
人のことは言えないが、こんな小さな子供でも列記としたハンターなのだろう。
「ここよっ」
腰に両手をやり、ちょっと自慢げな表情の少女に俺たちは礼を言った。
背伸びをして掲示板を覗き込む、すごい量だな……
掲示板自体大きいサイズだが、そこに何枚も重なるように貼られた依頼書の数々。
この中から鳩探しの依頼があるか探すのは大変だな……
「どうしようこれ……」
「探すの大変そうだね……」
「そっちは魔獣退治なんかの上級者向けよ、まぁシルバーランク以上の腕が必要でしょうね、興味があるのはわかるけれど」
少女は俺たちの間に割り込み語りだした。
「初めはやっぱりこっち、コツコツと採取の依頼や街中のお使いなんかをするべきよ」
なるほど、依頼書は大まかな対象ランクがわかるようにピンの色が分けられている。
その中でも内容ごとに固められ、さらに難易度の高いモノは上と決められているそうだ。
「すいません、ちょっと失礼しますねぇ」
ベストを着たギルド職員らしき女性が、掲示板の前へと割り込んで来た。
「あら、貼る場所が違うんじゃないの?なんでそんな重要度の高い場所へと貼るのよ」
少女が職員へ尋ねる、先ほど自分がした説明と異なるその依頼書が気になるらしい。
「ええっとすいません、この依頼はですね……!!!」
振り返った職員の目がアンジェを凝視して固まった。
「姫…………姫の……」
見開いたままの大きな目でアンジェを見詰めてボソボソと呟く職員。
「どうしたっていうのよ、あっ……この捜索依頼の小鳩って」
少女はアンジェの抱えたカゴを見て少し驚いた後に納得顔。
そう、驚くことにギルド職員が張りだそうとしていたのはキャリーの捜索依頼だった。
「す、すみません3人ともギルド長室までお願いします」
そのままギルドの奥へ、階段を上り何やら立派なつくりの部屋へと案内される。
俺たちは突然のことに緊張しながらも革張りのソファーに腰を降ろした。
「お、驚かないでくださいねギルド長」
「何をそんなに驚いて……おぉぉおおおおお!!」
大声で叫ぶ髭のおっさん、こっちもその声に驚いたよ。
cooooo!!!
さらに眠っていた鳩のキャリーまで驚き、傷ついた羽根を羽ばたかせる始末。
「ギルド長!そんな大声出して、なにかあったらどうするんですか!」
職員の女性はギルド長と呼んだ男の髭ごと口を押さえ込んだ。
「いやぁ……この度は依頼の達成ご苦労だった」
しばらく奥へと引っ込んだ後、何事もなかったように再びギルド長が顔をだす。
「この小鳩、飼い主の素性は明かせないが大変大事に、家族のように扱われていて」
「姫様の……」
「わぁキャリー、お姫様の家族なんだぁ」
「ロイヤルファミリー……」
「ん、あっ、えーと」
「ゴホンッ、飼い主の素性は明かせないんだ、いいね?」
慌てる職員のお姉さんと真剣な表情で迫る髭のギルド長。
「「「は、はい……」」」
その近づく顔の圧力に圧され、俺たちは詮索しないことを了承させられた。
「それで君たちは?どこで小鳩を?」
「私はシャーロット、不慣れそうな2人を掲示板まで案内しただけよ」
少女は答え、ギルド長はその視線を俺とアンジェに向ける。
「ヌィです、えっと……昨日、星降りの街からの道中で、中間の川沿いのあたりです」
「アンジェです、空からキャリーが落ちて来たんで、飼い主を探そうと思って」
身を乗り出して話を聞き出そうとするギルド長に戸惑いながら、昨日のことを伝えた。
「え?私は何もしてないわよ?」
説明を終えると、シャーロットと名乗った少女に1枚、俺たちに5枚の金貨が渡された。
「情報提供だけでも報酬が支払われるのですよ、ほら」
職員のお姉さんは張り出さずに持っていた依頼書を見せる。
それでも少し戸惑った表情をこちらへと向けるシャーロット。
「案内してもらえたお陰でキャリーの飼い主をすぐに見つけることが出来たんだよ」
「うん、俺たちも助かったんだ、ありがと」
