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犬も歩けば異世界幻想 |▶  作者: 黒麦 雷
第二章 ロードスター
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第五十七話 Link~結合


  ………………

『Gurrrrrrrrrr……』

   ……………………


 負傷して戦闘不能となった小鬼の首筋に、鋭い爪を立てて指を深く喰い込ませる一体の小鬼。その双眸は完全に深紅に染まり、淡く青く光る血管が躰中に浮き出て、蠢いている……血管ではないのか?その蔦の様な膨らみは皮膚下で蠢き、這いずり、伸びて広がる。


「ぅ……」

 小鬼の角が青く染まり大きく膨らむ。青く光る皮膚下の蔦模様は腕を這いずり伸びて、指まで辿り着くと更にその領域を想定外の域まで広げた。

 掴んでいる負傷した小鬼の首筋……その皮膚下にまで光る青い蔦模様が伸びて浸食する。光を失っていた負傷小鬼の眼窩には、再び血濡れの赤色が灯った。



  ……eh………………Guwah…………gaaahhhhhhhhhhhh!!

『Guwahgaaahhhhhhhhhhhhhhh!!』

   …………eehh………………Guwahgaaahhhhhhhhhhhh!!

 両手で負傷小鬼を掴む中央の大きな角の小鬼、仮に大角と呼ぶことにするヤツの咆哮に、負傷小鬼の呻き声が同調して共鳴する。


 だが、青い光を放つ蔦模様の浸食はそれだけでは留まらなかった。


 蔦模様は負傷小鬼の躰内で増殖し、浅黒い皮膚を突き破って更に蠢き這いずり伸びる。溢れた青い光の蔦模様は石床を伝わって伸び広がり、更に石床に伏す幾体もの負傷小鬼を浸食した。俺達が唖然として見守る間に……


    …………g G A A A A A A A A H H H H H h h h ………………

『『『『『『『『gGAAAAAAAAHHHHHhhh!!』』』』』』』』

     ……g G A A A A A A A A H H H H H h h h …………

 浸食は群れ全体を呑み込み、幾重にも重なった咆哮が大音響で轟いた。



「ふんっ、面白そうじゃないっ」

「ま、待ってブレンダっ」

 ブレンダは得体の知れない小鬼の変異にもまったく怯まずに、俺の声が届く前に既に駆けだしていた。


「だぁあぁああっ!!」

 標的は変異の発端である蔦模様の中心である小鬼=大角。敵の見極め、それと相変わらずの思いっきりの良さと行動力には恐れ入るが、流石にもう少し警戒して考えてから動いてほしい、個人的にはそう思う。


 駆けだした速度が乗った勢いのあるブレンダの剣は……大角が構えた盾に阻まれた。青い蔦模様に覆われた負傷小鬼という肉盾だ。

 でも、それが肉盾がただの肉盾だったならば、剣は標的へ届いていただろう。


「だ  だだ   だあっ!」

   Gehh……gyauuu……uGaaaahh……

 幾度も振り下ろされるブレンダの双剣は、全て負傷小鬼の犠牲によって防がれた。手足を動かし自ら斬られに行くような肉盾、将や友を救うための自己犠牲、行動だけを見ればそんな風に考えられる。

 でも違う、そうではないと違和感が俺に警鐘を鳴らす。


「だだだだだだぁぁぁあっ!」

 Ge Ge Gyau uGaaa gy GGahhh

 連続で振るわれるブレンダの双剣を避けることなく自ら喰らい、血を流し、肉を落としながらも爪を振るい牙を剝く肉盾。とても正気だとは思えない。まぁそれは、あの淡く光る青い蔦模様の所為なのだろう。



「……っ、下がって!……くっ」

 肉盾、両脇の負傷小鬼と、周囲に近づいた小鬼がデカい棍棒を振り上げた。その動作に俺は咄嗟に跳び出す。襲い掛かる重量感がある棍棒の重い打撃を、俺は大盾とした盾剣で受け止めた。が、小鬼の攻撃はそれだけれはなかった。


「なっ、ぐ、ぐ、ぐ、くふっ……」

 降り注ぐ大量の石礫。前方から、右から、左から、群れ全体からの石礫での遠隔攻撃が

ブレンダと俺に集中した。

 敵が魔獣だったなら、きっと攻撃対象は俺達全員で、攻撃されるタイミングもバラバラだっただろう。けれどもこの小鬼群の攻撃は、一斉に、集中して、それは統制の取れた軍隊のよう……いや、それ以上、まるで群れ全体が一つの個と言える程ではないだろうか?



