王都エクシリアにて
【前章のあらすじ】 ミレノアールは、ルーシーを王都に連れていく途中、妹のクロエの家に寄る。封印や呪縛関係の魔法に詳しい魔女のクロエは、ルーシーに魔力がないのは何らかの封印のせいであると予想した。そしてルーシーの封印を調べると、それが『破邪の封印』であると判明する。その封印は、とてつもない魔力を持つ者を封じるために掛けられる魔法なのだというが……その謎は深まるばかりだった。
―――― 一方その頃、アルバノン王国『王都エクシリア』の王宮にて『王都魔法騎士団 団長』と書かれた一室にその男はいた。
「ミレノアールはまだ見つからんのか!? あの死にぞこないめ!」
その男は、あの日地下の牢獄にいたジョヴァングだ。
今にも頭の血管が切れそうなほど怒り心頭を発している。
「やはり魔法協会が匿っているのではないですか?」
ジョヴァングの隣に立つ側近と思われる男が言った。
「魔法協会の中には我々と通じている者もいる。ミレノアールと接触したとあれば、こちらにも連絡があるはずだ。だがもし魔法協会が密かに匿っているとすれば、厄介な事になりそうだな」
ジョヴァングは煙草に火をつけると大きく息を吸い込んだ。
「スティレット家の件もありますしね」
「ああ、未だにスティレット家は雲隠れしたまま。魔法協会の報告では、一族が滅んだと言っているがそんな話、信じられるわけがない。ほんの10年前までは、あれをめぐって我が国と戦争をしてた程だぞ」
―― トントン ―― ジョヴァングと側近の話を割るように部屋をノックする音が聞こえる
「失礼します。ジョヴァング団長」
「ガルスか、なんだ?」
「先ほど、最果ての城より帰還しました」
「奴はいたか?」
「いえ。城は完全に崩壊しており、ミレノアールの姿はありませんでした」
「やはり不死身の体ならあれ程の爆発にも耐えられたというわけか。ますます欲しい力だ」
ジョヴァングは吸いかけの煙草を灰皿に押し付けた。
「ですが城の近くの町で聞き込みをしたところ、興味深い情報を手に入れました。ミレノアールが幽閉されていたこの何十年で、奴に会いに城を訪れた魔女がいたそうです。それも何回も」
「なんだと? 奴に家族はおらんはずだぞ。そんなものがいたら奴の不死身の秘密を聞き出すのに利用してるからな。それでその魔女とは誰だかわかったのか?」
「はい。町の宿屋に一度だけ宿泊した記録がありました」
「名前がわかったのか?」
「はい。その魔女の名は『クロエ・ホワイト・ノワール』でした」
「聞いたことがないな。……だが『ノワール』……奴と似た響きを持つのは偶然か?」
ジョヴァングは古い記憶を掘り起こすように考え込んだ。
「いかがいたしましょうか、ジョヴァング様」
沈黙を破るように側近が尋ねる。
「その魔女を探せ! アルバノン王国に所属する魔女ならすぐ見つかるはずだ!」
ジョヴァングは部下の魔法使いにそう命令すると、新しい煙草に火を点けた。