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犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第二章 ロードスター
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第二話 いざ王都フォルトゥーナへ


 急降下する黒い影、敵意の籠った攻撃が傷ついた鳩を抱えるアンジェに迫る。


「「させるかっ!!」」

 振りかざされたかぎ爪に対し、俺はアンジェの前に立ってナイフを抜いて身構えた。


 だが爪の方が速かった、金属の衝突音が小さく響き、敵は空へと舞い上がる。

「もう一度来たら次は仕留めるよ……」

 そう呟くのは俺より速く金属の爪、バグナウで攻撃を食い止めたティノだ。


 Weeeeeeeeeeeaa

 鼓膜を切り裂くような鳴き声で威嚇する猛禽、黒い翼を持ったそいつは鷲の魔獣だった。


 その時、背後の上空から突進する風の流れがアンジェを襲う。


「ヌィから聞いて知ってたよっ」

 『Vozdushnaya podushka/気流衝撃緩和/エアクッション』

 突風の原因は急降下攻撃を仕掛けて来たもう1羽の鷲の魔獣。

 だが唱えた呪文により爪がアンジェに届くことはなく、直前でふんわりと鷲は弾かれる。


「そういうことっ」

 俺の振るったナイフが鷹の胸元を裂く、だが魔法で弾かれた分だけ踏み込みが足りない。

 鷹の傷からは血が滴るが、それは致命傷ではなかった。


 Weeeeeeeaa……  Weeeeaa……

 二羽は何度も鳴き声をあげて上空を旋回し、恨めしそうにこちらを睨み飛び去った。



「まったく、先に追ってたのかもしれないけど、この獲物を仕留めたのはアンジェだから」

「え?」

 ティノのその言葉に驚きアンジェが目を見開く。


「ティ、ティノ?この小鳩は獲物じゃないよ?食べないからね?」

「そうなの?あぁ、ちっちゃいしあまりお肉ついてないもんね」

 理由はともかく、小鳩が食卓にのぼることは避けられた、アンジェも安堵の溜息を洩らす。



「えっとね、誰かが飼ってる仔だと思うの、ほら」

 アンジェが治療を終えた小鳩の背には小さな鞄のようなモノが背負われていた。


「みたいだね、でもこの傷だと治るまで飛ぶことは出来ないだろうし、どうする?」

「うーんどうしたらいいんだろう……」

 俺とアンジェが悩んでいると、その答えはティノが出してくれた。


「王都に着いたらギルドに寄ればいいよ、飼い主から捜索依頼がでてるかもしれない」

「「おおっ」

「でていなかったら拾いましたって掲示板に貼って、うーんそうだなぁ……」

 ティノは一度瞬きをして言葉を続ける。


「友達が王都の宿で働いているんだけど、その子なら治るまで世話をしてくれるかもっ」

「すごいっティノ!」

「ぇへへ……そうかなぁ」

 キラキラと目を輝かせたアンジェに見つめられてティノは照れた。


「うん、さすがは先輩ハンターだね」

 助かった、こういう予定外の事態では特に旅の経験者の知恵が必要だと感じた。


「ティノが一緒に旅をしてくれてよかったよ」

「う、うん……ぇへへ」

 頼りになる先輩だが、頬を赤くして照れるティノの姿はとてもかわいらしい女の子だった。



 ▶▶|



「よかったぁ、キャリー少し元気になったね」

 Cooooo

 おかゆのパンを啄む鳩にアンジェが微笑みかける。

 昨日は水を口にするのがやっとという様子だったが随分回復したようだ。


「キャリーって?」

「この仔の名前だと思う、鞄に刻印されてたんだよ」

 それが本当に鳩の名前なのかはわからないけど、まぁいっか。




「よぉし、じゃぁ今日も頼むよパレット」

”きゅぅうぅうっ!”

