第四十三話 一時の休息
「いらっしゃいませぇ、あっ二人とも!もう出来てるよ」
道具屋[ラビットフット]を訪れると、店番のレイチェルが笑顔で出迎えてくれた。
「まずはこれ、どうかなアンジェ?」
「ぅわぁ……かわいい」
それはワニ革で作られた小さめのリュック。
ダンジョンで仕留めたフラッドクロコダイルの革でレイチェルが作ったモノだ。
俺たちが無事にダンジョンから戻った姿を見ると号泣したレイチェルだったが、戦利品のクロコダイル皮を渡した時にもボロボロ涙を流して喜んでいた。
「どうかな?ヌィ?」
アンジェは嬉しそうにくるりとその場で回る。
「うん、似合ってるよ」
「ぇへへありがと」
背中に背負われた薄い鞄、荷物を入れたらきっとランドセルのように見えるだろう。
「ヌィにはこっちね」
「いいね!作るの大変だったでしょ、大切に使うよ」
俺はショートブーツを新調、今までのモノより大分丈夫なモノとなった。
「ティノさんのブーツも出来てるから伝えておいて」
「「うん」」
ティノにもブーツを作ってもらった。
普段は裸足のティノだが、場所によっては必要な時もあるだろう。
ワニ革で作ってもらったモノは以上、残りの革はレイチェルへの代金代わりだ。
「あ、それと新しいお鍋とか届けて来たんだけど」
「ブレンダはどうだった?」
ダンジョンに持ち込んだブレンダのリュックとその中身、使った分は新品で返すことにして調達をレイチェルにお願いしていた。
「逢えなかった、またダンジョンに籠ってるみたい」
事件の後、意識を取り戻し無事回復したブレンダだったが、それからすぐに月の神殿ダンジョンへと籠ってしまった。
俺たちを救助するつもりが力にもなれなかったと悔やみ、鍛えているという。
「あまり無茶してないといいんだけど……」
「どうかなぁ……」
アンジェが心配そうに顔を顰める。
「オフィーリアから聞いたけど、深くまでは潜ってないみたいだよ」
オフィーリアが時々ダンジョンまで様子を見にいっているそうだが、ブレンダにはリードかガレットが必ず付き添いっているということだ。
あの二人がブレンダに振り回されている姿が目に浮かぶが、それならばまだ安心だ。
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「「こんにちはぁぁ」」
大きく息を吸い大きめの声をあげた、大音響の作業音に負けないため。
ここは星降りの街南門の近く、工房エリアの一角だ。
「なんだぁここは子供の来るようなところじゃ……ん?」
工房から出て来たのは背が低い恰幅のいいおっちゃん、俺たちを見てその表情が固まった。
「なんだ守護者殺しか」
なんだその呼び方……ドラゴンスレイヤー的なモノだろうけどやめてほしい。
「えっとハンナはいますか?」
「アンジェとヌィが来てると伝えてほしいんですが」
「おぉやはりそうか、へぇぇ本当にハンナと同じくらいちっちぇなあ」
いや、背はおっちゃんともあんまり変わらないと思うんだけど、まぁいいか。
「待ってな、今呼んでやるよ、ハ ン ナ ア ア ア ア!!!」
俺とアンジェは慌てて耳を塞ぐ、呼ぶってここで大声をだすのかよ。
「ん……あぁ、お待たせ」
眠そうないつも通りのハンナが工房から姿を見せ、交代でおっちゃんは戻っていった。
「大丈夫?忙しいとこだった?」
「んーん平気、丁度起きたとこだった」
アンジェ尋ねるとハンナが答える、このうるさい中で寝てたのか、すごいな。
「そっか、どう?何かわかった?」
「んー……脚以外はバラせないからまだ……鍛冶ギルドでも潰せないみたい」
アンジェが尋ねたのはおっちゃんが言ってた守護者、あのロブスターの残骸のことだ。
動かなくなったヤツは街へ運ばれ、ここ機工ギルドと鍛冶ギルドで解析が行われている。
所有者は俺とアンジェとティノ3人となっているが、あんなモノをどうぞと渡されても置き場所に困るので、バラしたり解析したり自由にしていいよと任せてある。
売れるなら売ってしまってもいいけど、得体が知れなく値段がつけられないとのことだ。
「お願いしてる方はどうかな?」
「んーーそっちはもうすぐ出来る」
「「おぉ」」
「毎日、何度もイーサンが部品を持ってきて、私が作業を始めないと喋り続けるから……」
「「ぉぉぉ……」」
「だからあと数日で完成する」
「いよいよかぁ……」
「だねっ」
あまり無理はしないでとハンナに労いの声をかけ、俺たちは工房を後にした。
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「あっヌィ君、アンジェちゃん!」
商店街を歩いていると人混みの中から声が耳に届く。
手を振りながら弾むようにこちらに駆け寄って来るのはおっフィーリアだ。
「買い物?」
「んーん、ハンナのところに行ってたの」
「あぁそっか」
せっかくだから一緒にお茶とお菓子をと誘われて近くのお店へ。
「はぁ……二人に見せて驚かそうとしてたんだけどなぁ」
そう言ってオフィーリアは胸元に手を近づけ、襟を引っ張り自分の胸を覗き込んだ。
その仕草に思わず赤面してしまう。
「ほら、私、銅ホルダーの正式ハンターになったんだよ」
「わぁおめでとう、オフィーリア」
「お、おめでとう」
「んふふありがとう」
胸元からチェーンに繋がった銅ホルダーが姿を現す。
ガレット班ではオフィーリアが一番最初の正式ハンターだ。
「でも二人にはまた置いて行かれちゃったなぁ、ねぇ見せてくれる?」
そう言ってオフィーリアは躰を乗り出し、俺の胸元を覗きこもうとした。
「う、うん」
「ぇへへ、いいよ」
「わぁ……かっこいい、すごいね星もいっぱい」
オフィーリアはアンジェが取り出したホルダーに指先を這わせる。
「ありがと、でもヌィの方が銀星は多いんだよ」
そう言ってアンジェはにっこり笑った。
「よし、私も少しずつでも二人を追いかけられるように頑張るよ!」
ダンジョンでのブレンダの様子をオフィーリアから聞き、俺たちが知っているダンジョンのことについて伝え、お互いに知りたかった情報を得ることができた。
オフィーリアは買い物の途中だったのでそこで俺たちとは別れた。
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「よかった、二人とも元気みたいね」
「「クラリッサ!」」
ラプトル厩舎に顔を出すと、そこでクラリッサと逢った。
「どうしたの今日は?」
「えぇちょっとラプトルのことで相談があってね二人は?」
「こっちは」
”きゅぅぅぃぃぃっ!!”
うっ……パレットの突進で俺は目を丸くする。
なんで避けられないんだろう……と少しうずくまりながら考える。
「「だ、大丈夫?」」
「へ、平気……」
”きぃ!”
あぁ解かった……パレットにはまったく悪意がないからだ。
この突進は久しぶりに逢ってうれしくて抱き着いてくる感覚なんだろう……
「えっとね、私たちはこの仔、パレットを買い取りたくて相談に来たの」
その交渉をアンジェに任せ、毎度ながら俺はパレットと一緒に厩舎を駆け回った。
「はぁはぁっ……どうだった……アンジェ?」
「厩舎では預かってるだけで持ち主は他にいるんだって、聞いてはくれるみたい」
その返事は数日後にもらえるらしい。
「そっ、そっか……一緒に居られるようになればいいのになぁ」
”きゅぃ!”
こうして一時の休息は過ぎていった。
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