二人の出会い
【前章のあらすじ】 魔女になるため孤児院を抜け出したルーシーは、王都から来たという魔法使いに会いに、街の外れにある小さな城を訪れていた。同じ頃、小さな城の地下50階の牢獄に幽閉されていたミレノアールは、炎の悪魔ファレルの力を使ってそこから脱出することに成功したようだが……
大爆発から間もなく、丘の上にあった城は跡形もなく崩れ落ち、辺り一面瓦礫の山になっていた。
所々に燃え移った火は、幸いなことにさほど広がりをみせることもなく、暗闇を照らす程度にとどまった。
――――ガラッ ガラガラガラッ――――
体につもった瓦礫の山を押しのけて、ミレノアールはようやく立ち上がることが出来た。
「イテテテテッ。……お前、コレ……どう見てもやり過ぎだろ……。いくら不死身とは言え、マジで死ぬかと思ったぞ」
煤と埃で汚れた青いローブを両手でパンパンと払いながら、ミレノアールは呟いた。
「ハハッ! これくらいやらんとお前にかかった枷は外れんかったろう。助けてやった感謝でもしたらどうだ。それよりミレよ、100年ぶりにシャバに出た感想はどうだ?」
巨大な魔力を解き放ったせいでソフトボールほどに小さくなった炎の悪魔ファレルは、ミレノアールの肩に乗るとドヤ顔で尋ねた。
「うん、悪くない。空気も美味いし。まあ……目の前がこんな地獄絵図じゃなかったらもっと良かったけどな……」
久しぶりに手足を動かせる快感から思わず背伸びをして大きく息を吸い込んだ。
「ハハッ! シャバに出て最初の景色がコレってのはお前らしいじゃないか。なあ、『世界の終わりを告げる魔法使い』よ」
「……昔の話だ……そんなことよりジョヴァングは寸前で逃げられた。爆発の直前、『転移の石』を使うのを見た。勘のいい奴だったからな」
「そうか、残念だったな。この爆発であいつが巻き添えになれば、お前との契約を終了できるかも、という狙いもあったんだが」
「あいつはそんなにヤワじゃないさ」
そう言うとミレノアールは、100年ぶりに見る夜空を眺めた。今は星の輝きでさえ目映く感じる。
「そういえばミレよ、さっきから瓦礫の下で人間の気配を感じるんだが……オレ様はてっきり死にかけのジョヴァングだと思ってたんだが違ったようだな」
「なんだって!?」
確かにこれだけの被害があったら、近くに人がいれば巻き込まれて当然だ。
悪魔であるファレルには生死に関わらず人間の魂を感じる力がある。
「けが人と死者の数は?」
「安心しろ、死んだやつはいない。生きた人間の魂を感じるのはその一人だけだ」
「探せ、助けるんだ!」
ミレノアールは、ファレルの言う場所の瓦礫を片っ端からどけ始めた。
―――― ガラッ ドカッ ――――
するとそこには、赤いワンピースを着て、気を失い横たわった一人の少女がいた。
爆発に巻き込まれた『ルーシー』だ。
「おい! 大丈夫か!?」
優しくほっぺをペチペチと叩くとミレノアールの呼びかけにルーシーの意識が少しずつ戻ってきた。
「……ん、んん? 誰ー?」
眠りから起こされたルーシーは、眠たい目を擦りながら目の前のミレノアールを見た。
「大丈夫なのか? お前ケガは?」
「けがー?? どこも痛くないよ。私、なんでこんなとこで寝てるんだっけ?」
「お前……あれだけの爆発に巻き込まれて、なんで無傷なんだよ……」
ミレノアールは呆れた表情でルーシーの顔を覗き込んだ。
「オマエじゃないよ! 私の名前はルーシー。ルーシー・パンプキンっていうんだ。で、おじさんは?」
「おお、そうか、ルーシー。俺はおじさんじゃないぞ、ミレノアールっていう魔法使いだ」
「魔法使い!?」
この状況に少しも臆すことなく突如その瞳をキラキラし出したルーシーに、ミレノアールは一先ず安心した。
「そうだ! 思い出した! 私、お城の頂上まで着いてウトウトしちゃって、そしたら急に地震が来て、そしたら突然床が割れて……周りを見たら火が凄くて! ってあれ?……私なんで平気なんだ?」
ルーシーは崩れ落ちた城の残骸を見渡しながら、先ほど自分に起きた出来事を一つ一つ思い出した。
「おじさん……じゃなかった、ミレノアールさんが助けてくれたの? もしかして、あなたが偉い魔法使い? 悪い魔法使いと戦ったからお城壊れちゃったの?」
「ん? まあ、確かに悪い魔法使いと戦ったし、俺は偉大な魔法使いには変わりないが、助けたのは俺じゃないぞ」
ルーシーはさらに瞳を輝かせながらミレノアールに顔を近づけた。
「やっぱり! 私、今日あなたに会いにここまで来たの! 私、エバーライト魔法学校へ行きたいの! 私を王都に連れてって!」
10歳の少女ルーシーの勢いに圧倒される不死身の魔法使いであった。