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犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第一章 犬も歩けば異世界召喚
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第十九話 頭角を見す


「いい剣筋でしたよぉ……んふふ……合格です」

 剣を収めたユーリカが微笑み俺に告げる。

 どっと全身を襲う疲労感と込み合あげる達成感を感じながら、俺は訓練場の柵を出て地面に座り込んだ。



「ハッハッ……ハッ……」

「はい、疲れたでしょ、ちゃんと休んでね」

 アンジェは俺の顔を覗き込み、カップで水を差し入れてくれた。


「それにしてもヌィはどんどん速くなってるね」

 アンジェほ微笑ながらそう言ってくれるが、ユーリカと剣を交えるにはまだまだだ。

 ふぅ、カップの水をごくごくと一気に飲むと乾いた喉が潤うとともにやっと息も整った。




「……次、行ってくる」

 ハンナが肩に大木槌を、腰には木剣ならぬ木レンチを下げ訓練場へと向かう。

 そう、ブレンダとハンナの講習も本日が最後、現在その試験が行われている。


 そして俺は関係ないので高見の見物と思っていたのだが、そんなことが許されることはなく

試験を受けさせられたという訳だ。

 何か理不尽なモノを感じるが、ユーリカには逆らえない。



「えぇ皆さん全員合格です。私も苦労した甲斐がありましたぁ」

 近接戦闘の結果は皆が好成績だったらしく、ユーリカはもう終始笑顔となった。

 今回の講習では野営地のことや少々問題を起こす子がいて苦労していたが、それもすべて報われた気分なのだろう。


 その後の遠隔攻撃と魔法の試験ではアンジェ以外はあまり芳しい結果ではなかったみたい。 もちろん俺はその時間も笑顔のユーリカとの訓練でしたとも、ええ。






「んふぅ……どう? 見てよほら、銅ホルダーだよ、正式ハンターだよ」

「ん……これでもう、うんざりさせられなくて済む」

 ブレンダとハンナもニコニコしながら手に入れた銅ホルダーを見つめる。

 軽銀と銅の違いは講習費用を払い終えているかどうかだけなんだけど、それでも自分の力で支払いを終えるだけの獲物を狩ることが出来たという証ではあるのかもしれない。


 二人とも近接戦闘以外はあまり成績が振るわなかったが、魔法はハンナが若干上。

 遠隔は同じくらいの成績だったが、ブレンダが最後やけになって投げた剣はしっかり的を捉えていたので、ブレンダは投げナイフを使うことを考えているようだ。



「アンジェはハンターとしてかなり優秀ね……でも私も追いつくからっ」

「ん……さすがはアンジェ、立派」

「ぇへへ、そうかなぁ……ありがと」

 一番成績が良かったのはアンジェだ。

 近接も遠隔も前回より一段階昇格、両方とも星が増えて銅星4となっていた。


「魔法の腕も上達したね、銀星を増やすのは容易ではないが期待しているよ」

 アンジェは魔法もかなり上達しているが、残念ながら今回は星が増えなかった。

 ソフィアによると銀星を増やすのは銅星の時とはレベルが違うという、シルバーランクハンターがいくつもの修羅場を潜り抜けて手に入れられるものらしい。



「え?これって!?」

 ということを聞いたばかりだったが、俺の近接戦闘評価が銀星二つへと上がっていた。


「ヌィすごいよ、もう銀星2つめなんて!」

 アンジェは喜び、ぴょんぴょん飛び跳ねながら俺に抱き着く。


「えぇ、短期間でこれだけ腕を上げるというのはなかなか無いですからね」

 このことはユーリカも褒めてくれて俺の尻尾もぶんぶんと揺れた。


「次の試験でもう一段階昇げるには訓練量を倍に……いやもっと荒療治を……」

 ただ続くユーリカの呟きを耳にした途端、尻尾が下がり、耳も垂れ、本能がそれ以上の続きを聞くことを拒絶した。



 ちなみに昇格試験は希望すればギルドと調整して都度受けることが出来るらしい。

