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ボクの異世界侵略記  作者: チカさん
第3章 少年期移住生活編
78/93

3-29 訓練と紙の行先

 冬も終わり春。今春から1つやることが増えた。

それは武術訓練だ。


俺は多分この家を継ぐので、今のところ将来は農家になることが大体決定している。

ゆえに父がリュートの方を兵士にしようと訓練をつけ始めたのだ。それに俺は巻き込まれた。


訓練しているのは兵士の主装備の1つ、槍だ。

槍は大きく分けて平地戦闘用の槍と森などの取り回しがわるい場所用の短槍で、俺たち2人は訓練用の刃が付いていない短槍で訓練をしている。

ぶっちゃけただの棒だ。



「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・」

「ほら、リュートがんばれ。あと1周だ。」


今は槍を持ったままの移動訓練だ。畑の周り、特に足場のわるいあぜ道を走らされている。槍は重さの割に取り回しにくいので走り辛い。

それが終わった後、型の訓練へと続く。

最近は毎日これを繰り返している。




 農作業と訓練の日々を過ごし、春の上月も終わり頃。


「こんちゃー」

「いらはーい」


本屋さんにやって来た。今更だがこの本屋の名前は通称クロディーア書店だ。正式名称は歴代店主の名前が連なった呪文の様な店名で、元からあった看板にはその呪文の様な店名が書かれているため看板だと認識されることは稀だろう。


