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犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第一章 犬も歩けば異世界召喚
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第十五話 兵は神速を尊ぶ ~ 閉講式


「でわぁ、皆さんが身に着けた力、ここでしっかりと見せてくださいねぇ」

「「「はいっ」」」


 ハンター講習最終日、これから合否を決める最終テストが行われる。


 まずはじめはユーリカとの近接対戦、順番は名前の順。

 俺は初めの時と同じようにオフィーリアとレイチェルに順番を譲った。


「自らトップバッターを望むなんてうれしいですねぇ、ヌィ君」

 ユーリカの言葉が俺に死の宣告を告げた様に刺さる。

 どうやら名前の順(後ろから)のようだ。本当に最初からその予定だったのかは怪しいが、残念ながら俺に拒否権は無い。

 ナイフサイズの木剣を握り、覚悟を決めてユーリカの前へと出る。



「合格基準わぁ私に攻撃をあてることです」

 いつもの笑顔でユーリカが呟く


「今までの訓練が無駄だったと思わせないでくださいねぇ」

 だがその裏に隠された威圧感を今日は一層強く感じる。プレッシャーが凄い……



「でわぁ、いつでもどぉぞ」

 片手剣サイズのオーソドックスな木剣を手にしたユーリカが試験の開始を告げる。


 ここで様子を伺っていてもユーリカは隙なんて見せてくれないだろう。

 俺はいつもの訓練のつもりでユーリカの間合へと跳び込んだ。


 俺の初撃は簡単に受け止められ、即座にユーリカの反撃が返ってくる。


 剣を躱せるギリギリの距離、俺は背後へ跳び、間を開けずにナイフの間合へ再び跳び込む。


 再び止めれられた俺の攻撃、そして今度は左から右への横なぎの反撃。

 地面に伏せる勢いで避け、転がり、起き上がる勢いで飛び出して脇腹を狙う。

 だがそれも木剣の束で止められ、俺は後ろへ跳んでユーリカの間合から離れる。


「んふふ……ふふ」

 口角が上がりユーリカの微笑が増した……マズイ!!俺の本能がそう告げる。

 あれは狩りを楽しむ強者の笑みだろうか!?


 ……いや違うな……もっと純粋な……子供がいたずらを思いついた様な顔だ。



 来る!!


 俺は無理やり躰を反らせる、

 地面を蹴ったと思ったユーリカが次の瞬間には目前に迫っている。

 凄まじい風斬り音と風圧が今まで俺の躰があった空間を突き抜ける。


 地面を転がり体制を整えた時にはダンッと地面を蹴る音が耳に届く。

 次の一閃……風を斬る鋭い突きっ!


 右頬をそれが掠め……ギリギリだが躱すことが出来た。

 ほっと息をつきたいが、そんな猶予はない。



 ここで改めてこれは訓練ではないということを思い知らされた。

 突きの速度もそうだが問題はその威力……

 たとえ反応出来たとしても何度も受け止められる様なモノじゃぁない。


 それに普段の訓練のように時間いっぱい粘れば良いという訳でも無い。

 合格の条件は一撃与えること……どうすれば……どうすればいい?



 地面を蹴る音。


 またもや繰り出された深い踏み込みの鋭い突きをギリギリ右へと躱す……

 が、ユーリカの左手にはいつの間にか短剣サイズの木剣が握られていた。


「ぐっ……はっ」

 鈍い衝突音が響く……辛うじて木剣で受け止めたが、その衝撃で大きく後ろへと弾かれた。


 ユーリカの双剣攻撃を受けたのはこれが初めて。

 だが、なぜか既視感を感じる。


 風を斬る速さの片手剣での突きを躱しても、追撃の短剣での攻撃が襲う。

 その威力は凄まじく、今はどうにか躱せても、俺の体力はどんどん削られていく。


 だが……この攻撃の正体がわかった。



 次の一撃に賭けるっ!



