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不死身の魔法使いと10歳の見習い魔女  作者: 花咲壱
第4章 最果ての地より
35/50

こぼれる涙とあふれる魔力

 ミレノアールは一抹の不安を残しながら、その場でルーシーを待った。

 ポポスがルーシーの封印に僅かな穴を開けるということも、にわかには信じ難いのだ。

 しかし黒猫の姿をしたこのエルフの予言者が、それを成し得るだけの魔力を持っている可能性があることも理解していた。


「俺はじいさんが人間嫌いだと聞いていたんだが、どうやら違ったみたいだな。少し安心したよ」


 ミレノアールは、ポポスに優しく微笑んだ。


「ふぉ、ふぉ、ふぉ。暫く人間と会うておらんかったからの。そういう噂が立ったのかもしれん」


「そんなに久しぶりなのか? 人間と会うのは」


「そうじゃのぉ。前に人間と会ったのは100年以上前じゃったか」


「100年か……俺よりずっと長く生きているじいさんにとっても、長い時間だったんだな」


「どうじゃろな。長いようで短かったかもしれんの」


「俺にとっちゃ()()100年は永遠だった。今ここにいるのが不思議なくらいだよ」


 ミレノアールは、ほんの数日前までいたあの寒くて暗い地下の牢獄を思い出していた。

 そんな記憶をこじ開けるように馴染みのある声が遠くから聞こえる。


「師匠ぉぉぉぉおおおおー!!」


 ルーシーが叫びながらこちらに向かって走ってきた。

 右手に持っているカボチャのジャックをブンブン振り回している。


「やれやれ、ほんと元気なやつだな」


 息を切らしたルーシーは、ミレノアールのもとにたどり着くと、「ふぅ」と一息ついてから顔を上げた。


『世界を滅ぼす者』ってのは間違いだったの? 私たちとは関係ない?」


「ああ、もちろんだ」


「ほんとに?」


「どうした? お前のことだからまたワクワクして」


 その瞬間、ルーシーは話を遮るほどの勢いでミレノアールの胸元に飛び付いた。


「お、おい! 急にどうしたんだ?」

 

 ルーシーは、ミレノアールのローブに顔をうずめているが、その肩が震えているのがわかった。

 それが声を押し殺して泣いているのだと気付くのに時間はかからなかった。


「ど、ど、どうしたんだよ。世界を滅ぼす者なんかじゃなかったんだぞ。間違いだったんだぞ!」


「ううっ、ぐすん……私……世界を滅ぼす者っていうのが……私のことなんじゃないかって……思ってたの……」


「どうして……? ルーシーなわけないだろ」


「だって……昨日もクロエさんに封印を見てもらったとき……世界を滅ぼそうとしたり、世界に戦争を仕掛けるような人に使われる封印だって言ってたから……だから私は……その予言ってのが私のことだと思ったの……うっ、うっ、ぐすん……」


 ミレノアールは心臓が爆発しそうになった。

 ルーシーはおそらく心のどこかで気付いていたのだ。自分には、自分でも知らない恐ろしい()()があるということを。

 わずか10歳の少女が見えないところでこれほどまでに悩んでいたことを、今の今まで知る由もなかった。それが一番悔しくて、情けなかった。

 ミレノアールは、泣いているルーシーの頭に手を乗せ、くしゃくしゃっとした。


「大丈夫だ! ルーシー! 俺もお前も世界なんて滅ぼさないし、世界が滅ぶこともない」


「ほんとに、ほんと? 信じていいの?」


「ああ! この先何があっても、お前にはこの俺がついている。俺はお前を()()()()()()()()!」


「ううっ、ありがとう……ししょう……ぐすん」


 ルーシーは泣くのを必死に(こら)えながら、顔を上げて笑顔を見せた。


「だからもう泣くな。いつか立派な魔女になるんだろ?」


「泣いてなんかないもん。なーんだ。なんか面白いことが起こりそうでワクワクしてたのに!」


 それでもルーシーは精一杯の強がりを見せると、ミレノアールの周りをぐるりと一周した。


「ほんとお前ってやつは……あ、いやあるぞワクワクすること!」


「え! なになに!?」


「実はな『世界を滅ぼす者』ってのは間違いだったんだが、本当はな……なんと『世界を救う者』だったんだよ!」


「ええーー!! ほんとに師匠!!」


「ああ、ほんとだ。いいか、俺たちは世界の救世主ってわけだ」


「きゅーせーしゅー!! きゅーせーしゅーって何?」


「ズコッ! 救世主ってのはだなー要するに勇者だ!」


「おおー! 勇者!」


 ルーシーは嬉しそうに右手の拳を天に掲げている。


「それでな、ルーシー。ポポスのじいさんがルーシーの魔力を少しだけ使えるようにしてくれるってよ」


「ほんと!!!!」


 ルーシーは今までにない程の大きな声でポポスに飛びついた。


「どれくらい力になれるかわからんが、どれいっちょやってみようかの」


 それまで座布団の上でごろんと横になっていた黒猫姿のポポスがむくっと起き上がった。


「ちょい待ちーや。ルーシーはんの封印を解くなんて、わしが許さへんで! 主人を守るのがわしの仕事や!」


 それまで黙っていたカボチャのジャックが突然声を荒げ、ルーシーの頭の上でピョンピョンと跳ねた。

 ジャックはルーシーの封印そのものを主とする使い魔なのである。


「ジャック……。お前の存在意義を忘れていたよ。だけど封印を解くわけじゃないから安心しろ。ルーシーのためでもあるんだ」


「ルーシーはんのためか……。それを言われると、わしも弱いんや。ほんまに……封印は解かへんのやろな?」


「おやおや、可愛らしい使い魔じゃの。ミレノアール殿の言う通り安心してよいぞ。ほんの小さな穴を開けて魔力をこぼれさせるだけじゃ」


「ほんまか? ほんまにそれで大丈夫なんか? わしは心配やで……いくらルーシーはんのためや言うてもなー……」


 ジャックは最後までブツブツ言っていたが、結局諦めて見守ることにしたようだ。

 ポポスは呆れて大きな欠伸(あくび)をしている。


「コホンッ。気を取り直して、じいさん頼むよ」


「ではルーシー。儂の前に背中を向けて座ってくれるか」


「うん、わかった」


 ルーシーは、ポポスに背中を向けて正座した。

 ポポスはルーシーの背中に自分の右前足をそっと当て、そのまま暫く集中力を高めた。


「あはっ、くすぐったい。背中に肉球が当たってる」


「ルーシー、静かに。お主も集中せんと心臓に穴が開くぞい」


「ひいっ!」


 ルーシーは背筋をピンと伸ばした。

 すると一筋の輝く糸ほどの光が ―――― スッ ―――― とルーシーを突き抜けた。


「おお!」


 思わずミレノアールの声が()れる。

 ポポスはルーシーの背中から前足を下した。


「どうじゃ、ルーシー。何か感じるか?」


「うーん……何にも感じない……」


「おい、じいさん! 何が小さな穴だよ! とんでもない量の魔力が(あふ)れてるぞ!」


 ミレノアールは、ルーシーから溢れ出る魔力を自分の肌で感じとっていた。

 それは10歳の少女が『覚醒した』というには余りにも大きく、それが本当にルーシーの封印に開いた小さな穴から溢れ出た魔力であるとしたならば、その底知れない力にただただ驚愕するしかなかったのである。

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