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氷の溶ける時  作者: 千斗
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5

 まとまったというわりには話出しもしないで、砂を蹴ったり、空を見上げたりと、こちらとしてみると非常にもどかしい。

 ……もどかしいのだが。

 剣はなんと言うか神妙な面持ちという感じで、こちらからでは聞くに聞けない状況なのである。

 よくよく考えてみれば、この異常に高い砂の城はその仕草を隠すための物なのかもしれない。

 だったら何故その仕草が見えたかって?こっそり見たに決まっている。……真っ直ぐな剣は考えるのに真剣過ぎて気付きもしなかったが。

「あのさ、希歩」

 数分の後。やっと剣の口から出された言葉は、呼び掛けと、私の名前だけだった。その言葉だけであるのに、声音から察するにかなりの緊張を伴っている。

 警戒心を緩めていたが、剣がその様子では本当にラブコメ的な展開になるのではと疑わざるを得ない。

「早く話なさいよ。時間も時間だし、いい加減帰りたい」

「わ、わかった!話すって!話すから!」

 焦る必要性があるのだろうか。そこまで重要な話が思いつかない。先程から私はラブコメ的な展開なんてものを危惧しているが、実際はこの剣道一本のこの男にそんな展開は絶対に無いと思って、いや無いと確信しているので、ちょっとした冗談である。

 ともすると、大事な話とは本当に何なのだろう。こんなに時間をかけてでも話したいこととは……。

 またしばらくの沈黙の後にやっと開かれた剣の口から出た言葉は――。

「今週の日曜日、希歩も出るって本当か?」

「黙れ」

 私の気分を害するには十分過ぎた。

 祖父に言われてから知らぬ間に一週間が経っていた。

 あの集まりに出なくてはならないという事実を、忘れていたかったから、忘れていたのだ。

 せっかく忘れていたのに。

「なんで黙らないといけないんだよ。希歩が今度出るかどうか……」

「あんたにそんなこと関係ないでしょ?それとも何、あんたも私を蔑みたいの!?」

「か、関係無いこと無いし、んなこと言ってないだろ!?」

 剣が何を言おうとそれは私の苛立ちを募らせるだけで、それと比例して夜の公園の空気は緊張を増すばかりだった。

「お、俺は!」

「俺は何よ?あんたが私に言えるなんて何もないの!」

 剣に今週日曜日の集まりに出ることを言われただけで、どうしてここまで激昂しているのかわからなかった。

 ――いや、本当はわかっているのだけれど、それが自分でもわからなくなるほど剣の言葉に激昂していた。

「希歩、聞いて。怒らないで」

 嫌だ。

「お願いだから、聞いてよ希歩。怒らせたのは俺だけど、話さなきゃいけない話なんだよ」

 剣はあまりにも真剣だった。ほんの少し前までよりも一層。

 その目を見る気にもならず、言葉にイエスかノーかを答える気力も苛立ちに奪われてしまったようだった。

 剣の真剣さに先程まで感心していた私はどこへ行ったのか、その真剣さが今となっては苛立ちの原因でしかなかった。

「もう帰る!」

「え、ちょっと、希歩!!」

 私は駆け出していた。背中に剣の声を聞いて。追ってくる気が無いのか、剣は呼び止めただけでその場から動こうとしなかった。

 どんどん剣の気配が遠くなり、鳴神公園の敷地から出ても、それでも私は駆け続けた。

 春の夜風は私には冷たかった。


更新が遅れました。

しかも内容が……。

もっとがんばります。


2014.6.3.Tue

千斗

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