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犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第二章 ロードスター
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第一話 イグニッション


「いよいよだね」

 御者台の隣に顔を向け、客車を振り返る。


「うん、最初の目的地はここブレイクの王都フォルトゥーナだよ!」

 客車から身を乗り出したティノが腕をあげて前方をまっすぐ指さす。


「はじめは南へ向かって進路をとってね」

”きゅぃ”

 隣に座るアンジェの声、それに応えたパレットが竜車を曳きゆっくりと動き出す。

 俺のふわふわの尻尾は嬉しそうに大きく揺れ、俺たちは星降りの街から旅立った。



 |◀◀ × ??



「女神像が壊され、封印の解かれたダンジョンからはいつ魔獣が溢れ出すかわかりません」

 月の神殿調査にあたり助手を務めていたエヴァンさんは神妙な面持ちで告げた。


 神殿に記されていた記録、そこには白き月の女神と赤き月の女神が闇を封印しているという物語があるそうだ。

 その物語の真偽はともかく、神殿に施されていた術式は壊されている。

 闇とは何なのかわからないが、魔獣が溢れる危険性があるということは事実だ。



「俺たちの所為でもある……この地を放って置くことは出来ない……」

 調査隊のガードを勤めていたパーティ【ワイルドガーデン】のリーダーであるリードは神妙な顔で目を瞑った。


「……丁度いい、この場所に残ってガードの役割を果たそう」

「リード、グレアム……そうね、私たちがやりましょう」

 メンバーであるグレアムとローザもこの地に残ることを決めたようだ。



「再び神殿に封印を施す方法はないのかい?」

 ワイルドガーデンが決意を示す中、エヴァンさんに尋ねたのはハンターギルドの魔術師ソフィアだ。


「わかりません、神殿かダンジョンにその方法が残されているか調査してみないと……」

「でも可能性はある訳ですねぇ」

 現在はギルド長を務めるユーリカが真剣な表情でエヴァンさんを見詰めた。


「方法がわかったとしても媒介が必要になります、先生がそれを壊してしまったので……」

「それはなんだい?」「教えてください」


「僅かに残った破片を見るに、おそらくですが星の結晶です」

「「なるほど……」」

 押し黙るユーリカとソフィア、星の結晶……それはどういったモノなのだろうか。


「じゃぁ、それを集めれば皆でまた旅ができるの?」

 ワイルドガーデン最後のメンバー、ティノが虎耳をぴくぴくさせて期待に目を輝かせる。


「……わかりません、だけど可能性はあります、まずは手に入れるべきかと」

「いや、無理だティノ……」

 エヴァンさんの言葉を少し寂し気な声でリードが遮る。


「ワイルドガーデンは解散だ、もうグレアムとローザに危険な旅はさせられない」

「……え?」

 その発言にティノは驚きと悲しみの入り混じった表情を露わにした。


「グレアムのやつ、膝に矢を受けちまってな」

「え!?」「ヌィ、ヌィなら治せない?」

 続く言葉にユーリカは目を見開き、ティノは悲痛な表情を浮かべ俺の肩を揺さぶる。




「ティノ落ち着いて、心配いらないと思うんだけど、えっと……おめでとう?」

「うわぁ、おめでとう」

「んふふ「……ありがとう」」

 俺とアンジェにの祝福の言葉に笑顔で答えるローザとグレアム。


「これは……思ってもみなかったけど……案外お似合いですね、2人ともおめでとう」

「ふむ、おめでとう」

「え?え?どういうことなの?」

 ティノはまだわかっていないが、膝に矢を受けたとは俺の知っている意味で正解だった。


 頬を染めたローザから話を聞くと、神殿で死が迫る危機的状況の中、グレアムはローザに”この戦いから生き残ったら結婚してほしい”と何かのフラグみたいな求婚をしたそうだ。


