カボチャのぬいぐるみ・ジャック
それまで何の変哲もないカボチャのぬいぐるみが突然しゃべりだしたことに一同は驚いた。
「どうやら使い魔はこの子だったようね」
クロエは手に持ったカボチャのぬいぐるみを目の高さにまで持ち上げ、覗き込むように見た。
「ええから、離さんかい!」
手足があるわけでもなく、見た目はオレンジ色のカボチャの形をした、ただのぬいぐるみだ。
30cmほどの体に目と口だけが動いている。
「まさか、ジャック! 喋れたの!?」
「喋れるだけやないで! 動くことも出来るんや!」
クロエがテーブルの上に置くと、器用に全身を使ってピョンピョンと跳ねるように動き回った。
「なんで!? 今までずっと、ただのぬいぐるみだったじゃん」
「当たり前や。わしが使い魔っちゅーことは秘密やからな」
なぜか誇らしげな態度を見せるジャック。
「思ってた声とちがーう! もっと可愛い声を想像してたのに!」
ルーシーはずっといっしょだったジャックが、まさかこんなオッサン口調であることにガッカリしているようだ。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ちーや、ルーシーはん。わしはずっとあんさんを守ってきたんやで」
落ち込むルーシーを見て、ジャックは慌ててフォローした。
「じゃあ昨日の爆発やドラゴンの炎にも無傷だったのは、この使い魔のおかげってことか?」
「その通りや、ミレノアールはん。わしのご主人様は、ルーシーはんの中にある封印そのものや。ルーシーはんが死んでもーては、ご主人様もその役割を終えて消滅してしまう。せやからルーシーはんを守ることは最優先事項なんや」
「なるほどぉ~。で、ルーシーの封印は何のためにあるの?」
クロエが「答えなさい!」と言わんばかりにジャックに近づいた。
「そ、それは言えん」
「ふ~ん。じゃあ、あの封印を施したのは誰? あなたを創った人間も同じのはずよ」
「それも言えん!」
きっぱりと言い放つジャックだったが、クロエは引き下がらない。
「ねえ、ジャック。知ってる? 『魔女』と『拷問』は太古の昔から切っても切り離せないものなのよ」
クロエはドS全開でニヤリと不気味な笑顔を見せた。
「ク、クロエはん。それはどーゆー意味や!?」
「言えないなら、言わせるまでよ。ふふっ」
クロエの威圧感にジャックは震えが止まらない。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ちーや、クロエはん。話せば分かる。わしは封印に関することを口にしてはいけない契約があるんや。秘密を喋ったら契約違反で消滅するや。ほんまや!」
ジャックは必死に訴えた。
「クロエさん、ジャックがかわいそうだよ。こんなに怯えてる」
ルーシーがジャックを庇うように言った。
「優しいなぁ、ルーシーはんは。さすがはご主人様が封印しとるだけあるわ」
褒められたかどうかは分からないが、ルーシーは「えへへ」と嬉しそうにしている。
「使い魔を甘やかしてどうすんの? ルーシーの封印の理由が分からないとどうしようもないのよ。一生、魔力を封印されたままじゃ嫌でしょ? 魔女になれないのよ?」
「まあまあ。クロエもそんなに畳みかけるな。契約がある以上、ジャックに無理矢理言わせるわけにもいかないだろう。ルーシーもこう言ってるんだし」
「あら、お兄様もずいぶん丸くなったわね。かつては『世界の終わりを告げる魔法使い』と言われたほどなのに。長いこと地下の牢獄にいたせいかしら?」
クロエは味方のいなくなった状況に、落胆と少しばかりの悲しい表情を浮かべた。
「クロエさん、ありがとう。……でもとりあえず、このままでいいよ。私に魔力があって、しかもそんな凄い封印が掛かってるって分かっただけでも良かったし。それにほんと言うとね、ちょっとだけワクワクしてるんだ! だってこの封印は、怖い魔獣だとか悪い魔法使いにも使われてたものなんでしょ? そんなのが私の中にあるなんてビックリだよ。これから先、どんなことが起こるか想像すると楽しくなるんだ!」
「ふふっ。やっぱり面白い子ね、ルーシー。……いいわ、そこまで言うならジャックに追及するのはこれでお終い。ただ乗りかけた船でもあるし、その封印に関する研究は続けるわよ」
「うん! ありがとう、クロエさん! 私も魔女になることを諦めたわけじゃないよ! いつか絶対この封印を解いて、すっごい魔女になるんだから!」
「クロエ……もしかしてお前、俺があの牢獄から出ちゃったもんだから、別の研究材料を見つけたってわけじゃないよな?」
「な、な、なに言ってんの!? バ、バッカじゃないの! お兄様をあの牢獄から出す方法なんて調べてたはずないじゃない! たまたまよ、たまたま。偶然、私の研究内容が『封印』に関することだったってだけよ!」
(……………)
クロエは顔を真っ赤にして否定した。