1-07 幼児プレイ6 3歳秋の収穫へ
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今日から秋月が始まりました。この都市ではそろそろ収穫が始まる時季です。俺も3歳を迎えたということで畑の手伝いに駆り出される予定です。手伝いに行くのは母の実家です。
俺は夏の間、暇さえあればずっと魔術の学習を続けたため、いくつかの知見を得た。
例えば、最初に発動できた光球を出す魔術は消費魔力が比較的多く、2番目に習った水浮遊の魔術より多いことは間違いない。水飛翔の魔術は飛ばす距離によって消費魔力が変わる。数センチから5メートルくらいまでは飛ばせたがそれ以上は母が魔術言語の数字を知らないらしくて発動できていない。父は知ってるようだがまだ必要ないだろといって教えてくれない。なんだよーぶーぶー。その代わり父のとっておきの技を見せて貰った。
その他にも物体移動、物体硬化、物体軟化、水分離などの魔術を習うことができた。
父のとっておきの技は現在の俺には出来そうにないが確かにかなり便利そうな技だった。端的に言うと魔術管理者との経路に流れる魔力量を調整する技術だ。使い方次第で時間差で魔術を行使できる便利な技で、熟練者になると寝ている間も調整し続けることができるらしい。
それを聞いて俺は魔術の呪文の解読、研究を後回しにして、その魔力調整技術の習得に挑戦している。
現在俺の知っている魔術の中で1番魔力の消費が少ないのが軽い物の物体移動の魔術だ。魔術を使おうとすると魔術が発動する前に魔術管理者との意思疎通のための経路が開き、魔力が一定量消費する。そのあとさらに魔力を消費して魔術が発動するという仕組みだ。父に見せてもらった技術は後者の魔力に対して調整を加える方法だ。
魔術が発動しないよう魔力を制限する方法は考え付く限り3通りだ。1つ目は流れる魔力自体を操作する。2つ目は経路自体を操作する。3つ目は経路に流れる魔力を操作する魔術を使うことの3つだ。1つ目の方法が主流の方法だろうと父の話を聞いていて思った。2つ目は俺的にはなかなかいい方法だと思っている。3つ目は考え付いただけで実際できるとは思っていない。
1つ目の方法のメリットは、任意のタイミングで魔術を行使できること。咄嗟に魔術を行使したいときは経路を通す魔力量を増やせば発動するのだからかなりの利点だ。デメリットは、常に魔力操作が必要で脳のリソースが食われること。
2つ目の方法のメリットは、こちらも任意のタイミングで魔術を行使できること。魔力操作が1つ目の方法よりはたぶん簡単。大きなデメリットは経路が自由自在に操れるものかは分からないため要検証ということだ。失敗すれば時間を無為に過ごしたことになるためやるには相応の覚悟が必要そうだ。
1つ目の方法は間違いはなさそうだ。2つ目は博打要素が強いな。どっちにしようか迷うなー。そんなこんなで今年の夏は過ぎて行った。
数日が経ち今日は母の実家に行く日だ。母の実家は第4層北区の中央にほど近い場所にあり、ここから向かうと歩いて半日はかかるほど遠い場所にあるそうだ。さすがに3歳児には厳しいと思ったのか今回は渡し舟に乗って行く予定となっている。そして収穫がひと段落するまであちらの家に厄介になるって寸法だ。
「そう言えば、ママの実家って何を作ってるの?」
「あら言ってなかったかしら、私の実家は鶏を飼ってる養鶏農家よ。畑は鶏の飼料を主に作ってるのよ。それの収穫を手伝うため向かってるの」
「鶏のエサか、鶏には何食べさせてるの?」
「ウィルちゃんも好きな物よ」
・・・やばい。母のちゃん付けは嫌な予感しかしない。俺の好きな物ってのは絶対ウソだ。
