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不死身の魔法使いと10歳の見習い魔女  作者: 花咲壱
第4章 最果ての地より
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ポポスの予言とミレノアールの想い

 ほんの少しの静寂が辺りを包んだ。

 その問いかけに返事をしないということがポポスの答えであるとミレノアールは理解した。


「あ~ やっぱりルーシーのことだったのかよー」


 ミレノアールは天井を見上げ、自分の頭を掻きむしった。

 依然として毛づくろいを続けるポポスにミレノアールが再び問いかける。


「あんたの予言に出てくる『世界を滅ぼす者』ってーのは、ルーシーで間違いないのか? あいつにそんな力があって、しかもそれを望むっていうのか?」


「そうじゃな。さっき本人を目の当たりにして確信したよ。あの子は近いうち必ず『()()()()()()()()()』を引き起こす」


 ポポスから出た予想外の言葉にミレノアールは絶句した。


「待て、待て! 待ってくれ! 『ヴァルプルギスの夜』だって!? ありゃー大昔にどっかの国が滅んだっていう噂話や都市伝説のようなもんだろ? 俺が子供の頃は「夜更かししてるとヴァルプルギスの夜が来るぞー!」とか言って親に脅かされたもんだが」


「ふぉ、ふぉ、ふぉ。都市伝説か。そうかもしれんのぉ。もう一万年前の出来事になるじゃろーて」


「一万年!? もしかしてじいさん、その頃から生きてるとか……?」


「人を化け猫呼ばわりするでない! さすがに儂もそんなには生きられんよ。せいぜい1500年くらいじゃ」


「十分化け猫じゃねーか!」


「やかましいわっ! コホンッ、ところでミレノアール殿はルーシーの出生には関わっておわんのか?」


「ああ、俺とルーシーが出会ったのはほんの数日前だからな。俺はルーシーと出会う日まで100年ほど地下の牢獄に幽閉されていたから、ここ最近の世間の出来事もわからない。だけどルーシーに何か特別な封印が施されているのは知っている。なあ、じいさん、ルーシーについて知っていることがあれば教えてくれ」


 ミレノアールは思わずポポスに詰め寄ると、覗き込むようにポポスの目線の高さまで自身の頭を低くした。


「儂は予言者じゃ。未来のことは見えても過去のことはわからんのじゃよ。儂が見たのはルーシーが『ヴァルプルギスの夜』という災厄をもたらすということだけ。そこから『世界を滅ぼす者』にどう繋がるかは儂にもわからん」


 今度はポポスが黒猫姿のまま二本足で立ち上がった。


「なんだよそれ。じゃあその『ヴァルプルギスの夜』ってのは何なんだ? 本当にあった出来事なのか?」


 立ち上がったポポスの目線を追いかけるようにミレノアールも中腰で目を見合わせた。


「もちろん。『ヴァルプルギスの夜』とは、()()()()に付きまとう災厄の総称じゃ。おそらくルーシーにその封印を施した者、あるいはそれを依頼した者が大きく関わっておるはずじゃ。詳しく知りたければその者を訪ねることじゃな」


「ルーシーにあの封印を施したやつなら、あらかた予想は出来ている。会うのも難しくはないだろう。だけど俺には、あのルーシーが世界を滅ぼすだなんてとても思えないんだ。もしその予言通りになるなら、それはきっとルーシーの意思じゃない」


「儂もそう思うとったところじゃよ。じゃからお主と二人で話したいと言うたんじゃ」


「なるほど。……俺がルーシーをどうにかして世界を滅ぼすと思ったわけか」


 ミレノアールは両手でポポスをひょいっと掲げると、そのまま天井を見上げポポスを視線の先にやった。


「その通りじゃ。じゃがお主と話してその心配もなくなったわい」


 ポポスは猫の体をクルっと捻ると、ミレノアールの手からすり抜け、トントンっと頭の上を通り床に着地した。


「そりゃよかった。けどな、俺はそんなんじゃ納得出来ねーよ。いったいルーシーは何者なんだ? じいさんはどこまで知ってる?」


 ミレノアールはうつ伏せで横になると両手の甲を顎の下においてポポスの目線に合わせた。


「ふぉ、ふぉ、ふぉ。それはお主とルーシーがこの先、いっしょに旅をしていけば分かるはずじゃ。ルーシーの封印を施した人物に心当たりがあるなら、それもまた運命じゃろうて。()()()()()との関係も『ヴァルプルギスの夜』も、お主じゃったらなんとかなるかもしれんのぅ」