 地面を蹴り踏み込まれ、ユーリカの片手剣での突きが迫る。

 どうにかその速度に追いつかなくては……


『速く、速く、速く動けぇ!!』

 大きくしゃがみ込み曲げた脚に僅かにビリリと電撃が走った。


 ユーリカの突進に対し避けるのではなく、俺も跳び出してその懐に突っ込んだ。


『撃て!』

 左腕に電撃が走り、その甲が片手剣を持つユーリカの右手首を跳ね上げる。


 だが即座に振り下ろされるユーリカの左手の短剣。

 それが俺へ届く前に……間合を詰め……潜り込み……


『振り上げろぉぉっ!!』

 ナイフを持つ右手に走る電撃。

 速度を増し振り上げた右手のナイフが短剣を持つユーリカの左腕を叩く!



 木剣のナイフがユーリカの革製の小手を叩く乾いた音が周囲に響いた。



「んふふ……今のはこれまでで一番良かったですよぉ……合格です」



「「「おぉぉぉおぉっ」」」

「「「やったぁっ」」」

 響く歓声が俺の耳に届く。




「ヌィ、やったよおめでとぉっ」

 アンジェは自分のことにように喜んで飛びつき、俺は慌ててそれを受け止めて支える。

 そこでやっと俺の顔にも笑みが零れた。


「でも、合格できたのは途中からユーリカが遊びだしたからだけどね」

「え?後半攻撃の勢いは増してたよ?」

 アンジェは目をぱちくりさせて首を傾げる。


「んふふ……気づきましたかぁ」

「うん、もう2回も戦った相手だから……」

 ユーリカの攻撃はある魔獣を模したモノ、そう……あの鋭い突進は忘れない。


 ボーパルバニー。


 片手剣の突きは突進による切歯での攻撃、短剣は蹴りでの攻撃を模していた。


「んふふ、良く出来ましたぁ」

 今のユーリカの表情は純粋に喜びの感情を示す微笑みだ。

 俺は素直に頭を撫でられ、躰に心地よい疲労を感じながら戦いの場を後にした。






 俺の試験の後はサクサクと進んだ。

 受験者が攻撃を行いユーリカがそれを受ける。

 ある程度の時間が経つとユーリカからアドバイスがあり、次の受験者と交代。


 あれ?……なにか俺の時と随分違うような気がするんだけど……気の所為じゃないよね?

 最後にアンジェの試験が終わると何かを思い出した様にユーリカが俺へと近づいた。


「ヌィ君へのアドバイスがまだでしたけど、それは実際に私が指導しますね」

「え?……あ、ありがとうございます?」

 どういうことだろう……まぁ、今考えてもすぐに答えはでない。

 どうせ俺に許された返答は「はい」か「Yes 」か感謝の言葉だけだ。




「さぁヌィ君、約束通りのアドバイスです。はじめましょうかぁ」

「……え?魔法の試験は?」

 みんなはソフィアの元に集まり、魔法の試験についての説明を受けている。

 俺だけが取り残され、革防具を装備してユーリカと二人だ。


「はじめましょうかぁ」

「は、はいっ、お願いしますっ!」

 やはり「はい」を選ばないとずっと同じセリフが返ってくるやつだこれ。



 ▶▶|



「大分良くなりましたね、次回はもっと足裁きを中心に訓練しましょうか」

「ハッハッ……ハッ、はいっ……お、お願いします」

 ユーリカとの訓練がようやく終わり、舌を出して荒い息でくたくたの俺。


 え?いま次回って言ってなかった?え?今日で講習は終わりだよね?




