ルーシーとベルコの魔導書
「ただお兄様は、今は王都に近づかない方がいいと思うわ。アルバノン王国にとってお兄様は今でも重罪人のはずよ。まあ一般的には100年前に処刑されたことになってるはずだけど」
クロエは2杯目となる紅茶を啜りながら言った。
「確かにそうだな。国王は変わったと聞いたが、今ジョヴァングに見つかるのはマズいかもしれん。魔力もまだ全然戻ってこないし……」
ミレノアールは悔しそうに唇を噛み締めた。
「えー!? じゃあ私、エバーライト魔法学校へ行けないの?」
ルーシーは驚きと不安の混じった声を上げた。
「大丈夫よ。後で私が送ってあげるわ」
「本当? ありがとう、クロエさん!」
無邪気に喜ぶルーシーを見て、クロエは「だけど……」と続けた。
「いい、ルーシー? 確かに魔法学校は覚醒している者であれば入学は誰でも可能よ。ただし覚醒がちゃんと認められる場合に限るわ。ルーシーの場合はそれが曖昧。試験は精霊を見るだけじゃないのよ」
「え~! 他にはどんなのがあるの?」
「そうね。まずは試験官が魔力を有無を確める。そこで認められて初めて次の試験に進めるわ」
「クロエもあの学校に行ってたんだぞ。よく聞いておくといい」
「卒業はしてないけどね」
クロエはそう言うと「ふふっ」と笑った。
「そうなの!? クロエさん……私、試験に受かると思う?」
ルーシーは不安そうにクロエを見た。
「ん~……何とも言えないわね。試験で自分の命を危険にさらして、防御魔法を発動させるわけにもいかないし。せめてルーシーが無意識に魔法を使える『謎』が分かればいいんだけど。考えられる可能性があるとすれば……」
クロエはその場で考え込むと「ちょっと待ってなさい」と言い残し部屋を出て行った。
しばらくするとクロエが戻ってきた。
手にはボロボロで分厚く大きな本を抱えている。
―――― ドン!
クロエはテーブルの上にその大きな本を置いた。
「私はね、魔法学校を辞めたあと、とある魔女に弟子入りしたの。その人は『封印』や『呪縛』なんかに関することが専門でその道では結構有名人だったのよ。それでその師匠に教わって私も封印に関することを勉強したの」
「クロエ、もしかしてお前……俺をあの牢獄から助けるために、学校辞めて封印に関することを勉強し始めたんじゃ……」
「バ、バカ言わないでよね! そ、そ、そんなわけないじゃない! お兄様なんて一生、あの暗くて汚い牢獄がお似合いよ!」
クロエは顔を真っ赤にして怒っている。
いわゆるツンデレ。分かりやすい性格なのだ。
「クロエさん、優しいんだね!」
「うるさいわね! そんなことはどうでもいいのよ。……コホンッ。それでこの本はね、そういった封印を見るための道具よ」
「もしかしてルーシーに何かしらの封印があるかもしれないってことか?」
「あくまで可能性の一つだけどね。ルーシー、この本に両手を添えて」
クロエはそう言って、ルーシーをテーブルの反対側に立たせた。
ルーシーが閉じた本の表紙に手を添えると、クロエが呪文を唱え始める。
するとその本が ポワァ~ っと光り出した。
「ベルコの魔導書よ、ルーシーの封印を導きなさい!」
クロエが呪文の最後にそう言うと、本が勝手にパラパラと捲れだした。
「反応あったわ! 予想通りルーシーには何かしらの封印が施されているみたい」
ゆっくりパラパラと捲れた本は、あるページで止まる。
「このページに書かれている封印がルーシーのそれよ。読むのに少し時間がかかると思うから食事でもして待っていなさい。ショコラに頼めば出してくれるわ」
クロエはその本を抱えると椅子に座って読み始めた。
「ふういん……?」
ルーシーはその様子を不安げに眺めた。