俺が嫌いなものの筆頭があのフーホーで、次が・・・・ないな。基本的に全てハーブ味だから食材は食感以外大体消えてる。だからその味をも消し去るフーホーが目につきやすいんだよな。しいて言えば匂いが強いハーブは嫌いだ。このことから母の実家で作っているのは・・フーホー。ウソだろ。将来排斥しようと誓った物を作ってるだと。俺は奴から逃げられないのか。
「・・フーホー」
「あら、よく分かったわね。そうよフーホーを作ってるのよ」
俺の露骨に嫌そうな顔を見て、
「大丈夫よ。飼料用だから私たちの口に入ることは・・・あるわね」
そうだともそうだとも、週に2回は食べるように言われてるのにフーホー農家が自分ちのを食べないわけないだろう。
まぁいい、この目で実際に繁ってるフーホーを見てやろうじゃないか。何か攻略の糸口でも見つかるやもしれん。
渡し船に揺られ、さらに歩いて母の実家に到着するころには太陽は南中を少し過ぎたあたりだった。さて、初めて家族以外の親類に会うぞ。
出迎えてくれたのは祖母だった。
「いらっしゃい、よく来たね。その子がウィルかい?」
早速お呼びがかかった。
「こんにちは」
「はい、こんにちは、お手伝いに来てくれてうれしいわ。おばあちゃん目が悪くてねもっとよく顔を見せてくれるかい?」
老眼かな?メガネって高価みたいだから町でも身なりの良い人しか着けてなかったんだよな。俺の顔を見ていた祖母が、
「ウィルはエアリスの小さい頃によく似てるねぇ」
「そうだったかしら?あまり覚えてないわ」
まあ母が覚えてないのも仕方がないだろう。
「ほら目もとがそっくりよ」
まあ確かに父よりは母に似ていると思っていたからな。
そのあといくつかの近況報告や世間話をしつつ家に招かれた。家は木造平屋建てで、うちとはかなり趣が異なっていた。もの珍しそうに俺が家を見ていたのか、
「ふふっ、うちの家とだいぶ違うでしょう。この辺りでは石とかレンガじゃなくて木を使った建物が多いのよ。うちのあるあたりも昔は木の家だったらしいけど、人が多くなったから、積み上げやすい家が主流になったのよ」
そんなこんなでいろいろもの珍しいものを訪ねたりしたり、薪割りを手伝ってたりして夕方まで過ごした。日が落ちる少し前になって祖父が帰ってきた。祖父はなんて言うか・・ゴツイ。うちの父は兵士だからか筋肉質な体をしているが祖父はその比ではない。その祖父がこっちを見てきて、
「そっちの子がウィルか?」
「えぇそうよ。エアリスの小さい頃とそっくりでしょ」
祖母が祖父に答えていた。
「確かに似てるな」
と言いつつ、俺の方にやってきて、
「よく来てくれたなウィル。おじいちゃんだぞ」
と言って俺を持ち上げて抱いた。おっと、
「うん?3歳にしては軽いな。おいエアリス、ちゃんと飯食わしてるのか」
「もう!食べさてるわよ。ラックのときはもうすぐ4歳が近い頃だったからそもそもが違うわよ」
母はプンスカ怒った。
「そうだったか?うーんこの歳になると忘れっぽくてかなわん。まあいいか」
いいのかよ。
「ウィルよ。ラックともども頼りにしてるからな」
と言い、俺を置いて次はラックのところへ行ってまた持ち上げようとして、躱された。
「じいちゃん。俺もう6歳だぞ。もうそんなことしないでよ」
「そうかそうかもう6歳か。なら大人な対応としなくちゃな」
と言いつつ、ラックの頭を撫でてた。どうやらうちの祖父は孫煩悩のようだ。母もヤレヤレという顔をしていた。
祖父母も同席した夕食の席で早速奴が出たため俺は一喜一憂しながら食事を続けていると、会話の中で祖父が、
「それでラックはうちに来るのか?」
と父に聞いていた。何の話だ?