 そして生き延びた二人は結ばれ、旅暮らしから引退してこの地に定住することを決めた。

 おめでたいけれど、リードの悲し気な声は旅が出来なくなった事に対してなのかそれとも別の理由なのかが少し気になる。

 でも今はそっとしておこう。



「それで、話は戻るけど星の結晶っていうのは何なの?」

 皆がひとしきり祝いの言葉を述べた後、俺は本題について尋ねた。


「ふむ、星の欠片が集まって出来ると言われている結晶だ」

 それに答えてくれたのはソフィア。

「その夜のような黒い結晶に属性が宿り、星空のように煌めく」



「どこで手に入るの?」

 ティノが身を乗り出し続けて尋ねる。

「星の欠片は時間をかけて結晶化し、火・地・風・水それぞれ影響の強い場所で育つ」

「ゆっくりと自然の中で育ったり、魔獣に呑まれ魔結晶の中に蓄えられるかですね」

 それにはソフィアとユーリカが答えた。




「……南にいた時、火の山の噂は聞いたよな……」

「それと穀倉地帯を支えているのが地の力だっていうこともね」

「ああ、聞いたことがあるのはその2か所だ」

 南で活躍していたというワイルドガーデンの情報。



「南か……」

 ダンジョンで見つけた古地図を思い浮かべる、そこは果たしてどんな場所なんだろう。


「ヌィ、私たちで探そう」

 迷う間もなかったようすぐに、アンジェは俺の手を取り真剣な顔で見つめる。

 神殿での事件の後始末をリード達だけに押し付けるなんてしたくないし、この異世界のことももっと知りたい、でも……


「大変な旅だと思うよ?いいのアンジェ?」 

 事件が解決したばかりなのに、またアンジェを危険に晒すことになってしまう。


「うん、今は平気だけど放っておいたら大変なことが起こるかもしれないんだよ?」

 はっきりと自分の意志を示すアンジェ、その決意は簡単には覆せなそうだ。


「……そっか、キャスがいるこの村や街の皆がそんな目に逢うのは嫌だよね」

「うんっ」

「……わたしも、わたしも3人や皆を守りたい、一緒にいくよ」

 そしてすぐさまティノも参加の手を挙げた。


「何言ってんだお前ら」「いいでしょう」

 止めようとするリードの言葉の途中でユーリカが割り込む。


「でわ怪我が治ったらギルドに来てください、話はそれからです」

「「「はい」」」



 ▶▶| × ?



 ギルドへと顔を出した俺たちはユーリカと戦った。

 それは俺たちが旅に出る実力があるのかを確認する為、そしてその結果を証明できる証を渡す為のハンターランク昇格試験。

 俺とアンジェはその期待に応え、銀のハンターホルダーを手にした。




”きゅぅぅ?” 

「今日はキャスの村に行くんじゃないんだよ、そのまま道沿いに進んで」

 現在地は星降りの街から南東の草原エリア。

 このところはずっと村との往復を繰り返していたパレットにアンジェが答える。


「これからは見たことがないような新しい場所へ一緒に旅をするんだ」

 俺も力強く竜車を曳くパレットを見つめながら声を掛ける。

 この旅の為にパレットを竜舎から買い取りたかったのだが、それは出来なかった。


「まさかパレットの持ち主がユーリカだったとはなぁ」

 出来なかったが、ユーリカは喜んでパレットを俺たちの旅に同行させてくれた。

 旅にはお金がかかるだろうと考慮してあえて売ってくれなかったのかもしれない。




 草原から南東へ、そのまま大樹の森の路を進む。

 初めに王都へと向かい、そこから更に南の地を目指す予定だ。


 森の中とはいえ王都まで通じる街道、きちんと整備されていて快適だ。

 余程のことがなければ突然魔獣に襲われるということもないだろう。




 そろそろ月の神殿辺りを通過する。

 今もリード達は村を守る為に戦っているのだろうか。


 事件の後、目を覚ましたブレンダとは結局逢えていない。

 ブレンダは俺たちがダンジョンに閉じ込められたことを自分の所為だと思い込み、そして自分の手で救い出せなかったことに責任を感じて強くなる為にダンジョンに籠っている。

 リードとブレンダの兄ガレットには彼女への伝言とサポートを頼んではあるが……

 ブレンダが無茶をしないといいんだけれど。




 そんな思考を巡らせていると、竜車は森を抜けて川辺の路へ。

 既に辺りは暗くなりはじめており、王都までの行程はおおよそ半分を過ぎた頃だろう。


「アンジェ、ティノ、パレット、今日はこの辺りで野営しようか?」

「それがよさそうだね」

「うん、もうお腹が空いてたんだ」

”きぃっ”

 川辺へ竜車を停め、その場所を今日の野営地と決めた。



「この建物はなんだろ、人は居ないみたいだけど……そのわりには片付いてるね」

 俺はそこに建つ簡易な造りの建物を覗きこむ。


「んふふ、ここは休憩場所だよ、星降りの街へ向かう途中で寄ったから知ってるんだ」

 少し得意げにティノが語る。

「丁度、王都との真ん中くらいで川があるから飲み水もある、そして魔獣が嫌がる仕組みがあってあんまり近寄らないんだって」


 Cooooooo……


 その時、小さな悲鳴にも似た鳴き声がティノの言葉を遮った。


「上からだっ」

 薄暗がりの空を見上げると流れる流星……

 いや、なにか小さなモノがこちらに落下してくる!?


「わわっ」

『Vozdushnaya podushka/気流衝撃緩和/エアクッション』

 アンジェは慌てながらも魔法で落下の衝撃を和らげ、それをその手で優しく受け止めた。

「鳥?」

 アンジェの広げた両手の平に収まるほどの小さな鳥、小鳩だろうか。

 だが、その白い羽は傷つき血に染まっていた。



「まだ何か来るよ!」

 ティノの声で再び空を見上げる、落下してくる小さな黒い影。

 いや今度のは落下じゃない……

 影は一気に大きく広がり、闇に鋭い鉤爪が光る、それは敵意の籠った攻撃だ。



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