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遅くなりました!
今日も寒い。六歳の子供にとって冬の寒さは厳しい。
しかしだからと言って冬が嫌いなわけではない。子供は風の子とはよく言ったもので、いくら寒くとも外へ遊びに出るのは毎日の事だった。――雪が降れば尚更足は外へ運ばれる。
「つーるーぎー!遊ぼう!」
私は塀に向かって――正確には塀の向こう、白城家の敷地で遊んでいるであろう剣に向かって声をかけた。剣がひょっこりと顔を出す。
私とは生まれたときからほとんどを一緒に過ごしてきたようなもので兄弟同然の仲である剣なので、塀をよじ登って勝手に敷地に入っても怒られはしない。逆に私が白城家の敷地に勝手に入り込んでも、勿論怒られはしない。その事もあってか、お互い暇ができれば、なるべく塀のすぐそばに待機し、呼ばれればすぐに塀をよじ登れるようにしていた。
この様子だけ見ていればまるで恋人同士だ。
とは言え、六歳――小学一年生の私達にそんな感情があるはずもなかった。
剣は器用に塀をよじ登る。流石は剣道名門家の長男と言うべきか、運動神経神経は人並み以上だった。
だが、今日は雪が積もっている。剣は見事に足を滑らせ、雪の上に不時着した。残念ながら、頭の方は若干足りていないようだった。
「剣、大丈夫!?腕とか折れてない!?」
「だ、大丈夫……折れてない……」
ふかふかに積もった雪と持ち前の運動神経が功を奏して無傷で済んだようだ。
剣道名門家の長男であり、さらには既に全国トップレベルに登り詰めている様な人物が怪我をしたとあっては(しかも雪で足を滑らせてだ)、流石にただでは済まないだろう。剣は勿論の事、場合によっては私もだ。
「それで希歩、何して遊ぶんだ?俺は何でもいいぞ!」
雪が積もっていたところに上手く不時着したとはいえ、どこか一ヶ所くらいは痛くなっても良いものだとは思うのだが、本当にどこも痛くないようで、私に話しかけてきていた。ただし、全身雪まみれである。
「そうだね~……。あ!」
「お、何!?」
「雪だるま作ろう!」
「やるやる!作ろう!俺、胴作る!」
「わかった。じゃあ私は面だね」
剣道が思考回路の隅々まで浸透している私達は、頭、体、ではなく、面、胴、と言うのだった――残念ながら、そんな小学一年生は全国を探しても自分達以外いないと思う(当時は皆が皆そう言うものだと思っていたのだが)。
しばらくの後。
見事に雪だるまは完成したのだった。
バケツを被せ、人参で鼻を作り、石や木の枝で顔や手を作れば、かなりクオリティの高い雪だるまになっていた。大きさも申し分ない。二人の身長程はある。
「よっし、こんだけでかいの作ったら皆驚くぜ!士郎に見せたら絶対喜ぶ!」
士郎君は今年の秋に生まれた剣の弟だ。何度か見たことがあるが、剣を可愛らしくしたような感じだ。
「士郎君、大きくなった?」
「うん、でかくなってきたぞ!まだまだちっちゃいけどな!」
「大きくなったら、士郎君も一緒に剣道できるね」
「そうだな!」
私には兄弟がいない。剣は兄弟同然の付き合いではあるが、同然というだけで実の兄弟のような感覚はない。たぶん、同い年であるからなのだろう。それに比べて士郎君は、本当に実の弟ができたような感覚だった。
「ところで希歩」
「どうしたの?」
「いや、何で雪だるま作ろうって言ったのかなーと思ってさ。雪合戦とか、かまくら作りとかでもよかったのに」
「あ、え、えっとね……な、なんとなくだよ!」
……雪まみれになった剣を見て思い付いたとは口が裂けても言うまい。
そんな私の心中がそうであるとも知らずに、剣は「なんとなく」という私の言葉を簡単に信じたのだった。頭が若干足りていない事も、たまには役立つらしい。
「希歩ー、それならさ、もっと色々しようよ!雪はこんなにあるんだし」
「勿論だよ!」
そうして私達は庭の土が見えるほどまで遊び尽くしたのだった。