「ぼちぼちー?」

「ぼちぼちー」


※脳内変換しています。本当はもっとちゃんと話していることでしょう



「はい、これで間違いないかしら?」

「はい」


本を手に入れた。

題名は0からの王国語入門3でこれでこのシリーズも終わりだ。

最終巻は写本元を見せていただいたとき、挿絵は無くても問題ない本だったので今回も店主さんに教わることもない。


「店主さん、何か疲れてません?」

来た時から気になっていたが、店主さんの目もとには隈ができていた。


「あらやだ、わかる?」

「うん。何か悩み事?」

「違うわ、ちょっと大口の依頼が入っちゃって忙しいだけよ」

「それは・・おめでとうございます」

「それでねウィル君、私塾に興味ない?」

「私塾ですか?」

「そうなの。実は…………」




「なるほどそう言うわけですか」

店主さんが言ってた大口依頼とはこの私塾関係で、この近くに新たに開校?する予定であり、教科書選定のためいくつかお買い上げいただいたそうだ。

その関係で宣伝も頼まれたそうで、上手くすればこの本屋の得意先になるから頑張っているってところだ。


「興味ない?」

「興味はありますが何分遠いですからね、通うのは無理です。それにコレも相当でしょうしね」

お金のボディーランゲージを取りながら否定した。



 その後も雑談を続けたが、そろそろ次の本を探すことにしよう。


「次の本どうしよっかな?」

「あら、その本も読む前なのに次の本?」

「うん、何かオススメありますか?出来れば20ティカぐらいで」

「えーと、20ティカ位ならそう大した本は無いわよ。置いている本は50から100が多いですから」

やっぱたっけぇなぁ。


「でも50ティカでもいつもの様に紙を手配していただいたらお求めやすい価格になりますが」

「元々の値段が20ティカぐらいでお願いします」

そんなに金ありません。


苦笑いしながらも店主さんがいくつか見繕ってくれた。

それにしても、


「題名も見ずによく分かりますね」

「うふふ、ここは私の店よ。見分けられない本は無いわ」


さすがだ。

ここの本には背表紙にタイトル書いて無いし、さらに安い本だと紙に穴を空けて紐で綴じてるだけの本で背表紙自体無いんだよね。それで見分けがつくとは。



 店主さんが見繕ってくれた本のタイトルは大まかに文学、歴史、宗教関係の本だった。

うぅわぁ、興味ねぇー。


「算術とか技術とか魔術関係の本はありません?」

「どれも20ティカ位なら本当に大したこと書いてないわよ。それでもいい?」

そこまで念押しするとは、よっぽどうっすいんだろうな。


「うーん、それでしたらもう少し貯めてからうえの買うことにします。今日はこれらから選ばしてもらいます」


文学、歴史、宗教。・・・文学、歴史。・・・歴史かな。

興味はないがこの中で1番の知識分野だからだ。



 歴史書の中から本を選んでいると、突然本屋の扉が開いた。


「邪魔するぞ、店主はいるか」

入って来たのはおっさん一歩手前ほどの若者だった。


「ツイルダインさん、いらっしゃいませ」

お得意さんの様だ。そして他の客との初エンカウントだ。


「店主よ。そろそろ出来上がってる頃だと思って寄ったのだが、出来ているか」


店主さんが俺の方を向いたので、適当に見てるから、と返事をするとそちらの方の対応に向かった。まぁカウンター1つしかないから直ぐ隣だけどな。



「はい、出来上がっております。少々お待ちください」

店主さんは奥の作業スペースから数冊の本を持ってカウンターに戻ってきた。


「はい、こちらがご注文の品です。お確かめください」

「・・・・うむ、確かに」

お客さんは残りの金を払い、そして、


「して店主よ。アレは結局どうなった」

「アレですか、絵師の方と交渉はしましたが、やはりコレ位は頂かないと当方としてはお譲り出来かねます」

「ううむ、しかし………」


店主さんとお客さんの交渉がしばらく続いた。居心地わるかった。



 件の客が帰り、俺も選んだ本を注文した。ことごとく在庫が無い店だな。

前金を出しつつ、


「中々大変そうですね」

「確かにお預かりました。ええ、でもこれが私が選んだ道だから」

ちょっと前までと違い、随分前向きな表情をするようになったな。


「なるほど。ではまた」


踵を返して出口に向かっていると、


「ちょっと待ってウィル君」


店主さんに呼び止められた。


「どうしました?」

「ちょっとこれについて聞きたいんだけど」


店主さんが見せてきたのは、今回も渡した紙だ。


「はい、それが何か?」

「これって何処で売ってるか教えてくれない?それにおいくら程かしら?」

「それですか?」

「そう、さっき来てたお客さんができるだけ安くって言うんで見積もりしたんだけどもっと安くできないかって言われちゃって、もう削れるところ無いのよね。それでこの紙がもし安かったらって思うじゃない」

「無理に売る必要ないんじゃないですか。お得意さんみたいだけど断っちゃえば」

「そうは中々いかないのよねぇ」


店主さん曰く、先程の客が先に話していた私塾を開く人だそうで、出来るだけ良い顔見せときたいそうだ。

学校や私塾は定期収入が見込めるため、トルダン書店(ライバル店?)に取られる可能性を少しでも減らしておきたいようだ。


・・・どうしようかな。


もちろんいつかは提案しようと思っていたが、先にあちらが仕掛けてくるとは。

昨年は真面目に紙作りに取り組んだため、蝋紙用の薄い紙は別カウントとしても記録用紙の在庫は数百枚ある。

だが羊皮紙の製紙業者との兼ね合いがなぁ。

でもここ零細だよな、全体でも微々たる量なら大丈夫か?


「うーん、秘密にしてくれます?」

「秘密って、何かヤバい人たちがかかわってるの」

「そう言う事じゃないんだけど。単に商業許可証関連かな?」

「そんなこと気にしないわよ。許可証持ってない店なんてたくさんあるでしょう」

確かに。第3層とかでは違法なんだけど、業種によって取得率にバラつきがあるんだよな。古着屋とか取得率低いし。


「でもその人結構気にしてるんだよねぇ」

「その人はなんで商業許可証取らないの?」

「その人所謂発明家でね、小金稼ぎのためにこういう昔の物?も作ってるんだよね。本業でもないのに許可証ってねぇ」

「なるほど。でもよくそんな変人の知り合いにいるわね」


ぐふぅ


それは発明家の一般的な認識だ。著作権とか特許とかないから、発明家と呼ばれる人たちは須らく秘密主義で、日々何をしてるかも分からんことをしてる変人として認識されている。

だから俺は違う(混乱中)。


「発明家で小金目的かぁ。じゃあ会うのは難しいか」

「そうだね。だから紹介はできないよ」


改めて言うが発明家は秘密主義者だ。特に個人発明家は情報漏洩を防ぐためその人が発明家であること自体を隠す。そのため知っている人は極少人数だ。

ちなみに、道楽貴族タイプの発明家はその限りではなく、こいつらのせいで発明家イコール変人の図式が成り立ってもいると言っても過言ではない。


「残念ね。でも仲介は大丈夫でしょ」

「ボクも許可証持ってないよ」

「もちろんあなたのことも秘密にするわ。それでいくらなの?」

「・・・先に言っとくけど、羊皮紙に比べて耐久性は劣るし、黒い部分もあるし、生産量も高が知れてるけど」

「はいはい。それでいくら?」


うーん、ちょっと吹っかけてみるか。


「その大きさで1枚8ゼン」

「・・・・・・8ゼ・・・8ゼン!!!買ったー。全部買ったわーー!!!」


店主さんは目を剥いて俺に詰め寄って来た。


こわい。





「……ってわけさ」

本屋を出た後、ニックとトリアの2人にその報告に向かった。丁度いてよかった。


「うん分かった。それにしてもこれが1枚8ゼン。・・ヤバいな」

「うんヤバい」


とりあえず吹っかけたため、あれでは暴利だ。本来はあれから交渉に入る予定だったのがまさか言い値で買い取ってくれるとは。

羊皮紙がこれの数倍するとはいえ迂闊過ぎないかあの店主さん。・・・思い切りが良いってことにしておこうか。


店主さんには今回手持ちが少なかったため、これからの取引をよろしくお願いしますと、手持ちをプレゼントした。


「それでこっちは何か手伝えることはないのか?」

「うーん、実は無いんだよね秋まで」

「藁の方はどうするんだ?」

「藁かぁ。あれはとりあえず保留する。紙の認知度が上がってからね」


後日、本屋にとりあえず100枚納品した。

8ティカゲットだぜ。



ぼうり~♪ぼうり~♪




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