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犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第一章 犬も歩けば異世界召喚
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第二十九話 遺跡調査隊 伍 誘うは月の灯り


「いよいよ月の神殿に入れるんだ……」


 光を放つ3つの月石が扉の脇の小さな祭壇に捧げられると、閉ざされていた大きな岩の扉が低い音をたて左右に開いた。


「おぉぉ…」 「うわぁ…」

 俺とアンジェは思わず声を洩らす。

 すこし埃っぽく沈んだ空気、そこは左右に広く奥行がないちいさな部屋。

 すぐ先にある次の扉が目に留まる。


「あの扉は?」

「ふふ、まぁ見ておれ……エヴァン、レミ頼む」 「「はい」」

 アイザック先生の指示で二人がそれぞれ薄暗い部屋の左右の隅へと向かう。

 そこには大きな結晶が飾られた三日月の意匠がこらされた彫刻が置かれている。

 そういえば遺跡の四辺、外壁にも似たような意匠が施されていた。


「「では……」」

 2人が手を掲げる、手には先ほども捧げられた光を蓄えた月石が握られていた。


「うわっ、まぶしっ……」

 結晶が月石に蓄えた光を吸収し、それはまばゆいほどの光を放ち始めた。

 部屋全体が光で照らされて神聖な雰囲気に包まれる。


「どうじゃ、すばらしいじゃろぉ……光の前室いったところかのぉ」

 ステンドグラスを通したような不思議な光の影が揺れる。

 その光によって壁や床に何かの儀式を示しすであろう絵が投影される。


「ふわぁ……」 「きれい……」


「だろ?……だが奥はもっとすごいぜ……」

 リードが扉に手をつくと、軋むような音をたててそれは開かれた。

 そこには奥へと延びる通路が続く。


 リードとローザの先導でアイザック先生たちが続く。

 その後に俺とアンジェが並び、最後尾はティノとグレアムだ。


 長い通路を突き当たると再び扉が現れ、軋んだ音をたてて開かれる。

 その先は薄暗く天井の高い大きなホールのような部屋だった。


「ここは私たちが」

 ローザの言葉でワイルドガーデンの皆が薄暗い部屋に散らばっていった。


「では灯すわね」 「「「ああ」」」


「おおおおっ……」 「ここが月の神殿の礼拝堂?」

 4つの彫像が光を吸収しホール全体を照らす。

 部屋中に映し出され揺れる光の絵画、そして部屋の奥、中央の台座に降臨した女神。


「白き月の女神像じゃよ……」


 光に照らされ、長い髪が揺れて微笑む女神様。

 それはまるで本当にそこに存在しているかの様な感覚。

 たぶんプロジェクションマッピングのような仕組みだろうが……

 厳かで神秘的な優しい微笑に人々は魅せられてしまうだろう。

 俺をこの月の神殿へと引き寄せていたのも、この女神様なのだろうか……



 ▶▶|



「きれいだったね……」 「うん、あれが月の神殿かぁ……」

 神殿から戻り、昼食の配膳をしながらもアンジェと俺は溜息を洩らしていた。


「映し出されていたのは月の女神に関する物語、これはすごい発見ですよ」

「でもあの部屋にはお宝はないみたいなのよねぇ……」

 エヴァンさんに続くローザ、同じモノでも価値は人それぞれ大分違うようだ。


「解放したのは北西の入口だけだ、まだ3つも入口は残っている」

「うふふ、そうよね……」

 グレアムの言葉に微笑むローザ。

 そう……俺たちが見たのは村から一番近い北西の入口から入った礼拝堂。

 ワイルドガーデンと先生たちが調査して安全が確認された後に見学させてもらったという訳なのだが、残る3つの入口はまだ調査が進んでいないらしい。


「そうですねぇ、今日中に礼拝堂の物語の模写は終わると思います、ですよね先生」

「そうじゃのエヴァン、じゃぁ次は……北東の扉の調査かのう」

 どうやら月の神殿の調査は順調に進んでいるようだ。



 ▶▶|



「うわぁ、これじゃぁ北東の入口には辿り着けないね」

 声をあげるアンジェ。

 皆が礼拝堂の調査を進めている間、俺とアンジェ、そしてティノは北東の入口へと下る階段前に居た。


「これは……ぐぐっ……う……どうしようもないね……」

 崩れた岩の梁で塞がれていた階段への道。

 俺は近くの岩を両手で押すが、まったくもって微動だにしない。


「ふふん、やっと私の出番だよぉ、さぁ下がって下がって」

