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ボクの異世界侵略記  作者: チカさん
第2章 少年期編
49/93

2-28 休憩?の冬2、そして

 紙漉きをした次の日。

昼までには紙の乾燥が終わり、手伝ってもらった2人の前でお披露目だ。


「それで、出来たのがこれなんだ」

2人に完成したばかりの紙を見せた。


「これが僕たちが手伝ってできた物の完成品?」

ニックとトリアが恐る恐る紙を受け取って検分しだした。


出来上がった紙はパリパリで硬く脆かった。紙としての外観は確保できたがそれだけだ。今のところ動物紙や布に勝てそうなのは材料費だけだろう。


「これ結局何なの?脆くて何かの役に立つとは思えないんだけど」

会心の一撃が胸をえぐる。

それは10割藁の試作品で、元から上手くいくとは思ってなかったが他人(ひと)に言われるとくるな。


「・・まだ試作段階だからね。一応それは紙として作ったんだけど」

この日のために一応インクというか色液を用意した。父のツテで仕入れた動物紙用のインクや家具や壁、屋根に塗る塗料に布の染料まで、一般的に手に入れられる黒色はそろっていると思う。

用意したインクを箸の様な棒につけて文字を書いて、見せた。


どやっ。


「・・・滲んでるんだけど」


・・・やっぱりそう見えるよね。選択肢ミスったな、ここは滲みにくい油性を選ぶ方が安牌だったか。

咳払いをして、仕切り直しをした。今度はちゃんと油性を選んだから、あまり滲まずに書くことができた。


「ねっ」


2人の視線は冷たい。仕切り直させてはくれなかったっぽい。


その後、用意した色液を用いて実験を開始した。





 実験結果は油性はそこそこ上手くいったが水性はやはり滲むようだ。でも油性は全般的に少々お高いので水性で利用できるようにしたい。

それに濡れた棒に小さな紙片が付着してくるという問題や紙自体が濡れるとすぐ破ける脆弱性もでてきた。


「現状はこんな感じか。今日の実験はこれで終わりだな」

問題点も洗い出せたし、あとは試行錯誤をするだけだ。元々添加物漬けにする予定だったから何も問題ない。

2人にも添加物の収集や実験の補助をお願いしてるので、春になるまでには滲むまでもせめてパリパリじゃない紙ぐらいは作れるだろう。





 それから試行錯誤の日々が続いた。

添加物には何かの煮汁とか白い粉とか身近に手に入る物をいろいろ試した。

工程も灰汁を希釈したり、みじん切りの度合いも変えたり、揉んだり、乾燥中や乾燥後に添加物を塗ったりなどした。


その結果、ものすごく柔らかいわけではないが、パリパリじゃない紙は早々に作り出せたし、白っぽくもなったし、滲みもある程度軽減した。

だが、ある程度改善はしたが強度はあまり強くはならなかった。もしかしたら素材()の問題なのかもしれない。

これは漉く厚さを変えて対応するしかないな。



 紙自体の改良はとりあえずこの段階で終わりにした。

さすがに子どもの資産なんて高が知れてるため、藁はまだしも新たな添加物を模索するのは木材購入に障りそうだったからだ。それにそこそこ学術的興味は満たされたしな。


試作品たちは経年劣化の観測も必要だからラベリングして保存してある。でもラベリングしたのは比較的上手く加工できた物を選んでるから、工程のどっかでミスった物とかたまたま選ばれなかった紙も大量に余ってる。



「2人ともこっちへ来て」

俺は紙作りしていたニックとトリアの2人を呼び寄せた。


「なに?」

「はい、これは2人にあげる」

2人には手伝ってもらった給与として現在の在庫の3分の2を渡した。


「でもこれって使えないやつじゃなかったっけ?」

「上の20枚は使えるよ。あとは書くことはできないけどいろいろ使い道があるはずだからね」

全在庫百数十枚中約30枚が記録用として使える紙に仕上がった。あとは何かしら及第点に届かなかったため記録用紙としては不良品だ。

だが紙は包装や衛生用品としても使えるから問題ないだろう。


「いろいろな使い道って何があるのさ?」

「それを考えるのも面白いんだけどな」

自分で考えてね。ってことだ。

一応は包装材として使ってみてはとかティッシュ、トイレットペーパーとかの用途は伝えたがあとは2人になげた。発想の妨げになるからだ。

こういう2人の成長を見守るのも俺の楽しみの1つなのさ。


2人はこのままずっと考え込んでいそうだったので、とりあえず考えるのは後にさせて作業に戻した。



 2人が作業に戻ったのを見届けてから、俺も作業を開始した。

俺が始めた作業は紙の防水処理だ。


紙を作っているときに思い浮かんだんだが、障子を作ろうと思ったのだ。

理由は暗いからだ。

現状、窓は木製でガラスなんて一般市民には普及していない。障子と同じように動物紙を張っている家もあるが、このアパートメントには導入されていない事からそれなりのお値段なのだろう。

木の窓なんて開けてないと暗いことこの上ない。だが冬には冷気が入るため開けるわけにはいかず、火の光だけで生活しないといけない。

それを少しでも改善したいからだ。


防水処理をするのは軒が長くないため、雨が直接かかるからだ。


障子としてどれぐらい耐久性があるか実験しないといけないため今回の春市には間に合いそうにないが、いつかこの障子紙は売り出したいと思っている。

紙作りを始める前は稼ぎは度外視したが、上手くいったら別さ。

惜しむらくは強度を上げるため紙を厚くしたことと入手できた防水液が濃い色のため透過率が低下しそうなことだ。



 数日後には防水処理した紙がすっかり乾燥して、水を垂らしても弾く仕上がりになった。

あとは実際に枠に取り付けての耐久試験をしたいが、枠を作る木材が無いためここで一旦終わりになった。



学術的価値のある有意義な冬であった。と締めくくり今年の冬の活動を終えた。







 冬も終わり、春市の出品物お披露目の日がやって来た。

今年は俺の出品物はない。


今年のお披露目会場を見渡すと少し寂しい。住人の数が減って規模が縮小したのもそうだし、木工という一大ジャンルがないため余計そう思わせるのだろう。


それに作品の層が極端に偏っていた。特に布製品が多い。

布製品も例年は刺繍ものが多いんだが今年は糸、布自体が多く彩りに欠ける。


これも奪還作戦の影響の1つだ。

都市間の移住の混乱で他の都市に大量に流れてこちらにほとんど残らなかった物や、逆に大量にこちらに残った物がいくつかあったのだ。

例えば前者が布で、後者が綿だ。

他にもかさ張る物ほど残っている物が多い傾向にある。


今年からは都市間の交易が盛んになるだろうから偏りはマシになるだろうが流通の混乱はしばらく続くだろう。



 例年より物寂しいお披露目に春市を終えて今日、父から驚くべきことが聞かされた。


それは・・・・・・・・・・・・・




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