 気づくとみんなは既に魔法の試験を終え、それどころか遠隔攻撃の試験まで終えていた。


 あれ?俺近距離戦闘以外の試験受けていないんだけど……




「はぁぃ、みなさんお疲れ様でした。これで全ての講習は終了となります」

「中々優秀でした、受け持った私も誇らしいです」

 ユーリカとソフィアから講習の締めくくりとなる言葉がみんなに向けて掛けられる。


「それでわぁ順番にホルダーをお渡ししますねぇ」

 一人ずつ名前を呼ばれ、試験前に回収されたホルダーが改めて渡されるらしい。

 なんか卒業証書を受け取るようなこの気持ち。ちょっぴり嬉しいような、寂しいような。



「アンジェさん……これで正式なハンターです。特に魔法には期待していますよ」

「はいっ、ありがとうございます。これでなんとか生きていけますっ」

 ユーリカからアンジェの手に渡されたモノ、

 それは正式ハンターの証、少し重厚感があり鈍く光る銅ホルダーだ。


「おめでとうアンジェ」

「うんっありがとうヌィ……ぇへへ」

 名前を呼ばれるのを待つ者達は期待に満ちた表情で前を見つめ、既に呼ばれた者は手の中のホルダーを喜びと決意の籠った目で見つめる。



「ヌィ君はまだまだ伸びます、これからもみっちり鍛えますからね」

「はい、ありがとうございます………ぇ?」

 俺は受け取った銅ホルダーの喜びよりも何か衝撃的な言葉に思考が停止した。

 ┃ ┃




  ▶

「ヌィ、おめでとうやったねっ!」

 はっ……何かあったのだろうか、何か言われた気がしたが……

 きっと気のせいだろう、そう思いたい。

 アンジェが小さな拳を振りながら喜び、俺にお祝いの言葉をかけてくれる。


「ありがとうアンジェ、ん?この星はなんだろう」

 手元のホルダーはその素材が軽銀から銅に変わっただけではなく、銀色のちいさな十字星がひとつ輝いていた。



「ヌィ君はそんなことも知らずに試験を受けたのかい?

 ……いや……私の試験……受けていたか?あれ……?」

 ソフィアが首を傾げる、やっと俺に共感してくれる人が現れた。あまり近づきたくはないけれど。

 首を傾げながらではあったが、ソフィアはその星について説明してくれた。

 それは試験結果~そのハンターの能力を示す指標の様なモノらしい。



「この位置、下の星は近接戦闘の能力値だ」

 ソフィアが俺のホルダーの星を指し示す。

「そして右が魔法、左は遠隔攻撃で、上には依頼をこなすと貰えるギルドへの貢献度」

 アンジェのホルダーを指さしながら説明が続いた。

 そこには近接3、魔法1、遠隔3の星が並んでいる。


「すごいね、アンジェはかなり優秀なんじゃない?」

「ぇへへ……そうかなぁ」

 アンジェが可愛く照れて笑みを零す。


 俺は気になりフレアのホルダーも覗く。

 近接4、魔法2、遠隔2の星が並んでいた。


「なんだよフレアその星の数は……おれなんて星ひとつなのに…」

「何言ってるんだ……お前の星は銀だろ?私のは全て銅の星だ……」

 どういうことかと首を傾げるとソフィアが続けて説明をしてくれた。


「銀星1つは銅星5つより上、そして銀星5つ以上となると次は金星……でもそこまでの者は滅多にいないがね」

 俺の銀星1つはフレアの銅星4よりも優秀な成績だったらしい。

 アンジェの魔法1つも銀の星だった。

 俺は自分の成績の悪さにかなり凹んでいたんだけれど少しだけ安堵した。


「銅ホルダーならば銅星の合計が20以上溜まれば銀ホルダーになれる」

 なるほど、能力+依頼達成の評価で20以上の星となればランクアップされるのか。




「講習は終了ですが、皆さんは今スタートラインに立ったところです。皆さんのこれからの活躍、期待してますね」

 ユーリカとソフィアに見送られてギルドを離れ、みんなそれぞれの家路につく。

 別れは寂しいがこれはみんなが第一歩を踏み出したということだ。

 その門出を祝い俺も皆に負けないハンターになろうと拳を握りしめた。






 成績発表  ★:銅   ☆:銀


       近接    遠隔    魔法

アンジェ   ★★★・・ ★★★・・ ☆・・・・

クラリッサ  ★★★・・ ★★・・・ ★★・・・

イーサン   ★★★・・ ★・・・・ ★★★・・

フレア    ★★★★・ ★★・・・ ★★・・・

ガレット   ★★★・・ ★★★・・ ★★・・・

オフィーリア ★★・・・ ★★★・・ ★★★・・

レイチェル  ★・・・・ ★★★★・ ★★・・・

ヌィ     ☆・・・・ ・未受験・ ・未受験・



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