 そう言ってティノは俺たちの前に出る。


「よいしょ」 「「…………」」

 俺が両手で動かせなかった岩をティノは片手で鷲掴みにして持ち上げた。

「どの辺に置けばいい?」 「……あ、ここ、この辺なら崩れないから」



「んふふ……いやぁずっと調査隊の後ろに立ってるだけで退屈だったんだぁ」

 ティノが次々と岩を退かし、俺とアンジェはそれをぼーっと眺めているだけだった。


「ねぇティノ聞いてもいい?」 「ん?なぁに?」

 アンジェは細めていた目を見開き、ティノに問いかけた。

「もしかして魔法を使ってるの?」 「え?私魔法なんて使えないけど?」

 どういうことだろう……


「ちょっと触っていい?……力を込めてみて……」 「うん」

 岩を握るティノの腕に手をあてて目をつぶるアンジェ……


「マナの流れ方がちょっとヌィに似てるかも……躰の中でマナが消費されてる」

「「どういうこと?」」

 俺とティノは同時に声をあげた。




「ぐぐぐ……う、動い…た…っ」

 俺が初めに押して微動だにしなかった岩、それが少しずつだが地面を滑る。


「へぇ……私にもマナがあるんだぁ」

 ティノは不思議そうに自分の手を見つめる。


「うん、力を出すときに躰の中で使われるみたい」

 アンジェは岩を軽々と退かすティノを見ていて気付いたらしい。

 ぼーっと眺めていたのは俺だけだった。


「でも、わたしはあんまりうまくいかない、マナの流れ方が関係しているんだと思う」

 そう言いつつもアンジェが押すと大岩が地面を擦り、僅かに動いた。


 いや……僅かじゃない、岩は左右に大きく揺れはじめ……思いの他動いてるぞ……

「ってアンジェ離れて!」 「え?」


 俺はアンジェの元へと駆け出し、抱きかかえた。

「え……ど、どうしたのヌィ急に」

 俺の行動に驚くアンジェが顔を赤らめる。



「ん、コイツゥ、私も気が付かなかったよぉ」

 ティノが大岩に向かって拳を構え、放った。


 大岩の表面に亀裂が走り、崩れ落ちる。

 だが崩れたのは表面に付着した泥や草だけだったようだ

 大岩がその正体を現す……ソイツは岩のような甲羅を背負った大亀だった。




 正体を現した大亀、ソイツはゆっくりその巨体を揺すると……俺たちに背を向けた。

 遠ざかる大亀……ソイツはやがてその動きを停め……甲羅に籠る。

 その距離、僅か1mほど……階段への道がしっかりと塞がれてしまった。

 こちらを襲ってくるような凶暴な生物ではなくて良かったが……

 コイツをどうにかしなければ北東の調査は進められなそうだ。



「うーん……私アイツ苦手なんだよなぁ……」

 ティノが顔を顰めて嫌そうな顔をする。そんなに厄介な相手なんだろうか。




 ▶▶|




「そうですか、北東の階段は塞がれて」

「じゃぁ明日からの調査は南東を優先するかのう……大亀はそのうち動くじゃろ」

 階段の状況を説明するとエヴァンさんとアイザック先生はそう答えた。

 とりあえず北東の通路確保は急務ではなくなったけど……動いてくれるのかな……




「あたた……」 「どうしたの?ヌィ」

 就寝しようとテントで横になると、気が抜けて思わず声に出てしまった。

 アンジェが心配そうに俺を覗き込む。


 俺は手足に痛みを感じていた。それは鈍い痛み、だるさ、躰の悲鳴。


「筋肉痛だと思う……たぶん……マナを使って無理やり動かしたから……」

 ティノの真似をして行ったマナを利用した筋力の強化。

 それが副作用をもたらしたという訳だ。

 練習して身に着けることが出来れば強みになると思うんだけど……


「どうしよう……お薬……村に行けば買えるかな?」

「そこまで心配しなくて平気だよ、湿布とかあれば楽にはなるんだろうけど、あっ」




『Ostyt'/冷却/クール』

 俺の唱えたその言葉で、炎症を起こしている筋肉繊維が躰の内部から冷やされる。


「あぁ……ひんやりして気持ちいい……」

 アイシングというやつだ。しかも直接躰の内部の血管や筋肉に作用を及ぼす。

 わずかなマナ消費で効果は大きい。


「あ……本当だ、ヌィひんやりしてる……きもちいい」

 アンジェが俺の腕に手をあて、頬を擦りよせる。


「すーすー……」

 そのまま眠りについてしまったようだ。


 俺は間近で見るアンジェのきれいな寝顔に少し顔を赤らめる……

 ああ……これはもう1度冷却魔法を使わなくちゃ。



 ▶▶|


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