「お義父さん、ラック本人も養鶏に興味があるようですが、まだ数年様子見ってことではダメでしょうか」
「ダメじゃなないが、早くから携わった方がいいと思うんだが」
「確かにそれはそうですが、・・兵士の私が言うのもなんですが、こちらの鶏は少々気性が荒すぎませんか?ラックももう少し体が出来上がってからの方がいいと思うのですが?」
あーなるほど、ラックの就職か。そういえばこっちにはリ○ルートやハロー○ークなんてないから縁故就職が主だったな。父も兵士ならそこそこの部署を紹介できるが他はツテがないって言ってたな。さて、俺は将来なんになろうかな?
確かにラックもこのところ近くの養鶏農家に出入りしているようであるが、少々危険そうには言っていたが、父まで言うとは。うちの近くの鶏と種類が違うんだろうか?
たしか採卵鶏の類だったよな、ラックが出入りしてる農家は。まあ見てみないと分からんか、これは要確認だな。
俺が1人思考にふけっていると、
「まぁラックに関してはそういう方向にしようか。それでウィルの方はどうするんだ。お前さんの仕事でも紹介するのか?」
おっと、俺に矛先が向いた。(どきどき)
「いやさすがにそれは早すぎますよ。本人が望むなら紹介しますが、ウィルは魔術に興味があるようですから今のところ未定です」
将来は分からないが確かに今は魔術に傾倒してるな。未知すぎるからな、探求は正義だ。
「ほう。その歳で魔術を使えるのか?」
「えぇ、もういくつかの魔術を使えるようになっていますよ」
「そりゃすごいな。将来は魔術関連か?」
「それも何とも。まだ将来を決めるには早すぎますからね」
「まあそうだわな。それはそうと明日の・・・・」
話が逸れたな。そろそろ夕食の席も終わりそうだし、明日に備えて寝るか。
次の日、父と祖父は鶏を飼ってる方面に向かっていった。俺とラックは共に畑仕事だ。ラックは鶏の方に行きたかったみたいだが全員に止められあえなく撃沈した。
見えてきた畑にはフーホーが生っていた。木に。・・・ふむ、母に聞いた通りフーホーは木に生っているようだ。早速観察のためフーホーの木に近づいてみると確かに木っぽい感じだ。つまりフーホーは果物?
果物に明確な定義はなかったはずだから正確性に欠けるが。ここで問題になってくるのが地面を掘るとまたこいつが取れることだ。んー分からん。無理に分類にはめる必要はないが、俺の煩悩がそれを許したくない。何か結論が欲しい。
ここはいろいろ祖母に聞いてみた方がいいかもしれん。
俺はフーホーが見えてから走ってここまで来たから他のみんなは今到着したところだった。俺は祖母にフーホーの分からないことを聞こうと思う。
「ねぇおばあちゃん」
「ん、なんだいウィル?」
「フーホーって地面の中にも生ってるんだよね?」
「ああそうだよ」
「地面の下のフーホーも木に生ってるフーホーも植えたらまた木が生えるんだよね?」
「それも間違いないよ」
「僕にはその2つの違いは分からないんだけど見分けがつく?」
「そうだね。・・地面の下の奴は石とか邪魔な物があると変な形になりやすいんだが、そういうこと聞いてるわけじゃないんだろ?」
「うん」
「それだったら、私にも見分けがつかん」
やっぱりフーホーは半端ない植物のようだ。もしかするとあれは地下茎ではなく肥大した仮根の類か?どんな荒れた土地でも育つらしいから地中から栄養を取っているわけではなく空気中からとっているのか?だが空気中の栄養素は地中に比べて希薄だからこんなに大きくなるわけがない。仮根をもつ苔類はこんなに大きくならないのが証拠だ。それに仮根じゃ新たに生えてくるわけがない。やっぱり根が正解か?でも根特有のひげがないんだよな。そうなったら残っているのは魔素関係だな。これは前世にはなかった要素だから完全に知識不足だ。
ちっ、今日はここまでにしといてやる。覚えとけよ!