「なんだか上手く、はぐらかされちゃったなぁ。あんたの予言ってのは絶対なのか?」


 ポポスが舌をペロッと出して再び毛繕いをし始めだすと、ミレノアールはうつ伏せから両手を広げてゴロンと仰向けになった。


「そうじゃの。予言者の儂が言うのもなんじゃが、『未来は変えられる』。儂はそう信じとるよ」


「そうか。『未来は変えられる』か。それ聞いて少し安心したよ。なんとなくだけど、ルーシーはこの先、辛い運命でも待ってるんじゃないかと思ってたからな」


 再び少しの静寂が辺りを包む。



「お主は先ほどルーシーと出会って数日と言っておったが、なぜそこまでルーシーに肩入れするのじゃ?」


ルーシー(あいつ)は、生まれてすぐ孤児院に引き取られたって言ったんだ。俺も似たような境遇にあってな」


 ミレノアールは仰向けの状態のまま両手を広げ、天井を見上げた。


「嫌でなければ、ミレノアール殿の境遇を聞かせてくれんか?」


「ああ……俺は5歳で覚醒したんだ。だけどその時の両親はどちらも覚醒してない普通の人間だったし、両親の家系もそうだった。だから俺は、ノワール家っていう『魔力を持つ血統(ウィザーズ・ブラッド)』の家系に……金で売られたんだ。……わすか5歳で」


「お主も辛い幼少期を歩んでおったか……」


「ああ。だからっていうわけじゃねーけど、ルーシーのことはほっとけねーんだ。あいつは「魔女になりたい」ってキラキラした目で俺に言った。俺は100年も前に死んでいてもおかしくないような人間だけど、今残された命がある限りは、叶えたい願いは二つ。一つはアルバノン王国のジョヴァング(あのやろー)をぶっ飛ばしてやること! そしてもう一つは、ルーシーを立派な魔女にしてやることだ!」


「ふぉ、ふぉ、ふぉ。その願い、お主ならきっとどちらも叶えられるじゃろうて」


「ほんとか!? 予言に出てるのか?」


 ミレノアールは勢いよく仰向けで寝ていた体を起こした。


「残念じゃが予言とは違うな。儂の単なるカンじゃ。ふぉ、ふぉ、ふぉ」


「ちぇ。なんだよそれ。予言者なのに適当だな」


 ミレノアールは胡座をかくとガックリと肩を落とした。


「だがルーシーを魔女にしてやることは出来るぞ!」


「なんだって!? あの封印を解けるのか?」


 ミレノアールは、今度こそと身を乗り出して尋ねた。


「いや、あの封印は儂にも解けん。じゃが儂の魔力なら小さな穴を開けてやることが出来るかもしれん。ルーシーの()()()魔力がいかほどかは分からんが、小さな穴でも開けば多少の魔法は使えるじゃろうて」


「大丈夫なのかよ。穴なんて開けちゃって。『ヴァルプルギスの夜』のことだって、少なからずあの封印に関係してるんだろ?」


「大丈夫じゃよ。むしろ魔法を少し扱えるようにしておいた方がいいだろう、今後のためにもな。……おい、パウル聞いておるんじゃろ?」


「え? パウル? いるのか?」


 ポポスの視線の先には扉があったが、よく見ると扉がほんの少し開きっぱなしになったいた。ポポスが声をかけると扉がゆっくりと開いた。


「申し訳ありません、ポポス様。聞き耳を立てるような真似をしてしまいました。人間と二人にして、万が一にでもポポス様が危険に合われないか心配でして」


 扉の隙間からバツが悪そうにパウルが姿を見せた。


「まあ、よい。それよりルーシーを連れて来ておくれ」


「ルーシーですか? かしこまりました」


 パウルはルーシーを探しに里の中を駆けずり回った。


「なあ、じいさん。ルーシーには『ヴァルプルギスの夜』だとか『世界を滅ぼす者』だとか物騒なことは、もう言わないでいてくれないか。これ以上不安にさせたくないんだ……いつか自分の秘密を知るその時までは……」


「お主、なかなか良いとこあるではないか」


「言ったろ。いつかルーシーを立派な魔女にしてやるって」


 ルーシーには、クロエが見つけた秘密の『封印』と、ポポスの予言『世界を滅ぼす者』という謎がある。

 ミレノアールは早くその秘密と謎を解き明かさないと、良からぬ事が起こりそうだという酷い()()()がしていた。

 それがポポスの言う『ヴァルプルギスの夜』であるかはわからないが……。


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