 講習の試験がある時に一緒に受けてもらえると、新人ハンターの手本や励みになるのでギルドとしてはありがたいそうだ。




「こっちの星もうれしいよな」

「うん、そうだね……ぇへへ」

 今回は近接以外にも銅星が1つ増えた、依頼達成に対するギルドからの評価だ。

 初クエストにしては変わった依頼だったがこうして評価を貰えるとうれしい。

 ただ講習費用と相殺で金銭的報酬は0なのだが……まぁ、いいだろう……うん。




「ねぇねぇ、アンジェとヌィは明日も狩りに行くの?私も行っていい?」

 ブレンダがアンジェの袖をひっぱってねだる。

 ハンナは資格を獲ること自体が目的だが、ブレンダは狩りと剣の腕を磨くことが目的。

 頻繁に狩りに出ることを望んでいるみたい。


「じゃぁレイチェルを誘ってフォレストリザードを狩る予定なんだけど来る?」

「面白そうじゃないっ!行くわ!」

 蜥蜴狩りに誘うとすぐにブレンダの元気な返事が返って来た。



 ▶▶|



 最初はブレンダの距離感に戸惑い、お店のお客様に接するように一歩二歩引いた感じだったレイチェルだが、何度か一緒に蜥蜴狩りをするうちに2人は仲良くなっていった。

 きっとブレンダの良くも悪くも裏表のない性格のお陰だろう。


「ぇへへ、今日の狩りは調子よかったね」

 獲物の買い取りを済ませるとアンジェは俺に微笑みかける。

 マナが溜まり少し赤色が濃くなった魔結晶を見る。俺達のハンター生活はどうにか順調だ。



「私も甲とは言わなくても……乙くらいの魔結晶が欲しい……」

 呟いたのはブレンダ、彼女のホルダーを飾る魔結晶は小さな丙魔結晶だった。


 お財布代わりにはそれでも十分だし、大金を稼いでも金貨や銀貨で貰えばいいのだけれど、そういうことではないのだろう……きっと見た目とか見栄の問題だと思う。


「あとで一緒に魔道具屋さん見に行ってみる?」

 アンジェが目をぱちくりさせて尋ねるが、それはブレンダの望む答えではない。


「あー……魔獣が狩りたいの?」

 目を輝かせて何度も頷くブレンダ、俺の答えが正解だったようだ。


「実際に狩れるかはともかくとして……依頼を探しみたら?」

 ブレンダはすぐさま掲示板へと走り、アンジェは微笑みながらその後に続いた。



 壁の掲示板に貼られた沢山の紙、そこには魔獣らしき姿も描かれている。

 最近、日々の生活に追われて忘れていたけれど、初めてギルドに来たときはこの掲示板を見て興奮したものだ。

 いや、今改めて見てもやはり興奮する、俺たちでも達成できるクエストがあるだろうか。


「これなんてどう?」

「それは無理だよ」

「じゃぁこっちは?」

「うーーん……」

 ブレンダが依頼書を指さすと、アンジェは首を振ったり、唸ったり。なんか強そうな魔獣が描かれているモノばかりブレンダが選ぶのが原因だろう。



「もう、遅いと思ったら……そんなモノ見て遊んでないで訓練しましょう」

 ユーリカが痺れを切らせたような顔をしてやって来た。

 いや、ギルド職員が依頼票をそんなモノ扱いでいいのだろうか……


「えっと、私達でも狩れる魔獣を探しているんですけど」

「できれば乙魔結晶のヤツでっ!」

 アンジェにブレンダが続く、だがユーリカの表情からすると難しいのかもしれない。


「今の力だとまだ……せめて6人以上で挑めばいける……かな?」


「!! 6人いれば狩れるの?集めて来るっ!」

「あっ待って、ブレンダ待ってぇ」

 ブレンダがギルドを飛び出し、アンジェは慌てて追いかけて行った。

 まったくブレンダはと俺も追いかけようとしたところ……


「ヌィ君はこっちですよぉ」

「はい……」

 ユーリカに回り込まれた……逃れることは出来ない。



 ▶▶|



「集まったよ!ヌィも明日は魔獣狩りだからねっ!」


「はぁ……は……ぁ……」

「アンジェ、大丈夫?」

 俺がユーリカとの訓練を終えると丁度二人が戻ってきた。決して体力がない訳ではないアンジェだがブレンダにあちこち連れまわされたのだろう、訓練後の俺より息を切らしている。



