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エンドリア物語

「桃海亭の魔術師達」<エンドリア物語外伝4>

作者: あまみつ

 オレの知り合いに、ララ・ファーンズワースという暗殺者がいる。

 オレが住んでいる古魔法道具店”桃海亭”には、ララと相性の悪い魔術師ムー・ペトリが居候している。

 だから、ララは絶対に近寄らなかった。

 半年前までは。

「シュデル、いる!?」

 すがすがしい声と共にドレス姿のララが飛び込んでくる。両手には抱えきれないほどの荷物を持っている。

「ララさん、いらっしゃい」

 壷を磨いていた黒髪の少年が、笑顔でララに駆け寄っていく。

 桃海亭”唯一の従業員、シュデル・ルシェ・ロラム。現在、14歳、性別男。

ある特殊な事情があり、オレの店で引き取ることになったが、その事に関わったララは休みになるとシュデルに会いに来るようになった。

 シュデル自身、ララを姉のように慕っていて、ララが会いに来るのを心から楽しみにしている。

「元気だった?」

「はい」

 ドレス姿の若い女と笑顔の少年。

 古魔法道具店に似合わない取り合わせだ。

「あのね、この間、美味しいお菓子の店を見つけたの」

 色鮮やかな包装紙に包まれた小箱が、シュデルの手に乗せられる。

「それと、これは今年の夏服。流行のアイボリーとピーコックグリーンで決めてみたの」

 どさりと置かれる袋の山。

 嬉しそうな、でも、困った顔のシュデルがララを見上げた。

「ありがとうございます、でも…」

 ララの両手がシュデルの頬を挟む。

「シュデルに絶対に似合うと思うの。とっても、可愛いの」

 うかれているララに触れたくなかったが、オレは店主として、被害は最小限にとどめなければならない。

「悪いが、新しい服は着せられない」

 手元のあった通知をララに見せた。

 読んだララの目が細めた。

「ウィル。シュデルをネクロマンサーとして魔法協会に登録したのね」 

「登録したほうが、色々と便利だからな」

「ネクロマンサーは、灰色だったかしら?」

「そうだ」

 魔術師は使う魔法によってローブの色が定められている。

 白魔法を使う場合は、白いローブ。召喚魔法は、水色のローブ。両方使う場合は、水色と白の混じったローブ。さらに、2色の配置によって、どのような魔術を使うかもわかるようになっている。

「こんなに可愛いシュデルに灰色のローブを着ろというの」

 可愛いかは別として、登録した魔術師は定められた色の服を着なければならない。基本はローブだが、シンプルなシャツとズボンなど相手に魔術師だとわかるデザインは許される。

「いや、灰色のローブじゃないんだ」

「灰色のシャツとズボン?」

「そうじゃなくて」

 言いよどんだのにはわけがある。

 だが、説明したくなかったので、答えだけ伝えた。

「ピンクだ。ピンクならば、サーモンピンクでもローズピンクでも構わない」

「ピンク?!」

 ララの目がオレを探る。

「ウィル、ピンクを着た魔術師は、見たことないわ」

「本当にピンクなんだ」

「冗談は嫌いよ」

 ララの手に数本の針が出現する。

 オレは渋々、事情を話はじめた。

「シュデルには特殊な能力があるだろ?あれはシュデルしか持たない能力だ。魔法協会に登録するとき、唯一無二の能力をどう表示するかという問題がでたんだ」

「それで、いままでなかったピンクを使うことにした」

「そうなんだが、ピンクになったには別の理由もあるんだ」

「シュデルが可愛いから」

 そこから離れられないのかと、突っ込みたいが、突っ込んだら、お返しに、長針を突っ込まれそうだ。

「居候のムーは召喚魔法が有名だけれど、他にも多くの魔法が使える。使える魔法の種類が多すぎて色で表すのは不可能に近いらしいんだ。しかたなく、前から使っている水色を着ていたんだが、危険人物ムー・ペトリに目印をつけて欲しいという要望が多方面からあったしく、この際、わかりやすい色を着せればいいかということに…」

「ムーも、ピンクなの!」

「ムーがというより、この”桃海亭”に住む魔術師はピンクを着用のこと、というルールができたんだ」

「”緑海亭”に変えない?」

「変えても、緑のローブは無理だ。木系の魔術師の色と決まっている」

 ララは親指の爪を噛んだ。

「ララさん…」

 心配げに見上げたシュデル。

 ララはオレと話している時とは別人のような優しい笑みを向けた。

「来週にはシュデルに似合いそうなピンクの服を買ってくるね」

「ボクは大丈夫だから」

「私はシュデルが趣味の悪いピンクの服を着ているなんて許せないの。私のわがままにつきあって」

 趣味が悪い、のところで、オレをにらんだララ。

 センスには自信がないが、言い切られると多少はへこむ。

 どうせ、センスがないと開き直ったオレは、ララに頼みごとをした。

「シュデルのピンクの服を買ってくるなら、ムーの服も頼む」

「ムーの?」

 露骨に嫌そうな表情を浮かべるララ。

「シュデルと同じものでいい。オレが出すから、できるだけ安いのを頼む」

 ピンクの服を買いに行くの抵抗があって、延び延びになっていたが、これで解決したとオレは喜んだ。



 翌週、ララが”桃海亭”にやってきた。

 シュデルに落ち着いたシェルピンクのローブ。ローブに併せた銀色の腰紐。素材はシルクと麻の透かし織り。動きやすいように、袖と裾は短めに作られている。

 手作りの特注品とわかる贅沢なローブだった。

 オレが頼んだムーの服は、ショッキングピンクの綿のシャツとズボン。

「危険魔術師の目印には、最高でしょ」

 多少は反論すべきなのだろうが、オレはなにも言わずに受け取った。

 10銅銭という激安な服をどこで売っているのか聞いとけば良かったと気づいたのは、ララが帰ったあとだった。


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