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犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第一章 犬も歩けば異世界召喚
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第二話 異世界幻想


「ごめんなさい……わたしが魔法に巻き込んだんだと思う……」

 アンジェは瞳を潤ませ辛そうにそう呟いた。



 |◀◀



 Grrrrrrrrr……


「パパ! ママ!」

 地響きのような唸り声と共に、家の壁を突き破りその魔獣は突然現れた。


 地面が揺れて石造りの壁も簡単に壊れ、瞬く間に家が崩れる……

 家族と一緒に暮らして来た平和な日々と共に。


 白く輝く巨大な体躯の魔獣が鋭い牙を剝いた……

 赤黒く染まった瞳に睨まれると、わたしの躰は動かなかった。



「アンジェ、アンジェッ」

 ママが泣き叫びながら駆け寄り、魔獣を前にして動けないわたしを抱き抱えた。

 わたしは力の入らない腕で震えながらも必死にしがみつく。


「……白い狼……この国、ブレイクを潰す気か……」

 パパはわたしとママを庇い、剣を構えて魔獣の前に立つ。

 その背中を見てやっと呼吸をすることが出来た。

 うん、パパが来てくれたならもう大丈夫、どんな魔獣が現れても絶対平気。

 だって強くて立派なハンターだから。



 血飛沫が世界を真っ赤に染めた……



「……ぁ……ぁぁぁぁぁぁぁああああああ゛あ゛あ゛……」

 泣き叫ぶ声が響いた……わたしの声だ……


 さっきまで家族で寛いでいたリビングのカーペット。

 そこには折れた牙が転がり赤い血の海が広がっている……

 パパの姿はもうそこにない。



「アンジェ、これは御守りよ……」

 わたしに握らせた拳を包み込むママの手……

 力の籠ったその手は震えていた。


「生きなさいっ」

 それがわたしの感じた最後のママの温もりだった。



 Gggggrrrrrooooooooooowwwwwwl!!


 全身を叩きつけるように魔獣の咆哮が響き……

 きっとママが魔法を使ったんだと思う。

 わたしはその場所から放り出された。


 崩れた壁から家の外へと跳ね飛ばされ、地面を転がる……



 深夜の森に地響きが轟き、家族と過ごしてきた家が目の前で崩れる。


 躰の中から温かさが失われていく……拳から力が抜ける……

 その手には赤く透き通った鉱物……魔結晶が握られていた。

 魔結晶の表面を覆っていた魔力=マナが薄れて行くのを感じる……


「マ、マ……マアァア゛ァ゛……」

 わたしもそれくらいのことは知っている……それは所有者が命を落としたということだ。


「ぅううう……う゛う゛……」

 涙を流し、嗚咽あげた。




 Grrrrrrrrr……

 わたしの泣声に異音が混ざる……

 崩壊した石壁が揺れてヤツが姿を現した。


「そんな……白い…狼……」

 パパとママが命を賭して戦ったのに……


 躰から力が失われていく……


 死んじゃう……死んじゃうんだ……わたしここで死んじゃうんだ……



 諦めたその時……

『生き残れ……生き残れ……こんなところで死んじゃだめだっ生きろ!!』

 心に誰かの声が響いた。



「……パパとママが守ってくれたんだもの……この命を簡単に手放しちゃダメだ」

 躰から失われた力を僅かに取り戻し、躰の震えを無理やり抑える。



 地面にはナイフが転がっていた、わたしと一緒にここまで飛ばされたのだろう。

 パパの愛用していた魔武器だ。


 ナイフを鞘から抜き、冷たい金属の刀背を自分の首筋に当てた。

 力を込めて刃を引くと……ナイフは見事な切れ味を魅せた。


「よし……」


『Pechat' /刻め/マーキング』

 所有者を失った魔結晶、その表面に私の魔力=マナが急速に刻まれる。

 躰の一部……ばっさりと切り落とされた髪を媒介にして。



 Gggrrroooooooooowwwwwwllllll!!


 森に咆哮が轟き、白い巨体が瓦礫を吹き飛ばして飛び跳ねた。

 憎しみが溢れる片目となった赤黒い瞳がわたしを睨みつける。

 犬歯は折られていたが咥内に残る無数の牙を剥き出しにして襲いかかる。



「わたしは……生き残るっ」

『Reliz vse Udar /全放出/リリースオール』

 魔結晶に蓄えられた全てのマナが噴き出し、周囲が濃いマナに包まれる。

 代わりに魔結晶は色を失い透明に変わった。



『Meteor!! / 流星!! / メテオ!!』



 召喚された流星が夜の景色を真っ赤に染める。

 凄まじい轟音と衝撃と熱が一気に襲い……

 巨大な白い影と禍々しい気配は目の前から消え去った。


 だけど……その勢いは止まらない。



 わたしがその余波に呑まれそうになった時、誰かに守られ、やさしい温かさに包まれた。



『守れ……守れ……彼女だけでも絶対に守る!』

 強い意志の籠った蒼い瞳が輝き

 凛々しく尖った耳がツンと立ち

 柔らかい尻尾がゆらりと揺れた。



 わたしは……家族に、そして彼に守られて……この惨劇の夜を生き残った。



 ▶▶|


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