「それでぇ、メンバーは誰になったんですか?」

「この3人の他はハンナとイーサンと兄さんです!」

 やる気一杯、自信満々に胸を張って答えるブレンダ。

 俺はアンジェの息が整うのを待ち、どんな様子だったのか尋ねる。


 初めはレイチェルに声を掛けたのだが、急に明日丸一日狩りに出るのは難しとのことで残念ながら参加できなかったそうだ。まぁレイチェルは家が商売をやっているからなのか、元々乙魔結晶を持っているので無理して参加するメリットもないだろう。


 次にハンナを誘ったのだけれど、初めはあまり乗り気な返事ではなかったそうだ。

 だがそこへイーサンが現れ、魔獣狩りの話を聞いて参加の名乗りをあげた。

 あぁ……イーサンに吹っ掛けられたか、狩りの後また自慢げな態度を取られるとでも思ったのだろう、ハンナはしぶしぶ参加するという感じだったそうだ。


 後はオフィーリアに声を掛けようとしたが捕まらず、クラリッサはブレンダと付き合いがなかったので声が掛からなかった。フレアも同様の上、既にこの街を離れている。

 そこで最後にブレンダの兄であるガレットを強制参加させたようだ。



「そのメンバーであれば……倒せるかもしれませんね。でも引き際をしっかり見定めてくださいよぉ、アンジェさんは魔法で囲って撤退する手順を打ち合わせておいてください」

「は、はいっ」


「まだ張り出していな情報なのでぇ地図を描きますね、それと魔結晶を除いたら儲けは500マナというところですかね」

 まだ正式な依頼が出てないということは緊急性を要する被害は出ていなく、かつ俺たちくらいの力で倒せる魔獣ということで報酬を入れてもはまぁそんなモノなのだろう。



「魔結晶や儲けの取り分の話はどうしてるの?」

「あっ、決めてないっ」

 俺がブレンダに問うとまだそこまでの話はしていなかったようだ。


 そこでアンジェとも話し、俺とアンジェは必要ないので魔結晶の権利はいらない。残り4人でダイスでも振って獲得者を決めたらどうかと提案した。外れた3人+俺たち2人で報酬と他の素材を均等に分けることになる。


「それだっ!よしアンジェ皆に説明しに行こうっ!」

「ちょっ……ブレンダァァ……」


「……アンジェはユーリカから詳しい話を聞いておいて、俺がブレンダを追いかけるよ」

「うん、ヌィありがとう……お願い……」


 まぁ皆と言っても2人に話せばいい、ガレットはブレンダからの頼みなら文句は言っても拒否はしないだろうし。


 ブレンダの呟きで明日の魔獣狩りが突然決まった、俺たちにとってこれが初めてのクエストらしいクエストだ。

 なんだかんだ言って俺も明日が少し楽しみだ、堂々と訓練もお休み出来るし。



 ▶▶|




  = = = = = = = = = = = = 

 成績発表  ★:銅   ☆:銀

       近接    遠隔    魔法

アンジェ   ★★★★・ ★★★★・ ☆・・・・

ブレンダ   ★★★★・ ★・・・・ ★・・・・

ハンナ    ★★★★・ ★・・・・ ★★・・・

ヌィ     ☆☆・・・ ・未受験・ ・未受験・


 前回成績

アンジェ   ★★★・・ ★★★・・ ☆・・・・

クラリッサ  ★★★・・ ★★・・・ ★★・・・

イーサン   ★★★・・ ★・・・・ ★★★・・

フレア    ★★★★・ ★★・・・ ★★・・・

ガレット   ★★★・・ ★★★・・ ★★・・・

オフィーリア ★★・・・ ★★★・・ ★★★・・

レイチェル  ★・・・・ ★★★★・ ★★・・・

ヌィ     ☆・・・・ ・未受験・ ・未受験・




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