 簡単な朝食を済ませ、少し早めに川辺の野営地から出発した。

 森を抜けたので王都迄は南へ向かう一直線の一本道、竜車に揺られ快適な旅が進む。


「王都かぁ楽しみだな、どんなところだろ……アンジェは行ったことある?」

「ううん初めてだよ、ティノは何度も行ったことあるんでしょ?どんなところ?」


「そうだなぁ、宿や食事処はどこも美味しいけど、一番はやっぱり広場の屋台だよ!」

 目を瞑り幸せそうな表情を浮かべながらティノは続けた。

「安いし種類も多いから、いっぱい食べられるんだぁ……楽しみだなぁぇへへ」

 朝食は少なくていいと言った時はティノの体調を心配したのだけれど原因が判明した。

 それから王都に着くまでの道筋、旅の経験者が語る知識は王都グルメ情報ばかりだった。




「ここが王都フォルトゥーナ……」

 真っすぐに伸びた道の先、高い白い岩壁がいよいよ間近へと近づく。

 星の街を囲う自然の外壁ほどの高さは無いにしても、その外壁の高さと街の大きさには目を見張るものがある。



「ん?商人ではないな、野菜を売りに来たのでもなし……子供だけか?」

 大きく立派な金属扉の前には槍と剣を構えた何人もの衛兵、その中の厳ついおっさんが訝し気に俺たちを見る。




 かなりの時間をとられた……結局はハンターホルダー見せることで門を通過、最初からそうしていればこんなことには……

 3人共シルバーホルダーだったことには驚いていたが、それでも何か困ったことがあれば詰め所に相談に来いと言ってくれたのでいい人ではあるようだ、話が長くて顔は厳ついけど。




「今度こそ、王都フォルトゥーナ……」

 中央にそびえる白い王城が日の光を反射して輝く。

 中央へ続く広い石畳の路、石造りの建物が建ち並び、行きかう竜車や人々で賑わう。


”きゅぅ?”

 路の端に寄り足を止めたパレットが尋ねるように鳴く。


「ごめん、ごめんパレット、行き先だよね」

「屋台!!」

 ティノが間髪入れずに答えるが、まずはキャリーのことを考えなくちゃ。


「ごめんねティノもうちょっと待って」

「う、うん」

 お腹を抱えて耐えるティノがかわいそうだが、今は待てだ。


「竜車置き場も考えなくちゃだし、初めはギルドか宿かなぁ」

「それなら南東だよっ、屋台の出ている広場も近いよっ!」

 アンジェの言葉にティノが元気に返事をする。

 広場も近いとは丁度よかった、俺たちはティノの道案内で竜車を進める。

 中央の路を進み、中央の城壁をぐるりと時計回りに南側へと向かう。






「ティノちゃん!」

「メリッサ!久しぶり」

 南東の門にほど近い4階建ての建物、ティノの言っていた宿に竜車を停めた。

 すると、背の方さはティノと同じくらい、蜂蜜色の髪を後ろで束ねた15歳くらいの少女がティノに声を掛けた。


「今日は泊まるんでしょ?私これから休憩なんだけど一緒に行こ、ご飯食べちゃった?」

「まだなんだけどえっと……」

 戸惑い気味にこちらを振り返るティノ。


「いいよティノ先に行ってきて、ギルドは私とヌィに任せて」

「メリッサさん今日は宿にお世話になります、ティノは遠慮せず腹ごしらえしてきて」

「やったっ、ありがと2人とも」




「さっきの2人はお友達かな、リードさん達は別の用事中?」

「うん、ヌィとアンジェ、一緒のパーティだよ、ワイルドガーデンは解散しちゃったんだ」

「ぇええええ!!」

 屋台のある広場へと向かい遠ざかる2人。

 会話中にメリッサの大声が聞こえたが、まぁ仲は良さそうなので問題はないだろう。



「じゃぁ、パレットはお留守番頼むね」

「いってきます」

”きゅぅっ”

 パレットに水と食事を用意して留守番を頼み、俺とアンジェはギルドへと向かう。



 宿のすぐそば、門に一番近い大きな建物が王都ハンターギルドだ。

 星降りの街のギルドの倍以上の大きさ、入口前に立つと中からの喧噪が聞えてくる。


 これから狩りへ出るのだろうか、剣士風の粗野な男、同じく剣士の若者、続いて軽装の飄々とした感じの中年男に魔術師であろう若い女性がギルドから出て来てすれ違う。



「ちょっとドキドキしてきた」

「ふふヌィったら、平気だよ行こ」

 キャリーのカゴを抱えたアンジェは手を引くことは出来ないが、視線を入口へと促した。

 王都という大きな街、そしてここは各地から集まったハンターの集う大規模ギルド。


 よし……俺は気持ちを引き締め気合を入れ扉をくぐった。




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