3-40 進展1
夏の下月になり、お隣さん達が工事に向かい俺はお隣さんB家の手伝いに駆り出されている。ただ、生まれた子どもの方も四六時中見ている必要が無くなり、奥さんの方も従事しているため、そこまで忙しい訳ではない状況だ。
そんな日々を送っているある日、すっかり昼間の暑さに魔力式冷房装置が効いた部屋で寛いでいると、
「こんにちはー」
どうやらお客さんが来たようだ。別に珍しい事ではないが聞いたことある様なない様な声だ。
・・・いや、ある。だがこの声の人はここに訪ねて来るのは初めての事だ。一体何事か?
応対に母が立ち上がったが、多分俺の方に用事だろうから、
「ママ、多分ボクへの客だと思うからボクが出るね」
「あらそおう?・・・いい人見つかったのね。紹介してね」
「ボク分かんなーい」
俺も13、ここでは成人は16なので色気付く者も相応に出る頃だ。
浮ついた話も出なかった俺に明らかに聞いたことが無い若い女性の声。深読みするまでも無く母の言いたいことは分かる。
家の扉を開けると、・・・やはり
「こんにちはクロディーアさん」
この声はやはり本屋店主のクロディーアさんだった。
店内では見ない遠出用の服装に身を包んだ彼女が一体どのような用件でここに来たのだろうか。
「それで今日はどのような用件で来たのでしょうか?」
「ええっとぅ・・」
「長くなるのでしたら中で聞きますが」
クロディーアさんを中に誘うと、
「あらあらまあまあ」
・・・外野ぁ。
「失礼、そちらで少々お待ち下さい」
俺は傘、暇な時に作った数人が入る程大きな傘と傘立てを取りに行き、台、椅子と一緒に庭にセッティングした。
「こちらで応対させていただきます」
これで外野から遠ざけ、
ジ―――――――――
うん?・・・バッ・・・・気のせいか
セッティングを終え2人が着席すると、
「あとでうちの者が飲み物と何か持ってきますので。それで要件は何ですか?」
ふぅ、やっとここまで来た。
何か家と庭を往復するたびに、ムフフゥ分かってる分かってるわよって顔する母がいた。あとで誤解を解いておく必要がありそうだ。
俺の言葉を聞いて、店主さんは荷物入れから出してきたのは納品している紙だった。
「それが何か」
何か不備が?いや、もう何回も卸してるし、それに俺があっちに行った時に話せばいいから別の要件か。
「実はこれについて詳しく聞きたいという人が現れまして」
「・・・なるほど。つまりその人に発明家の人を紹介して欲しいという話ですか?」
「端的に言えばそうです。ただこの紙の事を昔の復刻品と告げたところ、そんな訳無いと怒られちゃいまして。それで、図書館で調べた結果がコレです」
そう言うと、何やらメモ帳らしい物をこちらに渡してきた。
ふむふむ
店主さんの補足説明を交えて読むに、メモ元は歴史書なのでそこまで詳細な製法は書かれてはいないが、俺が作っている紙と根本的に作り方が違う紙の様だ。
薄く切ったものを貼り合せた、や、繊維方向に沿って書くと、など明確に違うワードが判断材料だ。
「どう思います」
「確かにここに書かかれている紙とこの紙は違うみたいですね」
「そうでしょ、つまりこれって新たな発明品ですよね」
「違う本には登場しているかもしれませんから、断定はできかねますが」
「私が図書館で探した限り見つけられなかったし、その指摘してきた人もしつこく聞いてきてね」
「それは大変ですね。ですがそんな営業妨害の人追い出しちゃえば」
これまでもやはり珍しいのか、随分いろんな人に聞かれたそうだが、店主さんは秘密は貫いてくれている。そこまでの約束を守っている人にその意思を曲げさせようとするその人なんてよっぽどの変人だな。変人だな。うん変人だ。
「実はその人先代の知り合いらしい人なんであんまり無下に扱う訳には」
曰く、その人は今まで首都にいて、今年の交易団に随伴して十数年ぶりにこの都市へ帰って来た人らしい。
それで知り合いに挨拶回りで訪れたそうだ。
訪れた際のいろいろな長話の結果が今日ここに店主さんが来た理由だという訳だ。
「なるほど、で」
「お兄ちゃん」
飲み物を頼んでいたフェリが来たようだ。
手にはティーセットの他にもお茶請けを用意してくれていた。
「・・どうぞ」
店主さんがフェリが淹れたハーブティーを飲んでいる間フェリは店主さんをジーーっと見ていたが、
「おいしいわ、ありがとう」
それを聞くとフェリは足早に家に入って行った。
?
フェリのよく分からない行動に首を傾げつつも飲み物で喉を潤し話に戻った。
「それで、その方はどういう事を聞きたいか分かりますか?あと信用できる人でしょうか?それくらい分からないと紹介は出来かねますが」
俺の小遣い稼ぎというのもあるが、大事なのは皮革とのバランスを保つことだ。早急な変化は望んでいない。だから製法も広めず、コソコソ作っているんだ。
「まぁそうよねぇ。昔の帳簿を漁ったらその人と取引があったのは間違いないけど正直な話信用できるかは別ね」
何か店主さんらしからぬ慎重さだ。
「信用できない人なんですね」
「そう言うわけじゃないんだけど・・・ねぇ」
「知りませんよ」
「ウィル君、信憑性の低い話嫌いでしょう」
確かに娯楽事でもない限り基本的に確度が高い情報を選ぶ。なるほど店主さんもよく俺を見ている。
「基本的には」
「だからその人に会って紹介するかどうか決めませんか」
「それしかないでしょうね」
こうして紙に関する事が少し動きそうな事態になった。
日取りはざっくり決め、あとは手紙でという事が決まり、本日の案件も終わったが、そのまま雑談が始まった。
「今まで普通に座ってたけど、この椅子面白いわね。何処の人の作品?それにこの傘も良く見たら貼ってあるの紙じゃないですか」
「どちらも件の人の作品ですよ。中々良い感じだとボクも思ってるんですよ」
いやーお目がたかい。良いよねこの椅子。
椅子は本職や冬仕事などでいろいろな人が作っているが、大元のデザインが数パターンしかなくて独自性に欠けてたんだよな。やっぱり椅子文化なら椅子は凝らないとな。
だからいろいろなデザインのミニチュアを作り、気にいったデザインのを実物大で製作した。
今日ここに置いたのは棒材を曲げて作った曲げ木椅子で、俺が音楽シリーズと呼んでいる椅子達だ。パッと見分かる特徴としては、後から見ると背もたれが音楽記号で出来ていることだ。ただし前世で使われていた音楽記号だ。
今日チョイスしたのはその中の2つで店主さんの方がト音記号で、俺の方がハ音記号の椅子だ。
椅子は作り過ぎたため現在は(強制)休業中だが、またいつか再会したいものだ。
「発明家かぁ。これも資金稼ぎの品かしら、多才な人ね」
「さてね」
これらの椅子は労力の割に安く買い叩かれそうだから売る気はない。
傘についても同様だ。
傘も大きくしただけではなく、骨組みを4本から8本に増設し円状に近づけた。
おかげで重量が増えたが、元から設置しての運用だったので特に問題は無い。
店主さんとの雑談も終わり、帰り際に家族にご挨拶したいと言われたが、面倒な予感がしたので遠慮してもらい、店主さんが帰るのを見送ってから家に入ると、
「いい雰囲気だったね。一緒になるのはいつのことかしらぁ」
・・・やっぱり。




