クロエとルーシー
小さな小屋に見えたクロエの家は、中に入るとその何十倍もの広さがあった。
ポカーンとするルーシーに「ただの空間魔法よ」とクロエは軽く言った。
「お帰りなさいませ、クロエ様」
そこにはクロエを出迎えるゴブリンがいた。見た目はモンスターそのままのゴブリンなのだが、クロエ曰くこの家の執事で名前を「ショコラ」と言うのだそうだ。
ショコラに案内され、リビングの大きなテーブルに着いた。
「今日の紅茶はいかがなさいましょうか」
「そうね、アールグレイでお願い。お兄様も同じものでいいわ。ルーシーはオレンジジュースでいいわね。ファレルには……そうね、よく燃える薪でもどうかしら」
「……オレ様は薪など食わんぞ」
クロエは一通りショコラに指示を与え、いかにも高そうで豪華な椅子に座った。
「それで、何があったか教えてくださる?」
ミレノアールはここまでの経緯を簡単に話した。
「なるほど。それであの牢獄から出られたわけね。さすが炎の悪魔ってところかしら。それにしても100年前のあの戦いからそんな契約が結ばれていたなんて全然知らなかったわ。何度も会いに行ってあげてたのにそんなこと一度も教えてくれなかったじゃない」
クロエはそう言うと「ふん!」と少し拗ねたような仕草をした。
「まあ、悪かったよ。『魔力を持つ血統』が悪魔と契約することは、現代では禁止されているからな。あの状況もあったし、お前たちに迷惑かけられないと思ったんだ」
「もう十分、迷惑はかかっているわよ。」
ミレノアールは申し訳なさそうにした。
「し、師匠ってもしかして……悪い魔法使いなの??」
そばで聞いていたルーシーが心配そうに尋ねた。
「あー、そういえばルーシーにはちゃんと話してなかったな。100年程前に『魔法協会』と『アルバノン王国』の間で戦争があってな……まあそれはおいおい話すとして。その戦いで俺は負け、長い間閉じ込められてたんだ。だけど決して悪い魔法使いではないから安心しろ」
「良い魔法使いでもないけどね、お兄様は」
クロエが口を挟む。
「じゃあ、不死身っていうのはホント?」
「ああ、それは本当だ」
「凄い!」
ルーシーの不安な表情は一転、尊敬の眼差しへと変わった。
「そこでルーシーと出会ったってのは分かったわ。魔女になるためにエバーライト魔法学校へ行きたいのね。ただ……見た感じじゃ、今のところ覚醒してるようには思えないけど」
「そこなんだ。ルーシーは俺から見ても魔力は感じられない。だが明らかに魔法を使ったと思える場面がこの短時間でも二回あったんだ」
ミレノアールは、ルーシーが昨日の爆発で無傷だったことと、マカロンとの戦いでの様子をクロエに話した。
「うーん。……確かにそれは不思議ね。覚醒前の『魔力を持つ血統』が稀に無意識に魔法を使うこともあるらしいけど、その歳でそれだけの防御魔法を無意識に出せるなんて聞いたことがないわ」
「それにルーシーはオレ様のことも見えるし、話も出来るぞ。人間にとって悪魔や精霊が見えるってことは、魔力がある証拠なんだろ?」
「そうね。エバーライト魔法学校の入学試験でも確か精霊を見る試験があったわ」
「えっ!? じゃあ私その試験受かる? エバーライト魔法学校に入れるってことだよね」
「世界中の魔法学校は、覚醒している者であれば確実に入学できるわ。『魔力を持つ血統』はそれだけ貴重な存在でもあるのよ」
「いよいよ私も魔女への一歩が踏み出せるんだね」
「ふふっ。面白い子ね。魔法学校に行かなくとも、このままお兄様の弟子になればいいのに」
「おいおい、勘弁してくれ。10歳の子供を弟子にする余裕なんて今の俺にはないぞ」
「そう? いいコンビに見えたけど?」
クロエは意地悪そうな笑みを浮かべた。