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犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第一章 犬も歩けば異世界召喚
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第十八話 遠出 ~ トリプルアタック


「やったぁ にひひ、調子にのるなってはわかってるよ?でもでも喜んでもいいよね」

「……これでうざいイーサンを黙らせることが出来る」

 普段は表情をあまり出さないハンナでさえ、今日は何度も笑みを浮かべている。


「そうだね、ふたりが頑張った結果だもの、喜んでいいよね、ヌィ?」

「うん、少し早いけどおめでとう」

「二人ともおめでとう、私もそろそろ気合を入れて稼ごうかな」


「「ありがとうアンジェ、ヌィ、オフィーリア」」



 講習を開始してわずか9日、早くも二人は狩りの稼ぎで講習費用を払い終えた。

 これで講習を終えれば正式なハンター、嬉しさを抑えきれないのも仕方がない。


 オフィーリアは俺たちが講習へ再参加していても時々一緒に狩りへ出かけており、彼女が一緒だとブレンダとハンナはカッコをつけたいのか動きが良くなる。

 そのためユーリカも彼女が狩りに加わることも歓迎してくれている。



「ブレンダさんとハンナさんは明日と明後日は一緒に遠出をしますよ」

 ユーリカから北北東の高地エリアの泉で行う野営講習について告げられた。


「アンジェさんとヌイ君はどうしますか?」

 遠出の目的は野営の仕方を覚えることなので俺達は今回参加しなくても良いらしい。

 狩りもユーリカとの訓練もお休みしてのんびり過ごすのもいいかも、うん。



「むぅ……一緒に行こうよアンジェぇ、ね?」

「うーん……どうしようかヌィ?」

 ブレンダの誘いに少し戸惑いながらも嬉しそうにするアンジェ。

 うわめづかいで俺の顔を覗く……この表情からすると参加したいんだろうな。


「ヌィも参加した方がいい」

 ハンナが俺にもお声をかけてくれたし……

「じゃぁ……丁度いい息抜きにもなるだろうし参加しようか?」


「うんっ!」

 満面の笑みで微笑むアンジェ、俺の選択は正解だったようだ。

 アンジェの喜ぶ姿を見ると俺も嬉しくなり自然と尻尾も揺れる。


「ま、ヌィもついて来てもいいよ」

 何故かブレンダは俺に対して上から目線、腕を組み偉そうに俺を見る。



「うぅ……ぃぃなぁ」

 しばらく俯いていたオフィーリアだったが、心を決めると言葉をつづけた。

「私も……私も参加させてもらえませんか?」


「前回のことがあるのに……いやあるからこそ参加したいんですよねぇ……」

 ユーリカはオフィーリアの言葉を聞き、その表情を見て思案する。

 前回の野営訓練で蛇に咬まれ命を落としかけたオフィーリア、それを乗り越えようとする彼女の意志をユーリカは読み取ったのだろう。


「……わかりました、私からも親御さんに話をしましょう」

「はいっ、ありがとうございますっ! やったよっヌィ君!」

 喜んではしゃぐおっフィーリアは跳ねて俺に抱き着き、柔らかい感触が俺の頬を圧迫する。


「よ、よかったねオフィーリア」

 アンジェはオフィーリアに言葉をかけながらも、ぷくっと頬を膨らませた。

 たぶん俺の尻尾がさっきより勢いよく揺れている所為だろう……


「やっぱりヌィは無理して来なくてもいいよっ」

 何故かブレンダも俺に辛らつな言葉を放ちジト目で睨みつけた。



 ▶▶|



 翌朝、俺たちは北北東の高地エリアを目指して出発した。


「この前はありがとうね」

 今回もポーターを勤めるマカナ、その頭の羽根を撫でるオフィーリア、危篤状態の彼女を街まで運んでくれたことに対してのお礼だろう。


 ブレンダは興味深そうにその様子を眺め、ハンナはラプトルが少し苦手なのか僅かに距離を取っていた。




 道中では桃色の実をいくつか採取し、偶々道に飛び出してきた兎を一羽仕留めたこと以外には特に変わったこともなく順調に進んだ。


 泉に到着すると野営に関するユーリカの講習が行われたが、今回は安全の為にテントは皆がまとまった場所に設営することとなった。

 ハンナは黙々と器用にテントを設営したが、ブレンダは苦手な様でかなり苦戦しており、なんとか設営されたモノもどこか微妙に歪んでいた。



 ▶▶|



 狩った獲物や泉の魚でお腹を満たし、楽しい夕食のひとときを過ごす。

 うん、宿で分けて貰ったミルクで作ったバターでの味付けは中々好評だった。


 食事を終えて満腹になるとすぐに就寝時間だが、テントに戻る際には毛布の下や荷物の影など念入りに確認するようにとユーリカから注意が行われた。



「ふぅぅ……平気、うん、きちんと確認すれば大丈夫、もう怖くない」

 オフィーリアがテントの確認を終えて息を吐いた、彼女が今まで時折見せていた陰りの様なモノが消えた気がする。どうやら無事に恐怖を克服できたようだ。


 でも、ユーリカから聞いた話では、前回オフィーリアがテントを設営していた付近でまた毒ヘビを見つけたらしい。ここを今後も野営訓練の場所とするかは要検討だと言っていた。