「分かった。ありがとうおばあちゃん」
「どういたしまして」
さぁーて、畑仕事開始だ。
「じゃあ私とおばあちゃんは収穫をするから、ウィルには収穫したカゴを渡すからリヤカーまで持って行ってね。ラックはリヤカーの担当よ。一杯になったら家の納屋まで運んで行ってね」
「はーい」「わかった」
えっほえっほ。
俺たちは途中休憩をはさみつつ作業を続け、昼には今日の収穫を終えて家路についた。昼休憩が終わったら何をするか聞いてみたら、どうやら水分を抜くため干す前にフーホーをつぶすようだ。
昼休憩をゆっくりとった俺たちはフーホーをつぶすため、水場へやってきた。水場には俺たち以外にも、フーホーをつぶしている人や野菜を水洗いに来ている人、粉ひきのため水車小屋の前で順番を待っている人などがいた。水車ってあったんだな。
俺に割り当てられた作業はフーホーを切る作業だ。こうすることでつぶす作業が楽になるようで、リヤカー担当のラック以外はまずこの作業を行った。ラックよ納屋と水場の往復がんば。ある程度切り終わると母と祖母が交代でフーホーをつぶし始めた。俺は切る作業を継続中だ。
スパスパ、スパスパ。あのにっくきフーホーはそこまで固くはなかったので軽快に切り続けれた。
おや、ラックも運び終えたようで今は休憩中だ。俺も切る作業が終わったら休憩できるかな?
「ふー。漸く終わった」
切り終えたのを報告したらしばらく休憩していい権利を貰った。休憩後はつぶしたフーホーをリヤカーに乗せる役目も同時に貰ったが。
「ウィルも休憩か?」
休憩をしているラックが話しかけてきた。
「ラックはさっきからずっと休憩してるよね」
「まぁな。でも、もうすぐつぶし終えたフーホーをリヤカーで運ばないといけないからな、そうなりゃまた手伝いさ」
「ボクもリヤカーまで運ぶ役目を負ったよ」
「あーそうだろな。でもあれってべちゃべちゃするから嫌いなんだよな。まあ匂いはしねぇから大分マシだがな」
あー奴は無味無臭か。いや味は薄くなるから消味無臭かもしくは消味消臭か?
「フーホーで服とか洗えば匂わなくなる?」
「知らん。母ちゃんにでも聞いてみれば」
「つかえねー」おっと、心の声が・・・
ツカツカ。・・ポコン。イタイ
ラックとのじゃれあいも終わって手伝いに復帰だ。触ったフーホーは確かにべちゃべちゃとかぬちゃぬちゃとかしていた。おー服に付いたら落ちなさそうな感じだ。
んんしょ。んんしょ。滑るー。
「これで、最後っと」
最後のフーホーをリヤカーに乗せてここでの作業は終了した。そのあと使った道具と場所を洗ってから家路についた。
家に帰ってきたら家の前にシートが引かれおりその上に大量のフーホーの無造作に積まれていた。
「あとはこの山を崩して広げて今日は終わりよ」
もう一踏ん張りか。
ぬっちゃぬっちゃ。ぬっちゃぬっちゃ。
もうそろそろ広げ終わったころ、父と祖父と思われる人影が遠くに見えてきた。丁度帰ってきたところのようだ。
帰ってきた父と祖父は血まみれだった。特に動きに不自然なところはないから返り血だろうけど、いったい何をやったんだか。
「パパ、今日はえらくワイルドだね。何かあったの?」
「ああ。鶏を斬ったときにちょっとな」
ここで祖父が話に入ってきて、
「いつもは遠くから弓で仕留めるんだが、この前入った新人が死んだかの確認を怠ってな。近づいたところ襲われて、それを止めるため斬り殺してあえなくこの有り様ってところだ」
「はー。なるほど」
やっぱり、食肉用の鶏っぽいな。それにしても弓?養鶏なのに狩猟の延長か。どうやらかなり趣が違うのは間違いないようだな。