「ブレンダっ、他から攻撃は、っ、わたしとヌィで防ぐから」

 いつの間にかアンジェがブレンダの左側へ跳び込み、大籠手で降り注ぐ石礫を弾く。


「あぁ、左側はアンジェに任せたっ、こっち側はおれ、ぐぁっ、止める」

 ブレンダの笑みが深まり、その視線は標的に固定され振るう双剣の速度が上がる。一閃、二閃……十閃……双剣が大角に疵を刻む。険しい表情で牙を剝く大角、これならば……



「だぁぁあああああ!!」

 袈裟懸けに振るわれた剣が、大角の左肩から胸を斬り裂いて深く喰い込んだ。大角は苦痛に顔をしかめて膝を落とし、降り注いでいた石礫の雨が止む。



 この戦いに満足したのであろう頬を緩めたブレンダが、大角に喰い込んだ剣を抜こうと力を籠めると……その表情が変わった。


 Grrrrrhhhh……

 顔を引き攣らせて激しい怒りの形相をむき出しにする大角。皮膚下の青い蔦模様が暴れ、急激に成長して蔦模様同士が絡みつく。喰い込んだ剣を巻き込み、裂かれた傷口が繋がれ塞がれる。


『GuAaaHhhhh!!』

 吠える大角が蔦模様を引き千切りながら掴んだ負傷小鬼を手放し、血に染まり鋭さの増した爪でブレンダに襲い掛かる。



「ブレンダぁ」

「させるかぁ、っ」

 ブレンダに跳びついたアンジェが後ろへ倒れるように避け、俺は二人の前に立ち、大盾を肩で支えて構えた。再び石礫の雨が降り始める。


『GAHhh、Gah、Ga!!』

 幾度も繰り出される大角の爪を構えた大盾で耐えるが、それを支える肩と腕が衝撃に痺れる。大きな傷を負っているはずの大角は既に回復、いや、それどころか攻撃力は爪を振るう毎に増している。それは今もなお小鬼の躰内で成長を続ける蔦模様の所為だろうか。



「ありがと助かった。でも……また、剣を盗られた……」

 強く唇を噛むブレンダ。その左手には剣先の折れた剣を握り、剣を奪われた右手はただ空を掴む。

 もう一息というところで大角を仕留めることが出来ず、牡牛戦に続いてまたしても剣を奪われてしまった。その結果が……ブレンダの瞳を曇らせる。




「ブレンダァア、まだ戦いは終わってないっ!」

 俺は片手でベルトからホルダーを外して彼女へ投げた。空いた彼女の右手がソレを掴む。


「戦ぇえ!」

 届いた俺の声に、ブレンダは嬉しそうに口端を歪ませる。瞳には光を取り戻し、彼女は剥き出しにした緋緋色の牙を大角へ向けた。


「ありがと、でも、こんなモノ渡されたら、言われなくたって……たとえ止められたって戦うわ」

 右手に握った一振りのナイフ、”ふれいむたん”の緋緋色の刀身が輝いた。

 頑強な肉厚のブレード、その切先の孔に浮かぶ黒い結晶の中の赤い煌めきが膨れ上がる。


「はぁぁぁぁああっ!!」

 大角の振るう爪の斬撃を左手に握る”剣先の欠けた剣”で跳ね上げ、攻撃を躱して懐に潜り込んだブレンダは右手に握った”ふれいむたん”を大角の袈裟懸けの痕=青い蔦模様で塞がれた傷へ深く突き刺した。


『燃え尽きろぉぉお!!』

 ブレンダの叫びに、大角の背中の中心から巨大な炎の刃が生えた。そして目に見えない部分の剣身が大角の胸の魔結晶を砕き、心臓を焼き尽くし、背後に群れる小鬼達を焦がし、石礫の雨は止んだ。




「ふぅぅ……」

 今度こそ、大角は終わりだ。そう安堵の息を着いた時だ。


 ……grrrrrrr……


 ……gehhhhhh……


 小鬼の唸り声が再び聞こえ始めた。

 焼かれた大角は石床に伏せ微動だにしない、大角との戦いは確かに終わった。

 だけど小鬼群との戦いはまだ終わっていなかったようだ。


 ブレンダの炎で二分された群れが2つの個として動き始める。左右の群れには新しい核となる小鬼が居るようだ。伸びた角の長さを踏まえて中角左、中角右とでもしようか……いや、やめておこう。ソイツラを倒してもきっと、また別の小鬼が核となって群れが動く。


 だとしたら、最後の1匹となるまで新しい核の小鬼を潰して行くしかないか……?いや、駄目だ。黒竜を囲う光の陣がその光量を更に増している。きっと、ちまちま戦っていられるほどの猶予はないだろう。


 どうしたらいい?考えろ。この間にも小鬼群が淡い光の蔦模様で再び繋がって行く……ちまちま戦っていられないのなら、一気に片づけるしかないか。



 後のことを考えると不安だが……やるしかない。


「シャーロット、アンジェ、ふたr」「にひ、まだまだ楽しめるっていう訳ねぇえ!」

「ま、待ってブレンダ」

 駆けだそうとするブレンダを慌てて引き止める。


「ブレンダ、まだ戦いは終わってないけど、待ってぇえ」

 その俺の声にブレンダは唇を尖らせた。お楽しみを邪魔されたことがご不満のようだが、この場は俺に譲ってもらいたい。

 俺はブレンダをどうにか引き止め、皆に作戦を伝えて小鬼から少し距離をとった。


 ……


「シャーロット、アンジェ、お願いっ」


『豪雨 イムベル!』「続いて」『霞 ネブラァア!』

「はああぁぁぁあ………………」『Tuman /霧/ミスト』


 シャーロットの魔法剣で降り注ぐ豪雨が再始動を始めた小鬼の群れと蔦模様の這う石床を濡らし、続くシャーロットの魔法剣とアンジェの魔法が空気中に小さな水粒を散らして小鬼群の像を不明瞭にぼやかした。