「そ、そういうことなら……」
少女、シャーロットはおずおず金貨を受け取る。
「そ・れ・と、飼い主のことは明かせないし、郊外しないこと、いいですね」
「「「は、はいっ」」」
報酬には口止め料も含まれていたようで何度も念を押され、俺たちはギルドを後にした。
「んふふ……2人は私にとって幸運の星なのかも、きっと計画を実行する機会も近いわ」
そう呟き、少女は満面の笑みをこちらへと向けた。
「改めて名乗るわね、私は王都でハンターをしているの、シャーロットよ、よろしくね」
「そうねぇあまり上品ではないけど肉串のおいしい屋台があるの、どうかしら?」
シャーロットに予定を聞かれ、食事がまだだと伝えると屋台広場へと案内してくれた。
「いやぁ、わざわざ来ていただいたのに申し訳ないっす」
「ちょっと、なんでこんな時間にもう店しめてるのよっ」
頭を下げる屋台の少女、残念ながら案内された屋台は既に後片付けまで終えていた。
「それが、すっごい喰いっぷりのいいお客さんが来たっす」
その客は俺の知ってる人物かもしれない。
「それに釣られてお客がわんさか集まっちゃってもう、嬉しい悲鳴だったっすよぉ」
屋台の少女はニマニマしながらシャーロットとの会話を続ける。
「シャーロットには悪いけど、これで先に目標金額達成したっすよ、ぇへへ」
「すごいじゃない!」
「悔しがらないなんてどうしたんすか?どこか調子でも悪いんじゃないすか?」
そう言って少し怪訝そうな顔をシャーロットに向ける屋台の少女。
「んふふ……勝者の余裕ね、私も既に目標金額は達成してるのよ」
「「おぉぉっ」」
大きな声をあげる屋台の少女といつの間にかそこに紛れて居た黒髪の少女。
俺とアンジェは会話に混ざれなくておいてけぼりだ。
「じゃぁこれより旅の計画を練りつつ、ちょっとした食事を楽しみましょうか」
「いいわね」
「いいすねぇ」
「ところでこちらの方は?」
「「あっ」」
黒髪の少女の言葉で2人はやっと俺たちの事を思い出してくれたようだ。
「ごめんなさい放っておいて、でもよかったらこれから一緒に食事をしましょう」
なんだかよくわからないまま、俺とアンジェは広場の隅のテーブルへと着いた。
「お待たせしたっす、屋台仲間から分けて貰って来たっすよ」
屋台の少女と黒髪の少女が様々な料理をテーブルへと並べる。
「ちょと崩れて見た目は良くないけど、味は保証するわ」
「何故ここで座っていただけのシャーロットが偉そうなんですか」
得意げな顔のシャーロットに黒髪少女が口を挟む。
「いいじゃない、それよりもまずは紹介ね、2人は今日ハンターギルドで知り合ったの」
「私はアンジェでこっちがヌィです」
「星降りの街から今日王都に到着しました」
俺とアンジェはちょと畏まって頭をさげた。
「カプリスっす、普段は屋台で肉串を売ってるっす」
短めな茶髪のおさげ、割とスリムな体形だが運動能力は高そうだ。
袖の無いシャツにショートパンツとラフな服装でエプロン姿の屋台の少女。
「私はクロエ、3人ともハンターでパーティを組んでます」
黒髪に鋭い目付き、色白肌、少し東洋風な面持ち、背とか一番大きな少女。
濃いグレーのロングパンツに薄い生地のトップス……ちょっと目のやり場に困る。
「リトルスクエアっていうの、ちなみに私がリーダーよ」
得意げなシャーロット、3人の中では一番年下のようだけどリーダーらしい。
「では、あまりお待たせするのも申し訳ない、続きは食事をしながらにしましょう」
「「「「「いただきます」」」」」
珍しいメニューとやっとありつけた食事に俺とアンジェはいつしか遠慮も忘れる。
気の張らない3人のやりとりの所為もあるだろう、それはなんだか以前からの友達と過ごしているような心の休まる時間だった。
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