今日の夕食は、お手伝いの話やハプニングの話で話題に尽きることがなく終わった。夕食後、俺はいろいろ試すことにした。
「ねぇおばあちゃん。少しフーホーもらってもいい?」
「いいけど、何をするんだい?」
「ちょっと魔術で試したいことがあるんだ」
「そうかい。いろいろためしてみんさいな」
分かってる分かってる男の子だもんねって顔をされた。そりゃ男の子だけどさ・・・
さて、この手に入れたフーホーをどう料理してやろうか。今日の手伝いで分かったことは意外とやわらかいことと、べちゃべちゃぬちゃぬちゃすることだ。そして乾燥さしたフーホーを砕いて鶏の飼料としていることだ。もちろんこれは人でも食べることはできる。今日の手伝いが数日続くんだ、できるだけ効率的に行いたくなるのは人情だ。
俺の知ってる魔術の中で使えそうなのが、・・・物体移動、水分離のこの2つだと思う。物体軟化の魔術は中身がどうなるか分からんから食材に使うのは戸惑われる。
物体移動の魔術は対象の重さと移動速度と距離で魔力消費が変わってくるが、いろいろ試した結果、歩きながら行えば距離の分と速度の分が増減するのは間違いないようだ。発動しながら移動するのは難しく、かなり慎重に歩く速度までしか成功していない。だが移動せずやれば、魔力消費は増えるが難易度自体は易しくなる。とりあえず実験だ。
まずはカゴに、
「cma jsomrose cmimowiueide juteihjo mev」
魔術が発動し、カゴが浮上させ、フーホーを2個投入し、そのまま保持。・・・・ふむ、これぐらいの魔力消費か。次の魔術でカゴを1メートルほど移動させてみる。・・・・・・無理だな。魔術を使うより、普通にやった方がはるかに効率がいい。物体移動はボツだ。
次に水分離だが、これは洗濯物を脱水機にかけたぐらいに乾かせる魔術なんだが、これで水抜きは可能か?前にいろいろな野菜くずや木で試したところ、結果はまちまちだった。母にこの結果を聞いたところ、個々人で相性があるらしい。つまり試してみるまで分からんという事だ。さて、俺とフーホーの相性はと、
「cma jsomrose cmimoosbodtte mev」
魔術が発動し、水が・・・抜けない。ここまで相性が悪い物は今までなかったぞ。比較的相性が悪い物でももうちょっとどうにかなったぞ。いや、まだいろいろ試してない。1回切ったものは切らないで試したものよりは水が抜けた。こいつも切れば何とかなるかもしれん。
結論、俺とフーホーは壊滅的に相性が悪い。切っても全く抜けませんでした。
次の日、今日も同じような作業が続いた。つぶす作業を母とラックが交代していたが、俺にはあの棒?杵?が持てるわけもなく、交代したいとも思わなかった。
その日は何事もなく手伝いが終わり、夕食が終わったので、今日はいろいろ考えることにした。
道具は時代的に仕方がないとして、今より効率的にするにはどうすればいいのだろうか?今現在の状況は、
・午前中に畑で収穫と家まで運搬。午後から家から水場まで運搬と加工
・加工よりも収穫の方が時間がかかっている
・4人作業だが午前中は俺がいてもいなくても対して変わらない
・午後の作業は一手間要員としていた方が良い
・力は祖母≧母>ラック>俺
・木からの収穫ができるのが祖母と母、ラックはぎりぎり(背的に)
・つぶす作業ができるのが祖母と母、ラックはなんとか
・リヤカーは俺以外は可能。
・オレノシンチョウハヒククハナイ
この状況から効率を良くするには、
・畑から水場へ直接行く
・収穫途中から加工を始める
・母か祖母はつぶす作業、リヤカーはラック、包丁は俺
・オレノシンチョウハヒククハナイ