 2人にお願いしたのは群れ全体を覆えるような広範囲の水属性魔法攻撃。それ自体の攻撃力は殆どないが、それはこれから俺が放つ攻撃の布石だ、覚悟はもう決まった……



 胸元からハンターホルダーを引き出し……俺は赤く煌めく甲魔結晶を握りしめる。


『Reliz vse ……/全放出……/リリースオール……』

 甲魔結晶から大量のマナが放出し、小鬼の群れを覆う霧の中に広がる……


「喰らぇええ!」「ぇええいっ!」「はぁあっ!」「たぁあああ」

 ブレンダ達、皆が、俺が大峡谷で大量に回収していた薄刃のナイフ、”白刃”を小鬼群の頭上へとばら撒いた。


『……Udar molnii!!/……落雷!!/……サンダーボルト!!』

 蔦模様にも似た放電が空を裂き、無数の稲光が駆け、轟音が轟く。


『「”犠牙吠咤(ギガバイト)!!!”」』

   ・・・・(GigaBite)

 最大10億ボルト(GigaBolt)にまで達するという落雷と、帯電してうえにマナを吸収して加速された”白刃”。二つの牙が小鬼群に喰らい尽くした。


 ……


「凄い……」

 誰かの呟きが零れた。霧中に蠢いていた赤い眼光と青い蔦模様は消失し、今度こそ小鬼群との戦いは終わった。



 武器や貨幣を除いた俺の全財産、魔結晶に蓄えた全てのマナを放出するのには結構決心が要ったが、それだけの成果は得られただろう。

 でもしばらくは節約生活を心掛けてマナを貯めなくちゃな……

 それと、強い意志の籠った言葉が力になるとわかってはいても、技名を叫んだのは今思うとやはり恥ずかしかった。あの技名は前もって考えてたの?なんて言われたらきっと立ち直れない、その場合あの技は封印するしかないだろう、ゎうぅぅ。



『……面白イ』

  「……面白イ」


「っ……」

 不快な声が響き、鋭い痛みが俺と黒竜を襲う。


「はぁあぁぁ……まさか小鬼達を全滅させるなんて、まったく面倒な奴ラね」

 大きなため息を吐いた黒竜の傍に立つ女性ハンター。その姿が蜃気楼の様に揺らめく。恐らくは濃度の高いマナの所為だろう。

 わかってはいたけれど、勝利の余韻に浸る時間はやはりないようだ。


「はっ、だったら早いところ終わらせてあげる」

「ま、待って欲しいっす、ブレンダ」

 今回、駆けだそうとするブレンダを引き留めたのはカプリスだった。


「そろそろ私達にも出番を貰えませんか?」

「むぅう……」

 その声にクロエも続き、ブレンダはむぅぅと唸る。


「お願い。さっきの大技を見た所為かしら、2人がやる気を持て余してるみたいだし」

「ここはアタシ達に任せて先へ行けっす!」

 シャーロットが2人を援護し、カプリスは言いたかった台詞を言ってやったという感じの満足気な顔だ。

 ブレンダはまだむぅと唸っていたが、俺がこの後にはもっと強い奴が控えている可能性が高いと言えば納得してくれた。


「じゃぁクロエ、この星結晶を使って、ここの火の陣はお願い」

「ぇえ、わかりまs」「任せるっす!」

 アンジェが星結晶を渡すと、受け取るクロエの言葉を遮ってカプリスが片目を瞑る。


「さぁ、早く行きなさい」

「み、皆さん、お気を付けてぇえ」

 シャーロットと少し後方に控えたエヴァンさんに見送られ、長剣の束を握るクロエと何度も片目を瞑るカプリスを残して俺達はその場を離れ先へ向かった。


 ……


「次は譲らないから、あとこのナイフももう少し貸しておいて」

「ぁあ、わかったよブレンダ」

 この様子だとこれ以上”待て”出来ないことは明らかだ。”はい”と言うまでは何度も同じセリフが繰り返されるだろう、ここでは素直に了承するしか選択肢はない。


「あまり時間は無いと思う。ハンナはブレンダをお願い、わたしはヌィと風の陣へ行く」

「んー任せて」

 アンジェの言葉にハンナが頷く。こんなに温度差はあるが、ブレンダとハンナの相性は抜群だ。左後脚を囲む地の陣は2人に任せ、俺とアンジェは左前脚の風の陣へ向かおう。


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