第十六話 部屋探し
「さぁ、ヌィ出かけよう」
わたしは元気良く声を掛ける、今日から私たちのハンター生活が始まります。
「まずは……フレアから聞いた情報だ」
ヌィと並んで街を歩く。2人だけでこうして歩くのは久しぶりかな?
着いたのは街の中心近く、大きな4階建ての立派な石造りの建物。
そう、今日のわたしたちの今日の目的はこの街で暮らす新しいお部屋を探すこと。
「いらっしゃいませ、どうぞこちらにお掛けになってお待ちください」
建物に入ると黒いスーツの人に案内されてふかふかのソファーに座らされた。
「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「アンジェとヌィですっ」
「……畏まりました少々お待ちくださいませ」
どんなお部屋かな、これからの暮らしを想像すると待っているだけの時間も楽しい。
「申し訳ございません、お伺いしたお名前ではご予約されていないようですが……」
ご予約ってなんのことだろう、私たちはお部屋を探しに来たのに。
「あ……すみません、予約はしていないんです、フレア……友人から話を聞いて、
ちょっと見て、いや、一度拝見させていただきたくて………あの……」
ヌィがなにか焦てた様子で黒いスーツの人とお話をする、緊張しているの?大丈夫かな?
「フレア様というとロッシ様の甥子様でしょうか、なるほどこちらも早とちりをいたしまして大変申し訳ございませんでした、ゆっくりと御覧くださいませ」
「あ、ありがとうございます」
ヌィがお辞儀したのでわたしも続けてお辞儀をする。
まだ、ヌィはきょろきょろとして落ち着かないみたいだけど。
「はぁぁぁ……緊張した……」
「ヌィどうしたの?」
宿から外に出るとヌィは大きく息をついてふにゃぁってなった。ヌィには悪いかもだけど、垂れた耳がちょっとかわいいと思った。内緒にしておこう。
「えっと……ここはなんか落ち着かなくて……違う宿を探さない?」
「あーすごく広かったもんねぇ、いいよ他のところにしよ」
ヌィは広いお部屋は苦手なのかなぁ、覚えておこう。
それにいろんなお部屋を見れた方が楽しいかもしれない。そんなことも考えてわたしはヌィに頷いた。
「じゃぁ、レイチェルが教えてくれた宿に行ってみようか」
レイチェルから聞いていた違うの宿の場所、今度はギルドから北の方向です。
そこは駆け出しハンターが良く利用しているんだって。
街の中心とは違い、少しのんびりとした雰囲気の路を歩く。
しばらくすると、牧場の近く、木造の2階建ての建物に着いた。
「と ら の ね ど こ……ここだっ」
ヌィは簡単な字はもう読めるようになってきた。
訓練だけでも大変だったのに頑張り屋さんだなと思う。
「おやぁ、いらっしゃいかわいいお客さんだねぇ」
「「こんにちは」」
小さなお婆さんに挨拶をする、日向ぼっこを邪魔しちゃったかな。
宿の1階は食事をする場所で、小さめの木のテーブルとイスがいっぱい並んでいる。
カウンターの奥にはお食事のメニューが張られていて、棚にはお酒の瓶が並んでいる。
その奥は厨房かな。
ヌィの顔を覗いたけれど、さっきと違って楽しそうな笑顔。このくらいの広さならヌィも平気みたい。
「えっと宿を取りたいんですけど……値段を教えて欲しいのと、出来ればお部屋を見せてもらうことって出来ますか?」
「はい、ちょっと持っとくれ……おやぁありがとうね」
ヌィがお話するとイスから立ち上がろうとするお婆さん。
わたしは転ばないように手をにぎり、それに気づいたヌィが立て掛けてあった杖を渡す。
お婆さんからはにっこり笑顔でお礼を言われた。
わたしもさっきの宿よりこっちの方がいいかも。
「大部屋はちょいと広すぎるかね……」
初めに見たのは1階のお部屋、大きなベッドが6つもある。
「うーん広すぎてこれだとヌィが落ち着けないかな」
講習を受けたみんなと一緒ならこんなお部屋もいいけど、2人だとちょっと広すぎる。
それにこんなに広いお部屋だとお掃除も大変かもしれない。
「貴方達なら二人で一人部屋でも良さそうね、2階の一番奥の部屋を見ておいで、ほらこれが鍵だよ」
お婆さんは階段は少し大変なのでヌィと2人だけで2階へ上がった。