という事が推察される。俺の頭で考えれるのはこの程度だ。劇的な効率向上は無理そうだ。今日の考えはボツだな。
それから数日、同じように作業をして今日は最終日だ。結局俺のできたことはカゴを運んで、包丁をふるう2つだけだった。
フーホーに俺の魔術は効かず、システムの効率化を考えても多少の向上じゃ今のやり方から変えてもあまり意味がない。というより、慣れるまで効率が低下する可能性も高い。
はー、これは来年に向けて考えた方が建設的だな。
やっぱり考え付くのは道具の改良だな。リヤカーはいいとして、つぶし方が棒?杵?を使って叩いてつぶしてる。ここは改良の余地がありそうだ。結局乾いた後また砕くんだから、細かくできれば、乾燥も早くなるし砕く作業もなくなる一石二鳥だ。細かくするだけなら、フードプロセッサーと圧搾機が思いつくな。圧搾機の固形物かスラリーがケーキになって出てくる映像は鳥肌ものだった。圧搾機を作ってみたいが金属が大量に要りそうで手が出ない。木材に関しては俺のノート替わりに使用でき、多少俺のおもちゃ用として貰っても大丈夫そうだから、出来れば木材だけで何とかしたい。失敗しても薪に使えるしな。
ここまで考えて俺はフードプロセッサーを作るように決めた。・・・仕方ないだろ。ねじとか俺の腕で作れるとは思えない。最低手回しでも旋盤の類が必要だ。それに、俺が来年までに作ってやろうと考えてるフードプロセッサーも、名ばかりのかなり簡易な装置の予定だ。
いろいろ穴がありそうだが、この機器を作るのが今から楽しみだ。
そして、最終日の手伝いも終わり、夕食の席が始まった。
「今日までご苦労だったな」
「いやいや、私もたまには魔物を相手にしないと体がなまりますから、このような機会は助かります」
祖父と父の会話はこんな感じの話が延々と続いている。初日から思ってたが父は祖父に対して腰が低い。
「うーん。やっぱり私にはこの味は出せないわ」
「いやアンタ、あんまり料理してないって聞いてるよ。毎日の積み重ねがこの味を生むんだよ」
「でもここと違って台所がすごく狭いのよ。周りも料理は食べに行く人ばかりだし」
こっちはこっちで料理とそれぞれの家庭環境の話で盛り上がっている。ちなみに、あんまり料理してないって祖母に言ったのは俺だ。
「はー、結局2日目以外はリヤカー担当だったぜ」
「そうだね。でもボクは毎日カゴ運びと包丁をふるってたよ」
「そりゃおまえがまだ小さいからだろ。いっしょにすんな」
6歳児のくせに何言ってんだか、とりあえず許すまじラック帳に記帳することにした。
翌日、今日は家に帰る日だ。祖父母に別れの挨拶をして、いつ来てもいいからなという言葉を貰い、家路についた。行きは着替えや小物しか持って行かなかったが、帰りにはさらに手伝いのお礼としてどっさりのお土産を貰って帰っている。
袋の隙間から奴が見えたことを俺は忘れない。飼料用って話だったはずだが。
何とか荷物を抱えたまま家に帰ってこれた。帰りの舟はくだりだったこともあり、結果的に行きと同じくらいの移動時間で済んだ。
「ふー疲れた」
「おつかれさまウィル。畑の手伝いはどうだった?」
「んー、いろんな発見があって楽しかったよ。それより聞きたいんだけど、お礼に貰ったその袋の奴どうするの?」
「この袋は・・フーホーね。安心して、一部は置いとくけどほとんど売るのよ。言ってなかったかもしれないけど、お金が使えるのは第3層から上の層だけよ。第4層も一応お金はあるけど基本は物々交換よ」
なるほどそういう事か。・・・一部を残しておくのはもしものときのためだよね?もちろん食べないよね?