「夜間わ私が見張りますのでぇ、皆さんは早めに就寝してくださいね」

 見張りを一人で務めるというユーリカをアンジェは心配そうに見つめる。


「交代しなくて大丈夫なの?」

「ありがとうアンジェさん、皆さんが狩りと料理をしている間に眠っていたので平気ですよ、それに朝になったら少し休ませて貰いますからぁ」

 ということであればとみんなは納得して毛布にくるまった。ハンナが一番先に寝息を立て、俺もブレンダの話し声がまだ聞こえている最中だったが、夢の世界へと誘われた。



 ▶▶|



「ふわぁ……お……はよぅユーリカ」

 空が薄っすらと明るみ始めた頃、俺は欠伸をしながらテントから這い出た。


「まだ寝ていても平気ですよ?」

「枕が違うから早く目が覚めちゃって」

 俺はそんないい訳をして見張りを交代し、焚火で湯を沸かしお茶を入れる。



「ヌィ……ん……居た……」

 アンジェが目をこすり足元が少しおぼつかない感じながらも起き出してきて、俺に軽くもたれかかる様にして隣に腰をおろす。


「まだ寝ていても平気だよ?」

 俺はユーリカと同じような台詞を言い。

「ぅん」

 アンジェは小さくと呟き、俺の肩で寝息を立て始めた。






「……アンジェ」

「……ん」

「ごめん、ユーリカを呼んで来れるかな……」

 まだ薄暗い影は残るが鳥が囀り始めたころ、周囲に嫌な気配が漂い始めた。


 それは俺の知っている気配、だが2……いや3羽……数が多い。

 ナイフを鞘から抜き、焚火に薪をくべてから立ち上がる。



「アンジェさんに二人も起こす様に頼みましたが、気配は1つじゃないですね」

「うん、近くにいるのは3羽だよ」


「ん、私が攻めても残りにここが狙われる可能性がありますね……」

 ユーリカには珍しく顔を顰めて悩んでいる。

「それに藪の中、私が踏み込んで戦うにはちょっと窮屈な地形です」



「じゃぁ、おれが攻める、ユーリカがここを守って」

「……でわ、お願いします……皆が起きて集まったら行ってください」

 俺がユーリカを見つめて提案すると、彼女はそれを認め、頷いてくれた。

 これって俺のことを一人前のハンターとして認めてくれたことだよね。

 任されたんだから、しっかりやらないと。



 まだ動きが緩慢ながらも武器を手にしたみんなが集まり、ユーリカは皆を背後に庇うように立つと長剣と短剣の2本を同時に構えた。



「お願いします」

 俺はユーリカの言葉に頷くと藪の中へ。


『必要なのは素早さ……速く、速く、速くっ!』

 脚にビリビリと電撃が走る。


「先手必勝ぉ、頭を潰すっ!」


 一番強い気配目掛けて一気に跳んだ。

 低く構えた姿勢で牙を掻い潜り、垂直に構えたナイフが喉笛に突き刺す。


 Kyeeeaaaahhh!


 左後方から急激に迫る気配に俺は躰を大きく捻り、ナイフに刺さったままの躰を盾代わりにぶつける。


『速くっ!』

 ナイフを持った右手がビリビリと痺れ、新たな獲物へと突き動かされる。

 それは獲物の右後ろ脚の腱を裂き、引き戻す動きで背後から胸を貫いた。


 Gyyyeeerrrrrr!


 叫ぶような鳴き声、残った1羽が俺から離れ、残るみんなを標的に定めて跳んだ。

 逃がすかっ、俺も続いて藪を飛び出し最後の獲物の姿を捉えた。



 だが俺の見たソイツは既に切歯が折られ、首と胴とが分断された姿となっていた。



「はぁ……次の講習までに新しい野営地を探さなくていけませんねぇ……」

 ユーリカは剣を収めて肩を落とす。

 ここから少し離れているが、先ほど襲ってきた魔獣と似た気配をまだ感じる。

 どうやら、この泉周辺にはボーパルバニーが繁殖してしまったようだ。



「ヌィ、平気?怪我しなかった?」

 アンジェは心配そうな顔で俺に怪我がないかを確認し、


「むぅ……3羽もいたなら私にも戦わせてくれてもよかったのに」

 ブレンダは自分も戦いたかったと残念そうにし、


「あっという間に2羽も仕留めちゃうなんてすごいよっ」

 オフィーリアは純粋に俺が兎を狩ったことを褒めて喜んでくれた。


 三者三様それぞれ異なる反応だ。

 あれ?三者?



「…………すぅ……すぅ……」

 ハンナは大木槌に寄り掛かり寝息を立てていた。

 この神経、きっと彼女は大物になるに違いない。



 ▶▶|


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