階段はちょっと狭くて2人並んで歩けないけど、これくらいはしょうがないかな。
「かわいい部屋だね、ここなら落ち着く?」
部屋には大きいベッドが1つ、それと小さなテーブルとイス。
窓から外を覗くと遠くにのんびりくつろぐ牛と緑の風景が見える。
うん、気に入ったかも。ぇへへ……今日からここが2人のお部屋になるのかなぁ。
「うん、でも同じ部屋は……まぁいいとしても……ベッドが一つかぁ」
ヌィは寝相も悪くないし大きさは十分だと思う。迷ってるみたいなのはどうしてだろう。
「こんなに大きいから2人でも平気だよ、ここに決めちゃお」
わたしがそう言ったら、何か少し考えた後ヌィも納得したみたい。良かったぁ。
「えっと2階の部屋が良さそうなんですけどいくらですか?」
1階へと降りるとすぐ、そんな風にヌィがお婆さんに尋ねた。
「おや、それはよかった。食事は別で1泊15マナ、5泊で70マナでどうだい?」
その値段で泊まれるなら早く決めないとなくなっちゃうかも。
「泊まりますっ。とりあえず5泊かな、ヌィいいよね?」
わたしの言葉にヌィはこくりと頷き、ここ[虎の寝床]が私たちの新しいお家になった。
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「アンジェ……もう少し東へ行くと茂みに数羽の鳥、兎の巣も近くにある」
「うん……じゃぁまずは鳥からだね」
森に着くとヌィはすぐに獲物を見つけた。
狙うのは鳥、宿のお婆さんに晩御飯で使いたいからと頼まれたから。
kyuhhh…… Kyeehhh!! Kyeehhh!!
「やったっアンジェ、これで依頼は達成だよ」
ヌィは嬉しそうに獲物を掴んで戻って来た。
鳥は2羽仕留めたんだけど、これをお婆さんに渡せば代わりに3日分はご飯の代金はいらないんだって。ギルドに買い取って貰うよりお得だってヌィは喜んだ。
「うん、うまくいったねっ」
2人きりの狩りで少し緊張したけれど、ヌィはすぐに獲物を見つけてくれた。
森の獲物もそうだけど、わたしが気づかないことをヌィは見つけて教えてくれる。
2人一緒ならこれからハンターとしてうまくやっていけると思う。
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「今日は宿を探すのでお休みするものだと思っていたのですが……
もぉヌィ君ったらしょうがないですねぇ特別ですよ、ふふふ……」
あのあと狩った兎と薬草を買い取って貰う為にギルドに寄ったら、ヌィはユーリカにつかまっちゃった。
「ごめんねアンジェ……先に戻って鳥をお婆さんに渡してもらえるかな……」
「ヌィ……無理しないでね」
ちょっと心配だけど、ヌィならきっと大丈夫、昨日までも平気だったもの。
一人で歩く帰り道はちょっと寂しかったけど、ヌィが帰ってくるのを待つお部屋があると思ったら平気だった。
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「アンジェ……ただいまぁ」
ノックのあと、お部屋の扉を開けたのはへとへとのヌィ。
「あ、おかえりヌィ、遅かったね大丈夫?ごはん食べられる?」
ちょっと遅かったので心配だった、それに一人でいるとやっぱり寂しくなる。
でもヌィが帰って来てくれた途端、そんな気持ちはすぐに吹き飛んじゃった。
「立派な鳥を2羽も仕入れられて助かったよ。はい、これはサービス」
宿屋の女将さんが黒パンとシチューの夕食にミルクを付けてくれた。
ヌィはご飯をおいしそうに食べている。この宿にして正解だったみたい。
「アンジェ、ここはどう?何か不都合は無い?」
「ごはんは美味しいし、お婆さんも女将さんもいい人で私は気に入ったよ」
ベッドに横になってヌィとおしゃべり、ぇへへ……私は一人ぼっちじゃない。
「そう…なら……よかっ…た……」
ヌィはすぐに寝ちゃった、やっぱり疲れてたみたい。
もっとお話しはしたかったけど、こうして隣で寝息が聞えていれば平気。
こんな暮らしがこれからも続くなら、私はきっと幸せです。
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