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不死身の魔法使いと10歳の見習い魔女  作者: 花咲壱
第4章 最果ての地より
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夜の宴と魔法騎士団の副団長

 いい匂いがする方向を見ると、そこには色とりどりの料理がテーブルに並べられていた。


「エルフの料理をお持ちしましたわ、ミレ様」


 マシェリが様々な料理を盛った皿を並べているところだった。

 今しがたルーシーの修行をしていた場所で歓迎の宴が開かれるのだと言う。

 

 あっという間に組み木が組まれ、火の妖精がフウッと息を吹きかけると、そこにたちまち火柱が立った。

 燃え盛る炎を囲み、ミレノアールたちを歓迎する夜の宴がはじまる。


「この料理美味しー!!」

「ルーシーはちっちゃいのによく食べるのね」

「シャルルよりは大きいよー」

「だからシャロロだってばー」


 ルーシーは楽しそうにエルフたちとおしゃべりしている。

 ミレノアールは(さかずき)に注がれたエルフ特製のお酒を呑みながら、楽しそうなルーシーを眺めていた。

 


「あの子が本当にポポス様の予言に出てくる者だと思うか?」


 察したパウルがミレノアールの隣に座り、空いた盃に酒を注いだ。

 

「さあな。俺にはわからんよ。だけど俺は、あの笑顔がずっと続けばいいと思ってる」


「そうだな。だが我々にとってポポス様の予言は絶対だ。前にも一度、人間に予言を託したことがあったが、結局その人間はその予言を信じなかった。そのせいで悲劇が起きたと聞いている。だからお前も――」


「――それってもしかして100年以上前のやつか? 何か知っているなら教えてくれ」


 パウルの言葉を遮るようにミレノアールが尋ねた。


「ああ、そうだが……詳しい内容は俺も知らん。ただ100年以上前、この里に若い魔女が迷い込んだ。ポポス様はそれが運命なのだと言い、その若い魔女に、()()予言を託したそうだ。それはいずれ起こるという『悲劇』の予言だった。そしてその魔女には、その『悲劇』を回避する(すべ)があるのだとポポス様は仰った。だが結局……ほんの()()()()()ではあるが、その『悲劇』はポポス様の予言通り実際に起こってしまったのだ。 ……そしてポポス様は、そのことをひどく悲しまれていたのだ」


 パウルは揺れる火柱を眺めながら、遠い目をして語った。

 それがポポスの予言は絶対なのだ、という言葉の裏付けになっているかのように。


「その若い魔女がじいさんの予言を信じて、回避するために手を尽くしていれば、その悲劇は起こらなかったというわけか……」


「いいや、それでもその悲劇を回避出来たのかは、今となってはわからない。全ては過去の話だ。だが俺が知る限り、ポポス様が人間に予言を託したのは、今回とその二つだけ。それだけポポス様はお前に期待をしているのかもな」


 パウルはそう言うと、ミレノアールの空いた盃に酒を注いだ。


「ははっ。世界が滅ぶのを()()!ってか。なかなか難しいことを簡単に言ってくれるな。俺はただ、ルーシーからあの笑顔を奪いたくないだけだよ」


「それも簡単なことではないぞ。大きな力には、それに伴う大きな力が動く。あの子にその気がなくとも、それを利用しようとする人間が現れるかもしれんしな」


「ああ。分かっているよ。俺だって伊達に修羅場をくぐり抜けてるわけじゃないからな」


 ミレノアールは大きく背伸びをした。

 その頃には焚き火を囲んでルーシーやエルフたちが踊りを踊っている。


「もぉー、ミレ様もパウル様もこんなところで呑んでばかりいて……さあ、行きますよ!」


 マシェリが二人の手を引き、踊りの中に連れ込んだ。


「師匠ー! こっちこっち!」


 ルーシーは楽しそうな笑顔を見せ、ミレノアールと踊った。

 


 こうしてエルフの里の夜は更けていった。



―――― 時を同じくしてここは、アルバノン王国『王都エクシリア』


 魔法騎士団の集まる一室に、ジョヴァングの怒号が響き渡っていた。


「ガルスのやつは、まだ戻らんのか!? たかが一介の魔女すら連れてこれんとは、魔騎団の恥さらしめが!」

「しかし団長、もしその魔女がミレノアールと関係のある人物ならば、やはりそれなりの実力もあるのでは? もしかしたら既にミレノアールと会っているのかもしれません。そうであれば、いくらガルスといえども、やられている可能性が高いのかと……」


 ジョヴァングの側近が横から(なだ)めた。


「確かに……少し侮っていたかもしれんな。仕方ない。レイヴンを呼べ」

「ふ、副団長をですか? しかし副団長は今、スティレット家の捜索に出ておりますが……」

「その件にしても、いつまで経っても進展がないままだろう。早く呼び戻せ! どうせ遠くには行っておらん。やつは国中のカラスを使って情報を集めているだけだからな」

「わかりました。直ちに呼んで参ります」


 暫くすると、その部屋に一人の青年が入って来た。

 その青年は、17~18歳で青みがかった銀髪に糸目が特徴的な、一見すると好青年のように思えた。

 しかし常に不敵な笑みを浮かべているところが、見た目とは裏腹に不気味さを醸し出している。

 漆黒のローブもその不気味さの要因の一つだった。


「団長ー、何か用ー?」

「遅いぞ、レイヴン! あと敬語を使えと言っているだろう」


 レイヴンと呼ばれるこの青年は、アルバノン王国直属の魔法騎士団副団長だ。言わばナンバー2である。

 若くして副団長にまで上り詰めたという事実こそが、この男の実力を裏付けていた。

 そして目上のジョヴァングに対しても臆することなく、敬語すら使わないというのがまかり通っていた。


「はいはい。あー、スティレット家はまだ見つかってないよ。てか一族ごと滅んだっていうのは、本当なんじゃないの?」

「その件は一先ず保留だ。他に頼みたい事案がある」


 ジョヴァングは、ガルス・ジャッジに命じたことをレイヴンにも繰り返し説明した。


「なるほど。そのクロエっていう魔女を連れて来ればいいんだね。てかガルスも情けないね」

「ああ、だがその場にミレノアールという魔法使いがいれば、その男だけ連れてくればいい」

「なんだ、じゃあその魔法使いを優先して探せばいいじゃん」

「もちろんお前のカラスでミレノアールを見つけ出せるならそれでもいい。だがまずはガルス・ジャッジの回収とクロエの所在を突き止めることから始めろ」

「はーい。今日はもう眠いから明日の朝から始めるよ。カラスも一日中動けないからね」


 レイヴンはそう言うと、ふあ~っと大きな欠伸をして部屋から出ていった。


「あの若造め、いつまで経っても敬語は使わんし、相変わらず掴めん奴だ」


 するとジョヴァングの側近がそっと耳打ちをする。


「副団長一人に任せて大丈夫でしょうか?」

「あの男はああ見えても、魔導士の肩書を持つほどの実力だ。相手が誰であろうと負けることはない」

「ただ最近、副団長の悪い噂を耳にします。裏で何やら動き回っているとか」

「ふん、所詮は若造。放っておけ。それより早くミレノアールを見つけ出して『不死身』の秘密を聞き出さねばならん!」


――――この時はまだ……この副団長レイヴンが企てる陰謀も、そして彼の正体も、アルバノン王国及び魔法騎士団の中に知る者はいなかった

このレイヴンという男は今後の物語の鍵を握る重要人物ですので、以後お見知りおきを願います。

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